12月4日から映画『アリスの住人』の上映が池袋シネマ・ロサで始まる。本作に出演する淡梨さんへの取材の機会をいただき、幼い頃から始めた絵を描くこと、そして役者を目指す道のりについて話を伺った。
また、出演作『アリスの住人』について、その作品作りに関わるきっかけから、撮影現場で学んだことについて語っていただいた。
■「淡梨」、役者への道のり
▼アート・映像への関わりについて
-淡梨さんは芸術系の大学を卒業されていて、趣味にも「絵を描くこと」が書かれています。芸術系に興味をもったのは何歳くらいからでしょうか。
淡梨
小学校入学よりもずっと前から絵は描いています。僕の地元はとても騒がしかったのですが、僕はひとりになる時間のつくり方が下手でした。なので、絵を描いたり映画を観たりして自分の時間を作ろうとしていました。
当時を振り返ると、僕はお年玉やお小遣いを画材屋に行ったり文房具の購入に使うことが多かったです。
絵の始まりは逃げ場だったわけですが、ずっと描き続けています。絵を描くことは自分の中に入れる一個の場所という感じです。絵を描くことでいろいろなことを整理することができるんです。
-描くジャンルで好きなものはありますか?
淡梨
大学の頃は、電車の中でずっとドローイングをしていました。スケッチよりもラフなんです。描写を描き起こすだけなんですけれども、在学中にハマってずっと描き続けていました。
-ここでいう整理するものは心の整理ですか?
淡梨
心や記憶、今日見たものなどです。ノートを持ち歩いている時期が一年の中で何ヶ月かあって、その時にはその日見たものを描き残しています。記録の意味が大きいかもしれません。人が日記を書くような感じなんだと思います。
-そういった描いたものの展示経験はありますか?
淡梨
はい、2回ほどあります!
▼絵を描くことから、映像の世界へ。脚本・監督、モデル、役者へ
-大学に入られて映像の世界、いわゆる監督や脚本を書くといった流れなのでしょうか。
淡梨
そうですね。スケッチも先程、日記のようなものだと言いましたが、僕は文字も絵も混在して1枚の絵に描くことが多いんです。絵は自分の処理だけで済むんですけど、やはり言語にして、より何か伝えたいという思いがあります。それが“絵”よりも“言葉”に変わっていったときに、「脚本を書こう」と思って、大学は映像の大学になりました。
それも、小さい時は絵でよかった・すんでいたものが、中学ぐらいからお小遣いが手に入ると、映画館に行ったり、映画を借りたりするようになりました。その時に、映像の方が明確にビジョンを伝えるツールかもしれないと思ったんです。そこで映画に興味が出て、絵ではないかもしれないとも思ったんです。でも、絵もやりたいから美大で映像学科のある学部を探して、映像の世界に、脚本から入りました。
-“自分の世界の中に入るための絵”から徐々に“人に伝える映像”という方向に成長とともに進むのがとても興味深いですね。
淡梨
“小さい頃から見える世界”って、大きくなってもそれは変わらないと思っています。ただ、“(成長することで)見えて得た知識”によって、見えた景色や見ている状況に対しての“伝わり方”や“伝えたいこと”が変わってくると思っています。それが僕の場合は成長とともに絵では無くなったんだと思います。
-脚本を書いて、監督をして、一つの作品を作り上げるところから、モデル、そして役者という流れなのでしょうか?
