2022年12月9日(金)から、シモキタエキマエシネマK2にて、映画『道草』が公開中。本作は俳優事務所であるハイエンドが製作する映画第二弾。第一弾『わかりません』に続き、片山享が監督を務める。今回、主演の青野竜平さん、田中真琴さんに本作で演じた役柄、キャスティングの経緯、撮影時のエピソード、そして本作のテーマである価値・価値観について語っていただいた。
片山監督は、本作が今年五本目の長編劇場公開作という驚異的なスピードで作品を生み出している。その創作力を支えている“俳優出身の監督”という出自を生かした演出も注目されている。
本作では、凡庸に生きてきた画家が他人の絵・評価・価値観に翻弄されていく様を通じ「自分らしさとは何か」「価値とは何か」という芸術家に限らず普遍的なテーマを巡る物語を抒情的に、かつ鮮烈な描写で見事に紡いでいる。
その問いに飲み込まれていく画家・榎木道雄役にはENBUゼミナール シネマプロジェクト発の映画『河童の女』(20)で映画初出演にして主演に抜擢された青野竜平。ヒロインとなる富田サチはネクストブレイクの呼び声高く、映画・ドラマ・舞台と話題作への出演が相次ぐ田中真琴が務めた。
■ 映画『道草』
▼あらすじ
「遠回りの先に、描いたもの」
画家の榎本道雄(青野竜平)は、日の目を浴びたキャリアもなく、ごみ収集のバイトで生計を立てている。しかし、そんな生活にも満足していた。ひょんなことから出会った富田サチ(田中真琴)はそんな道雄の絵が好きだと言い、二人は付き合い始める。
幸せな日々がきっかけとなり、それまで思い描いたこともなかった画家としての成功を意識するようになっていくが、道雄の絵は売れない。焦燥感に駆られていたある日、道雄がごみ収集に向かうと自分の作風とは全く異なる激しいタッチの抽象画が捨てられていた…。
■ 映画『道草』 青野竜平、田中真琴インタビュー
▼演じたキャラクター、共演者について
-凡庸に生きてきた画家・榎本道雄を演じるにあたって、どのような取り組みをされましたか?(例えば、技術面で絵を習うこと、描くこと、鑑賞すること。その期間や描いた絵の枚数など。また、榎本道雄をどんな人物と捉え、その人生や人物をお芝居に反映させたのでしょうか)
青野竜平
榎本道雄は20年以上絵に人生を費やしている役で、根底には絵が好きという気持ちが強くあると思うので、撮影が始まるまでの一ヶ月という期間の中で、正直描けるようになるのか不安の方が大きかったんですが、やるしかないと気合を入れ直しました。
ただ僕は絵をあまり描いたことがなく、とくにかく絵と向き合う時間が必要だと思い、絵画教室へ行きました。初めは油絵を習ったのですが、なかなかうまくいかず、基本のデッサンが必要だと感じデッサンも習い、ひたすら描いていました。最終的にポスターになった絵は油絵寄りのアクリル画で、講師の方に裏技など教えていただきどうにか撮影に間に合いました。
僕はひとつの事に多くの時間をかけるタイプなので、絵をじっくり描くというという事は自分に合っていたし、頭がモヤモヤしている時も描いていると無心でいられて心地いい感覚で楽しいなと純粋に思えたので、絵が好きという感覚は道雄に少し近づけたのかなと思います。
-“田中真琴さん無くして榎本道雄はいませんでした。”と、サチ役を演じた田中さんが魅力的だったとコメントされていますが、青野さんからみた田中さんの印象・魅力。役者・人物としてどういったものを感じましたか?
