映画は撮影部隊だけがスタッフではない。 その後のポスプロチームしかり、宣伝チームにしかり関わっている人の数は計り知れない。
その中でも映画「水いらずの星」は特殊だ。
1st Generationの以前の記事でもとりあげたように、映画本編とリンクするように毎月更新されているオンラインメディア、PINTSCOPEの主演・プロデューサーの河野知美さんの連載がある。その文章を日々読み、まとめあげ、そして本編公開時に販売されるパンフレットの編集も手がける川口ミリさんに編集者・ライターとして映画作品に関わるとはどういうことかに迫ります。
■ 映画『水いらずの星』に関わる編集者・ライター 川口ミリ インタビュー
◆1:編集者・ライターとして活動し始めた経緯
-編集者・ライターとして活動し始めた経緯を教えてください。
川口ミリ
この仕事に関わるきっかけをお話しすると、私は雑誌が好きだったのですが、大学に入った2006年頃からどんどん出版不況になりまして。売れるコンテンツが求められ、とがった面白い雑誌が休刊・廃刊になっていった状況において、自分の中で他に興味が出てきたのが映画でした。
東京生まれではあるのですが長く住んでいたのは地方。街に一つだけミニシアターがあったのですが、高3になるまでその存在を知りませんでしたし、親も特にシネフィルというわけではありません。だから映画を観るといっても、ハリウッドや日本のメジャーな作品がほとんどでした。
でも大学進学とともに上京したら、東京にはミニシアターがいくつもあるし、TSUTAYAにも地元にはないラインナップがあるし、「最高!」と思って。授業をほったらかしてのめり込みました。
ライブや舞台にも行ってみたりしましたが、映画がやっぱり面白いぞと。作品を観ている間だけ、自分じゃない誰かになる感じで、いろんな視点を追体験できるのがすごく興味深く思えました。
映画への気持ちが募り、大学院の修士課程を卒業後、映画誌『キネマ旬報』を発行している出版社、キネマ旬報社に新卒で入りました。
3年半ほど過ごした後、ご縁があった別の出版社に移ると同時に東京を離れるのですが、少しして再び戻ってきました。他にやることもなく、なし崩し的にフリーになったのですが、古巣の『キネマ旬報』の仕事からスタートして、映画をメインにしながらも、人との繋がりでいろいろなジャンルの仕事をしています。
◆2:編集者・ライターとして映画作品に関わる根底にある気持ち
-映画作品に関わるにあたって、皆さんに伝えたいだとか、映画の制作者や俳優さんとお会いしたい、話を聞いてみたい等、どういった想いがベースにあるのでしょうか?
川口ミリ
自分のいいと思ったもの・心動かされるものを、みんなに伝えることに興味があるんだと思います。雑誌・Web・書籍など、伝える形は問いません。
そもそも人に話を聞くのはすごく好きかもしれないです。
その方の過去の発言をいろいろ調べて、「これまでにない言葉を引き出すぞ」という、いわば狩人のような面がライターさんには誰しもあると思うのですが、私自身もそういう“知ること”が楽しいという感じです。自分とは全然違う価値観に出合えたりしますしね。
特に映画人に対しては、映画が好きというのもあって、より興味があるのかもしれません。
◆3:今回、水いらずの星に編集者・ライターとして関わることになった経緯
-川口さんが『水いらずの星』に編集者・ライターとして関わることになった経緯は?
川口ミリ
もともと写真家の上澤友香さんと私が、梅田誠弘さんが出演する映画の主演女優さんのインタビューに行ったんですよね。後日、上澤さんがその作品を観に行ったら、劇場に梅田さんがいらしたと。そこで梅田さんに「ポートレートを撮らせてもらえないか」と声をかけ、本当に後日撮ったそうで、その話は上澤さんから逐一聞いていました。
その梅田さんとのやりとりがきっかけで、上澤さんが『水いらずの星』にスチールカメラマンとして関わることになって。私自身、ときどき映画のパンフレットに関わる機会があり、そういうお仕事をもっとやりたいと思っていた時期でした。それで「もしよかったら繋げてほしい」とお願いしたら、実際に河野さんや梅田さんに紹介してもらえたんです。
◆4:撮影現場の見学に行かれたときの様子は?
-川口さんは撮影現場の見学にも行かれたそうですね。どのような感じでしたか?
