小川貴之監督短編集「3つのとりこ」 監督インタビュー

小川貴之監督短編集「3つのとりこ」 監督インタビュー

2月18日(土)から2月24日(金)の1週間、池袋シネマ・ロサにて、「IFS PLAY BACK(インディーズフィルム・ショウ プレイバック」がレイトショーで開催される。IFSとは、インディーズ映画の上映に注力するシネマ・ロサによる企画。2018年3月からインディーズ映画を後押しするべくスタート。若手監督の作品をはじめとしたバラエティに富んだ多くのインディーズ作品を上映している。
「IFS PLAY BACK」は、過去に上映したインディーズ作品を振り返る再上映企画。今回は7プログラムを毎日1つずつ上映、舞台挨拶や特別作品の上映などのイベントも開催される。今回は新たな試みとして、期間中全ての作品を鑑賞できる「通し前売り券(6000円)」を販売。お得な金額で全作品を楽しむことができる。
今回、「IFS PLAY BACK」で、2/23に上映されるプログラム「3つのとりこ」の小川貴之監督にお時間をいただき、上映される短編3作品の制作のきっかけやキャスティング、エピソードについてお話しいただきました。

3つのとりこ

■小川貴之監督短編集「3つのとりこ」監督インタビュー

▼短編集の上映にあたってつけられたタイトルについて

-「3つのとりこ」という短編集上映につけられたタイトル・副題は、短編集の上映にあたって名づけられたものなのでしょうか?

小川貴之監督
そうですね。昨年4月の上映時につけた名前です。

-小川監督がどのようなきっかけで3つの作品をつくっていったかをうかがいたいと思います。「3つのとりこ」という副題から、3つの作品の共通点となる、“とりこ”というものを題材として小川監督が作品作りをしたのではないかと感じる点がありました。
当初から監督の作品作りのテーマとして、“心が囚われる。虜になる”というものがあって、それを3作品続けてきて、今後も4作品目が出てくるような考えなのでしょうか?
小川監督の作品作りのきっかけについて、お話をおきかせいただけますか?

小川貴之監督
自分としては、“虜になっている人”を描こうとは思っていないですね。統一した一つのテーマがあって、それを追求して描いているというわけでもないです。毎回その時の思いつきというか、その時々で気になったことを掘り下げて作るということを基本にしています。
作品を作る上で、以前から気になっているネタのようなものは集めているので、それと組み合わせて作っていくことが多いです。3本作ってみて、昨年に短編集として上映する時に1本筋があった方が皆さんに注目してもらえたり、キャッチコピーとして良いのではないかと考えました。
色々と考えてみたら、「虜になっている人」、「何かにこだわってきた人」が主役になっていると思ったんです。どんな映画もそうなのかもしれませんが、周りの脇を固める人たちも、こだわりを持つキャラクターを作っていると思っています。
振り返ってみると、そういった点がまとまると思ったので、「3つのとりこ」というタイトルにしたんです。

-過去のインタビューを見ても、3つの作品づくりのきっかけに、統一のテーマの“とりこ”があったわけではなく、その時々で作られている印象を感じました。それなのに「3つのとりこ」というタイトルはよくはまっているなと思いました。

小川貴之監督
(個人的にこのタイトルは)結構気に入っています。
3作品ともにバラバラとまではいいませんが、自分の中では割と振り幅があるなと思っています。ハッピーなものもあれば、アンハッピーなものもあるし、なにかそれをまとめるものがないかな…と思った時に、あまり具体的過ぎても面白くないし、色々と考えました。

【若生】
“とりこ”っていいですよね。明るくも受け取れるし、不気味にも受け取れるというか。
それぞれ違う作品だけど、不気味さと明るさとが混じっていて、どっちにでもいける感じがしますね。

-それが作品のイメージにも上手く合っている感じがしますね。

3つのとりこ

▼作品作りのきっかけ1『つれない男』

-それぞれの作品づくりのきっかけを聞いていきたいと思います。『つれない男』では、“釣り”に心を奪われ、とりこになった男が妻に内緒でとった行動としくじりが描かれていますが、これは小川監督が耳にしたお話や、ご自身の経験談などが元になっていたりするのでしょうか?

