片山享監督最新作映画『とどのつまり』が池袋シネマ・ロサにて、9 月 24 日から10 月 7 日まで公開。その後、全国順次公開予定。本作では独自のスタイルで映画制作を行うワークデザインスタジオと片山監督がコラボレーション。ワークショップオーディションを経て、森戸マル子、下京慶子、宮寺貴也を主演に起用。「演じる」仕事をしている若手役者達の「演じていない」時間を描いた。
今回、主演の3人にお時間をいただき、片山監督との出逢いから、ワークショップオーディションの様子、役者を目指したきっかけ、本作に関わっての気づきについて、思う存分語ってもらった。
■映画『とどのつまり』キャストインタビュー
▼宮寺さんと片山監督との出逢い
-今回の映画『とどのつまり』に出演するきっかけには、ワークデザインスタジオさんと片山監督とのコラボとワークショップという背景があると思います。みなさんと片山監督の出逢いについて教えてください。
宮寺さんは、片山さんとは10年以上の付き合いがあるそうですね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
片山さんとの出逢いは多分僕が22歳で、片山さんが30歳前後で一番尖っていた時、“役者・片山”でまだ監督を始める前の時に、今回同時期に上映される映画『わかりません』の主役のボブ鈴木さんに紹介されました。
当時僕がアイドルグループみたいなことをやっていたんですが、そこのメンバー(十数名)の芝居を片山さんに見てもらおうということで、ボブさんが片山さんを呼んでくれたんです。
当時の片山さんはとんでもなく怖かったです。今までこんなヤバイやつに会ったことないってくらい尖っていたのが片山さんでした。僕はもう片山さんの一挙手一投足にビビりまくって、基本的に目を見て喋れないぐらい、怖い人でした。
-そんな片山さんを知る人って、なかなかいないですよね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
そうですね。今回の『とどのつまり』と『わかりません』の2作品の周りだと、僕とボブ鈴木さんくらいしかいないと思います。
下京慶子(リカ役)
片山さんっていうと、めっちゃ優しいイメージです。
宮寺貴也(ヒロキ役)
基本は優しいんだけどね。
森戸マル子(志歩役)
どういうときに怖さを感じるの?
宮寺貴也(ヒロキ役)
例えば、演出とかお芝居を見てもらってああだこうだ言ってもらうけど、「そのままだと現場に呼ばれることは難しいかもしれません。」といったことをガチで言われることってなかなかないじゃないですか。「君らヤバイね~」ってずっとそんな感じです。
-当時の片山さんはそんな感じだったんですね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
でも当時、僕らも“役者・片山”を知らないから、正直、「こいつ誰なんだ?」と思っていました。こちらも若くて尖っているじゃないですか。
下京慶子(リカ役)
尖り合いだね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
でも片山さんの言っていることは当然間違ってないし、正解ですしね。
そんな僕らボーイズグループは、最大で15人ぐらいいたんですけど、今、片山さんと繋がりがあるのは僕だけなんです。芸能活動を続けているのは他にも3人ぐらいいると思うんですけど。片山さんと仲がいいのは僕だけです。
みんなビビっていたんですけれども、僕が片山さんと仲良くなったきっかけは、そのワークショップの何ヶ月か後に片山さんが出演する舞台を観に行って、そこで僕がえらく感動してしまって慕うようになったんです。
森戸マル子(志歩役)
片山さんが演じている姿をみて?
宮寺貴也(ヒロキ役)
そう。トラッシュマスターズっていう、演劇では有名な劇団なんですけど、“THE・社会派”みたいな。それがもうめちゃめちゃすごくて、休憩なしで3時間ぶっ続けでやる劇団なんです。演劇大賞とか取っていると思うんですよね。
それがもう凄すぎて、そこから自宅に遊びに行くようになって、普通に会うようになりました。
森戸マル子(志歩役)
貴也の眼差しはすごかったよね。ワークショップでの片山さんに対する思いがすごい真剣で。今でもそうですけど、見る目がより必死でした。
宮寺貴也(ヒロキ役)
それは俺にはわからないからね。
森戸マル子(志歩役)
いつも泣きそうな目をしていた。好きなんやなぁって思っていました。
宮寺貴也(ヒロキ役)
それはそうかもしれないね。
だって、ワークショップの講師として一番来て欲しくなかったら。
下京慶子(リカ役)
でも貴也さんがきっかけで来てくれたんでしょ?