川口ミリ
河野さんに連載していただいているPINTSCOPE(https://www.pintscope.com/)の編集長と一緒に、半日ほど見学しました。そう何度も現場に行ったことがあるわけではないんですけど、すごく雰囲気がいいように感じました。
河野さんは女を演じる上ですごく役に入っていて。その上で、俳優陣と監督との間には信頼関係があるんだろうなと思いました。自主映画なので小さなチームでしたが、一人一人が自分の持ち場を守る覚悟がある、そんな雰囲気でした。
印象的だったのは、あるシーンのリハーサルです。リハーサルでそのシーンに心情やムードが高まった後、また一段違う芝居がカメラの前で行われる。その移り変わりがすごく印象的でした。こういう一つ一つが本編を作っているんだなぁと感じ入りました。
河野さんも梅田さんも撮影日記を残してくれたので、パンフレットにもなんらかの形で掲載予定です。
もしご興味ある読者の方がいらしたら、PINTSCOPE の河野さんの連載にも一部、撮影日記が載っているので、ぜひ読んでいただきたいです。「現場でこういう気持ちだったんだ」と感じることができるはず。
◆5:川口さんから見た連載の効果、印象とは?
-PINTSCOPE で連載されている河野さんの日記。川口さんはその担当編集者だそうですが、『水いらずの星』という作品に対して、影響・効果について感じるものはありますか?
川口ミリ
この連載は、河野さんの1年間の軌跡を知ることができる場所です。読者の方には、プロデューサーであり、俳優であり、1人の女性でもある河野さん“その人”を通して、作品にも興味を持っていただけるのではないかと思っています。SNSで「感銘を受けた」というような感想を上げてくださる方もいます。
そもそも河野さんが意図的にしていることだと思いますが、『水いらずの星』ってかなり早い段階で情報を公開していて。PINTSCOPEの日記連載も今年の初めから始まったので、サブリミナル効果もあるのかなと。
観客の方が日記を毎月読むうち、だんだん『水いらずの星』が自分事になっていくような、面白い試みなんじゃないかと思います。
実は連載に載せている日記は一部で、河野さんは日記を毎日書いてLINEで送ってくれるんです。それもすごいことだと思っています。あれだけ気持ちを吐露した文章を毎日書くというのは、文才のみならず、ある種の覚悟がある証拠。その覚悟から伝わってくるものをすごく感じます。伝わらないはずがない。
ちなみに毎回、連載の最初に載せている写真を、裏では「今月のポートレート」と呼んでいるのですが、それは上澤さんが撮り下ろした河野さんの近影です。それ以外の写真は、基本的には河野さんがスマホで撮った日常の写真や、『水いらずの星』のアナザーストーリーの写真です。
あと注目していただきたいのは、梅田さん直筆のイラスト。タッチのバラエティが豊かで、チャーミングな絵なんです。
◆6:この連載が本編にどのような作用をもたらすと思いますか?作用をもたらすといいなと思いますか?
-この連載が作品に対してどんな作用があるかもたらすか、もしくはもたらしたらいいなというものはありますか?
川口ミリ
この間、河野さんとも電話で話したことなのですが、女と河野さんは全然違うんですけど、どこか重なっていく感じもあって。
「私は、左目だけが本物の私けんね。あとはみんなレプリカントけんね」というセリフがあるのですが、女は壮絶な日々を生きてきた。一方で河野さんも去年、乳がんだとわかり、右胸を全摘出する手術を受けていて。女性としてつらい経験をくぐり抜けてきた点において、女と重なる部分があるような気がするんです。
映画史において、俳優の人生が役に重なってくる映画って時々あると思うのですが、その類の作品の一つなのかなと思っています。必ずしも映画にそれが必要なわけではないとはいえ、そういった作品は人の心を打ちます。
だからPINTSCOPEの連載で、河野さん自身が“映画と人生の物語”を綴ることには大きな意味がある。単に男女の関係を描いただけではなく、いろいろな人生が乗った作品だということが伝わりやすくなるから。最初はそんなこと別に考えてなかったんですが、連載が続くにつれてそう感じるようになりました。
映画『水いらずの星』
【クレジット】
タイトル:水いらずの星
監督:越川道夫 『アレノ』『海辺の生と死』『背中』
原作:松田正隆 『紙屋悦子の青春』『海と日傘』『夏の砂の上』
主演:梅田誠弘 『由宇子の天秤』『鬼が笑う』『かぞくへ』
河野知美 『ザ・ミソジニー』 『truth〜姦しき弔いの果て〜』
撮影:髙野大樹 『夜明け』
プロデューサー:古山知美
企画・製作:屋号 河野知美 映画製作団体
制作協力:有限会社スローラーナー/ウッディ株式会社
配給:株式会社フルモテルモ/Ihr HERz 株式会社
©2022 松田正隆/屋号河野知美映画製作団体
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