11月26日(土)東京・パルテノン多摩にて、第14回TAMA映画賞授賞式が開催。各賞の受賞者が登壇。喜びの受賞コメントが語られると会場は大きな拍手に包まれた。
国内映画賞のトップバッターとして注目を集める「第14回 TAMA映画賞」は、多摩市及び近郊の市民からなる実行委員が「明日への元気を与えてくれる・夢をみせてくれる活力溢れる<いきのいい>作品・監督・俳優」を、映画ファンの立場から感謝をこめて表彰する。
■『第14回 TAMA映画賞』受賞作品、受賞者一覧、受賞理由
▼最優秀作品賞[本年度最も活力溢れる作品の監督及びスタッフ・キャストに対し表彰]
受賞作品 | 『LOVE LIFE』 |
受賞者 | (深田晃司監督、及びスタッフ・キャスト一同) |
受賞理由 | 平和な日常が一転し、深い哀しみやばかばかしいほどの虚しさに覆われたヒロインが、深層にあった愛を選び、踏み出していくさまは人生の本質を映し出していた。 |
深田晃司監督は受賞コメントを次のように述べた。
深田晃司監督
とても光栄です。『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督も同じようなことを言っていましたが、多分こういった賞をもらった監督はみんなそう思うのではないかと思います。本当にこの賞は私個人に与えられたというよりは、この映画に関わってくれた素晴らしい俳優さんとスタッフさんに支えられて、何とか作れたものです。
スタッフ、俳優の皆さんに感謝したいですし、今回の映画は矢野顕子さんの「LOVE LIFE」という歌から着想を得て、劇場でも使わせていただいたので、矢野さんにもこの映画で曲を使うことを快諾してくれたことにも感謝を申し上げたいと思っています。
受賞作品 | 『ハケンアニメ!』 |
受賞者 | (吉野耕平監督、及びスタッフ・キャスト一同) |
受賞理由 | 好きを原動力に邁進する登場人物たちと映画製作に関わった人々の情熱がリンクし、大きな共感と明日への希望を見せてくれた。 |
吉野耕平監督は受賞コメントを下記のように述べた。
吉野耕平監督
この作品をご覧いただいた方は分かるかと思いますが、エンドロールが非常に長くなっています。なぜなら、映画1作とアニメ2作分のスタッフが関わっているので、まさに今言っていただいたようにキャストスタッフ、全てに対しての勝負です。これで作品賞を頂けたことは、すごく光栄でうれしく思っています。
▼特別賞 [映画ファンを魅了した事象に対し表彰]
受賞作品 | 年齢差を超えた二人の友情を越えた関係が、前に踏み出せないでいる私たちの背中を押してくれた『メタモルフォーゼの縁側』に対して |
受賞者 | (芦田愛菜・宮本信子、及びスタッフ・キャスト一同) |
受賞理由 | 75歳のまっすぐな「好き」と17歳の内に秘めた「好き」の響きあいが、自分らしく自由に生きる喜びを縁側のひだまりのように教えてくれた。 |
当日、登壇が叶わなかった芦田愛菜からのビデオメッセージの内容は下記の通り。
第14回 TAMA映画祭特別賞受賞おめでとうございます。撮影現場もいつもとても温かくて心地よく、雪さん[宮本信子(市野井雪)]が、うらら[芦田愛菜(佐山うらら)]を包み込んでくれたような安心感の中、お芝居をさせてくださった皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。『メタモルフォーゼの縁側』のという作品を作る一員として、私も参加させていただけたことを本当に光栄に思っております。
これからも役に真摯に向き合い、見てくださった方の心に届くお芝居ができるように精進してまいります。この度は本当におめでとうございました。
芦田愛菜 ビデオメッセージのコメント
10年ぶりの共演について質問された宮本さんは、「10年前は、私が芦田さんの手を引っ張って、電車を降りたり乗ったりしていましたけれども、今度は10年ぶりに会って、本当にすっかり素晴らしい娘さんになられて頑張っていて、芝居する上でも1度共演していましたので、今度のうららと雪という役が、私にとっては芦田さんで良かったと思いますし、芦田さんは役にぴったりで、とても気持ちがいい芝居ができたと思います。」と答えた。
受賞作品 | “恋とは何か?”という哲学的なテーマを扱いながら作品世界を何度も体験したくなる多幸感に浸れる『恋は光』に対して |
受賞者 | (小林啓一監督、及びスタッフ・キャスト一同) |
