2022年12月2日(金)~8日(木)、シモキタエキマエシネマK2にて、映画『夜のスカート』が上映される。本作は、「夜」から始まり「スカート」に終わる愛と解放の物語。今回、企画・プロデューサー、そして主演も務める小沢まゆさん、小谷忠典監督にお時間をいただき、本作制作のきっかけや撮影時のエピソードについてお話しいただきました。
■映画『夜のスカート』 小沢まゆ、小谷忠典監督インタビュー
▼自らプロデュースする姿勢
-小沢さんのコメントに、“俳優は”待つ仕事”という言葉がありました。改めて、俳優自ら映画をプロデュースしようと思った動機についてお話をお聞かせください。
小沢まゆ(菊池実佳 役)
オーディションがあったとしても、たくさんの優れた俳優たちの中から、一つの役を掴むのはすごく大変で、映画やテレビの場に呼んでもらえることもなかなか難しいと思っています。演じたい思いがたくさんあるのに、その演じる場所がないことは、多くの役者が悩んでいる部分だと思います。
だったら、こういう作品に出たいとか、こういう役をやりたいとか、表現する場を自分で作ればいいのではないかと思いました。
でも、あまりよくは分かっていない中で、映画を作るのは大変でした。短編映画だったらできるかなと思って、小谷監督に映画を作りましょうと声をかけたのですが、実際に始めてみたら本当に大変で、プロデューサーってこういうことをやって作品を作っていくんだとひとつひとつ勉強しながら今日まで来て、今も勉強中です。劇場公開するにあたっても、初めて知ることが多いです。
▼映画製作プロダクション「second cocoon」の立ち上げについて
-「second cocoon」を構成する単語から、「2回目の小沢まゆ」=「小沢まゆの再開」といった意味を感じました。この立ち上げにまつわる話をお聞かせください。
小沢まゆ
二十代の半ば頃に結婚・出産をして、そのまま仕事を続けていこうと思っていたのですが、子どもを産むと色々な現実にぶつかってしまって難しく、思い切って「暫く俳優業をお休みしよう」と決めて、約10年間お休みをしていました。
-長い間、お休みされていたんですね。
小沢まゆ
と言っても、『たまらん坂』(2019)にも出演があり、少しずつ活動を始めていました。
本格的にもう一度俳優業をやっていこうと思ったのが40歳の時になります。
芸能活動の再開について、小谷監督に相談していた時期でした。
先ほどお話しいただいた通り、「second cocoon」には、“2回目のまゆ”という意味があります。
それにプラスして、海外の心理用語として、疲れて立ち止まりたいときに、繭に入って一休みするといった言葉があるそうです。それを調べていた時に、一旦お休みをして再び外に出ていく自分とリンクすると思って名づけた経緯があります。
-“コクーンスカート”といったスカートもあり、今回の作品とも結び付くと感じた部分がありました。
▼今回の映画制作の呼びかけはどのように始まったのでしょうか?
-映画制作にあたっての声がけや、小沢さんと小谷監督の出逢いの部分など、お話をお聞かせください。
小沢まゆ
小谷監督との出逢いは、14年くらい前で、小谷監督の作品に私が出演したことがきっかけになります。
小谷忠典監督
この企画自体の発端になったのが、2020年のコロナが始まった年に、小沢さんから僕に「40歳になる前に節目となる写真を僕に撮って欲しい」という依頼があったことになります。
「どんな写真を撮ろうか」という話を二人でして、色々ヒアリングをしていたのですが、それまで小沢さんのパーソナルな話を聞いたことがなかったので、その話をしたことがきっかけだったと思います。
僕から小沢さんにあらためてうかがいたいのですが、どういった意図があって僕に写真の撮影を依頼されたんですか?
