1月29日、渋谷ユーロスペースにて、映画『誰かの花』が上映を開始。上映初日には、主演のカトウシンスケ、その母親役の吉行和子、奥田裕介監督が登壇。本作の撮影前・撮影中のエピソードを語った。
本作は、横浜シネマジャックアンドベティの30周年企画映画。昨年末に同劇場にて先行上映された後、年明けの今日、上映館を広げて公開を開始した。
■映画『誰かの花』 上映初日舞台挨拶レポート
▼上映初日を迎えて
吉行和子
撮影の時にはコロナが始まっていて、本当にできるのかしらと思ってヒヤヒヤしながら撮影しました。
私は家の中での撮影が多くて、実際に住んでいらっしゃる団地のお部屋をお借りして、そこで撮影しました。
密ですし、本番まではマスクをしていましたし、撮影しては窓を開けたりしながら、なんとかしてこの映画を完成させなければという思いをみんなで持って撮影しました。
ことさら嬉しく思います。今日は、よろしくおねがいします。
カトウシンスケ
本当にこういう状況の中でみなさんに足を運んでくださってなんとか今日から映画が始まります。映画が生まれるんだと思います。みなさん無しでは映画は成立しないので、吉行さんが言ってくださったみたいに、僕らは一昨年、12月から1月にコロナの陽性者数が落ち着いたり、また上がってきたりするのをドキドキしながら撮影したものが、またドキドキが高まった状態になってきましたが、皆さんがいる中で映画が完成していくことに感無量でございます。よろしくおねがいします。
奥田裕介監督
本作は私にとって長編二作目です。一作目から上映で言うと5年かかりまして、周りの人からは、「奥田はもう映画を撮らないんじゃないか」という噂も出ていました。
脚本に3年かけてその後もカトウさんと脚本の話をたくさんしました。
今回完成して、5年かけて撮りました。本日観ていただくことを大変嬉しく思います。
上映前ですが、撮影やシーンの話をしていただけますか?
▼撮影時のエピソード ~役積みの大切な時間~
奥田裕介監督
上映前ですが、撮影やシーンの話をしていただけますか?
吉行和子
全部印象に残っています。とにかく寒かったんです。ものすごく寒くて、この寒さに耐えられるなら私もまだまだ大丈夫だと、自分のことを考えながらやっていました。
ともかく監督の思いが撮影前から私達にちゃんと伝えていただけていました。
撮影ってワーッと始まってしまうので、そういうのってあまりないことなんです。監督からどうしてこの映画を作るのかということをみんなでうかがいました。それからヨシッという感じで始まったので、これは私にとっては良い体験で嬉しかったです。
奥田裕介監督
吉行和子さんと高橋長英さんとカトウシンスケさんの3人の家族がメインなんですが、その家族の時間を作ったり、灯(あかり)という役を和田光沙さんにお願いしたのですが、和田光沙さんと太田琉星くんの親子の時間を作ったり、そういったことを大事にしました。
カトウシンスケ
撮影が団地なので階段で高い階数まで上がったり下がったりしていたんですけれど僕は体力がないので、吉行和子さんが僕の前で元気に階段を上がって行くんです。
それを見たら文句は言えなかったですね。
吉行和子
エレベーターがないと言われたときは青ざめました。
カトウシンスケ
本当に吉行さんには引っ張っていただきました。それが印象的でした。
自然に監督の思いを伝えられていただいていたし、ゆっくりじっくりと地固めをして、その上に丁寧に監督が積み上げていった映画だと僕は感じています。
創作過程もこの映画そのものというか、丁寧に関係性をつくって成り立った映画だなと感じました。
事前の準備から撮影、その後、上映が始まるところまでずっと、奥田監督らしい進行をしているなと思って印象に残っています。
奥田裕介監督
コミュニケーションを取る中で、家族や親子の時間をつくろうと思ってつくった現場でした。
太田琉星くんと和田光沙さんとは二人で買い物に行ってもらったり、カレーを作ってもらってみんなで食べるといったことをやりました。
こういう時間を作りましたが役づくりについてはあまり話をしなかったと思いました。
役作りに関してはお二人はいかがでしたか?
▼役作りについて ~役作り無く、自然に家族・親子の関係に~
奥田裕介監督
役作りに関してはお二人はいかがでしたか?
