上原実矩、淺雄望監督インタビュー。映画『ミューズは溺れない』、タイトル決定の裏話。 

上原実矩、淺雄望監督インタビュー。映画『ミューズは溺れない』、タイトル決定の裏話。 

映画『ミューズは溺れない』が9/30(金)〜10/6(木)テアトル新宿、10/14(金)・15(土)シネ・リーブル梅田にて上映ほか全国順次公開される。本作は、アイデンティティのゆらぎ、創作をめぐるもがきなど、葛藤を抱えながらも社会の海へ漕ぎ出そうとする高校生たちの最後の夏を瑞々しく鮮烈に描き切った青春エンタテインメント。
船のスケッチに苦戦している最中に誤って海に転落した美術部に所属する高校生の朔子を上原実矩。それを目撃し「溺れる朔子」の絵を描いてコンクールで受賞した美術部員の西原を若杉凩が演じる。
今回、主演の上原実矩さん、淺雄望監督にお時間をいただき、作品にまつわる様々な話を思う存分語っていただきました。

ミューズは溺れない

■映画『ミューズは溺れない』 上原実矩、淺雄望監督インタビュー

▼上原実矩さんのお名前について

-まずお名前の話から入らせていただきます。上原さんの実矩というお名前はあまり見ない組み合わせだと思いますが、よく質問されませんか?

上原実矩
はい、よく聞かれます。漢字を間違えられるのも日常茶飯事で、“実”の字が、美しいの方の“美”で書かれていると戸惑うことがあります。

-この漢字の組み合わせが名前に使われた理由・由来はあるのでしょうか?

上原実矩
両親が画数を調べたらしいのと、「実直に…」という意味があるそうです。

-“矩”にも、“基準”といった意味があるでそうです。四角、L字型の定規といった意味なども。

上原実矩
そんなたいそうな意味があるとしたら、申し訳ないですね。名前の由来はどちらかというと画数だったみたいなんですけど、「(人間的に)真っ直ぐに」とつけてもらった話もあります。
本人は、自由な感じで生きているんですけども。

ミューズは溺れない
上原実矩

▼淺雄監督の辛かった時代

-本作制作のきっかけをうかがう前提として、監督がコメントされていた「私の青春は暗いものでした」について、差しさわりがなければ教えていただけますか?

淺雄望監督
10代と20代前半は、ずっと不安定な感じでした。そもそもが根暗なんですけど、その一方で目立ちたがり屋で、陽気な面もあるんです。自分が存在していていいのか?という不安を打ち消したくて変に人前で盛り上げ役に徹して、後で家に帰ってひとり落ち込んだりするような…そんな感じでバランスがうまくとれないのが10代、20代でした。自分で自分を追い込んで暗くなっていたのかなと思います。

-何か大変なことを抱え込んでいらしたんだろうなと思っていました。お話しいただきありがとうございました。

▼上原さんの10代

-上原さんは、どのような10代を過ごされていましたか?まだほんの数年前になると思いますが。10代ならではの悩みはありましたか?すでに芸能活動はされていましたよね。

上原実矩
10代がどんな感じだったか…。もうお芝居等のお仕事は行かせてもらっていましたね。
当時、悩みというか、やりたいことが自分で決まっている反面、やりたいけど追いつかない自分というものがありました。
そういったものは今回の作品に通ずるところもあると思うんです。
周りを見て自分と比較してしまう時期ではあったので、先ほど淺雄さんが“自分で自分を追い込んだ”という話をされていましたが、私も割とそういうタイプでした。
10代がどうだったというよりは、今はまだ10代の延長線にいるようなものなので、一言で表すのは難しいですね。

-やりたいことが自分で決まっている中で、自身に対するもどかしさや、周りの人と比較してしまう、気になってしまう点は、作品の中の朔子と通じるものがありますね。

▼淺雄監督が本作を作りたいと思った理由、きっかけ

-淺雄監督はご自身で不安やいろいろな悩みがあった中で、それをご自身と似たような状況にある人を少しでも楽にしたいっていう思いで、本作を作られた点に興味を持ちました。 
この気持ちはどのように生まれたものなのでしょうか?