小沢まゆ
ちょうど40歳になる年だったのと、コロナで世の中がひっくり返るというか、自分の人生について深く考える時期で、これから40代に入っていって、どういう人生を送っていきたいかを考えていました。
もう一度俳優として仕事をしていきたいという思いがある反面、休んでいる期間が長かったので、なかなか自信もなく、悶々と過ごしていた時に、30代最後の写真を残したいと思いました。
それまでに3作品を一緒につくってきた小谷監督ならば、私のことも分かってくださっていて、きれいな写真を撮ってほしいいという意味ではなく、40歳になる直前のその時の私を小谷さんがどんな風に撮ってくれるだろうかという期待を抱きつつお願いしたんです。
でも、小谷監督はドキュメンタリー監督なだけあって、すぐには「写真を撮ってもいいよ」とはなりませんでした。
「どうして写真を撮りたいの?」、「どうして40歳になってからじゃなくて、直前の30代の自分を撮りたいの?」と、たくさんの色々な質問を事前にしてくださったんです。
そうすると自ずと、自分自身と向き合うことになったんです。色々な話を二人でしながら写真を撮っていただいて、こんな風に今の私を撮るんだと、思いがけない写真になったことに驚きました。表現者としての活動を続けて行きたいと思うようになる、背中を押してもらえる写真になりました。
そこから、「短編でもいいので、映画を作りたいですよね」とお話をしたのが、『夜のスカート』の発端になっています。小谷さんは対象物を見つめ、その奥深くにあるものをあらわにしていく、ドキュメンタリー監督でもいらっしゃるので、小谷さんと一緒に映画を作ったら、私自身も知らない自分を映画で表現できるのではないかという思いがあって、映画を作りたいという話をしました。
-『夜のスカート』は、「second cocoon」による第一作目になるのでしょうか?
小沢まゆ
はい、そうです。
ただ、「second cocoon」を立ち上げたのは、本作の撮影後で、劇場公開させるのは、『夜のスカート』が初めてになります。
▼原案となった小谷監督が耳にした話と、スカートとの結びつきは?
-今回の作品の原案は小谷監督が学生時代の仲間と集まった時に耳にしたご友人の母親の闘病と看病の話が元になっているとのことですが、シリアスな内容と、木村知貴(芹沢秋⽣ 役)さんがスカートをはいたユーモアのあるビジュアルとの結びつきが新鮮でした。
このシリアスとユーモアはどのように結びつく流れがあったのでしょうか?
小谷忠典監督
ビジュアルイメージとして、木村知貴さんがスカート姿で現れるのですが、「男性がスカートをはいていたら素敵だな」という発想・ビジュアルから来ています。
-スカートについては、母との想い出とのつながりを感じました。
小谷忠典監督
母の思い出がストーリーの中にあって、どういうモチーフが物語を展開していくかと考えた時に、スカートというモチーフがあると物語が転がっていくように感じました。
やはり先ほどのお話にあったような“包み込む”とか“繭”といったことがイメージとしてあったのかもしれません。
以前、『フリーダ・カーロの遺品』というドキュメンタリー映画を作ったことがあって、その時に遺品をたくさん見ました。その時に遺品としてスカートが象徴的だったんです。
木村知貴が身に付けていたら面白いのではないかというアイテムがスカートでした。
▼小沢まゆさんのハサミ裁き
-小沢さんが演じられた役は美容師で、ハサミ裁きが印象的でした。美容師経験の有無などエピソードをお聞かせください。
小沢まゆ
美容師の経験はなく、この役のために技術指導の方をつけていただいて教えていただきました。家でも毎日練習して、撮影当日も技術指導の方に現場に入っていただいて、一つひとつチェックしていただきながら挑みました。実は小谷監督の妹さんが美容師さんなんです。
-美容師姿の小沢さんの背景には、そんなつながりがあるんですね。
小沢まゆ
日常で使っているハサミとは使い方が違って、すごく難しかったです。美容師さんが素早くハサミを動かしている姿を今まで何気なく見ていましたが、自分でやってみるととても難しいことが分かりました。髪の持ち方や差し入れる指も違うんです。
手先をアップにする寄りのカットは、その場にいらっしゃる技術者の方で撮影してくれるだろうと私は思っていました。
私の手元を寄りで撮ると、経験の浅さが分かってしまうと思ったんです。
実際には、100%、私の手と指で映し出されています。
小谷忠典監督
手元のアップから全身を映していけば小沢さん本人が髪を切っていることが分かるので、カットを割りたくなかったんです。でも、カメラマンの「カットを割ってくれないと撮れない」と言う主張もあり、カットを割った撮影をしています。
小沢まゆ
結果として、手元と全身を分けた撮影になっていますが、100%私自身が髪を切っているシーンになっています。
▼技術的な共通点。スタッフ側での共通点。
-小沢さんが演じる役、木村さんが演じる役の共通点があるように感じました。
美容師と、歯科技工製品(歯型)の製造会社勤務といった点にはなにか繋がりはあるのでしょうか?