宮寺貴也(ヒロキ役)
俺は別に誘ってないんだよ。
ワークデザインスタジオ代表の二人が片山さんを誘って、僕がいるので“やる”っていう気持ちになってくれたらしいから、そういう意味では俺がきっかけになったのかもね。
下京慶子(リカ役)
片山さんがそういう風に言っていたよ。
宮寺貴也(ヒロキ役)
なので、俺が誘ったわけではないね。
だって、イヤだもん。これは愛をもって言っています(笑)
片山さんに何を言われるかわかんないじゃないですか。師弟関係ですから。
-なかなか褒めてもらえないのが、師弟関係ですものね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
そうですね。僕は基本的に褒めてもらうことがあんまりないですね。
-その繋がりからの、この作品のみなさんの参加があるんですね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
基本的に全員がワークショップオーディションで役が決まっているんですけれど、みんなはわりと片山さんとはフラットな関係性じゃないですか、他の十数名は。
その中で僕だけ圧倒的に関係性だけは深くて、「今回だけは落とせない!」ってずっと思っていました。
それが多分、目に出ていたんだと思います。
▼ワークショップオーディションとキャストの選出について
-片山さんのコメントを見ると、“ワークデザインスタジオの彼らと映画を作ることになって、2ヶ月間を18人で過ごした”といったことが書かれていますね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
はい、7回ぐらいあるワークショップオーディションの中で、監督が配役をセレクトしていく流れでした。
下京慶子(リカ役)
さんざん芝居のことをやっていろいろ学ばせてもらったこともあったんですけど、最終的にはオーディションが芝居じゃなかったんです。「1ヶ月ちょっと学んできたのに、最後はお芝居じゃないんだ」って、私はびっくりしました。
森戸マル子(志歩役)
え、そうだっけ…?
下京慶子(リカ役)
え、面接だったよ。
だって、マルちゃんは面接が良すぎて最終的には決まったっていう話だったよ。それまでは、配役が結構違ったって。
ワークショップ中のみんなの芝居とかを見て、考えていた片山さんの配役イメージがいくつかあったんだって。
でもそれが最後の面談で、撮影の安楽さんも入って、そこで、割とぐちゃって変わったんだって。
最初に考えていた配役のことって聞いてない?
森戸マル子(志歩役)
聞いてない!
下京慶子(リカ役)
聞いてないんだ!
撮影が全部終わってから、私もなんとなく聞いただけなんだけどね。
-ワークショップ最後の面接・面談って、どんなものだったんですか?
下京慶子(リカ役)
何をするかも知らされずに、「とりあえず何時にここに来てください。終わり…」みたいな?
めちゃめちゃ怖かったよね、あれ。
宮寺貴也(ヒロキ役)
当然1人1人だしね。
森戸マル子(志歩役)
私は安楽さんに会うのが初めて、でも怖いっていうか、ちょっと楽しみだったんだよね。「やっと会えた!」と思って嬉しかったから。
意外と喋るとすごい柔らかいし、楽しかった。後は熱い思いを言いました。
宮寺貴也(ヒロキ役)
基本的にみんな熱い思いを伝えているはずです。
下京慶子(リカ役)
みんなが面接で何を話したか知らないんだよね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
いまだに気になるよね。
-では、皆さんで何を聞かれたか・話したか、語り合っていないんですね。
下京慶子(リカ役)
さすがに片山さんは、みんなと話した内容を言わないしね。
-そこで皆さん熱い思いを語ったっていうのは、共通しているんですね。
森戸マル子(志歩役)
台本が渡される前はそれぞれが、個々にその人に合った芝居をしていたんですけど、その後に脚本が渡されて、それを見たときには、多分、私はどの役にも当てはまらないなって思っていました。
周りの子達の予想でも、名前が上がりませんでした。
宮寺貴也(ヒロキ役)
それは、第一稿の時のこと?
森戸マル子(志歩役)
そう。だから“(-ノ-)/Ω …チーン”…って、なっていたんです。
でもやっぱり出たい気持ちがあったから踏ん張ってみたんですね。
嫌われるぐらいに片山さんにアタックしていたかもしれないです。私、電話で片山さんに「逃げたくなりそうになった」って言われたんです。
宮寺貴也(ヒロキ役)
片山さんが逃げたいっていうって凄いですね。
森戸マル子(志歩役)
はい、私がしつこすぎて。
宮寺貴也(ヒロキ役)
逆に、それでよく主役がとれたね。
配役が決まって、全員に共有された時に2人に連絡したんですよ。
マルちゃんからは、トイレでガッツポーズしたというような返信が来たんです。
森戸マル子(志歩役)
え!?私そんなこと言った!?