淡梨
脚本を書いた作品を何本か監督をして学生映画祭で上映させていただきました。僕自身も出演していたので、自主映画の方たちから、「映画に出てみないか?」と言われたことから始まって、自主映画に出ることがすごく楽しくなりました。
そこで、より自分を知ってもらって、映画に出演する機会を増やすために、身長を活かそうとか、ファッションが好きとか、そこから、「モデルに挑戦しよう」と考えました。
僕が映画に関わりたくて、その手段の一つとして、モデルをしてみようというのが入り口だったと思います。それまでは、身長や髪質に自信がなく、自分の個性をプラスに捉えることが難しかったですが、個性は強みということに気が付くきっかけになりました。
そうしたら、そこからかなり広がりました。
-モデルを経てからの役者としての活動は、2019年から本格的に活動を始めた流れになるそうですね。私が淡梨さんをみたのは、『スペシャルアクターズ』の教祖役で、すごい人が現れたと思ったのを覚えています。淡梨さんに出会った監督から、「一度見たら忘れない」とおっしゃっていただくことも多いそうですし、役者になるために生まれてきた素質があると思いますね。
淡梨
そう言っていただけると嬉しいです。
■特技と趣味
▼特技「魚をさばく」
-趣味や特技について教えて下さい。タップダンス、野球、魚をさばくといったものがあったのですが、それぞれいつ頃、どういった経緯で始めたものなのでしょうか?
淡梨
やはり、特技が「魚をさばく」って書いてあると笑ってしまいますよね。
-取材経験として、居酒屋でのバイト経験や、釣りが趣味といった中でその方の得意な技術として紹介していただくことがあります。
淡梨
僕の場合は、そのどちらも混ざっています。小学校の時にはママチャリの後ろの荷台部分に取り付けたキャリアに釣り道具を入れて波止場まで行って釣りをしていました。その場で魚を〆ることをある程度まで覚えました。
高校に入って小料理屋さんでアルバイトをして、ずっと魚をさばいてましたね。
▼趣味「タップダンス」
-野球とかタップダンスも、3年とか5年と長い期間されていたそうですね。
淡梨
タップダンスについてお話すると、僕は落ち着きがなくて、今もそわそわしているところがあります。
お調子者だって言われるのも出身が関西であったり、母親もお調子者だったというのもあると思います。ある日、母から「そんなに貧乏ゆすりするなら、タップダンスをしなさい」と言われて、「じゃぁ、やってみるか」と思ったのを覚えています。
やり始めると、やっぱり落ち着きがないのでハマってしまうというか、「足を小刻みに動かすのはこんなに楽しいのか!」というところからはじまり、気づいたら5年間もやっていました。でも、その後に野球にハマってしまってやめました。タップダンスが小学生の頃で、小学校5,6年の頃に野球にハマって中学校では野球にハマっていました。
-キックボクシングも趣味にかかれていますね。
淡梨
高校の間に、暮らしている町が騒がしかったので、護身のためにキックボクシングをやっていました。
-タップダンスといい、キックボクシングといい、趣味が足つながりですね
淡梨
足は好きですね。足技が好きです。
■最新出演作『アリスの住人』について
▼映画への参加のきっかけ
-12月4日から公開される映画『アリスの住人』について聴かせてください。この作品への参加のきっかけは、ワークショップからなのでしょうか、それともオーディションからなのでしょうか?
淡梨
「ワークショップオーディション(以下、WSオーディション)」ですね。
※オーディションの審査を受けるだけではなく、ワークショップに参加することで役者としての学びの場も兼ねている
淡梨
ワークショップ自体は4日あったと思います。僕はそのうちの1回に参加させて頂きました。多くの人数で合同でワークショップをやって、最終的に監督から「一緒に映画をやりたい人がいたら声をかけます」という形式でした。
入っていた現場が終わった時期に、WSオーディションがあり、澤監督と出会うことになりました。前の現場もWSオーディションだったので、「WSオーディションで何かまた広がるかもしれない!」と思っていました。
-自ら澤監督のWSオーディションを見つけて参加されたんですね。
淡梨
その頃はとても多くの数のオーディションを受けていたと思います。一般の人でも応募できる枠で、何かないかなと、いくつもオーディションを探していました。
▼参加したワークショップオーディションの内容
-澤監督のWSオーディションはいかがでしたか?受講されて覚えていることを教えて下さい。
淡梨
WSオーディションで課題として与えられたのは田舎のコンビニの設定で、僕はその店員役をした記憶があります。
-淡梨さんについて、「お調子者みたいなところがある」と書かれているのを見かけました。そういった傾向がご自身にはあるのでしょうか?