小川貴之監督
作品を作ろうと思ったのが、40代近くまで生きてきたことと、家族が増えたり、生活に変化があった時だったんです。
ここでやっておかないと、今後そういった作品作りの環境を改めて作るのは大変になりそうな気配を感じたんです。それが作品作りの最初のきっかけでした。ネタとして考えた時に、作品として色々やりたい考えがあったんですけれども、形にしづらいものが多かったので、また0から考えなおして、根を詰めてやっていました。
そうしたら自分の家庭の変化があるのに、自分はその映画づくりに囚われていて、その環境というのがまさに『つれない男』の元になっているんです。
この自分の状況を何かに置き換えて映画作りの1本目としてやったらいいんじゃないかと思いついたのが最初のことで、趣味を題材にした方がいいと単純に考えて、幾つか候補があった中で、“釣り”を選びました。
自分が映画にのめり込んでいったものを釣りに置き換えて1本目を作ろうと思ったのがきっかけでした。

-監督自身は、釣りはされるんですか?

小川貴之監督
やりますけど、そんなにのめり込んでやっていたわけでもないですね。すごい詳しいわけでもなくて。

-“釣りキチ”とか“釣りバカ”という言葉があるように、のめり込みやすい趣味ですよね。
-監督自身の作品作りの出発には、「コメディをやりたい」というものがあったそうですが、そこに関するお話はなにかありますか。

小川貴之監督
『つれない男』も、自分ではコメディかなと思っているんですけど、不気味な作品になってしまったので、わりと「ホラーっぽいね」という人もいたりします。そのあたりは好みなのかもしれないと思っています。
毎回、僕はコメディをやりたいんですけど、どうしても不気味な方に行ってブラックになってしまうんですよね。

▼作品作りのきっかけ2『ASTRO AGE』

-『つれない男』のインタビューで、「宇宙に行かない宇宙の話を考えています」というコメントを目にしました。『ASTRO AGE』をつくるにあたって、「宇宙」と「夢」と「つくば」があり、それらにまつわる出来事があったそうですね。

小川貴之監督
一番のきっかけになったのは、『つれない男』を作った時に、とりあえず映画祭には出品しようと思って色んなところに出品したんです。その結果として付いてきたのがつくばのコンペティション( https://www.tsukuba-artchannel.jp/page/page000061.html )でした。10分という短い尺のコンペで、『つれない男』は12分あるので、10分に縮めて応募したんです。それでグランプリをいただきました。そのコンペの何がすごかったかというと、グランプリの副賞でフランスに行かせてもらえたんです。
グルノーブルという屋外短編映画祭があって、そこで特別上映していただきました。海外のお客さんに見ていただけたというのが自分の中で大きかったです。そこからつくばとの関わりというか、行く機会が何度かあって、もともと僕は宇宙のニュースをみたりして、宇宙が好きだったので、宇宙に関する映画をいつか作りたいと思っていました。
ただ、SF映画を大掛かりなものでやるとお金が掛かるので、それだったらお金が掛からないやり方で、極端なものにしようと思ったんです。誰かが考えている宇宙をドラマチックにすれば、今までにない宇宙映画ができると思ってつくったのがきっかけです。
宇宙に行って帰ってきた宇宙飛行士たちにインタビューする内容の小説(「宇宙からの帰還」作家・立花隆)があるんですけど、面白い内容が盛りだくさんなんです。それはいろんな宇宙飛行士たちに聞いた宇宙観・宇宙の感覚なんですけど、一般の人たちに聞いた話を集めたら、それはそれで宇宙の話になるかなと。そういういろいろなきっかけを寄せ集めて作りました。
最初は“宇宙飛行士にインタビューすることが決まっている”という話ではなく、“人づてにどんどんと宇宙飛行士に近づいていく”という、わらしべ長者みたいに最後にたどり着く話を考えていたんです。それが変化していって、当初とはかなり変わってしまったのですが、そういった作り方をしました。