淺雄望監督
誰かを助けたい、楽にしたい、と言うとおこがましいのですが…何かを作ることでそうできたらいいな、と最初に思ったのは小学校5年生ぐらいのときです。今ふっと思い出しました。
当時、映画は好きだったんですけど、まだ映画監督になりたいというところまではたどりついていませんでした。
そんな時、ナカムラミツルさんという方の、10代の悩んでいる子たちへ向けて書かれた詩に出会って、かなり救われたんです。
悩んでいることを肯定してもらって、生きていくことへの不安を減らしてもらったと言うか…。その時、言葉やアートの持つ力ってすごいなと思って、今度は自分が同じようなことを誰かにできたらいいなって思い始めたんです。
それからナカムラミツルさんの真似をして詩を書き始めて、いまだに継続しています。

-コンスタントに書いているんですか?

淺雄望監督
そうですね。一時期は毎日書いていたんですけど、最近は映画のシナリオを書く時間が増えたのもあって、数は減りました。でも、酔っ払ったときについ書いちゃうことは多々あります。

-翌朝にみると恥ずかしくなるやつですね。

淺雄望監督
誰にも見せられないノートのページがいっぱいあります。

-夜中にツイートして、夜明けに消しちゃうことがありますよね。

淺雄望監督
私もそういうタイプです。夜中のツイートって本当に危ないです(笑)

▼タイトルが決まるまでのこと

-今回のタイトルがとてもいいなと思いました。タイトルはいつ、どのように決まったのでしょうか?

上原実矩
タイトルが決まったのは、去年(2021年)の春・夏くらいのアフレコの時でしたっけ?

淺雄望監督
去年の春にクランクアップして、その後アフレコをしたんですけど、最終的に今のタイトルに決まったのはアフレコの少し後ですね。
撮影のときは全く別の”(仮)”がついたタイトルだったんですけど、アフレコの段階で、「すいません、ちょっとタイトルを変えようと思ってますんで、しばしお待ちくださいね」って伝えたんです。

上原実矩
すごい嬉しそうに言っていましたね。
タイトルは教えてもらえなかったんですけど、確かその時って、映画祭に出す前の段階ですよね。

ミューズは溺れない

淺雄望監督
そうですね、アフレコの時にはまだタイトルが決まっていなかったんですけど、嬉しそうにしてたのは…多分なにか思いついたことがあったのかな。

ミューズは溺れない
淺雄望監督

上原実矩
まだ決まっていなくて、発表もされていなくて、何かを思いついて、「すごい素敵なタイトルになるんで楽しみにしてください!」という感じだったと思います。その時は教えてくれないだろうなと思っていました。

▼え!?映画祭への出品当日に?

淺雄望監督
教えてあげられなかったのは…これはすごい裏話なんですけど、『ミューズは溺れない』っていうタイトルは、田辺・弁慶映画祭に出品させていただく当日に決まったんです。それまで、何個か別の案があって仲の良いスタッフや関係者に相談していたんですが、有力候補だったいくつかは既に使われているタイトルだったり「ちょっとダサいよ、他にないの?」とか言われたりしていて(笑)。
結局、締め切り当日の朝ギリギリまで悩んで決まったんです。

上原実矩
すごいアップデートがなされて、素敵なタイトルになったんですね。

淺雄望監督
いろいろ遠回りしてたどり着いた感覚です。
今となっては「これしかない!」と思っています。

-“ミューズ”というと、芸術を司る女神の名前や、映画では女優をさす言葉として使ったり、“溺れる”に関してはオープニングのシーンなどを連想しますが、タイトルの決定までどのような道のりがあったのでしょうか?

淺雄望監督
シナリオ段階からずっと、タイトルについてグルグルと考えていて、アフレコの時も候補が300個ぐらいありました。

上原実矩
そんなにあったんですか?

淺雄望監督
数だけはあったんです。その中から、作品の内容がある程度想起させられるものがいいんじゃないかということで絞っていったんですけど、しっくりくるものが見つからないまま締め切り当日の朝を迎えてしまって…。改めて、大きな白い紙に思いつく言葉をダーッと書き出してみたんです。その時に出てきたのが「ミューズ」と「溺れない」っていう言葉で。「やっぱりミューズか…」と。
最初に“ミューズ”という言葉を選ばなかったのは、格好つけてると思われたくなくて避けていたんです。だけどやっぱり「ミューズか….。」となって、“溺れない”っていう下の句とつないでみた時に、これなら格好つけてる風にはならないかなと思ったんです。
とてもしっくりきて、「もうこれしかない」となりました。
だからなかなか言えなかったんです。すいません。

上原実矩
そういうことだったんですね。すごいニコニコしていたのを覚えています。

ミューズは溺れない


淺雄望監督
アフレコの時は、やっと全部撮り終えたっていう喜びと、「お待たせしました!」という気持ちで、ニコニコしていたのかもしれません。

▼上原さんのキャスティングについて

-今回のキャスティングにあたって、監督から上原さんにオーディションへの参加のお声がけをしたそうですが、そのきっかけを教えていただけますか?