淡梨
「お調子者」というのはWikipediaに上田監督がインタビューで答えた内容がそのまま載っているんだと思います(笑)
▼「叶えたいことを叶えられる映画」
-ワークショップオーディションのキーワードとして、澤監督から出演する役者が「叶えたいことを叶えられる映画」という企画で、応募者を募集したという話がありました。淡梨さんは、どういったことを叶えたいと考えてWSオーディションに臨んだのでしょうか?
淡梨
「叶えたいこと」をメールで送ったのを覚えています。僕は「普通の役がやりたい」ということをまず書きました。
プライベートで日常を送っているという実感を得ることが難しかったので、映画の中では日常を生きてみたい!と思っていました。
そこで、「澤監督…。普通の役がやりたいんです」という話をさせていただいたと思います。でも、『アリスの住人』でも、賢治が普通の役かどうかはちょっとわからないなという気持ちもあります。でも、面白い役です。立ち位置も不思議ですし。
▼澤佳一郎監督の印象
-澤監督のインタビュー記事で、淡梨さんがWSオーディションの際に「澤監督から人となりを見られてる気がした」とコメントされていました。澤監督の雰囲気について、詳しく教えて下さい。
淡梨
澤監督は温厚で柔和で温かい眼をしているのに、眼光はすごい鋭くて、きちんと人のことを見ているなっていう眼なのに、物腰がすごく柔らかいから、どんな役者さんにもアプローチがちゃんと伝わるなと思いました。
-人となりをみているという話をきいて感じたのが、芝居や演技力をみるだけでなく、役者さんの人間性を見ているのではないかと思いました。
淡梨
そのニュアンスが多い気がします。澤監督はお芝居の上手い下手で、僕を選んでくれたのではないと思います。お芝居のうまい方がたくさん出演されているなか、『アリスの住人』に参加させていただきました。
自分は自分で成長しなければいけない部分がたくさんありましたし、現場の経験もそんなに多くないので、どうにか食らいつきながら取り組んだ記憶があります。
▼脚本を読んでみての感想
-そういった澤監督のWSオーディションを経て、脚本が送られてきたと思いますが、初めて脚本を読んだ時の感想はいかがでしたか?
淡梨
脚本をいただく前はコロナが流行する前で、脚本をいただいてからコロナの流行時期になってしまっていました。
コロナ禍によって社会情勢的にも当たり前とか普通が何かすごくわかりにくく、僕自身もそれにどう向き合っていくかわからなくなっていました。そんな中、『アリスの住人』を描くことになっていたわけです。
僕は脚本について、全くのおとぎ話の世界線でもある気もしたというか、現実のラインからは逸脱した世界線で見られる気もしました。なので、自分の役に対して、そこに落とし込むように意識をしながら読んでいた気がしています。「仕上がってみないとわからない」というのが最初に思い浮かぶ作品だったかもしれません。
-作品の中で、淡梨さんが演じる賢治が、誠実なのに報われない背景を持った青年として描かれているのが印象的でした。
淡梨
僕が演じる賢治が、誠実に見えていたら嬉しいですね。
▼ファミリーホームで登場する座敷童子の存在について
-ファミリーホーム内でのシーンで、作品の登場人物としては“座敷童子と説明されているものが見える点について、つぐみと賢治の共通点だなと思いました。ふたりの見え方に違いはありましたが、このシーンに関する演出にはどういったものがあったのでしょうか?
淡梨
捉え方を外側から説明すると、つぐみと賢治の見え方が違ったはずで、賢治は人に見えていて、つぐみには猫に見えていて、サイズ感も違うし、「視点はどうやって合わせるんだろう」という点から僕は疑問を持っていました。
そこで現場の環境が作られた後に澤監督から、「見えるから」って説明されて、僕は「見えるんですね」というように演じた記憶があります。
-あのシーンでの座敷童子の登場の理由を考えた時に、「不思議の国のアリス」にかけてファンタジー感や伝説的なもの、家に幸せをもたらす精霊(座敷童子)としての意味合いがあるのかもしれないと感じました。
淡梨
猫も神様として表現されますし、何かを守っている存在にも見えるし、いろいろな解釈ができるポジションだなと思いました。
▼まだ役者経験の少ない中で、共演者から学んだこと
-役者経験が少ない中で、淡梨さんと同様の役者経験の樫本さんと共演して、学んだことや話し合ったことなど、エピソードはありますか?