▼作品作りのきっかけ3『それは、ただの終わり』

-『それは、ただの終わり』の作品作りのきっかけですが、先ほどお話しにあったように、現実にあったものをきっかけに、お話を組み立てていくところで、コロナウイルスや東北に現れた未確認飛行物体、気象観測のラジオゾンデのようなものがきっかけになるのでしょうか。

小川貴之監督
そうですね。色々集まってきたネタを組み合わせて作ったという部分があるのですが、一番はコロナの存在です。
実家とのやり取りがあった時に、コロナに関しての危機感が全く違っていました。そのことに驚きはなかったんですけど、田舎からみた都会、もちろんその逆もあるのですが、変わった見方・偏った見方があると思っています。それが顕著に出るのは家族のやり取りかなと思いました。
それが我が家の場合は事件に繋がるわけではありませんでしたが、ニュースでは事件の発生が結構あったと思うんです。
少し家を外出しただけで暴力沙汰や、コロナに対する見解の違いによって家族の中で軋轢がおきてしまうことがニュースになっていたので、そういうものを題材にして、時代背景を元にしたものをこの時期に作っておきたいと思ったことが今回の作品作りのきっかけです。
ただ、そのままコロナを描くというよりは、置き換えるというのが自分では好きなやりかたなのかもしれません。
ラジオゾンデのニュースは衝撃的でした。あれがもし、テロに関するものだったら大変なことなのに、その後のニュースが全然ないことに当時びっくりしました。

-飛ぶ場所が東京の中心部だったら、ニュースでもっと大きく扱われていたかもしれませんよね。

【若生】
先ほど田舎と都会の見方の違いの話がありましたが、緊急性があるものに関して、都会と田舎ではかなり考え方が違っていますね。
なので、東北にあらわれた未確認飛行物体から、東京にバルーンが現れたという発想は凄い
ですね。

▼キャスティングについて

-困惑の表情と笑顔が印象的だった、若きサイエンスライター・みさき役の小西桜子さんの
 キャスティングはどのように決まったのでしょうか?また、選出の決め手は?

小川貴之監督
小西さんのキャスティングはオーディションでした。人数の多い少ないはあるんですけど、毎回オーディションをしています。『ASTRO AGE』の時は、主役のみさき役を希望してくださった方が多くて、芝居がとても上手な方がいらっしゃいましたし、役を作りこんでいらっしゃる方もいました。皆さん良かったんですけど、小西さんは部屋に入ってきた時から役柄の雰囲気をまとっていて、その場の空気が変わる感じがありました。

【若生】オーディションではセリフ読みなどがあったのでしょうか。

小川貴之監督
色々なやり方を取ることがあるんですけど、普通に質問したりもしますし、台本がほぼ出来上がっていたら一部を抜き出して、相手役と本人役として一緒にやってもらったりします。
台本が出来上がっていない場合には別の台本を作って芝居を見させていただきます。

-今回の小西さんのオーディションは『ASTRO AGE』の出来上がった台本を使ったのでしょうか。

小川貴之監督
決定稿ではなかったと思いますが、終盤の稿ができていました。

-『つれない男』の夫婦役の二人もオーディションで選ばれたのですか?

小川貴之監督
あの時はオーディションと言っても、どこかに部屋を取ってそこに複数人で来ていただくとか、そういう感じではなかったと思います。僕はいつもプロデューサーに、そのキャラクターはこういう人物で、それに合う人を探してることを伝えるんです。その情報を事務所に渡していただいて、事務所さんから返ってきた中から選んでいます。
全員にお会いすることもありますし、『つれない男』の時は候補者が数名で、運良く「この人は絶対いい」と思ったのが荒谷さんでした。実際にお会いしてお互いに「大丈夫そうだ」ということで進めていきました。

-映画祭で作品を観た方のコメントにもあったように、セリフが少ないという作品の特徴があって、その中でもきちんと表現できる方を選ばれていると思うのですが、印象はいかがでしたか?