淺雄望監督
インターネットでいろんな方のプロフィールを拝見しながら、主人公・朔子をどんな方にお願いしようかなと悩んでいました。シナリオを書いている段階で、“目力が強くて、しかめっ面が似合って、体からエネルギーが出ている人”をイメージしながら探している中で、上原さんのプロフィール写真を拝見したんです。それがカメラ目線でこちらを睨みつけているようなものすごく魅力的な写真で、心を掴まれました。
すぐに「会いたいです」と、事務所の方にご連絡して、私とカメラマン[大沢佳子(J.S.C)]さんと上原さんの3人で会うことになりました。


▼オーディションのお声がけをいただいた感想は?

-オーディションのお声がけをいただいた時の感想はいかがでしたか?

上原実矩
オーディションというか面談の前に、事前に脚本を読ませていただいていた状態でした。
脚本自体は、私の中で変に引っかかることもなく、オーディションの中で「分かります」と言った記憶があります。
それは、作品全体的に自分とかけ離れていたわけではないということです。思春期に抱えているものって、多かれ少なかれ、皆さんが持っているものだなと私は感じているので、そういった部分や創作の部分をすっと受け取ることができたんだと思います。
また、なんとなく新しいジャンルだということを脚本を読んで感じました。もちろん作品として、「こういう映画です」というものがあるんですけど、ジャンルにとらわれないというか、割と今まで観てきた映画のどこにもあてはまらないんじゃないかという印象がありました。
オーディションの印象というよりは脚本の印象になってしまうんですけど、そういった思いでお会いさせていただきました。

-初めてお会いした際には面談以外に演技をみる場はあったのでしょうか?

淺雄望監督
初めてお会いした時に演技もみさせていただきました。
さっき取材が始まる前、たまたま上原さんとその時の思い出話をしていたんですが…
その面談のときにシナリオを渡して、背景を説明した上で「美術室で朔子が西原と向かい合うシーンをやってもらいました。椅子を一脚渡して、「この椅子を持って来て、置いて、自由に座ってください。あなたは今から絵を描かれます」と伝えて芝居をしてもらったんです。
すると上原さんがちょっと不機嫌そうな感じで椅子を運んできて、ドンと置いて、ドンと座って、ちょっと間を置いて足を組んだんです。
それを見たときに“面白い!”と思ったんです。「そうか、そこで足を組むんだ…」と。
その時に、「なんで今、足を組んだんですか?」という質問をしたら、「自然に体が動いて…」といったことを確かおっしゃっていたと思います。
その“体が自然に動いてしまう”感じも、すごく魅力的だなと思って、それがかなりの決め手でした。
それで、実際に本編でもそういうお芝居をしていただいています。

ミューズは溺れない

▼朔子を演じるにあたって心がけたこと

-朔子演じるにあたって、心がけたことや考えたことがありましたら教えてください。

上原実矩
役に関しては脚本全体的に、朔子に限らず、監督が普段持っているエッセンス的な要素を随所に感じました。
なので、自分が脚本を読んだときの朔子の印象や、自分が思っていたものを現場で監督と一緒に作り出していきました。
劇中の朔子はいろんな感情や自分自身にも迷っている子だったので、“現場で探す”というか、朔子と一緒に漂う感じで役を捉えていって、日々、朔子を生きていたのかなと思います。
役者としては、初めての長編映画で、その年に違う短編作品で初めて主演をさせていただいたんですけど、長編になるというのはまた違った心構えやプレッシャーを自分で感じてしまうことがありました。
その重みに対して、くじけそうな瞬間ももちろんあって、撮影の現場も結構大変で、当時は現場で追われていて、自分があまり周りのことを見られていなかったこともあったので、個人的には不安もありました。
こうして3年経って公開されることになって、いろんな反響をいただけているのは、すごく自分の重要なポイントになったと思っています。

