3/4(土)より、池袋シネマ・ロサにて、知多良監督特集「恋と生活」が1週間上映される。上映作品は撮り下ろしの『金色の景色』含む6作品。レールから外れた人達の恋と生活を描く知多良監督特集「恋と生活」。今回、知多良監督と『金色の景色』主演の保志実都貴さんにお時間をいただき、本特集上映作品に関する質問にお答えいただきました。
■ 知多良監督特集「恋と⽣活」 監督・保志実都貴インタビュー
▼特集上映に「恋と生活」と名付けた理由と上映作品紹介
−−特集上映に「恋と生活」と名付けた経緯と上映作品群の紹介をお願いします。
知多良監督
全ての作品に共通するのは、現実と関係のない安⼼安全なファンタジーではなく、⽇常と地続きになっている映画であるということです。そのため「⽣活」とつけました。
⼀⽅で、誰かに恋をしたり、幻みたいに不確かなことをきっかけに現実の⾒え⽅や⽣き⽅が変わっていく⼈たちを描いたので「恋」とつけました。恋をきっかけに現実が変わる映画を「恋と⽣活」では描いています。
−−各作品の制作のきっかけを教えてください。
知多良監督
誰かを好きになるということは、今まで関係のなかった価値観が⾃分ごとになることだと思います。⼀⽅で、⼀つの価値観に縛られて⾃分がなくなり周りが⾒えなくなってしまうのも恋愛です。⾃分⾃⾝がそうであったり、⾝近な⼈がそれで苦しんでいたり。『桜桃らんでぶー』はカラ元気が続いても喪失を乗り越え、⾃分の気持ちや欲望を⼤切にしながら、誰かと⽣きていける姿に寄り添いたいという思いがきっかけで作りました。
知多良監督
『ロープウェイ』を撮ろうと思った理由は2つあります。
1つ⽬は⾃分のことで、撮影当時私は貧乏で、洗濯機、冷蔵庫、ガスコンロもないようなギリギリな⽣活だったため、貧困について描きたいと思いました。
2つ⽬は周りにいた⼥友達には専業主婦になりたい⼈が多い⼀⽅で、世間では共働きが増え、ニュースでは年⾦需給の世代間格差などが取り上げられていて、お⾦を稼いで暮らしていくことの親世代とのギャップを感じたことから、昭和の家族像の幻を打ち壊すような現実の映画を撮りたいと思いました。
知多良監督
『⾒えない、光』では、『桜桃らんでぶー』で恋愛を軽く描きすぎたことに⼼残りがあり、恋愛することで傷ついたり傷つけられたりする感情をちゃんと描きたいと思いました。
また、『ロープウェイ』では描ききれなかった、キラキラしていない社会の⽚隅で⽣まれた恋愛の始まりと終わりを描きたかったんです。楽しかったことも、悲しかったことも、正しくないことも、なかったことにはしたくありませんでした。
知多良監督
過去の3作品が⽣きづらさを恋愛でしか克服できていないことに違和感を覚え、『⾦⾊の景⾊』では、恋愛ではない⼈間関係を描きたいと思いました。恋愛というのは⽬の前の相⼿しか⾒えていないことが多いですが、社会で⽣きていくには様々な⼈と⽣きていかなけれないけません。恋の相⼿ではない相⼿とも向き合い、コミュニケーションを図っていくことを描いたのが『⾦⾊の景⾊』です。
▼フライヤーに書かれた「レールから外れた⼈を描く」について
−−監督にとって「レール」とはどういったものなのでしょうか?
知多良監督
4作品とも「普通」「常識」「規範」「モラル」に翻弄されて葛藤しながら⽣きている⼈々を描いています。まともに⽣きられるかはわからないけれど、⾃分がどう⽣きたいかを知ることで、社会のルールと折り合いをつけて⽣きていってほしいと、主⼈公たちに想いを込めています。
−−保志さんにとって「レール」とは?