小川貴之監督
荒谷さんのご経歴も知っていましたし、ドラマに出演された作品も何本か拝見していて、表情が豊かだったので、そこは問題ないかと思いましたね。
串山さんに関しても同じような経緯でした。

-『それは、ただの終わり』の黒沢あすかさんのキャスティングについてお話をお聞かせいただけますか?

小川貴之監督
黒沢さんに関してもお願いしたいと決めてからお会いしました。候補に考えていた方々の中から最終的に黒沢さんにお願いしたいと思いました。
最終稿ではなかったと思うのですがシナリオを読んでいただいた時に、「これだと演じるのは難しいかも…」といったニュアンスの反応があったんです。そこでもう一度書き直しました。その書き直した時点でも、僕自身もまだ少し、演じづらい台本ではあると思っていました。
ただ、黒沢さんがおっしゃっていたのが、「どうしても、(いい意味で)内容が引っかかる」ということでした。「これはやらないといけないんじゃないかと思わせる何かがある」というニュアンスのことをおっしゃってくれたので、これはやってもらえるのかなという期待と、気になるということは役について考え始めているんだろうなと思ったので、それならばいいものができるんじゃないかと考えて、そのままオファーさせていただきました。

小川貴之監督
黒沢さんも相手役の山口まゆさんも台本の中の会話が、“不自然ではないけど、反応しづらい”やりとりだったと思うんです。
ドラマだと、言ったことに対してそのまま反応するようなやりとりが基本だと思います。今回の作品では会話が一回止まるというか、全く違う方向の回答や、ちょっとズレた返しばかりする人が普段会話する人の中にもいますし、そういう人物が面白いと思って台本に書いたんです。それが演じている側からすると、多分気持ち悪さを感じたんだと思います。作品としていい気持ち悪さなのか、悪い気持ち悪さなのかは分からないのですが、僕はいい気持ち悪さになると思って進めていったんですけど。
演じる側には辛そうでした。芝居をするうえで、役者さんの負担がかなり大きかった現場だと思います。

【若生】
昨年の舞台挨拶で、言った言葉に対してのリアクションが普通じゃないから、台詞を覚えるのがかなり大変だったと話していらっしゃいましたね。

小川貴之監督
やって来たものをそのまま返すよりは、来たものを一回グルンと変な混ぜ方をして返すみたいな感じになっていると思うんです。それが難しかったんだと思います。

3つのとりこ

▼撮影にまつわるエピソード

-撮影時のエピソードについてうかがいたいと思います。3編の中でも『ASTRO AGE』は、オールつくばロケやJAXAでの撮影、撮影許可の申請など、エピソードがありましたらお聞かせください。

小川貴之監督
『ASTRO AGE』は、JAXAで撮れなかったら面白さが半減すると思って、最初に企画書を作って許可を取りに、プロデューサーが広報の窓口に連絡してくれました。
そうしたら会っていただけるとのことだったので、会っていただけるなら、多分大丈夫だろうと思って行ったんです。
最初、広報の方から映画を作る理由を再確認されたり、JAXAの広報の理念のようなことを説明していただいて、もしかして断られるかなと思うくらい雲行きが怪しくなってきたんですけど。最終的に許可をいただけました。
実際にJAXAのシーンで、広報官の男性が一人いますが、あの方が実際にその時にお話ししたJAXAの広報官の方で出演していただきました。
撮影の時には現場も多分楽しんでいただけたと思います。得体のしれないインディーズ映画の一作品にとても協力的だったのが嬉しかったです。