吉行和子
役作りは全然しなかったです。
私としてはお母さんで、相手が若い俳優さんだと、私はおばあさんになってしまうんですけど、お母さんの役をやらせていただいたので、母親の経験は私自身経験がないので、どうやろうかと思ったのですが本を読むしかないので何度も読みました。
母親っていうのはこういう気持ちで生きているんだなって思いました。夫のこととか息子のことを考えながら、いろんなことを考えていても口には出さない、心が痛んでいても顔には出さない。そういう強さがあるんだなということを感じながらやりました。
カトウシンスケ
僕はその母の背中を見ながらユラユラしていただけなんですけど。
事前にお会いしたときに、特に台本のシーンを突き詰めるとか、本読みをするとかはあまりしませんでした。
目の前に吉行和子さんがいて高橋長英さんがいて、父と母ですと与えられて、二人の様子を体験しているという。
それだけで段々と孝秋の立ち位置が見えてきたという感じです。
こういう親父とオフクロの間で育ったので、自分はだらしないんだということがわかってくるというか、そういうところを頼りに役作りかはわかりませんが、そういう作られ方をしていたなぁと思いました。
▼撮影エピソード ~団地で殺人事件!?~
奥田裕介監督
今回は横浜シネマジャックアンドベティさんの30周年企画としていただいたお話なのでほとんど横浜で撮影しています。
団地の撮影というのはプロの商業映画でも避けるような非常に難しいロケーションで、いりいろな方々住まわれている生活圏なので、そこで人様のお宅を借りて行う大変な撮影でした。
カトウシンスケ
猫ちゃんがいてね。可愛かったですね。
吉行和子
えらい猫だったわね。撮影中絶対なかなくて。そこに住んでいる方も素敵な方で感激しました。
セットだとすごくよく作っていても、人間のにおいというか、今までそこに住んでいる感じがでないんですけれどもそれが出ていましたね。
奥田裕介監督
お部屋を貸してくださった方も、撮影で使うなら掃除しておいたほうがいいわねと言わてたんですけど、「掃除しないでくだだい」と伝えて、むしろ生活感をそのままお借りしたような形でした。
借りた部屋も寝室とリビングしかないような状況だったので、リビングで撮影する時には寝室にいていただいたりして、吉行さんがいるときにその部屋の方がお話ができて、幸せな時間でしたと言っていただけました。
吉行和子
本当に感激しました。こんな良い方がまだいらっしゃるなんてね。「奥田監督のお父さまから頼まれたんです」という話をされていました。
奥田裕介監督
脚本の段階からその団地が気に入っていたんです。そうしたらたまたま父の友人が住んでいらして、それをきいて、すぐ父に話を通してくれとお願いしました。
事故現場のシーンがあるのですが、立ち入り禁止やパトカーや救急車の劇用車を用意して撮影したのですが、その告知を知らなかった住民の方が床屋さんをやっていて、自分の父が髪を切りにいったら、「あの団地で殺人事件があったらしいよ」という話をされて、「よく聴いたら、映画の撮影だったんだよ」と言われて、うちの父親は「息子の映画です」とは言えなかったらしいです。
カトウシンスケ
ちょっとドキュメンタリーな映画ですからね。団地のみなさんが非常に協力的で、撮影も何週間に渡ってあるので、最初はこの人達は大丈夫なのかなといった感じで声をかけていただいていたのが、終わりしなには、「撮影ってあしたまでなんでしょ?」といった感じで差し入れまでしてくれました。
すごく優しく応援してくださって、ありがたかったです。
若いチームでしたが、奥田監督をはじめ、ロケ地で交渉をする撮影部の人たちも熱心に挨拶回りをして、大変だと思うのですがそういった関係作りをできるチームでした。そういった良い空気・流れのなかで芝居をすることができました。
■作品情報
誰かの花(Somebody’s Flowers)
■あらすじ
鉄工所で働く孝秋は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義とそんな父に振り回される母・マチのことが気がかりで、実家の団地を訪れる。
しかし忠義は、数年前に死んだ孝秋の兄と区別がつかないのか、彼を見てもただぼんやりと頷くだけであった。
強風吹き荒れるある日、事故が起こる。
団地のベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが駆けつける騒動となったのだ。
父の安否を心配して慌てた孝秋であったが、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。だがベランダの窓は開き、忠義の手袋には土が…。
一転して父への疑いを募らせていく孝秋。
「誰かの花」をめぐり繰り広げられる偽りと真実の数々。
それらが亡き兄の記憶と交差した時、孝秋が見つけたひとつの〈答え〉とは。
出演:カトウシンスケ 吉行和子 高橋長英
和田光沙 村上穂乃佳 篠原 篤 太田琉星
大石吾朗 / テイ龍進 / 渡辺梓 / 加藤満
寉岡萌希 / 富岡英里子 / 堀春菜 / 笠松七海
監督・脚本:奥田裕介
撮影:野口高遠
照明:高橋清隆
録音:高島良太
衣装:大友良介
ヘアメイク:ayadonald / 大久保里奈
制作:佐直輝尚
助監督:松村慎也 / 小林尚希 / 高野悟志
音楽:伴正人
整音:東遼太郎
エクゼクティブプロデューサー:大石暢 / 加藤敦史 / 村岡高幸 / 梶原俊幸
プロデューサー:飯塚冬酒
製作:横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
配給:GACHINKO Film
2021年|日本|115分|5.1ch|アメリカンビスタ
© 横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
公式サイト http://g-film.net/somebody/
公式Twitter https://twitter.com/dareka_no_hana
2022年1月29日(土)より横浜ジャック&ベティ、ユーロスペースほか全国順次公開