オンラインメディアPINTSCOPEにて、映画『水いらずの星』のプロデューサーで主演も務める河野知美さんの映画製作や日々にまつわる日記の連載がスタート。連載開始をきっかけにW主演である梅田誠弘さん側からみたアンサーインタビューも読んでみたいというリクエストが多くあがり、今回のインタビューが実現した。第二回目は、梅田さんから河野知美さんへのアンサーインタビューの内容をメインとし、梅田さんからみた河野さん、そして、映画製作について思うこと、映画『水いらずの星』を通じて伝えたいことをお届けします。
■ 梅田誠弘インタビュー
▼河野さんから病気のことを知らされたのはいつ?
-初めて河野さんの病気のことを知ったのはいつでしたか?その時どんな会話をして、どんな事を思いましたか。
梅田誠弘
知らされる以前に、「しこりがある」ということを聞いていたんですけれども、「病院に行ってみてもらった方がいいよ」という話をしていました。でもそういった診察結果が出るとは思っていませんでした。
知らされたのは、何回か行った『水いらずの星』のリハーサルの時で、撮影前の8月とか9月頃だったと思います。
「ちょっと聞いてほしいことがある」、「じゃぁ、ちょっと言うね」と、唐突に話が始まって、病院に行って、そういう診断をされたというように伝えられました。
-質問する方も心苦しいのですが、どのように思いましたか?
梅田誠弘
やはり考えが飛びますよね。ショックだし、頭の中が真っ白になる・考えが止まるというか、そういう感じになりました。そういう時にどう言葉を出せばいいかというのもやはり考えてしまいますし。
もちろん、良くなることを願うわけですが、そんなことを聞いた瞬間に、反射的にそういったことを言葉にするようにはならないし、「そうですか…」と受け止めることしかできませんでした。
-『水いらずの星』のクランクイン前に河野さんが乳癌であることがわかったことは、“男”役を演じる上で影響がありましたか?どんな影響がありましたか?
梅田誠弘
影響は出さないようにしていました。そういう状態であっても、“男”と“女”という二人の中での“女”という存在をこの世に出現させたいということしか考えていませんでした。
それで今の状況を持ち込むことは、僕としてはそうではないと思うんですよね。
何かしらの影響は多分あったんでしょうけれど、影響はないように作品を作りたいと思いました。
▼梅田さんから河野さんへのアンサー
-連載では『水いらずの星』の撮影を通して、梅田さんについての言及も多々見受けられますが、どう感じましたか?また問いかけに対する答えなどがあれば教えてください。
[河野さんのクランクアップ後のコメント]
・「永遠の恋人を失ったような、そんな感情になった」
・「越川監督も梅田さんも私にとっては出会うべくして出会った運命の人だったのかもしれない。」
梅田誠弘
『水いらずの星』の“男”と“女”の世界に入り込んでいることが僕はしんどかったんです。いい部分もあり、とてもしんどい部分もありました。作品作りの上でそういった思いをどこかで昇華させないと、そこから離れることも難しいなと思っています。
今はネタバレというか、そういう言葉にはしたくないんですけれども、やはり“男”と“女”って、多分、永遠に繰り返していくだろうと考えました。
その永遠の一部として、僕達二人は体験させてもらって、その後も永遠に続いていくんだろうという感じで解釈していたので、ぱっと離れたいと思いました。でもやはり引きずられたと思っています。
クランクアップの時よりも撮休の時が最も喪失感が強かったと思っています。でも、撮影が終わった時に自分は気持ち良く終われました。喪失感もありながら、いい体験をさせてもらったと感じています。
始まりを思い返すと、顔合わせの場をきっかけに役に繋がったことになります。役者同士で、「自分が役を探しているというよりは、逆に役に呼ばれている」ということを話したりするので、出会うべくして出会ったということだったらいいなと思います。
[河野さんのコメント]
https://www.pintscope.com/serial-story/mizuirazu_movie_001/
11月21日の日記
「梅田君がどう思っているか私には分からないけれど、振り返ってみれば“男”役の梅田君という梅田君の中の“男”を手探りしていたように思う。そんな時間でした」っていうような書き方がありました。
-梅田さんも河野さんの中の女を探していたのでしょうか。
梅田誠弘
それは同じだと思います。これは僕が男だからか、男特有のものかは分かりませんが、変なプライドもあって、理解して掴まれないようにしながらも、女性の良い部分を見つめて守りたいみたいなそういう感じがあったと思っています。
-探り合いと、悟られないようにする気持ちのようなものがあると感じますね。
梅田誠弘
『水いらずの星』の“男”と“女”は、凄く年月を重ねた夫婦というのもあって、そういうものもあるのかなと思いました。
-梅田さんから見た河野さんを言葉で表現するとどのようになりますか?