下京慶子(リカ役)
言ってた言ってた。覚えてる。
宮寺貴也(ヒロキ役)
叫んだって言ってたよ。
森戸マル子(志歩役)
あ、仕事場のトイレでガッツポーズしました。
宮寺貴也(ヒロキ役)
俺自身は出演が決まって嬉しかったと同時に、安心しましたね。
森戸マル子(志歩役)
今回出演が決まったのはこの3人ですけど、本当に配役のパターンは何パターンもあって、誰しもが出演者になりうる作品だよね。
下京慶子(リカ役)
配役によって、全然違う作品になっちゃうだろうね。
リカは結構改稿もしたし、最初は全然私のイメージじゃなかったみたいでした。
でも私がリカになって、何度も片山さんが改稿してくださいました。
-選ばれた人によって、片山さんが当てがきというか、柔軟に脚本を書き換えていくイメージはありますね。
下京慶子(リカ役)
志歩も改稿でニュアンスが変わったもんね。
森戸マル子(志歩役)
変わった気がする。
下京慶子(リカ役)
ヒロキは変わらなかった。ヒロキが一番変わらなかった気がする。
宮寺貴也(ヒロキ役)
そう、全然変わってないよね、最初からバーの店員って時点でね。
森戸マル子(志歩役)
他の全員が「この役貴也じゃないの?」って思ったんじゃないかな。
下京慶子(リカ役)
みんなどう思っていたんだろうね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
俺だったら、「もう決まりじゃん」って思っちゃうけどね。
下京慶子(リカ役)
そう?
森戸マル子(志歩役)
逆の立場からしたらちょっとどうかな…
-ヒロキって、今までの片山さん作品に通じるというか、片山さん自身の人生をなぞったというか、託した気がしますね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
全部をもらった気がします。
僕の役は何かしら起こっているので、みんなにも何かしら起こっているけど。
下京慶子(リカ役)
1人だけ福井に行ったもんね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
そう、僕だけ福井に行っているんですよね。
-片山さんのコメントにも、“「出たい」って言って泣きながら訴えた人もいた”なんて書いてありました。いろんな人が熱い思いをぶつけたのではないかと思いました。
森戸マル子(志歩役)
それまでを見てきた中で、出たいという意思をみんなで出していました。その人の絶対に出たいという気持ちをそれぞれの方法でアピールしていたんです。それを見ていたから、怖さもあったし、ちゃんとやらなきゃいけないというか、なんていったらいいんだろう…。
宮寺貴也(ヒロキ役)
身が引き締まりました。
森戸マル子(志歩役)
そうですね。
下京慶子(リカ役)
みんなの熱量がすごかったもんね。
▼下京さんと片山監督の出逢い
-下京さんは片山監督にどのように出逢ったのでしょうか?
下京慶子(リカ役)
私がワークデザインスタジオという団体に参加した時の、初めてのワークショップが片山さんで。たしか遅刻して行ったんですけど。
宮寺貴也(ヒロキ役)
そう、だからよく覚えてる。
下京慶子(リカ役)
ま…それは置いておいて(笑)
片山さんは、“役者をやっている監督さん”ということもあるのか、いい意味で今まで会ってきた監督さんとは、芝居の見られ方や、演出の仕方が、ちょっと違うなって思いました。
役者同士っていうのもあって、見て欲しいところをすごい見てくれてるな…と。印象に残っていたのが片山さんだったんです。
それでこの「HAKUSHI PROJECT」が始まるときに、片山さんの回があるということを聞いて、「これは何が何でも参加したい」と思って参加しました。
-それっていつぐらいのことなんですか?
下京慶子(リカ役)
一年前くらい?
宮寺貴也(ヒロキ役)
いや、それってワークデザインスタジオで単発のワークショップやってた時だから、2年半から3年前くらいだと思うよ。
下京慶子(リカ役)
そっか。もっと最近のイメージでした。それぐらい鮮明に覚えています。
▼森戸さんと片山監督の出逢い
-森戸さんは片山監督とどのように出逢ったのでしょうか?
森戸マル子(志歩役)
第12回網走映画祭(2019年11月29日(金)〜12月1日(日))の時に、ワークデザインの中で何人かで司会をすることになって北海道に行ったんです。片山さんは監督・出演されている『轟音』という作品でいらしていて、その時に出会ったのが初めてでした。
片山さんと貴也に親交があったのは知っていて、2人が仲良さげに喋っているのを見ていました。
私は片山さんのことをシャイな人だけど、関係性のある人には自分の中を、かなり恥ずかしいところまでも見せられるというか、言い合える感じの人だと思っていました。
私はその映画祭で初めての司会に苦戦していて、独り会場のところで抱え込んでいたところで、片山さんと喋ったんです。その時は芝居に関して話したんですけど、意外に話好きの人っていうか、人が好きなのかなという印象で、その時はいっぱい話せて、心地いいというか楽しかった思い出があります。
最初はちょっと怖いというか、寡黙な感じなのかなって思っていたんですけど、喋ると「めっちゃ喋るやん、喋るの好きなんだな」と思って。あっという間に1時間が過ぎているような状態でした。それが初めての出逢いですね。
▼役者を目指したきっかけは?
