野本梢監督作品の集大成と称される映画『愛のくだらない』タイトル命名の理由。いつか撮りたいテーマとは。

野本梢監督作品の集大成と称される映画『愛のくだらない』タイトル命名の理由。いつか撮りたいテーマとは。
愛のくだらない
野本梢監督

10月30日から11月19日まで、池袋シネマ・ロサにて映画『愛のくだらない』が公開中。今回の上映にあたり、8月末の田辺・弁慶映画祭セレクションで上映されたものに監督自ら再仕上げし、より見易くなっているという。この度、野本梢監督にインタビューの機会をいただき、本作のタイトル命名の経緯から、監督を目指した理由。いつか撮りたい題材について幅広くお話を伺いました。

■映画『愛のくだらない』 野本梢監督インタビュー

▼タイトル『愛のくだらない』の命名理由

-まず、映画のタイトルについてお話を聴かせてください。本作は野本監督が自身の反省を映画として撮りたいという背景があり、主人公である玉井景がそこに投影されていることから、英題での『My Sorry Life』はすんなりと理解できました。
一方、『愛のくだらない』は、日本語的に「あれ?」と思ったり、本来のタイトルから何かを欠いたような感覚を受けました(例:「愛のくだらないxxxx」、「愛(だの恋だ)のくだらない」など)。タイトルの命名理由や経緯を聴かせていただけますか。

野本梢監督
今回の映画を作ったのは、自分が“くだらない”ことばかりしてしまうのに対し、周りには“あたたかい”人達ばかりがいることが不思議だなと私が感じたことが発端になっていて、“くだらない”をタイトルに入れたかったという点があります。“くだらない”という言葉は、仮タイトルの頃から入っていました。
それから撮影を全て終えて編集も終わった時に、恋愛に限らず、これは“愛”の映画なのではないかと思ったんです。そこで“愛”と“くだらない”をタイトルに入れたいと思いました。
そこからこの言葉をどうつなぐかという時に、『くだらない愛』にしてしまうと、それは限定されてしまうことになるし、『愛がくだらない』にしたとしても、“愛”がくだらない訳ではなく、“愛”と“くだらなさ”が共存しているような感じが私にはありました。
その2つを繋ごうという思いの他に、日本語的に中途半端だったり、欠けていたり、続きがあるのではないかという違和感が作品に合っていると思っています。

愛のくだらない

-田辺・弁慶映画祭セレクションとして、テアトル新宿での上映時のトークイベントで、お笑いタレントの川村エミコさんが、星野源さんの『くだらないの中に』という曲と歌詞の話をされていましたが、こちらにはオマージュとした点があったのでしょうか?

野本梢監督
実は仮タイトルは、「くだらないの中に」だったんです。星野源さんの曲や歌詞を意識したものでした。

-映画の中でも星野源さんの曲の歌詞と同様に“髪の毛の匂い”が取り入れられていますね。

野本梢監督
匂いって思い出を一番想起するものだと思うんですよね。

▼いつ監督を目指そうと思ったか

-野本監督は学生時代からMusic Video(MV)の制作会社にインターンとして所属されていたとのことですが、どのようなきっかけで映画監督を目指そうと思ったのでしょうか?

野本梢監督
当時は漠然と音楽を聴く代わりとしてMVを観ることが好きでした。曲を聴きながらこんな映像だったらいいなと妄想するのをただ趣味のようにしていました。
その後、シナリオ・センター、映画24区といったシナリオ学校に行ったのですが、映画24区で出した企画を読んでくれた先生から「このシナリオで、自分で映画を撮ってみたら良いのでは?」と言われたんです。そこで、その脚本のために映画を撮ってみるかと思って、映画を撮り始めてみました。そうしたらそれが楽しくて。それに加えて、先生から評価をいただけたということもあって、そのまま続けて行こうと思い、今に繋がっています。
なので、監督をやろうと決めた瞬間はあまりないんです。強いて言うならば、ニューシネマワークショップ(NCW)という映画学校のシナリオコンペは、30~40人くらいの中から選ばれた3人くらいしか映画を撮れないのですが、その中に選んでいただいて、撮りたくても撮れなかった人がいる中で、自分が撮ったからには続けたいなという使命感はありました。

愛のくだらない

▼野本監督作品といえば… ~特徴的に描かれるもの、登場するもの~

-野本監督作品といえば、トイレや水を使ったシーンが連想されますが、監督にとってこれらはどういったものだといえますか?