小谷忠典監督
共同脚本の堤健介さんが歯型を扱う業者で働いているといった背景があります。
あれは特殊な技術が必要な製品なのですが、それを作っている会社で、木村さんが演じる秋生は働いているという設定です。
▼数字やアルファベットの裏には…
-台詞の中にアルファベットや数字がいくつか出てきたと思います。そこに込められた考えなどありましたらお聞かせください。
小谷忠典監督
先ほどの歯型に関わる点では、乳歯と永久歯によって、それらを示す数字やアルファベットが違ったりするそうで、そこは正確に表現しています。歯型の製品では歯を抜くことができる仕組みがあって、劇中でも歯が抜け変わる話があると面白いかもしれないというシナリオ的な発想がありました。
-親と娘、子どもの成長といった部分が、作品の中に含まれていて、歯に関係するシーンは印象的でした。
小谷忠典監督
歯に関係するエピソードといえば、抜けた乳歯を埋めるシーンでは、小沢さんのお子さんの歯を使っています。
小沢まゆ
私が幼かった頃は、歯が抜けたら屋根の上や軒下に投げる文化があったと思います。うちの子はもう大きいのですが、乳歯が抜けた頃、マンション暮らしだとそういったことができず、捨てるのも忍びないので、きれいに保管していました。
今回、子どもの歯が抜けるシーンが出てきたので、私の子どもの抜けた歯をリアルに使ってみてはどうかと提案して使っていただきました。役に立って良かったです。
▼台詞に含まれたユーモアを感じる懐かしい思い出話
-美容室で交わされたユーモアを感じる懐かしい思い出話
美容室内で交わされた小中学校時代を思い返す話がユーモアがあふれ、思わず「あるある」という内容でした。あのシーンにまつわるお話をお聞かせください。
小谷忠典監督
共同脚本の堤と二人で、100個ぐらいの話を出し合ったと思います。「あんなことやこんなことがあったね」、「こんなのを見たけど、どれが一番面白いだろうか」と、ずっと話し合って選びました。
-本当に多くの中から厳選されたものなんですね。
小谷忠典監督
あのシーンでは少し長すぎる感じがしたので、仕上がった時にもう1個ぐらいは話を減らしても良かったかもしれません。
小沢まゆ
実佳と秋生のあのやり取りがとてもいいと思いました。
どんどんと子どもの頃の記憶に返って行く感じがして、あって良かったと思います。
小谷忠典監督
小中学校時代って、牛乳の一気飲みが流行りませんでしたか?
小沢まゆ
子どもの頃って、やりますよね。
-バラエティやコント番組の影響から、牛乳の早飲みやスイカの早食いが流行っていたと思いますね。
▼映画制作のエピソード
-俳優側から映画の制作を相談されることはあまりないことだと思うのですが、映画制作からこれから上映されるまでに至る中でのエピソードはありますか?
小谷忠典監督
最初は、コロナ禍だし、短い作品をこの時期に作れればいいねという話をしていました。小沢さんと僕と脚本家で、少しずつお金を出し合って、ミニマムなものを作ろうというスタートだったのですが、作り始めるとどんどん膨らんでいって、監督としての欲望が出て、予算面もオーバーしていって、最初の想定した予算をあっという間に超えてしまいました。
「あれやりたい、これやりたい、でもお金ないよね」と話し合っていると、小沢さんが「お金も集めてくるし、助成金の手続きも、プロデューサーも含め、全部私がやります。」と言っていただいたのが、撮影前のことでした。
小沢まゆ
監督にお金のことを考えさせるのが申し訳ないと思いました。監督は常にクリエイティブでいてほしいのに、予算のことで「これがやりたいけどできない…」と、発想の段階から入ってしまうともったいないと考えました。
監督自身に考えさせてしまうのがとても申し訳ないし、いい作品を作るためにそれは邪魔だなと思ったんです。現実的にできる・できないは、プロデューサーが判断することなので、私がその役目を引き受けようと思いました。それによって腹が決まって、お金について考えてしっかり集めないと駄目だなという気持ちになりました。
小谷忠典監督
それに加えて、僕は数年前から調子を崩している中、小沢さんがそれを理解し、配慮ある対応をしていただいたおかげで今回の作品を撮影することができて、本当に感謝しています。
小沢まゆ