梅田誠弘
河野さんは「いいことを思い付いた!」って、いつも何か楽しいことを思いついて、自分の好きなみんなと一緒に船を作って、「みんなで冒険にでるぞ!」というのが凄く好きな人です。少女・少年の心というか、そういう純粋なところがある方だと思っています。
いいことを思いついたら、「みんなで一緒にやろう。でも、これでみんな大丈夫かな」と心配になる方です。物凄く気を遣う方なので、その2面性が強くある方だなと思っています。
▼越川監督から引き継がれたもの
-河野さんのコメントに、「越川監督から私たちにとても大切なものを引き継がれた気がするの私の気のせいかな」というものがありますが、越川監督から引き継がれたものを感じる点はありますか?
⇒https://www.pintscope.com/serial-story/mizuirazu_movie_002/ 12月14日の日記
梅田誠弘
越川さんは「こういう時のこういう体験をしてきて、この人はこういう人なんだ」という伝え方をしてくれるんです。
「昔は良かったよ」のような言い方じゃなくて、「昔のこの時のこの人はこういう状況で、今最近体験したことはこうこう、こういう状況で」というように、その時の状況とその時に居た人の在り方というのを伝えていただける方でした。
長い年月で、色々な俳優さんや色々な監督さんのもとで、その時・その瞬間に巻き起こった素晴らしいものをたくさん見てこられたと思っています。だから、そういういい瞬間をものすごく知っている方で、割と“普遍的にある人間というもの”と、“そういうのと結びつくもの”を知っている方だと思うんですよね。
今回、それは強く教えていただいたと思っていて、引き継がれたいいものを体験させていただけたなと。それを忘れないようにしたいと思いますね。
-体験しようのない過去の事実を教えてもらって、自分のものにできますものね。
梅田誠弘
それを踏まえて僕たちともそういう体験をつくりましょうという。そこが素敵だなと感じました。
▼プロデューサー・俳優・女性といった切り口で梅田さんから見た河野さんとは…
-プロデューサー 河野知美とは
梅田誠弘
思いついて、それを形にすぐ行動できるというのは本当にすごいと思っていて、プロデューサーとしてはこれを思いついた、思いついたものを放り込んでいく。で、河野さんを信頼して集まっている方は、それを削り出していく、そして形にするという、そういう連携をすごく感じています。
でもその「思い付いた!」といって行動する推進力、引っ張っていく力というのはプロデューサーには大事だと思っていて、いいなと思っています。それに加えて、「あの人、この人大丈夫かな…?」といつも皆を気に掛けている方です。
-俳優 河野知美とは
梅田誠弘
ご自身としてそのまま役に飛び込んでいく方だと思いました。
御自身も本当に泣いたり笑ったり怒ったり、バラエティー豊かなコロコロ変わる方で、そのままその役に入っていくので、役もやっぱり色んな色が出る方です。越川監督もおっしゃっていましたけれど、少女から年老いた方まで顔が変わる感じなんです。
面と向かってだと、客観的にいうのは難しくなってきますけれども、だから本当に色々な色を持っている、演技をされる方なんだなと思いました。
型にはまらないし、こちらにものすごく刺激を与えてくるというか。こちら側もエネルギーで応えないといけないというか。
-真剣勝負な感じですね
梅田誠弘
柔道のようですね。「こうしたらこうするぞ」みたいな。
楽しく戦い合っている感じの作り方というか、そういうのを“男”役だからなのかもしれませんが、僕はそのように感じました。
-お互いに高め合って行く感じなんですね。
-女性 河野知美とは
梅田誠弘
女性としての河野さんは、少女の部分もあり、凛とした女性でもあり、その中間というものはあまりなく、ものすごく人を引っ張っていく反面、「大丈夫かな…」って気をかける。その両面がものすごく合わさった方です。
僕が思うのは、少女みたいな「こういうのを楽しいから一緒にやろうよ」という面と、物事を思いつきでやる部分と、頭がよく、物事に整理をつけて、それをあてはめていくというのを両方持っている方で不思議だなと思っています。