受賞理由 | 独自のファンタジー世界を構築し、趣きのあるロケーションや魅力的なキャラクターを活かして、恋愛映画の枠組みを越えた作品を誕生させた。 |
作品を支持した方々による、通称“チーム光”や映画とSNSの融合について質問された小林監督は、「昔と違って観た方の感想がすぐ全世界の発表されてしまうところもある。」、「ちゃんと物を作っていけばちゃんと答えてくれるものだと思っているので、本当に一生懸命作って良かったなと思っています。」と答えた。
▼最優秀男優賞 [本年度最も心に残った男優を表彰]
受賞者 | 佐藤二朗 |
出演作品 | (『さがす』『truth 姦しき弔いの果て』『バイオレンスアクション』) |
受賞理由 | 『さがす』において多面性のある父親役の多彩で濃淡をつけた演技は、観客を震撼させると共に感動に導き、役者としての凄みを見せてくれた。 |
受賞コメントを求められた佐藤さんは次のように述べた。
佐藤二朗
僕は31歳の時に映像の世界に入りました。
ですから、今年で22年目です。22年の間に僕が俳優として唯一もらった賞はNG大賞です。僕は褒められるのが大好きなんですけれども、NG大賞というのはどっちかというと叱られているような賞なので…。
ですから。今回初めて褒められた感じがします。
よく“バイプレーヤー”と最近は言いますけれども、そういった俳優がこういう賞をいただくということは、僕自身にとってももちろんですけども…日本のエンタメ界でという、ちょっと話が大きくなりますけれども…
たくさんの俳優、もしかするとたくさんの見ている方、そして言うに及ばず、僕自身の励みになります。
ありがとうございました。
受賞者 | 松坂桃李 |
出演作品 | (『流浪の月』) |
受賞理由 | 文という人間が抱え続けた繊細な感情の機微を零すことなく演じ、長い年月をかけた愛の灯を静かに的確に表現することで観客を物語へ引き込んだ。 |
受賞コメントを求められた松坂さんは、佐藤二朗さんから与えられたプレッシャーの中、次のように述べた。
松坂桃李
チャップリンが「あなたのベストアクトは何ですか?」という質問に対して、「NEXT ONE」、「僕のベストは常に次だ」と答えています。僕はそれがすごくいいコメントだなと思っていて、いつかそういうことを言えるようになればいいな・やれたらいいなと思って頑張っていこう思ってやってきました。
まだまだチャップリンには遠く及ばないのですが、今回の『流浪の月』に関しては間違いなく、今の僕の中でのベストだと思っています。
▼最優秀女優賞 [本年度最も心に残った女優を表彰]
受賞者 | 倍賞千恵子 |
出演作品 | (『PLAN 75』) |
受賞理由 | 長寿が祝福されない世相においても日々の暮らしを大切に営み、人間が根源的に持つ「生」の力が何より優先することを示してくれた。 |
受賞コメントを求められた倍賞さんは次のように述べた。
倍賞千恵子
(トロフィーが)大好きな黄色で結構重たいです。こんなにたくさんの方の前で、こんな立派な賞をいただいて、本当に舞台袖でドキドキしながら待っておりました。『PLAN 75』という映画で素晴らしいスタッフの皆様と一緒に『PLAN 75』という山を登れたことを、本当に光栄に思っておりますで、私よりもスタッフの皆さんが一番、この賞を喜んでくれているんじゃないかなって思います。これからも精進してまいります。今日は本当にありがとうございました。
受賞者 | 広瀬すず |
出演作品 | (『流浪の月』) |
受賞理由 | 過去の傷を背負い生きてきた更紗が愛する人との再会によって抑圧から解放され、溌剌と息づく様は燃え立つ愛の炎のように静かな美しさを放っていた。 |
受賞コメントを求められた広瀬さんは次のように述べた。
広瀬すず
このような素敵な賞をいただいて、まっすぐ更紗と向き合いながら一生懸命生きていけて良かったなと思っています。自分の中では凄い苦しい撮影だったと思うのですが、今こうして、『流浪の月』という作品が多くの方に届いていたんだなと思うし、本当に踏ん張って良かったと思っています。監督そして桃李さん、支えていただいた方がたくさんいらっしゃったので、こういった形で少しでも恩返しができたらいいなと思っております。本当にありがとうございます。
▼最優秀新進監督賞[本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰]