野本梢監督
トイレは自分自身にとっては落ち着く所です。映画では自分と向き合う場所として描くことが多いです。ただ、落ち着くかどうかはトイレによりますね。

-今回の映画の中では、自身の気持ちを吐き出す場所といった使い方もされていたり、他にも今までの野本監督作品の中のトイレとちょっと違った使われ方をしているのかなと思いました。

野本梢監督
周りの人から言われて気づいたことがあります。今回トイレのシーンが3,4回出てくるのですが、それが感情の転換点になっているという感想をいただいて、あぁそうかって思いました。また、誰かと会っているシーンが2箇所ありましたし、トイレという場所ですが単純に一人ではないといった点がありましたね。

ー水についてはいかがでしょうか?先日のキャストを交えたトークイベントでは、水にまつわる3つのシーン「冷たっ!」といった部分は、監督自身としては藤原麻希さんが表現したような変化は意識していなかったという話がありましたが。

野本梢監督
水は命という部分で扱っています。
3つの「冷たっ!」は自分から入れ、扱い方の変化は意識はしていましたが、トークイベントに登壇した村上由規乃さんがお話されたような水に対する芝居の変化の仕方(反射的に水を避けようとする動きから、触れた時にきゅっとフィットさせている変化)という主人公・景の仕草の変化は出来上がって初めて気づきました。麻希さんがどこまで意識していたのかはわからないんですけれども。

-監督xキャストインタビューだったり、舞台挨拶やトークイベントで、キャストや監督が話すことで、お互いにあらためて気づくことってありますよね。

野本梢監督
舞台挨拶や、インタビューで言われてあらためて気づくことがありますね。撮影現場では答え合わせをしないまま来ていて、舞台挨拶になって初めて知ることがあります。

▼主題歌『嘘でもいいから』と「工藤ちゃん」について

-「工藤ちゃん」起用の理由は?

野本梢監督
「工藤ちゃん」とは、何回か曲を作ってもらったり、出演してもらったりといった関係性がありまして、今回の主題歌もお願いしたいというものがありました。
工藤ちゃんに「アルバムの中から好きな曲を使ってください」って音源を提供していただきました。その中に以前から私が好きだった『嘘でもいいから』が入っていました。初めは工藤ちゃんの曲を聴く層と主人公・景のキャラクターは近くないので、映画と合うか不安でしたが、映画が終わった時に感じるものと、この曲はとてもリンクしていると感じられて、使わせていただきました。

-『嘘でもいいから』のMVで、「愛のくだらないVer.」があって、この内容が映画の本編とリンクしていて面白いと思いました。MVは最初から撮影しようと考えていたのですか?

野本梢監督
MVの中で描かれるシーンは、実は本編の中の回想シーンとして撮りたかったんです。それを追撮という形で撮りたいとプロデューサーに提案したら、「プロのお笑いの芸人である岡安さんをステージに立たせるなんてダメだ」と言われて却下されてしまったんです。
それで別のシーンを追撮したんですけれども、どうしても自分の中でやりたい気持ちがあって、大人たちが追撮で撮る予定だったことを忘れた頃にMVとして提案して撮りました。ですので、その内容自体は以前から考えていたものです。

-『嘘でもいいから』の歌詞に合わせて、岡安さんが得意な鉄道ネタとして、駅名を書いたフリップをめくる姿が印象的でした。

野本梢監督
MVの撮影の1,2ヶ月前に、岡安さんが違う曲で披露されていた“歌詞と駅名を合わせたネタ”が面白くて、それが流行ってほしいなと思ったんです。「工藤ちゃん」には謝りつつ、岡安さんに歌詞を駅名にしていただきました。

愛のくだらない

▼再仕上げの思いは?

-池袋シネマ・ロサで上映するにあたって、8月末にテアトル新宿で上映したものに再度仕上げをされたとうかがっています。どういった点を狙いとして再度仕上げをされたのでしょうか?

野本梢監督
私の編集は、話している人よりも聴いている人のリアクションをみせることが多かったと思います。
今までの短編映画では登場人物があまり多くなかったので、それがうまくいっていた部分としてありました。
今回は主人公の景が多くの人と対峙するシーンが多い中で、映されるのが景のリアクションばかりになっていました。
私自身は、話している人の表情をその場でみているし、自分で脚本を書いているから気持ちも分かるので、そこで補完されていたんです。ところが初めて映画を観る方は、景のリアクションだけでは話している人の気持ちを汲み取れない部分があるので、きちんと相手の顔を映さなければいけないと思いました。
そういったことを時間を置いてから劇場のテスト上映で観た時に感じました。そこで景のリアクションだけでなく、景と話している相手も同じくらい映すという編集の変え方をしました。

-確かに、映画を観た方から、それぞれのキャラクターの表情がよくみえるようになったという声を耳にしました。

野本梢監督
そのおかげもあってか、景の気持ちが分かるようになったと言う声をいただきました。それは映画を観る方にも景が見ていたものと同じものが見えたからだと私は思っています。もっと早く気づいて編集できれば良かったですね。

▼本作が野本監督作品の現在の集大成。「これが最後に映画を撮ることになるかも」とは

-野本監督のオリジナル脚本での初長編作であり、「これが野本監督作品の集大成」と評価されていたり、監督から「これが最後に映画を撮ることになるかも」といった取材時のコメントがありました。監督にとって本作はどんな位置づけになると考えましたか?