淡梨
車中のシーンで、樫本さんとはコミュニケーションを取った記憶があります。僕は最後の撮影日が車中のシーンでした。その際に、その後僕が撮影現場には行かないシーンについて、描かれていない部分はどうなっているのだろうといった話を樫本さんとしてから、最後の撮影に挑みました。
▼「なりたいもの」ではなく「なりたくはないもの」という考え
-近い将来もしくはもっと長いスパンで、やりたいことや、夢にはどんなものがありますか?
淡梨
毎日明確になっていくのは、「なりたくないもの」の方が明確になっていっています。だから今、ここにいることしかできないと思っています。やりたいことは、そんなに多くはなくて、まず生活をきちんとやりたいし、そのために、“やりたくないことを避ける”という意味ではなく、“なりたくないものを遠ざけていく”と、「今、ここにいる」ということになります。
-なりたくないもの、もしくは自分の中で、「こんな風にはなってはいけない」、「こうはなりたくない」という思いが、やりたいことよりも先にくる考え方なんですね。
淡梨
「こうはなりたくない」が近いと思います。やりたいこととか、なりたいものって、僕はわからなくて、やりたくないからこっちみたいなものでいつも決まっていく気がします。
▼映画を観にいらっしゃるお客様へのメッセージ
-『アリスの住人』を観にいらっしゃるメッセージ。好きなシーンなどをお願いします。
淡梨
僕の好きなシーンは海で花火しているシーンです。「おーい、花火をやろう!」とお父さんが呼びかけるところに、僕はうるうるっときました。花火の前がとてもいいシーンでした。良かったです。
僕が出演するシーンに関しては、作品全部を通してうまく収まって、馴染んでいてくれたらいいなという気持ちが強いです。僕が『アリスの住人』をおすすめするとしたら、樫本さんがすごい体当たりで愚直に向き合っている姿もとても素敵だし、さっき話した花火のシーンも、いろいろ経てそこに行き着くわけですけど…。
とにかく見てくださいとしか言えないですね。
-インディーズ映画は、作り手側から、「ここを観に来てください!」というアピールをしづらい傾向を感じますね。
淡梨
インディーズ映画というものは、「観る人の解釈で」という部分が強く出てしまうものだと思いますね。澤監督の本気ももちろんすごい伝わってきましたし、みんなが本気でした。その本気がすごく伝わると思います。樫本さんが本気だから見に来てください。僕も本気です。
衣装協力:TOGA VIRILIS
■淡梨 プロフィール
1997.8.10生まれ 24歳 兵庫県出身
特技/魚をさばく、タップダンス(5年)、野球(3年)
趣味/絵画、音楽、散歩、キックボクシング(3年)、ドライブ
■映画情報
映画「アリスの住人」澤佳一郎 監督
児童虐待をテーマに描く
ファミリーホーム で過ごす少女達の痛みと再生に向き合う64分
▼予告編
▼あらすじ
幼少期に父から性的虐待を受けたつぐみは、その事実を母に告げられなかった後悔とトラウマに今も囚われている。ファミリーホームで過ごしながら、SNSで男たちと知り合っては手淫でお小遣いを稼ぐ毎日。気付けばもうすぐファミリーホームを出て、社会に出ないといけない年齢。今ある日常をどのように変えていけばいいか…。そんなある日、賢治という青年に出会う。徐々に惹かれていくつぐみは自分のこれからを見つめ始めるが、ある出来事をきっかけに大量の薬を口にすることになる—
*ファミリーホーム・・・家庭環境を失ったこどもを里親や児童養護施設職員など経験豊かな養育者がその家庭に迎え入れて養育する「家庭養護」のこと
▼上映情報
2021年12月4日(土)より池袋シネマ・ロサにて3週間上映。
2022年、名古屋シネマスコーレ他順次公開予定。
▼受賞
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 国内長編部門入選