受賞者 | 片山慎三監督 |
出演作品 | (『さがす』) |
受賞理由 | 予想できない展開のなかで命の尊厳や家族愛を描く構成力と、衝撃的なシーンや心に残るカットにより、男を狂気の沙汰に追い詰める演出力が絶妙に調和した。 |
本作の着想から生まれたのかを質問された片山慎三監督は、当時の高校生だった時に、自分の父親が大阪の阪急電車の中で指名手配犯を見たという話を家に帰ってから言い始めたこと、そして、その犯人が捕まって足取りをいろいろ調べたら、本当にその電車に犯人が乗っていて、そういうこともあるんだなと思ったことが、話を考え始めたきっかけだったと答えた。
受賞者 | 森井勇佑監督 |
出演作品 | (『こちらあみ子』) |
受賞理由 | 常識に染まる前のピュアな心を持ち、自由闊達なあみ子の視点を通して、不条理な出来事を達観して描く世界観が秀逸だった。 |
監督としての初の長編作品となった本作にどのように臨んだかを質問された森井監督は、「原作の小説がすごい好きで、これをぜひやりたいと思ってやりました。」と答えた。
今村夏子原作の映像化にあたって意識されたことに対する質問には、「あみ子をどれほど魅力的に描けるかということをすごく意識した。」、「自分の中の“あみ子像”を主演の大沢一菜が超えてきたところがあったので、それをできるだけ削がないように、大沢の魅力をそのまま伝えられるように思いながら撮影した。」と答えた。
▼最優秀新進男優賞 [本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰]
受賞者 | 磯村勇斗 |
出演作品 | 磯村勇斗 (『ビリーバーズ』『PLAN 75』『異動辞令は音楽隊!』『さかなのこ』『前科者』『彼女が好きなものは』ほか) |
受賞理由 | 『ビリーバーズ』において、欲望との葛藤や内なる狂気を表現し、人間の振り切れるほどの幅を演じ分けられる俳優としての力量を見せてくれた。 |
最優秀新進男優賞を受賞した磯村勇斗は、体調不良により授賞式を欠席。代理として「ビリーバーズ」
の久保和明プロデューサーが登壇。「ビリーバーズは超挑戦的な作品。磯村優斗さんがオファーを受けてくれたこと。それがすべての始まりです」とメッセージを残した。
受賞者 | 横浜流星 |
出演作品 | (『流浪の月』『アキラとあきら』『嘘喰い』『あなたの番です 劇場版』『DIVOC-12』) |
受賞理由 | 『流浪の月』において、恋人の心が離れていると悟ったときの豹変した姿に心の闇の深さがずしりと伝わり、俳優として底知れぬスケールを感じさせた。 |
演じた役について横浜は、「更紗(家内更紗:広瀬すず)と文·(佐伯文:松坂桃李)に影響を与えなければいけないし、見ている方々にも不快感嫌悪感を与えなければいけない役でとても挑戦的な役でした。」、「撮影中は毎回悩みながらも、でも監督を信じて亮(中瀬亮:横浜流星)として生きて何とか乗り越えられた気がします。」と答えた。
▼最優秀新進女優賞 [本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰]
受賞者 | 河合優実 |
出演作品 | (『PLAN 75』『愛なのに』『ちょっと思い出しただけ』『女子高生に殺されたい』『百花』『冬薔薇』ほか) |
受賞理由 | さまざまな役柄で物語を動かす印象的な役作りを行い、洞察力・想像力に裏打ちされたメッセージを籠めた視線が観客の心を射抜いた。 |
自身の役柄について質問された河合は、「コールセンターのスタッフを演じる時が来るとは思わなかった。」、「実はコールセンターのスタッフのアルバイトをしたことがある。」という自身の経験を明かした。
受賞者 | 伊東蒼 |
出演作品 | (『さがす』『恋は光』『MIRRORLIAR FILMS Season4』) |
受賞理由 | 『さがす』において、孤独と不安に苛まれながら思慮深さや健気さを失わず果敢に父の真実をさがし求める姿は、観客の心を強く掴んだ。 |
自身が演じた役について考え、悩んで演じたという伊藤は、「毎日寝る前に台本を読んでいろいろ考えた。」、「撮影していく中でいろんな楓ちゃんが見えてきて、撮影している間も監督がおっしゃってくださることも含めて、自分の中で何度も考えながらたくさんやりました。」と答えた。
主催:TAMA映画フォーラム実行委員会 公式ホームページ https://www.tamaeiga.org/