もっと人に合わせた現場作りができる業界になれば良いなと思い続けていました。自分が育児と仕事を両立できなかったことが背景にあるのですが、もっといろいろな選択肢や環境が整っていればできたこともあったと思うんです。
そういったことで悩んでいるスタッフさんや女優さんがたくさんいるので、その人に合わせて現場自体を変えていけば、もっといろいろな人が快適に仕事を続けていける業界になるのではないかとずっと考えていました。
今回は、小谷さんがいろいろな制限の中でしか映画を撮れないとなったら、そちらに合わせられるようにして、小谷さんが働きやすい現場作りをすればいいだけのことだと考えました。業界が全体的にそういった方向性になればと思っています。
■お客様へのメッセージ
小谷忠典監督
本作は企画が新型コロナウイルスの流行と同時期に立ち上がったわけですが、その期間、私たちが身を置く世界は急激に狭くなったというか、非常に窮屈な世界になってしまいました。
感染の状況が少し落ち着きましたが、やはり以前のような自由な空気感・雰囲気に戻っていないというか、戻れないというか、過去にはどうしても戻ることができないわけですけれども。
そんな中でこれからも未来を生きていく人たちの心を少しでも、この映画を観た人が解放できたらいいなという気持ちで作りました。
小沢まゆ
この『夜のスカート』という作品は、ある心残りを抱えた女性の物語が軸になっています。
後悔とか、心残りとか、大切な人・物・機会を失ってしまった喪失感というのは、一度は皆さん抱いたことがあると思います。でも、この作品ではそういった後悔とか心残りとか喪失感を決してネガティブには描いてはいません。
私はこの作品を通して、「みなさん、よく頑張りました」と言ってあげたいんです。
後悔や心残りを抱くのは、そこまで頑張ってきた自分や想いを込めた積み重ねがあるから、「もっとこうすればよかった」って思ってしまうのでしょうけれど、それは決してネガティブなことではなくて、「そこまでやってきた自分自身を抱きしめてあげてよ」、「自分自身を肯定してほしいな」という思いで作りました。
それだけみんなよく頑張っています。頑張れない人もそれでいいんです。
なので、この作品を観た方が、少しでも心が軽くなったり、柔らかくなったりするといいなと思っています。
■映画『夜のスカート』作品概要
Introduction
「夜」から始まり「スカート」に終わる 愛と解放の物語
ユーモアとシリアスを織り交ぜた「夜」からはじまる「スカート」にまつわるヒューマンドラマ。
『ドキュメンタリー映画 100万回⽣きたねこ』『フリーダ・カ―ロの遺品 ⽯内都、織るように』『たまらん坂』など意欲作を⽣み出してきた⼩⾕忠典監督最新作。奥⽥瑛⼆監督『少⼥~an adolescent』で鮮烈にデビューを飾り、映画、ドラマ、舞台など幅広く活躍する俳優・⼩沢まゆが主演兼初プロデュース。⽊村知貴の快演、⼦役・新井葵来の初々しさにも注⽬。
Story
「ほんと、何やってたんだろう……」
東京の⽚隅。独⾝アラフォーの実佳(⼩沢まゆ)は、⺟を癌で亡くして間もない。
実佳が遺品整理をしていると、幼い頃の実佳が好きだった⺟のスカートが⾒つかる。
ある⽇、実佳の勤め先の美容院にバツイチ⼦連れの秋⽣(⽊村知貴)がやって来る。⼆⼈は⼩学校の同級⽣だった。30年ぶりの再会に連絡先を交換する。
その夜、帰宅途中の実佳がアクシデントに⾒舞われる。駆けつけて来た秋⽣は、なぜかスカート姿だった……。
〈作品概要〉
『夜のスカート』(2022/日本/16:9/カラー/37分/DCP/5.1ch)
監督・脚本・編集:小谷忠典
出演:小沢まゆ、木村知貴、新井葵来、南久松真奈、岩原柊、新井麻木
撮影・照明:倉本光佑/撮影助手:福島光騎/録音:髙橋楠央、鈴木拳斗/整音:小川武/制作:荻原大輝、三井悠輔/助監督:小林圭一郎/技術指導:藪本千絵/脚本:堤健介/脚本協力:中川実佳、仲町麗子/タイトルデザイン:hase/音楽:磯端伸一/宣伝:山口慎平/宣伝デザイン:山森亜沙美/宣伝写真:moco/英語字幕:ドン・ブラウン、櫻井智子/DCP制作:清原真治/助成:AFF/企画・プロデューサー:小沢まゆ/製作・配給:second cocoon
©夜のスカート
『夜のスカート』公式Twitter: https://twitter.com/yorunoskirt?s=21
映画『夜のスカート』12月2日(金)よりシモキタ–エキマエ–シネマ『K2』にて公開