-協力的だと嬉しいですよね。

小川貴之監督
嬉しいです。つくばの方は気持ちが温かい方が多くて、映画制作に対して寛大ですごく救われました。

もうひとつエピソードをお話しすると、主人公のみさきが想像の中で森を彷徨うシーンがあるのですが、あのシーンは最初は月面っぽいイメージのところを探していました。石がゴツゴツしている部分を探していたので、ロケハンは多分10ヶ所以上、いろんなところを探して行って一番良かったのが、射撃場みたいなところを見つけたんです。
でも、どういうアングルで撮っても月面には見えづらいことに気付きました。
ロケハンのかなり初期の段階でスルーしていたところがあって、そこは川べりの入りづらそうな土手のところでした。
一か八かでそこにもう一回行ってみたら、結果的に採用されたところが見つかったんです。とても幻想的な感じだったんです。月面じゃなくても、異世界っぽい雰囲気を活かせば整うんじゃないかなと思って、そこが最終的に決まりました。
撮影シーン探しの中でも一番難航して大変でした。

▼映画祭の特典、フランス上映時の観客のリアクションは?

【若生】
先ほども話にありましたが、『つれない男』をフランスで上映した際の観客のリアクションはいかがでしたか?

小川貴之監督
そうですね観に来てくださった方はそんなに多くなかったんですけど、女性の40代50代ぐらいの方が何人かいて、その人達に質問していただいたんですよ。その時の質問が「なんで奥さんがずっと家にいるんだ」というものでした。その質問を受けて「ああ、そうか」と思いました。
日本の昔っぽい家庭のスタイルを採用していますけど、いまだに日本だと多いスタイルだと思うんです。それをフランスの方は問題にしているというよりは、単純に疑問だったと思うんですよ。
「なぜ、妻と思われる女性は外に一人で出て行かないんだ?」とか、「なぜ、全然意見を言わないんだ?」、「なぜ、ああいった立場なのか?」という質問は日本では全然なかったし、それを聞かれると思っていなかった自分も恥ずかしかったですね。

【若生】
「なぜ(あの女性は)家の中に(じっとして)いるのか?」と、聞かれるとハッとしてしまいますね。

小川貴之監督
日本で育っていると、そこに思いがいかないとも考えましたね。

【若生】
フランスではコメディとして受け取られたのでしょうか?

小川貴之監督
どうなんでしょうね。直接聞けることはありませんでしたが、笑いも何か所かありました。
あと、学生が主体になっているウェブメディアで、「無駄がなくて、ドラマとして完全な形になっている」といった短評をいただいたんです。すごく嬉しかったんですけど。具体的にここが良かったというよりは、全体像の構成というか整った感じが良かったみたいな感じで紹介されていて。

―シンプルならではの良さを感じます。男の家の玄関と部屋、ロッカーと渓流。その中で、繰り返される形で話が展開していく感じがしました。

▼コメディを作りたいという原点

【若生】
コメディにしようと思っているけど、ブラックな部分が出てきてしまうお話がありましたが、そもそもコメディを作ろうという思いはどこからきているのでしょう?

小川貴之監督
大学が映像学科出身で、卒業制作でまじめにくだらない映画を作ったのですが、それを観た方々が笑ってくれたんです。その時のうれしさみたいなのが残っていて、どうしようもなくて客席が笑ってしまう現象に凄く感動したんですよね。泣くとかもあるかもしれないですけど、見ていて我慢できなくなっちゃうということは結構すごいことだなと思っていて。
初期にそういった体験が一度あったので、なるべく多くの人に見てもらっている中で、同じものを感じ取りたいという気持ちがもしかしたらあるのかもしれません。
泣かせようとは思わなくて、笑わせたいという方がなぜか出てきて、でも上手くいってないんですけども(笑)

【若生】
上映してみて、作り手の意図していないところで笑いが起こることはよくありますよね。逆のケースもありますし。『ASTRO AGE』でこどもが登場するシーンで笑ってしまいます。

小川貴之監督
あのシーンは結構笑ってくれる人がいますね。

3つのとりこ

▼宇宙飛行士役・奥村さんの役作り

【若生】
奥村さんは本物の宇宙飛行士にしか見えなかったです。本物の人なんじゃないかと思うぐらいハマっていたと思います。

小川貴之監督
オーディションの時から奥村さんだけ半袖で(笑)
冬の寒い時だったと思うんですけど、すごい姿勢もよくて、「あっ、宇宙飛行士が来たんだ」という感じでした。