そんな両極端のことが一緒に合わさっている魅力的な女性だと思います。
思いついたら真っ先に自分がまず走っていくんです。それを見て、周りは「やれ!」と言われるより、「何かしてあげたい」と思う人が多いから、これだけ人が集まっているんだろうなって思います。
-いま伺った部分が、河野さんという映画プロデューサーによる映画製作のスタイルでもあるわけですね。
▼映画製作について思うこと
-映画製作の過程を河野知美プロデューサーの側で見てきて感じる、梅田さんなりの今後の自主映画・日本映画への展望をお聞かせください。
梅田誠弘
怒られてしまうかもしれませんが、僕には「日本は今こうなるべきだ」という、「こうすべき」というものはありません。
河野さんは、例えば助成金や作れる手段というのを模索して、それをきちんと扱うことがうまいなと思いました。
その時に、「こうやれば映画が作れる」ということがみんなに広まればいいなと思っています。
それが企画コンペでも何でも、入り口がきちんとみんなに知られているというところと、こういう出口がいいということが、助成というか表現を助けてくれる大きな存在も含めて、共通理解としてあればもう少し、表現というところに集中できるところはあると思っています。
海外では、「この国でどうしたらいいか」と考えてシステムが強くなっていったと思うので、日本も日本のやり方で強くなっていったらもっと素敵なんだろうなって思っています。
▼梅田さんが伝えたいこと
-本編公開まで続くPINTSCOPEの連載を読み、映画『水いらずの星』を観ようと思っている皆さんにどんなことを感じとってもらいたいですか?
梅田誠弘
二つあります。
ひとつは、何の先入観もなく、僕たちのことをあまり知らず、パッと見て純粋に、いきなり“作品”という感じで観てもらいたい部分と、もうひとつは、連載していただいている日記も含めて僕たちがどういう人間で、こういう思いで河野さんがこういう思いでしていて、それで出来た形という部分です。
難しいかもしれませんが、その両面を見てもらいたいです。こうやって連載をしていく上で、どういう思いでそれをやって、それによってどういう影響を自分たちが受けたのかというのを感じて欲しいです。
今回、僕たちに限ったものになりますが、映画に対する向かい方と、監督と周りの方たちとどのように物づくりをしたのかを知れるところがあると思います。
先ほどもお話しましたが、その時でしか受けられないような、その時に生きている・その瞬間に生きているという風に、越川監督が導いてくださっているのもあって、自分たちがどうなっているか分からないところもあります。
『水いらずの星』を通して、僕たちという人間も含めて、どういう体験をしたのかというのが映っていたらいいなって思っています。
『水いらずの星』は多分人によって、できるドラマって全く違うと思うので、色んな人のドラマを見てみたいと思います。
人がどうあっても、その人と一緒にいる・いてしまわなければいけないということが描かれていると思うので、そういうのを見て、「自分だったら…」と置き換えてもらって、それを語れたら、映画を作った意味がまたひとつうまれていいなと思いますね。
映画『水いらずの星』
【クレジット】
タイトル:水いらずの星
監督:越川道夫 『アレノ』『海辺の生と死』『背中』
原作:松田正隆 『紙屋悦子の青春』『海と日傘』『夏の砂の上』
主演:梅田誠弘 『由宇子の天秤』『鬼が笑う』『かぞくへ』
河野知美 『ザ・ミソジニー』 『truth〜姦しき弔いの果て〜』
撮影:髙野大樹 『夜明け』
プロデューサー:古山知美
企画・製作:屋号 河野知美 映画製作団体
制作協力:有限会社スローラーナー/ウッディ株式会社
配給:株式会社フルモテルモ/Ihr HERz 株式会社
©2022 松田正隆/屋号河野知美映画製作団体
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