-皆さんが役者を目指したきっかけはいつ頃、どういったことがきっかけなのでしょうか?
宮寺貴也(ヒロキ役)
高校生の時のことになるんですけど、当時、僕はサッカーしかやってこなくて、サッカーが強い強豪校の高校にサッカーをしに行ったわけなんですけど、いろんなことがあってメンタルをやられてしまって、高2になる直前ぐらいに辞めてしまったんです。
そうしたら、何しにそこに行っているのかわからなくなって、プータローみたいになってしまったんです。
高2の夏休みの何もしていない時期に、よく行っていた本屋さんで、たまたま手に取った雑誌がありました。
当時、僕はタレントの若槻千夏さんがめちゃめちゃ好きで、その若槻さんが表紙の雑誌を手に取ったら、それが月刊Auditionでした。自分から芸能の世界に入るやり方があることを知らなかったので、そこで興味を持って、素人なのにオーディションを受け出したんです。
そうしたらもう、「大学に行くのはやめだ」という感じになって、そのまま高校卒業と同時にお芝居を始めて、どんどん好きになって今でもそれが続いているんです。
-プロフィールに書いてある“高校の卒業と同時に…”のその前の背景にお話しいただいた部分があるんですね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
はい。僕は若槻さんのおかげで今、ここにいるんです。きっかけが男の子らしいでしょ。
-憧れって大事ですよね。
森戸さんが役者を目指したきっかけは?
森戸マル子(志歩役)
めちゃめちゃ幼少期にさかのぼるんですけど。幼稚園ぐらいのときにおばあちゃんに連れて行ってもらった大衆演劇っていう歌舞伎とは違うんですけど、温泉会場とかでやっている大衆演劇というものを見たんです。
そういう舞台の上で踊っていたりお芝居していたりする姿に憧れました。男性が女性の格好をして、踊っている姿がすごく綺麗で最初は舞妓さんになりたいと思っていたんです。
そこから舞台というか、演者に憧れて、小学校のときには、お別れ会や、お楽しみ会のときに自分で台本を書いて、同じグループの子達に「これ、一緒にやって、お願い!」といった感じで協力してもらってやっていました。
ずっと何かをやりたいと思っていたんですけど、自分の中でトラウマがあって、ずっとそれがあるから、俳優・役者になれない・テレビに出られないと思い込んでいました。
そのトラウマを理由にして、自分から外へ出ようとしていなくて、本当にもうダラダラして、大学行って、その後くらいから、ようやく事務所に入って。その後一度事務所を辞めて東京へ上京しました。
-歌舞伎とか日本舞踊とかコンテンポラリーダンスをされていて、何か表現の場を探して映画の世界に踏み込んだ経緯があるそうですね。
森戸マル子(志歩役)
今までは結構身体的なものに興味があって、うまくは言えないんですけど、映画にたどり着いたのは、人と人との間で生まれる気持ちというか、その面白さが気になってしまったんです。
そこから、身体表現に興味が向いているのかな。そのもう少し先へ行きたいなと思って、今、映画を中心にやっています。
下京慶子(リカ役)
だからマルちゃんは動けるんだね。
森戸マル子(志歩役)
うん、ダンスはやってるんだけど、音楽がかかったらすごい身体が動き出して、血が巡る感じ。
下京慶子(リカ役)
なんか意外だよね。そういうマルちゃんを知らなかった。
宮寺貴也(ヒロキ役)
インスタでもダンスしている姿をみるよ。
-片山さんも森戸さんのことを“オールマイティなタイプ”と表現していたのはそこもあるのかもしれませんね。
-下京さんが役者を目指したきっかけは?