青野竜平
サチ役の田中さんは、役者としても人としても、とても自由で縛られない感じがとても魅力的だなと感じました。監督にこのシーンは好きにやって下さいと託された所で、その自由な発想で面白い表現や言葉が生まれて一緒にやっていて楽しいなと思いました。
田中さん特有の柔らかさや気さくさもあり、撮影現場でも場が和みましたし、そんな中にもしっかりと芯がある、そんな田中さんが演じたサチだからこそ、道雄もサチに対して安心感を持てたんだと思います。
-田中さんは、“私はサチが大好きな役でした”とコメントされていて、サチのような女性に憧れているとのことですが、田中さん自身とサチを比較して、共通点、違う点などをお聞かせください。
田中真琴
似ている部分って違う面から見たら全く似てないように感じる時ってあると思うのですが、それと同じことをサチに感じていました。サチのまっすぐで誠実で人を愛しているところが私にもあったり、なかったり、して、、、似てるようで似てないなぁと不思議な感覚でした。サチの周囲の人を疑わずに信じて愛せるところが羨ましいです。ただ、別れた相手に呼ばれて最後会いに行ってあげるところは私と違うなぁと思いました。私なら行かないと思います。笑
ー田中さんからみた青野さんの印象・魅力。役者・人物としてどういったものを感じましたか?
田中真琴
青野さんはとても優しいなぁと思いました。それが役として、道雄くんの深みとか人たらしっぽいとことかに反映されていて青野さんにしか創れない道雄くんになったと思います。青野さんの寛容さとか、柔らかい雰囲気は私にはないのでとても羨ましいです。現場でもそう居て下さったので、私ものびのびと撮影に挑めたので感謝しています。
▼キャスティングについて
-キャスティングに関する質問です。オファー、オーディション等、選出までの経緯や、選ばれた際の感想を教えてください(例えば、オファーの場合はどういった声がけがあったか、また、声がけをいただいた時の感想など。オーディションの場合は、どういった課題が与えられたか、脚本の中のどういったシーンだったか、オーディションの際のエピソードをお聞かせください)。
青野竜平
まず、社長に電話で事務所に来るよう呼び出されたんですが、その時の声が少し張り詰めた感じだったので、自分が何かやらかしたのかと緊張気味に向かったんです。すると社長の周りに今回の共演者で事務所の先輩の大宮さんや木原さん、今回は出演していませんが前回片山監督映画の主演ボブさんが座っていて、凄く重い空気で、大宮さんに「何か思い当たる事はない?」と言われて、なんの事か全く思い当たらなくて「わかりません、、」って答えたんですが、その後も変な空気のままで、そうしたら片山監督が来て「主演をお願いしたいんですけど」っと言われて、サプライズがすぎると思いました。諸先輩方のあの凄みで言われると本当に足が震えました笑。
恐怖の後の嬉しさだったので混乱してずっと「本当ですか?!」を連呼していたのを覚えています。
田中真琴
私はオーディションで選んで頂きました。オーディションでは、サチが初めて道雄くんの家に行くシーンを演じたのですが、監督が自由にやっていいよって言って下さったので一か八かで、めちゃくちゃ自由にやりました。最後まで台本が進まないくらいに。そのあと台本通りするバージョンも演じさせて下さったのですが、帰り道、絶対落ちたわーって思ってマネージャーさんにすみません、、ってメッセージ送っていたくらい落ちたことを確信していたので受かったって聞いてびっくりしました。
▼撮影時のエピソードについて
-コメントされていた…「片山監督は私が描くサチをとても可愛がってくれて、例えば川で道雄くんとまどろんでいるシーンとかでも私がやりたい事を尊重して演出してくださった」についての質問です。田中さんが描くサチを、片山監督はどのように可愛がってくれたのでしょうか?
また、田中さんがやりたかったこと、片山監督が尊重してくれたという演出ではどのようなやりとりを行いましたか?