保志実都貴
「こうあってほしい」と周りから期待されることや、社会⽣活上のノルマみたいに感じられることに対するプレッシャーなどが、個々⼈にとって透明なレールとして⾒えてくるのではないかと思いました。かつての誰かにとっての良き道しるべが形骸化したもの、みたいな側⾯もありそう。複雑にできている気がします。⼀⼈ひとりの安全とか幸せを守りつつそれぞれに多様な選択が可能になるといいなと思います。
−−レールから外れた⼈を描こうと考えた理由は?
知多良監督
病気や災害など⼈⽣には予測のつかないトラブルがつきもので、誰でも⽣きているとレールから外れることはあると思います。そんなレールから外れた⼈々が、どのように幸せに向かっていくかを⾒ていたかったからです。それは私がまともに⽣きるのが苦⼿だからかもしれません。
▼フライヤーに書かれた「まともに生きたかった」について
–“こうやって⽣きたい”と思うことにはどんなものがありますか?
知多良監督
稼ぎたい、追い出される不安のないマイホームを持ちたい、値段を気にせず服を買いたい、品のある振る舞いをしたい、学⼒が欲しい、優しく⽣きたいです。
保志実都貴
私も優しく⽣きたいです。修⾏中です。相⼿を思って⾏動する、というシンプルなことが難しく感じる瞬間も多々あります。
あとは⽉並みですが、今を⽣きるってことになるべく⽴ち返りながら⽣きていたいです。恐いし不思議すぎるけど、そこを考えることは優しさにもつながると思うし、「レール」との付き合い⽅のヒントも⾒つかるかも。
▼撮り下ろしの『金色の景色』について
–『⾦⾊の景⾊』の「触れる/触る」という物理的接触と、モラハラという物理的接触を伴わず、でも精神的には傷つける⾏動という 2 つの要素が含まれている点も気になりました。
知多良監督
⼈を好きになり想いを伝えることは⼀歩間違えれば相⼿を傷つけたり、暴⼒になったりすることもあると思います。『⾦⾊の景⾊』では相⼿の反応に気づかず、⾃分の価値観を押し付けたり、好意を押し付けたりすることを批判的に描いています。それは作品の冒頭に登場する物理的な「⼀⽅的な接触の『触る』」の説明に近い部分があると思っています。
登場⼈物たちのコミュニケーションが、気持ちの押しつけなどによってちぐはぐになるところは注⽬していただきたいポイントです。
保志実都貴
相互理解の有無という点を考えると、物理的接触を伴わなくても、この「触れる/触る」の感覚は意識できることなのではないかと思いました。
▼お客様へのメッセージ
–お客様へのメッセージをお願いします。
保志実都貴
『⾦⾊の景⾊』の登場⼈物たちは、傍⽬にはそこそこまともな⼈たちなのではないかと思いますが、その実それぞれがままならなさを抱えています。私が演じた⾦原もそうでした。
彼ら彼⼥らが織りなすこのちいさな群像劇が、ご覧になる⽅々の⽣活の景⾊のどこかに寄り添うことができたらうれしく思います。
知多良監督
キラキラした映画ではないですが、レールから外れてしまった⼈たちが、常識やルールと格闘しながら⼀⽣懸命⽣きている姿を描いています。それはいつか、思っていた⼈⽣から放り出されてしまったときに⽣きるヒントになるかもしれません。ぜひ⼤きなスクリーンで、マスクをとった⼈たちの繊細な感情の機微を⽬撃していただきたいです。
▼プロフィール
保志実都貴(ほし・みつき)
1996 年⽣まれ。東京都出⾝。出演作に、AbemaTV『御曹司ボーイズ』(2019/演出:酒井⿇⾐) 、舞台『君はナタデココ』(2018/脚本・演出:⾦丸知美) 、MV『あなたに会えてよかった(森七菜)』(2020/監督:岩井俊⼆)などがある。今回の上映がスクリーンデビューとなる。
▼イベント情報
●イベントタイトル
知多良監督特集上映「恋と生活」
●上映劇場
池袋シネマ・ロサ https://www.cinemarosa.net/
●チケット情報
前売券:1,100 円(税込) 当日券:一般 1,300 円(税込) ※前売券は 2/4(土)より劇場窓口にて販売
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