下京慶子(リカ役)
あまり大それた理由じゃないんですけど。私は元々、プロデューサーという職業になりたかったんですよ。
飽き性なんで、一生飽きずにできる仕事に就きたいなって思っていて、プロデューサーだったら0から1を作れて新しいことができるという点で、飽きなさそうだなって。なんとなくその中では一番、映像・映画がいいなっていうのがありました。
そこから、制作の全ての部署を知りたいと思って動き始めるんですけど、最初は何の伝手もなかったので、小劇場の劇団さんの舞台に参加したり、MVの撮影を手伝ったりして学ばせてもらっていました。脚本、演出部、撮影部、照明部、いろんなことを学んでいた中に、俳優部もあって。そこで、俳優ってすごい職業だなって思ったんです。
今、生きてるじゃないですか。その“生きる”ってことに全力で向き合う、それが仕事になるって、人生をより楽しめるし、俳優をやっていないと見えない世界もあるんじゃないかなと思って、「ちょっとこれはやめられないな…」ってなりました。
元々はプロデューサーになりたくて、それを学ぶために始めたお芝居だったんですけど、それに魅了されてやめられなくなってしまって、今があるという感じで。
-“かねてから目標であった映画プロデューサー…”の背景がお話しいただいたきっかけから経緯なんですね。
下京慶子(リカ役)
よく、「何で俳優からプロデューサーになったの?」って聞かれるんですけど、実は逆で。俳優としてのデビューが早かったから、そう思われているんですよね。
-最近はドローンパイロットもされているんだとか。
下京慶子(リカ役)
それも、撮影部の助手で入った時に飛ばしていたら楽しくて辞められなくて、気づいたら仕事になっていて(笑)
宮寺貴也(ヒロキ役)
なかなかいないよね。ドローンを扱える俳優って。
下京慶子(リカ役)
なので、こうなる予定はなかったんです。
-何かを調べて、実際にやってみて、面白いと思ったものに取り組まれているんですね。
下京慶子(リカ役)
その中で残ったものが今あるという感じです。
▼「森戸マル子の熱量」、「下京慶子の葛藤」、「宮寺貴也の〇〇」。〇〇は?
-宮寺さんのコメントに、「森戸マル子の熱量」、「下京慶子の葛藤」というフレーズがあったのですが、ご自身について書いてないなと思いました。「宮寺貴也の〇〇」を書くとしたら、なんと答えますか?
宮寺貴也(ヒロキ役)
自分のことを何も考えてなかったんですよね。
-お2人から見たらいかがですか?
下京慶子(リカ役)
ヒロキは何だろうね。いろんな要素があるからな。
森戸マル子(志歩役)
役としてですか?
宮寺貴也(ヒロキ役)
僕としては、役と本人とどっちも掛けてる。
下京慶子(リカ役)
“葛藤”に近いものがあるよね。だから劇中でも二人で話すあのシーンがあると思うんだけど。
宮寺貴也(ヒロキ役)
何だろう…“丸裸”くらいしか思い浮かばないです。
全部出ちゃってますからね。あの役って。
でも、「宮寺貴也の丸裸」って、いうのはやめてほしいけど(笑)
-片山・安楽さん作品の『まっぱだか』にも通じるものがありますね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
精神的に脱がなければいけない役だったので、言葉を変えたいけど、そういう方向になると思います。
-脱ぎ捨てる感じですね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
“鎧を剥ぐ”とか、“心の鍵”みたいな…
下京慶子(リカ役)
“心の鍵”はイヤだな
“脱皮”?
宮寺貴也(ヒロキ役)
“脱皮”もイヤだけどね。
-個人的には、“丸裸”に近い、”さらけだし”に感じました。
森戸マル子(志歩役)
“さらけだし”は、3人にも共通していますよね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
僕に限ったことじゃないもんね。
下京慶子(リカ役)
何か”不安”はあるよねヒロキは。
宮寺貴也(ヒロキ役)
ありますね。
【参考情報】
後日、片山さんに、「宮寺貴也の〇〇」で同じ質問をした際の回答は、「宮寺貴也の記憶」でした。
片山さん曰く、
“「宮寺貴也の丸裸」という感覚はなくて、(貴也は)ちょっと理屈っぽい人だから、その先を見せたかった感じです。あいつはこの先、あの時の芝居を越えられるのか心配です。偉そうな言い方ですが。”
とのこと。
-逆に、「熱量」とか「葛藤」と言われてどうですか?その役としても本人としても、その言葉を当てはめた点について
宮寺貴也(ヒロキ役)
僕としては、「このアンケートを書いてください」となって、全部を書くのに1時間ぐらいかけているんですけど、この部分はすぐ書いたので、勢いといえば勢いで、明確な具体的な理由というよりは、ぱっと見たときに浮かんだ直感的なものですね。
-直観的である分、すごく捉えている面があると思います。森戸さんの秘めたる熱量だとか、下京さんだと役のリカもそうですし、ご自身がインスタに誕生日の文章として書かれていた言葉の背景にあるものだとか