▼上原さんの死闘

-上原さんのコメントにある「2019年夏、死闘のうえ撮影を…」の“死闘”についてお話をきかせてください。

上原実矩
自分が考えすぎてしまっていたことや、私も長編での初主演をやらせてもらうことと、監督も初めての長編ということで、実際に淺雄さんがどうだったかはわからないんですけど、お互いのどこか手探りのところや、思いが強くてそれをうまく伝え合えないことが、私は個人的に多かったなと感じていました。
撮影から2年半経った昨年、初号を観た時に、そういったことも全部作品の力になっているのを感じました。
コロナ禍を超えて2年間温め続けるってなかなかできないことだなと私はすごく思っています。
だから、監督がこうやって作品として世に出そうとしない限りは、私も現場に行かせてもらったり、賞をいただくこともできなかったので感謝しています。淺雄監督が隣にいらっしゃる中で話すのは照れますけど(笑)

淺雄望監督
どこ見ていいかわからないですね。オロオロしてます(笑)

上原実矩
コロナ禍で何も前が見えない状況で、それこそ映画って、ミニシアターがいろんなところで存続の危機があって、実際に無くなってしまった背景も含めて、「これをやっていていいんだろうか」みたいな空気が一瞬流れた時期も私は感じた部分がありました。
なので、それを超えて、テアトル新宿で上映されるところまでたどり着くと思っていませんでした。
コロナ禍で撮影ができなくて無くなってしまった作品もあった中で、ずっと編集・整音作業をいろいろされていたと思うんですけど、そういったことも含めて私はエネルギーをもらったと思います。
もちろん作品で長編映画の主演として初めて現場に立たせてもらったというのもあったんですけど、この公開まで含めて映画なんだなっていうのは、改めて感じさせていただきました。

-長編初主演の上原さんと、初長編監督作品となる淺雄監督ならでは組み合わせの絶妙さを感じますね。

ミューズは溺れない

▼きゅうちゃん、れおくんについて

-作品に登場する白い鳩は、監督が飼っている鳩ですか?

淺雄望監督
はい。私が飼っている鳩です。

-あの鳩の名前はなんというのでしょうか?

淺雄望監督
“キュウちゃん”です。三歳です。

-鳩なのに、九官鳥みたいですね。

淺雄望監督
よく言われます。
でも、“鳩”と書いて、“きゅう”と読みますから…(笑)。

上原実矩
確かに!そこから取った名前なんですか?

淺雄望監督
そこは後付けなんですけどね(笑)。本当はアルファベットのQから取りました。
裏話になるんですけど、『ミューズは溺れない』の初稿の際のタイトルは『Q』だったんです。

上原実矩
さきほどから今日1日でいろんな知らなかったことが分かってきますね。
こうやって、作品の完成後に作品づくりの背景についてまで監督と話すのが初めてで、10年前から企画を温めていたことなども耳にして驚きの連続です。

淺雄望監督
そうか、言ってなかったですね。聞かれたらいっぱい話すんですけど、聞かれない限り絶対に言わない性格もあって。すみません。

-鳩を飼うって、珍しいイメージがありますが、広島出身であることや、白い鳩というと平和の象徴といった意味合いがあるのでしょうか

淺雄望監督
はい、その通りです。

-ペットの話の続きなのですが、上原さんは動物は好きですか?

上原実矩
動物は好きですね。

-犬を飼われていて、名前は“れお”なんだとか。ちなみに、名前の由来は?

上原実矩
よくご存じですね。名前の由来なんですが、特に理由がなくて申し訳ないんですが、家族全員で「響きがかっこいいね」みたいに決まりました。

-“れお”というと、男の子ですか?

上原実矩
はい。男の子です。元気に育っていて、10歳から11歳ぐらいになると思います。

▼体育会系?美術系?

-上原さんのプロフィールを拝見すると、陸上や空手といった記載があって、体育会系のイメージがあるのですが、今回の朔子は文科系だと思います。役とご自身の違いや、役どころとして意識した点はありますか?

上原実矩
私は今までに、美術部の役をいただくことが多いですね。私自身は落書きは好きなんですけど、美術系のイメージが何かあるのかなぁと感じることがあります。
実際には、陸上は中学校時代にやっていて今は速く走れるわけではないんですけど、割と体を動かすことは好きです。でも、家にいることも好きです。
朔子との似ている部分をきかれると、趣味で繋がっている印象は個人的にはあまりなくて、それは役の持つ特徴であって、それよりも内面的なところで探っていた部分がありますね。
趣味・特技に関しては朔子と私は真逆かもしれないですね。

ミューズは溺れない

-確かに美術系の役が多いですよね。

上原実矩
振り返ってみると、美術系の役の設定が多いんですよね。
美術部や美術学生、美術部を目指すといった美術系の学生時代の役は網羅していると思います。

▼完成した作品を観た時の感想

-先ほどオーディションとなる面談の際に、脚本を読んだ時の感想があったと思うのですが、完成した作品を観た時の感想はいかがですか?