野本梢監督
資金の少ない中での映画ではあるので、いろんな人に頼ってようやく出来上がる状況になってしまっています。そうなると、迷惑をかけるのはこの映画が最後かなという所がありました。
頼んでいくからには、これで撮るのが最後になってもいいくらいの気持ちで皆さんにいろいろお願いして自分自身として取り組んで行こうと思いました。ただ結局、その後すぐに映画を撮ったんですけれども。

-周りの方に迷惑をかけることが申し訳ないから、迷惑をかけることを最後にしようといった決意の意味での“最後”なんですね。(「最後のお願い」、「一生のお願い」のように)

野本梢監督
今回の映画にも通ずるんですけれども、自分が映画を撮ることで、特に近しい人に迷惑をかけてきたり、我慢を強いてきた所がありました。そういったこともあって、ここで全力を出して、その先は自分自身にブレーキをかけようと思い発言していたんだと思います。

-最後の作品ではなかったわけで通過点と言うか、区切りをつける作品という感覚がありますね。

野本梢監督
今回がそれこそ反省の映画という部分で、それまでの反省というか、自分にとって区切りかつ、立ち止まって見返す作品になっていくだろうなと思っています。

▼オリジナル脚本と原作モノ

-野本監督には、次のステップへの期待が高まる声も上がっています。 オリジナル脚本ならではの野本さんらしさを感じますが、次にやりたいもののイメージはすでにあるのでしょうか?

野本梢監督
オリジナル脚本にこだわらず、誰かの本、誰かの原作で撮ることもやりがいがありますし、原作があるほうが自分自身には合っている可能性があると思っています。
今回の『愛のくだらない』は自分自身のことを書いていますし、そもそも誰かのためにと思って作った映画でもありません。興行をやるからには自ら宣伝や宣伝文句を言わなければいけないのですが、自分のために作った映画なので、こういう人に観て欲しいというのも実は言いづらく、そうなってくるとどう宣伝していいのかという状態です。
なので、元々の原作があって、誰かの想いがあったものの方が、自分としては取り組みやすいと思っています。どなたかの脚本・原作もどんどんやっていきたいと思っています。

▼次回以降で撮りたいテーマ

-パンフレットにも書かれていますが、野本監督作品の視点には、“穿った見方”や“ご自身で関心があるもの”、今回は“自分自身の話”と来ましたが、次の作品として、原作にしてみたいものはありますか。

野本梢監督
原作というかゲームなんですけど、廃盤になった「moon」というゲーム※があって、確かプレイステーション用だったと思います。

※:1997年10月16日に発売され、今もなお愛され続けているプレイステーション用ソフト。2019年10月10日に、Nintendo Switchで復活。 https://moon-rpg.com/

その内容は、勇者がモンスターたちを倒した後の世界なんです。そこで、モンスターたちが勇者に仕返しをするという内容なんです。モンスターたちが嘆いているようなゲームで、でもその中で「誰が何を信じるのか?」のような話に触れている気がしたんです。
そんなファンタジーなんだけど人の心をとても反映しているような、そういうものをどのように映画化すればよいかわからないのですが、いつかやってみたいですね。こんなこと、はじめて話しました(笑)

愛のくだらない

▼公開から一週間を過ごしてみて、観に来る人達に伝えたいこと。

-池袋シネマ・ロサでの上映開始から1週間経過してみて、あらためて思うこと、伝えたいことはありますか?

野本梢監督
今は、テアトル新宿の上映を見逃した方が観に来てくれていて、しっかりした感想を伝えてくれる割合が高いことを感じています。いろんな方々・様々な人達がいらしていて、その人達にこの作品から通ずる部分ってこんなにもあるんだと言うことに驚いています。
その人の何かしらの経験に引っかかるんだなって。まだこういう感想を持ってくれる人がいるんだなと。意外ですが、まだまだこういう感想を持ってくださる方がいらっしゃることを実感しています。
上映期間の3週間が終わって、「あぁ、観に行けなかった…」という言葉を聴くのが一番辛いです。3週間ってあっという間なので、是非観にいらしてください。

愛のくだらない

■映画『愛のくだらない』作品概要

★現在、池袋シネマロサにて公開中!(11/19まで)

連日イベント開催中、詳しくは劇場HP http://www.cinemarosa.net/ainokudaranai.htm

他全国順次公開。
茨城 あまや座 11/27より公開!
大阪 シアターセブン 12/4より公開!

▼クレジット

映画 『愛のくだらない』(2020/日本/95分)
藤原麻希/岡安章介(ななめ 45°) 村上由規乃/橋本紗也加/長尾卓磨/手島実優/根矢涼香 ほか
脚本・監督・編集:野本梢
制作協力:ニューシネマワークショップ
製作:野本梢 株式会社 為一/株式会社 Ippo
配給:『愛のくだらない』製作チーム

©︎2020『愛のくだらない』製作チーム

■公式HP https://kudaranai-movie.com/
■公式Twitter https://twitter.com/kudaranai_movie
■予告編 URL https://youtu.be/uxr924G3EVc

★野本監督手掛けた主題歌のMV 工藤ちゃん「噓でもいいから」 
https://youtu.be/gaCJfZRoYO4

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