下京慶子(リカ役)
そうですね。私の場合は片山さんが改稿してくれたときに、いろいろ話を聞いた上で、要素を詰め込んでくれたんです。
その中に“葛藤”というのは一つ大きなものとしてあって、それは自分で考えたときに、答えが出ていないんです。何が一番いいんだろうとか、どうしていったらいいんだろうとかって、今でも悩み続けています。
そういう意味では、片山さんが要素として足してくれたというのもあって、葛藤はより強いかもしれません。
もちろん、リカだけじゃなくて、あの役にはみんなそれぞれの葛藤がありますよね。リカは、周りからの見え方と自分からの見え方という、わかりやすい葛藤だったかもしれないですね。
志歩には、“やるせなさ”を私は感じました。“熱量”と“やるせなさ”の“葛藤”みたいな。
森戸マル子(志歩役)
劇中で、ワークショップが終わった後の飲み会のシーンで、みんなは積極的に監督に話しかけにいって、志歩は遠目に見ている感じだったんですけど、私も若いうちは「お芝居をやっていて、最初は朝までコースっていうか、他の役者達と監督と一緒に朝までいっぱい話して…」みたいなものがありました。今の私は(年齢を重ねるごとに)「だんだんとその熱量というのは、何か違うのかもなという疑問だったり、監督に対してのアタックや自分に対しての熱量もちょっと冷めて引いてきている感じで、アタックの仕方がわからない状況があるんですよね」という感じの話を片山さんとしたんです。だからああいう遠目で見ているという部分があります。
本当は熱量がないと生きていけない人間であって、そういう自分の中でしか、見えない葛藤があったのかもしれない。だからそこを客観的に見たら、自分自身でもモヤモヤしているけど、周りから見たらよりモヤモヤしていると思うなって思いました。
完パケを観て「何これ?」みたいな、「何フニャフニャして、ウダウダしてやってんの?」みたいなものを客観的に感じました。
-先ほどトラウマというキーワードがありましたが、何か持っているものはすごく大きくて、でも出せないし、もどかしさみたいなものがあって、それを含めて熱量だと感じますね。
森戸マル子(志歩役)
そうですね。トラウマはまた別の話で、見た目で気にしている点を隠そうという意識があるんです。人の目が怖くて、人の顔を気にする点が私にはあります。それをあまり人に言えないし、言ったら嫌われる。だから言いたくない…みたいなものがあって、そこから人にものを伝えることに対しても、1回自分の中で考えて、でも答えが見つからなくて結局言えないといったことがあります。どこまで連動しているかはわからないんですけどね。
▼本作に関わっての気づきとは?
-片山さんと出会い、『とどのつまり』の撮影を経験して、気づいたこと、学んだことにはどんなものがありますか?
宮寺貴也(ヒロキ役)
片山さんはいわゆる技術的・表面的な芝居というかテクニカルなことが好きな人ではないんですよね。
もちろん、そういったものも必要なんですけどね。特にドラマであるとか。
-その場によっての使い分けが重要ということですよね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
それを使い分けなきゃいけなくて、どっちかしかできないというのは、それはそれで駄目だと思います。少なくとも片山組に関しては、技術で勝負するというか、見せ方みたいなものを嫌う人です。“間(ま)”という言葉をすごく嫌う人で、僕はよく使うんですけど。
ワークショップ中にその言葉を使ってめちゃめちゃキレられたことがあります。
そういういわゆる、間、テンポ、リズム、スピードとか、他の役者・監督が普通に使う言葉や、言い方を決めることを結構嫌がります。僕は元々舞台出身で、コントもやってきたので、“音、間、テンポ”にはすごい気を遣うんです。
特に“音”が一番大事なんですけど、そういうものは、一切吹っ飛ばして削除したんです。
それっていわゆる技術なので、そんなことよりも、多分今いわゆるよく言われている言い方なんですけど「そこにいる」っていうこと、嘘をつかずに、相手に集中することを学んだと思います。
-難しいですよね。今まで培ってきたものとか、身につけてきたものを一掃しないと、片山さんの目によく映らないという。
宮寺貴也(ヒロキ役)
僕は元々、片山さんの特徴を知っていたというか。
「それっぽさ」とか、「ぽく見える」じゃ、あまり片山さん的にはよくないんですよね。
僕が演じて、僕が本当に生んでいる感情が見えたときには、片山さんはすごく「ああっ!それだ!」ってなる人なので、“演じる”とか“この役はこうで”とかはないですね。
-“演じる”って言葉を嫌う方もいますよね。役の人生・生活を“生きる”という表現を耳にします。そんな片山イズム的なものがあるんでしょうね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
それはありますね。
▼片山さんから学んだものは?