上原実矩
完成した作品を観た時は、カットのテンポや音の付け方を観て、脚本以上にアップグレート…と言うのもなんですが作品に対する新鮮さがありました。
脚本以上のものになっているというのは、完成した作品を観た時に感じましたね。
音やカット割りに関して、淺雄監督の頭の中を覗いているような作品に仕上がっていて、「あ、こんなにポップな感じなんだ。」と思いました。

ミューズは溺れない

淺雄望監督
あまりにも「暗い、暗い」って言っているからね。

上原実矩
なんだか鮮明になっていると感じました。
完成した時に色の鮮度が増している印象がありました。うまく言えないんですけど、作品の印象が良い意味で違っていて、脚本からすごいアップデートされている・新しいものに進化しているという印象があって、面白かったです。
監督の頭の中を覗いてみたら、「こんなこと考えていたんだな」、「ここ、こんなことになるんだ」、「あれをやっていた私の音を、めっちゃ使われているのかな」とか、カットも現場でみたいな感じでたくさん撮っていたので、それがふんだんに使われていましたね。

淺雄望監督
必要なものしか撮っていないんですけれども、いっぱい撮らせていただきました。

-今、上原さんの感想にもありましたが、音や編集の面でのエピソードはいかがでしょうか?

淺雄望監督
そうですね…私はシナリオを書いているときから音は聞こえていて、映像も見えていたので、その部分では割と自分の想像に近いものが出来上がっていると思います。
むしろ、シナリオ段階と比べて大きく理想を超えたと思うのは、役者さんの力が素晴らしかったというところですね。

上原実矩
ありがとうございます。恥ずかしいですね。

ミューズは溺れない

淺雄望監督
本当に。上原さんはもちろんですが、西原役の若杉凩さんも、栄美役の森田想さんもそうです。役者さん全員に「この人たちに懸けよう」という思いでオファーをさせていただきました。
私はこの映画に人生を懸けるつもりでいたので、自分の人生をこの一人一人に「懸けよう!」と思って。接していくなかで「この人なら大丈夫!」と安心もさせてもらいました。現場でも、やっぱり皆さんにお願いして良かったなと思いましたし、全体の9割を撮り終えたところで撮影が中断して、1年半ぐらい完成できるかわからない状態で過ごすことになるんですけど…その期間も、映っているものが素晴らしかったから、これは自分の手の中に置いておくのは絶対にもったいない、完成させなくちゃいけないと思っていました。それぐらい、撮った素材が素晴らしかったんです。
それは本当に上原さんをはじめ、出演者の皆さんの力、そして支えてくれたスタッフの皆さんの力によるものだと思うので、そういう部分でむしろシナリオ段階で抱いていた理想を超えて、すごく素敵な映画にしてもらえたなと思います。ありがたいです。

■お客様へのメッセージ

-お客様への見どころ、メッセージなどをお願いします。

淺雄望監督
どのシーンにしましょうかね…。
落ちるシーンにしようか…。でも、あれは予告編でも流れているし…。

上原実矩
落ちるシーンについては、よくインタビューでも質問を受けます。
「私としては抵抗はなかったんですけど~」って答えているんですけど。
観た方からは衝撃的みたいですね。

-あの落ちるシーンは、ご自身なんですか?

上原実矩
はい、そうです。みなさんからはスタントに見えるんですね。

ミューズは溺れない

淺雄望監督
引きの画だからかもね。
あれは本当に素晴らしいですよ。
私は泳げないので真似が出来ないんですけど(笑)
顔ごと浸かって溺れるシーンをするっていうのは、現場で「すごいなぁ」って思っていました。
「引きで撮っちゃったけど、寄りでも撮りたかったなぁ」って思っちゃいました。

上原実矩
そこはワンカットですものね。

淺雄望監督
一回限りでしたからね。水着は着てもらっていましたけど、靴は履いているし、制服も着ているし、絶対重たかっただろうなって思いました。
でも、あのシーンの後、上原さんが本当にいい笑顔で戻ってきてくれて。
あんなにキツい思いをさせたのに、「涼しいです!」って言いながら笑顔で水から上がってきてくれたので安心したんです。