【若生】
姿勢の良さだとか、出てきた瞬間に「この人は宇宙飛行士だ」って分かるような佇まいで自分の中の宇宙飛行士のイメージと完全に合致した感じです。

小川貴之監督
奥村さんも宇宙飛行士についてかなり色々調べてくださったみたいです。宇宙飛行士って人によって全く性格が違っていたり、身体的にがっちりしているか痩せているかとか、眼鏡をしているかどうかなど全然違うんですけども。
“宇宙飛行士と言ったらこの人”みたいな人ってなかなかいなくて、その中で統一した、“多分こうしたら宇宙飛行士に見えるだろう”といったものを拾っていったことを奥村さんもおっしゃっていて、作りこんでくださったようです。

【若生】
宇宙飛行士の方は日本という地域にとどまらず、国際的な立場という面が大きいと思いますが、その雰囲気を奥村さんから感じました。

小川貴之監督
宇宙飛行士の人は必ず“揺るぎない信念”のようなものが芯にあって、何かを達成した感じが少し滲み出ているものがあると思います。それをリクエストした記憶はないのですが、奥村さんが現場に来た時にはそれがすでにできていたと思います。
“ズレていなければそのまま”というスタイルでやっているので、そのまま演じていただきました。

▼撮影技法について

【若生】
街頭インタビューでマイクを向けられている時に、カメラ目線で話すように撮ることはないように、インタビュー時のカメラの画角があると思います。この映画もインタビューを受けている人は、そのインタビューの画角で撮影されている気がしました。
ある瞬間にその画角が逆転するマジックがありますが、その発想は構想段階からあったのでしょうか?

小川貴之監督
その構想は初めからありました。『ASTRO AGE』に関しては事前にカット割りもある程度決めて現場に望みました。レンズのミリ数によって人物のサイズ感や奥行きの見え方も変わってくるので、カメラマンとも相談して、レンズの選択も吟味していただきました。
話の前半と後半で左右の座り位置も変えています。気持ちの転換も座り位置で変化していくように表現しています。それは観ている人に意識的に感じずに無意識でもいいと思っています。

【若生】
(IFSプレイバックのチラシに)この3本は「映画的快感に溢れている」と書きました。それは映画でないと成立しない仕掛け、それこそ画角が少しずつ動いていき、観ている側と観られている側が反転する、そういった映画的な喜びがあると感じました。
観ていて気付く人、そうでない人がいて、感じ方が異なっていくという遊びは、それを思いついた時にガッツポーズをとってしまうようなことはありますか?

小川貴之監督
心のなかでガッツポーズをするかはわかりませんが、隠れキャラじゃないですけど、なんか面白いかなと思ってやっているところはあります。
『ASTRO AGE』にしても『それは、ただの終わり』でも、仕掛けとして機能してれば面白いと思うし、『つれない男』に関しても、帽子のくだりをあれ以上説明的にしてしまうと違ってしまうし、どこまでネタばらしをするか…ヒントを与えるか…ではないですけど、そういうところは考えるのが面白いですね。
どこまで見せて、どこまで見せないのかとか。
気づいてもらえないけど、無意識に感じ取ってもらえるのが一番いいし、それが好きです。

【若生】
その辺でどなたか影響を受けた監督はいらっしゃいますか?

小川貴之監督
影響・・・そういわれると思いつかないですが、観た後に「あれ何だったんだろう」という感じに分解してみると、「こういうことだったのかな」って考えるのも好きではあるかもしれないです。

【若生】
ギミックだけ押し出されると、それはそれで引いてしまいますが、バランスが絶妙ですよね。

小川貴之監督
ひとつのことにこだわっている監督は好きです。例えば、テオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』。長回しで有名な監督ですけど、一見すると意味のないようなところも含めてカメラが移動しながら撮っていくんですけど、その間が絶妙というか、なんで長回しばかりしているのに話がまとまって面白いんだろうと、初めて観たときに驚きました。
そういったものがひとつ突出している監督や作品は映像体験としても面白いので好きですね。