-今回、森戸さんが片山さんから学んだものについてはいかがでしょうか?
森戸マル子(志歩役)
すごいいっぱいあります。今まで私は何回も、「芝居しているときに、相手から受けるものを感じろ」とずっと言われ続けていました。それを模索しながら、何回やっても、うまいこといかなかったんです。
今回、一度1人芝居をやったんですよ、芝居っていうか、家に帰ってきて、振られた後みたいな感じのシーンをやったんですけど、一番最初にやったときは、なぞっている感じで、ボロボロに言われました。
その後、片山さんと話して、もう1回挑戦したんですけど、そこでだんだんと見えてきたものがありました。
私はどちらかというとまず自分の感覚を大切にする方なのですが、片山さんからはそれよりも、「まず相手が今どういう顔をしていて、どういう匂いがしていて、何色の服を着ていて、どんな雰囲気で…とかそういうことを本当に細かく思い出して、作り上げていくと、自然と自分の気持ちが出てくるから」って言われました。
まず相手を知ることをすごく大切に重要視しているんですよね。役もそれに繋がるなと思って、志歩はどういう人なんだろうと考えました。
理解できない人はもちろんいっぱいいるんです。“何でこの人は人を殺すんだろう”とかをずっと考えても、わからないことはわからないんですけど、それをずっと考えていると、何かがちょっと見えてくる。そのちょっとした違いが大切というか、芝居の中で必要なのかなって思うようになりました。
それに加えて、撮影するときや芝居をするときって、周りにたくさん人がいてみていて、そういう中で緊張しちゃって演技ができなくなるんですけど、ダンスでも同じように”今、わたしは冷たい床の上に座って、周りには人が居る”と感じて知る。この感覚や状況は、本当であるから、それは理解した上で、そこにいる中での強い思いを冷静に思い続けることができれば、その後は生き延びられることを学んだと思います。
空間と、相手・者・物に対する思いを教えてもらった気がします。確実にわかったわけではないんですけど、何か少しちょっと見えてきました。
「やった!」と「ありがとうございます」という気持ちでいっぱいです。
-下京さんが片山監督から学んだことは?
下京慶子(リカ役)
みんなが言っているような“ここにいる”っていうことを片山さんたちはとても大事にしてくれる監督さんなんですよね。“ただそこにいる”っていうことを。そのことが私にとっては大きかったです。
今までだと、「自分がつまらない人間だ」という思いもあって、「この作品にとって面白い人間になれるように頑張らなきゃ」っていう気持ちがすごい強かったんですけど、片山さんはそれよりも、「ただそこに居れば、その人自身って絶対見えてくるものだし…」っていう考えで接してくれるから、「それでいいんだ」って。この作品を通して、片山さんと話して、ちゃんと思うことができました。その感覚は他の作品に対しても、その後の芝居にも影響したので、大きかったです。
▼福井の皆さんのお芝居が好き
下京慶子(リカ役)
私、福井の皆さんのお芝居がめちゃくちゃ好きなんです。ヒロキが福井に帰ってきて出会う、お母さん、お父さん、同級生3人とあと、映画館の館長さん。
あの4人ってすごいじゃないですか。多分みんな好きだと思うんです。
森戸マル子(志歩役)
ほっとするよね。
下京慶子(リカ役)
映画館の館長さんが両手を挙げてヒロキを迎え入れるシーンが一番好きです。そこに人生のすべてが現れていて、お父さんなんて、なんかソファーに座っている背中、あと漬物を食べている姿だけで、お父さんの人生がスゴイ見えるんですよね。
多分、片山さんが大事にしたいのってこういうことなんだろうなって思いました。
それこそあの人たちって最初から、“ここにいる”っていうことをただ、している人たちだから、「あれでいいんだ」って。
森戸マル子(志歩役)
「何かしなきゃ」っていう…。
下京慶子(リカ役)
そう思っちゃうじゃん。
森戸マル子(志歩役)
焦りは出ちゃうからね。
宮寺貴也(ヒロキ役)
役者はいろいろできちゃうんで。福井の皆さんは、オーダーをされても、いろいろはできないと思うんです。
でもその分、余計なことを最初から一切しないということに引き込まれるようになるんだろうなと思います。
森戸マル子(志歩役)
「役者とは」っていうのを思い込んでいる部分があって。
多分それが強いのか、それが混じって理解しているから、ちょっとヘンテコな芝居になってしまって、不自然な感じになるのかなって思いました。
「私は役者です」って思ってしまっているから、よりそういう芝居になってしまうんじゃないかな。普通にいればいいだけ。普通に居るのが難しいんですけど。