上原実矩
あのシーンは楽しく撮れました。アクション的な動きは割と好きなので。
個人的な反省点はあります。「もうちょっと、うまく落ちることができたかな…」と。

淺雄望監督
最高でした。なので、私の一押しは、溺れるシーンです。
ぜひ、大きなスクリーンで観てもらいたいです。

上原実矩
ずっと自分が映っているので、第三者視点で見られなくて、どこがって言われると、難しいなぁ。

淺雄望監督
もう一個言っちゃおうかなあ。私は全部のシーンが好きなんですよねえ。

上原実矩
もちろんそうなんですけどね。

淺雄望監督
では、上原さんが考えているうちにもう1個お話しさせてください。
階段のシーンがめちゃくちゃ好きなんです。

上原実矩
それも言われますね。ありがたいですよね。

淺雄望監督
階段のシーンは、事前に「こういう動きで、こう撮りたい」と、ある程度は考えていたんですけど、実際に2人が階段を上りつつ言い合いしながら追い抜いたり追い抜かれたりっていうのを段取りでやったときに、「これは絶対面白くなるな…」っていう確信みたいなものがありました。
短いシーンですけど、2人の関係性がまさにあのシーンに凝縮されている。2人のお芝居も素晴らしかったです。
あのシーンは観返す度にやっぱり良いシーンだなと思っているので、ぜひ観てもらいたいです。予告編では全貌を見せていないので、ぜひ劇場で観て欲しいです。

上原実矩
どれも思い出深いんですけどね…。
そういえば、今つくりたいものがあるんです。使い捨てカメラで撮ったようなわちゃわちゃっとした雰囲気が、この作品に関してまだオモテに出ていないと思うので、個人的に遊び気分で作品紹介を兼ねて、その時の自分の感想をアルバムみたいな感じでつくれればいいなと思っています。コラージュみたいな感じで、想い出アルバム的なものをつくりたいんですよね。
そこで思い出したんですけど、好きなシーンは解体するシーンですね。

淺雄望監督
すごい良い顔をしていましたよね。いろんなものを外しながら「これが好きなんですよ、私は~」みたいにニヤニヤして。

上原実矩
あのシーンは朔子も楽しそうだし、音も楽しそうだし。
そんな楽しそうにしているシーンをぜひ、映画館で観てください。

ミューズは溺れない
ミューズは溺れない


■作品概要・公開情報

映画『ミューズは溺れない』

STORY……
美術部に所属する朔子は、船のスケッチに苦戦している最中に誤って海に転落。それを目撃した西原が「溺れる朔子」の絵を描いて絵画コンクールで受賞、朔子の絵は学校に飾られるハメに。さらに新聞記者に取材された西原は「次回作のモデルを朔子にする」と勝手に発表。朔子は、悔しさから絵の道を諦め、代わりに壊れた鳩時計などを使って造形物の創作に挑戦するが、再婚した父と臨月の義母、そして親友の栄美と仲違いしてしまう。引っ越しと自宅の取り壊し工事が迫る中、美術室で向き合う朔子と西原。”できること“を見つけられないことに焦る朔子は、「なぜ自分をモデルに選んだのか?」と西原に疑問をぶつける…。

【キャスト・スタッフ】
上原実矩 若杉凩 森田想
広澤草 新海ひろ子 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美 菊池正和 河野孝則・川瀬陽太
監督・脚本・編集: 淺雄 望
撮影監督:大沢佳子(J.S.C)|制作担当:半田雅也|照明:松隅信一|美術:栗田志穂|ヘアメイク:佐々木ゆう|監督助手:吉田かれん|撮影助手:岡田拓也|録音:川口陽一|整音:小宮元、森史夏|カラリスト:稲川実希|スチール:内藤裕子|音楽:古屋沙樹|音楽プロデューサー:菊地智敦|油絵:大柳三千絵、在家真希子|企画・制作・プロデュース:カブフィルム|
配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト|配給協力:ミカタ・エンタテインメント|2021年|82分|16:9|カラー ©️カブフィルム

作品URL: https://mikata-ent.com/movie/1205/

公式Twitter: https://mobile.twitter.com/musehaoborenai

9/30(金)〜10/6(木)テアトル新宿、10/14(金)・10/15(土)シネ・リーブル梅田
ほか全国順次公開

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