■お客様へ向けてのメッセージ

-お客様へ向けてのメッセージをお願いします。

小川貴之監督
3作品あるのでバラエティ豊かで見どころもあると思います。
“とりこ”ということに関しても、3作品それぞれ違った捉え方ができるし、出演者もキャラクターがバラバラで、女性男性、若い役者さんから、ベテランの役者さんまで、いろいろな方が出ていて、いろいろなお芝居が見どころとしてあると思います。是非楽しんでいただきたいと思います。
僕はまだ長編を撮っていないので、これから長編を撮る監督の短編作品のまとめとして、観て良かったなと思われるようなものになっていればいいなと思います。観に来ていただけると嬉しいです。

(取材:聞き手 Ichigen Kaneda 、池袋シネマ・ロサ 若生俊亮)

3つのとりこ

■作品詳細

●監督
小川貴之
1978年生まれ、栃木県出身。近年は短編映画を主軸に作品を発表。前作『ASTRO AGE』は、ショートショートフィルムフェスティバル2020に入選し、同映画祭内で「日本の地方の魅力・日本の今後」を感じさせるという観点でセレクションされた「LEXUS OPEN FILM」に選出。このほか、米国アカデミー賞公認映画祭であるセントルイス映画祭など、国内外多数の映画祭で入選上映を果たした。今回、最新作の『それは、ただの終わり』が公開となる。

▼『それは、ただの終わり』

今回初公開となる『それは、ただの終わり』は、上空に正体不明のバルーンが出現した東京を舞台に、失踪した大学生の息子 臣(おみ)を探す母と臣の恋人のやりとりをサスペンスフルに描いた小川貴之監督最新作。

母 衣舞(えま)を演じるのは『六月の蛇』『冷たい熱帯魚』『楽園』などエキセントリックな役柄から人間味ある役まで幅広く演じる黒沢あすか。
臣の恋人みどり役には『樹海村』『軍艦少年』『真夜中乙女戦争』など出演作の公開が続く山口まゆ。
臣のサークル仲間には映像や舞台など幅広く活躍し、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にスコーピウス・マルフォイ役での出演も決定している門田宗大、臣の妹には今回がスクリーンデビューとなる大熊花名実が出演している。
コロナ禍における様々な分断のニュースから着想を得た本作は、会話の中から徐々にあらわになってゆく疑惑と真実に揺れ動かされる2人の姿を丹念に追いかけていく。失踪の真相に辿り着つけるのか、目の離せないストーリーが展開する。

キャスト
黒沢あすか 山口まゆ 門田宗大 大熊花名実

スタッフ
監督/脚本/編集:小川貴之 プロデューサー:仙田麻子、田中佐知彦 撮影:平野礼 照明:本間光平 録音:三村一馬 美術:内田真由、澁谷千紗 衣装:牧野優志 ヘアメイク:桑本勝彦 音楽:中橋孝晃 合成/ CG:細沼孝之 助監督:内田知樹 監督助手:松本大翔 撮影助手:丸山桂 照明助手:山崎允 衣装助手:神木可奈絵 スチール:助川祐樹 題字:吉田剛人 写真協力:小林常人 エキストラ担当:飛岡秀行 制作主任:遠山浩司 制作進行:山口真凜 アシスタントプロデューサー:鈴木里実 協力:Ippo、Persimmon House