下京慶子(リカ役)
難しいよね。
森戸マル子(志歩役)
最初はセリフとかストーリーがあるから、
いろいろとそっちに引っ張られちゃうんだよね、きっと。「それをやらなきゃ」ってなっちゃうんだけど、「そこじゃない」っていうね。
■お客様へのメッセージ
-それでは、お客様へ向けてのメッセージをお願いします。
宮寺貴也(ヒロキ役)
ぜひ見てもらいたいです。大きな事件も、特に何かが起きるわけでもなく、大作みたいなエンターテイメント性もない、そういった“The 日本映画”のような作品になっています。
ホームページやチラシにも書いてあるように、この作品は「演じる人の演じていない時間」の話で、ゆっくりだけど激流みたいな時間が流れているように思います。
メイン3人の誰かしらに共感できたり…それは芝居をやっていなくても、共感できたり、懐かしいなと思ってもらえるような感覚に出会えるんじゃないかと思います。
ぜひ、最低1回はシネマ・ロサに来ていただいて、僕と軽くでも話をしてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。
森戸マル子(志歩役)
「観に来て、観に来て」と言い続けるのは無責任なんですけど。内容的には、「演じている人の演じていない時間」だけど、そうじゃない人も観に来てくださるわけで、それぞれが観て、思ったこと・感じたことを素直に・そのまま教えてもらいたいし、知りたいです。
「つまらない」とか、「何これ?」とか、「わかんない」とか、そういう素直に思った胸の内を感想として聞かせてもらえたら嬉しいです。
褒めていただけるのは嬉しいんですけど、本当に感じたことを教えていただけたら今後のためにも、人生のためにもなります。
皆さんにとっても、何かしらを思い出すことがあればいいなと、恐縮ながら思っています。
下京慶子(リカ役)
この作品を観てくださいっていうよりは、3人の生活が漏れ出て、それをみんなが覗いているみたいな作品で、人によって感じ方は千差万別なんだろうなって思っています。
例えば、今何か夢を追いかけていてなかなかそれが叶わない人なのか、ある程度夢は叶えて、”さぁ、セカンドライフを何しようか”といった人なのか、職業や年齢、性別でも、見るポイントが変わる作品だと思います。
ぜひ、フラットな気持ちで、スッと楽しんでもらえたら嬉しいし、感想をすごく聴きたいです。
皆さんがこの作品を、どんなふうに観て、どう思うんだろうっていうのは、私も気になります。
森戸マル子(志歩役)
もうひとつ伝えたいことがあります。
作品に対する感想もお聞きしたいんですけど、作品を見ている時のその場の空間とか、「この瞬間寝てしまった」といったことも教えてくれたら嬉しいです。映画を観ているときに寝てしまうって、悪いことだと思っちゃうかもしれないんですけど、それってリラックスしている証拠だから、ただ“寝た”というだけじゃなくて、「この瞬間にこう思った」とか、そういうやりとりが自然にできたらなって思います。
もちろん、作品に対しての感想を聞きたいんですけど、作品の全部を通してその人と「ここがこうだったから、このときはこういうふうにウトウトしちゃう」とか、そういったことも、大切にしたいなって思っています。
作品の感想と、その時の状況や心情についてもお聞きできたらと思います。作品全体とその人の心情と。
寝不足で来て、イライラしながら観た時の気持ちとか、その時の心境・心情って違うから、それも踏まえて、ややこしくてすみませんが感想を聞かせてもらえたら嬉しいです。
■映画「とどのつまり」作品情報
<あらすじ>
志歩はバイトを辞め、空いた時間をセフレで埋めている。
リカは周りから美人と言われることを嫌っている。ヒロキはバーで働き生計を立てている。
この3人は役者である。
しかし、1人の人間でもある。理想と現実、そして過去。未来。生活に翻弄されながら、悩み、もがき、それでも役者であろうとする3人の物語。
出演:森戸マル子、下京慶子、宮寺貴也、中村更紗、江田來花、大塚康貴、佐々木穂高、澤田和弘、璃音、星野卓誠、山田昭二、藤井啓文 他
監督/脚本:片山享 撮影:/照明:安楽涼 録音:杉本崇志 音楽:MRTRX 製作:ワークデザインスタジオ、ハナ映像社
2022年/日本/92分/カラー/ステレオ/アメリカンビスタ/DCP
公式サイト https://todonotsumarifilm.wixsite.com/todonotsumari
公式Twitter https://twitter.com/todo_tsuma_film
9 月 24 日より池袋シネマ・ロサにて上映開始、全国順次公開