田中真琴
現場に入る時にいくつかのパターンをイメージして台本を覚えていくのですが、その中でも蛇道ぽい、私のプランとかも面白がって採用してくれて、そこからさらに監督がこうしてみたらってアイデアを下さってサチが出来上がっていったのがとても楽しかったです。川遊びで大きめな石をノールックで投げてみるっていう変なアドリブもカットかかってからめっちゃ笑ってくれててしかも、使ってくれてたので嬉しかったです。笑
-「撮影期間中、夜通し書いた一発勝負の絵」、これを描いた時のエピソードをお聞かせください(描く前、描いている最中、描いた後などについて)
青野竜平
道雄の家の撮影は、約一週間、福井県での泊まり込みの撮影だったんですが、最後に出てくる絵が完成したらほぼ撮影が終わるというような状態で、朝からいくつかのシーンを撮り終えた後、夜中から描き続けて気づけば13時間壁の風景画と向き合っていました。
次の日東京へ戻らなければいけなかったので、ほぼ寝ずに途中眠気を通り越してランナーズハイのような状態になりながら夢中で描き終えました。道雄が無我夢中で自分の絵を取り戻す大事なシーンの絵なので、自分も無我夢中で描いていて、絵を完成させるまでの途中のシーンは映っていませんが、あの時間も自分は道雄だったなと思います。
▼「価値・価値観」について
ーこの作品を通じて、道雄、サチを演じて、「価値・価値観」について、考えたこと、気づいたことなどありましたらお聞かせください。特にご自身で重要視している点、大切にしている点。他者による評価の感じ方、受け取り方など。
青野竜平
道雄を通して感じた価値観は、自分らしくある事です。
特に道雄は画家というアーティストなので自分らしさを封じてしまうというのはとても苦しい事だと思うんです。現実世界でも、個々が自分らしさを出していくという流れになってきていると思いますが、やはり自分らしさを封じ込めて苦しく生きるより、らしさを出した上で賛同して貰ったりした時に本当の喜びがあるのかなと思います。
役者は自分とは違う人間を演じる仕事ですが、自分らしさも含めて役を演じる事も大切だなと思っています。
片山監督は常に芝居に嘘をつくなと言っていて、それに通じるものがあるなと思います。
田中真琴
私はファッションにしても音楽にしても流行りより、自分の好みのものをずっと何年も使ったり聞いたりするタイプなので、作中に出てくる価値に群がるタイプとはまた違うのかなぁと思いました。自転車とかも大学生の時にお金貯めて買ったちょっと良いのを東京まで持ってきて修理とかもしながらずっと使ってます。なので、価値の見方はこの映画を観る前から変わらないですが、道草に出会って、改めて私はこの価値への価値観は変えずに生きていこうって思えました。ただ、道草を見て、いろんな価値観があって良いんだなと思えたので、私とは違う価値観の人の事も理解できるような気がしてます。
▼お客様へのメッセージ
青野竜平
道雄は好きな事を続けていく中で道草をしながら大事な事に気づいていきます。
人の純粋さが弱さや愚かさにも繋がっていく。
道雄の全ては肯定しませんが、とても人間らしいなと思うので愛おしくも感じます。
この作品は皆さんにどういう想いが芽生えるのかとても気になる作品です。是非観ていただきたいです。
田中真琴
私が演じさせて頂いたサチと、青野さんが演じられた道雄の可愛い2人の関係が生き物のように変化していく様が私はとても生々しくてこそばくて、好きなので是非そういう部分も楽しんで頂けたらいいなと思います。
今作を観終わって、人生をもっと深めていく為に一度改めて自分自身の価値観について自分の心に少しだけでも聞いてみる、そんな時間になれば幸いです。
▼予告編
■ 映画『道草』 作品情報
出演
青野竜平 田中真琴
Tao 谷仲恵輔 山本晃大
大宮将司 入江崇史
スタッフ
プロデューサー:大松高 撮影:深谷祐次 照明:松島翔平 録音:坂元就・杉本崇志
制作:山田夏子 監督補佐:安楽涼 助監督:風間英春 ヘアメイク:谷口里奈・富田貴代
スタイリスト:磯﨑亜矢子・青山新 カラリスト:深谷祐次 整音:坂元就 絵画提供:大前光平
美術協力:sinden inc.・大門佑輔 宣伝デザイン:あおときinc. 櫻井孝佑
制作プロダクション:ハナ映像社 配給・宣伝協力:夢何生
企画・製作:ハイエンド合同会社 監督・脚本:片山享
2022年/日本/122分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/DCP
公式サイト: https://www.highendzworks.com/michikusa
12月9日からシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』にてロードショー