▼『ASTRO AGE』

2019年製作の『ASTRO AGE』は、宇宙飛行士へのインタビューを控えた若手のサイエンスライターが思いもよらない宇宙観に遭遇する、宇宙が登場しない宇宙映画。本作はオールつくばロケの作品で、昨今、宇宙飛行士候補者の募集で話題のJAXAでも撮影が行われた。
主人公のサイエンスライターみさき役は『初恋』で鮮烈なカンヌデビューを飾り、その後も『佐々木、イン、マイマイン』『猿楽町で会いましょう』など、映画やTVドラマでの活躍が目覚ましい小西桜子。
みさきの叔母役に『あなたにふさわしい』の島侑子、取引先の出版会社編集長役に安住啓太郎、地球に帰還したばかりの宇宙飛行士役に奥村アキラ、模擬インタビューの相手役として椎名泰三、石井凛太朗、信江勇が出演。個性豊かな実力派俳優が脇を固めている。
本作はショートショートフィルムフェスティバル2020に入選し、同映画祭内で「日本の地方の魅力・日本の今後」を感じさせるという観点でセレクションされた「LEXUS OPEN FILM」に選出。このほか、米国アカデミー賞公認映画祭であるセントルイス映画祭など、国内外多数の映画祭で入選上映を果たした。

キャスト
小西桜子 奥村アキラ 椎名泰三 島侑子 石井凛太朗 安住啓太郎 信江勇 DJ 博士(DENSHI JISION) 宮里光憲

スタッフ
監督/脚本/編集:小川貴之 プロデューサー:仙田麻子 撮影:平野礼 照明:稲葉俊充 録音・整音:織笠想真 助監督:三吉優也
ヘア・メイク:桑本勝彦 衣装・美術:石原穂乃香 スチール:助川祐樹 カラリスト:河原夏子 撮影助手:上野陸生 照明助手:杉村航 制作進行:望月龍太 制作応援:西谷明莉 題字・ミッションロゴ制作:吉田剛人 英語字幕翻訳:ベン・アップルヤード(VICENTE) 音楽:DENSHI JISION 助成:いばらきコンテンツ産業創造プロジェクト

▼『つれない男』 

2017年製作の『つれない男』は、妻に内緒でひたすら釣りに興じる男があるしくじりを犯してしまい、調子が狂っていく様を描いたシリアスコメディ。主演は南河内万歳一座の劇団員として多くの舞台に出演するほか、映画やTV でも独特の印象を残す荒谷清水。
妻役には再現ドラマや舞台で幅広く活躍する串山麻衣。川で出会う男役は映像・舞台などさまざまなフィールドで活動する尾倉ケントが演じている。
本作は第5回つくばショートムービーコンペティションでグランプリを受賞し、仏・グルノーブル屋外短編映画祭で招待上映されたほか、第4回立川名画座通り映画祭では観客賞を受賞。国内外30以上の映画祭で入選上映された。
「釣り」や「宇宙」など、何かに心奪われ虜(とりこ)になる人々を描いてきた小川貴之監督。最新作『それは、ただの終わり』では、突如出現した未確認物体「バルーン」に囚われる母を描き、現実と地続きの世界の中で新しい幻想譚を紡ぎ出した。
また、今回上映される3作すべての撮影を担当した平野礼による映像美、物語を彩る都市とノスタルジックな風景の対比など魅力的なロケーションも見どころの一つとなっている。

キャスト
荒谷清水 串山麻衣 尾倉ケント

スタッフ
監督・脚本・編集:小川貴之 プロデューサー:仙田麻子 撮影:平野礼 照明:稲葉俊充 録音・MA:内田雅巳 音楽(導入曲・終幕曲):川高ゆきお 音楽(挿入曲):池涼平 撮影助手:村松良 照明助手:松永太郎邦継 スチール:助川祐樹 助監督:秦聖姫 制作助手:西谷明莉 諏訪翔平 題字:吉田剛人 車両協力:間曽久代 写真協力:船生望 フィッシングアドバイザー:鈴木あつし、小林常人


■ IFS PLAYBACK〈インディーズフィルム・ショウ プレイバック〉

日時:2023 年 2/18(土)〜2/24(金) レイトショー(上映時間未定)
料金:1500 円均一 ※2/20(火)『僕の一番好きだった人』のみ 1300 円
前売券:通し券 6000 円(劇場窓口にて販売)
WEBサイト: http://www.cinemarosa.net/
池袋シネマ・ロサ 公式 Twitter: https://twitter.com/Cinema_ROSA
インディーズフィルム・ショウ 公式 Twitter: https://twitter.com/Cinema_ROSA_ifs

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