映画『わかりません』片山享監督、W主演:ボブ鈴木、木原勝利。クライマックスの裏側。

映画『わかりません』片山享監督、W主演:ボブ鈴木、木原勝利。クライマックスの裏側。

片山享監督最新作映画、『わかりません』が、池袋シネマ・ロサにて、10 月 1 日~14 日に公開される。池袋シネマ・ロサでの公開後は全国順次公開の予定。

わかりません


現役の役者でもある片山享が、40代50代の役者の物語である『わかりません』を監督。本作は片山監督自身と20年来の親交があるボブ鈴木、そして片山監督と同じ俳優事務所所属の木原勝利を主演に迎え、虚構と現実ないまぜの、おじさん達のドラマを描いた。

物語は役者の日常が描かれている。役者の物語というと一般的にはスターダムにまでのし上がる物語を想像しそうだが、役者を20年続けてきた片山監督らしい、普段は見ることのない「売れていない」役者の日常をリアルに描いている。その日常は平凡だが、平凡だからこそ、役者ではない方々の胸にも響くものがあるはずだ。
今回、片山監督、ボブ鈴木、木原勝利の3人に本作への想いを語っていただく機会をいただき、そのコメントを紹介します。

■ 片山享監督、ボブ鈴木、木原勝利 インタビュー

▼片山享監督への質問

-『わかりません』は、ボブ鈴木さん主演の短編作品としての撮影を終えた後に、その段階では助演であった木原勝利さんの人生を片山監督が「もっとみたい」と思って、長編化されたそうですが、長編作品としての撮影に至るまでの想いを詳しく教えてください。
“ボブ鈴木を長く知っているからこそ、変えたい、だから撮る、という奇妙な企画”で撮り始めた短編だったそうですね。

片山享監督
「変えたい」とは偉そうなもので。もちろんそう思いましたが、なんかカッコいいボブさんであってほしかったんです。
ボブさんとは20年。いろんなものを共有してきました。経験も然りで、とても良い経験も一緒にしたし、悪い経験もしました。ボブさんと僕と一緒に歩んできてくれた人たちも、ほとんどが別の道を歩んでいます。
そのこと自体をどうこう言うとかではなく、単純に僕にとってのボブ鈴木という役者は、大事なんです。僕の歴史そのものでもあるので。だから、最近のボブさんが嫌だった。良い芝居とか悪い芝居とか、そんなものは所詮好みだし、そういうことじゃなくて、役者という職業をどんどん仕事にしていっている感じが嫌だった。もちろん仕事です。立派な。けど、僕はボブさんに芝居を教わりましたが、そんなことは1ミリも教えられてない。結果的には仕事です、けど、うーん、これは表現が難しいですが、どうしても主役とかメインキャストではない場合、芝居以外のことで気にしないといけないことがあったりするんです。バランスとか、なんだろ、それを否定したいわけじゃなくて、でも、ボブさんからはそういうことが芝居だって教わった記憶はなくて。でも、最近のボブさんはそれをしてしまっているように思えた。理屈で、正当化して、やれてしまってる。そういうことじゃねぇだろって思いました。「変えたい」というか、ボブさんであってほしかった。だからこうなりました。

-木原さんのどんな点に、「木原さんの人生ももっとみたい」と思ったのでしょうか?

片山享監督
木原さん(以降「きーちゃん」)は同じ事務所所属になったことで初めてちゃんと話しました。2020年の暮れだったと思います。年が1個違いということもあって、元々親近感があったというか、やる気というか、僕は一緒に何かをやってくれる人が好きで、なんか直観的に何かを一緒にやれる人だなって思って、一緒に『わかりません』をつくっていくことになりました。質問でもある通り、最初は短編でした。きーちゃんは助演。3日間くらいの短い撮影だったと思います。芝居もいいし、気概がある。でも、そこで長編にという考えはなかったです。それが撮影最終日。ラストシーンを撮ったんですが、そのきーちゃんがなんというか、こんなに役の人物の人生が知りたくなることってあるんだなって思えて。僕自身が見たかったんです、登場人物である木原の人生を。だから、撮り終えてその場できーちゃんに「きーちゃんの人生がもっと見たくなってしまって。これ長編にしない?」って聞きました。きーちゃんは「なんすかそれ」って笑ってました。が、長編になっちゃいました。理由を問われても難しいかもしれません。芝居が良かったとかそんな言葉では片付けたくないので。そこにはちゃんと人間がいたからですかね。

-ボブ鈴木さんだけではなく、木原さんの“人生”も含めて加筆されたことで、おそらく当初の短編よりも内容が濃く、さらに見応えのある作品になったのではないかと思います。
短編から長編化するにあたって、考えたこと・心がけたことを教えてください。

片山享監督
理由を述べるとしたら、短編から長編になることで、もちろん作り方は変わります。色々考えることも増えますし、目的だったりとか見せ方とか感じてもらいたい方向性だったりとか、まぁそれは僕の作業なのであれですが。テーマは変わってないように思います。ボブ鈴木を撮る。そこに木原勝利が入ってきた。だから木原を撮る。テーマは“今を笑ってほしい”です。それは最初からそうでした。だから「わかりません」です。これを観てくださって感じてくださる方がいらしたらとてもとても嬉しいです。

わかりません
片山享監督

▼木原勝利さんに質問

-クライマックスのシーンでのセリフは、ボブ鈴木さんに対してだけでなく、木原さん自身にも響き返るすごいセリフ、シーンだと感じました。
あのシーンでは、事前にどのようなやりとりが行われたのか、お話しいただけるエピソードがありましたらお聞かせください。

木原勝利
事前に打ち合わせとかは無く、待機の時にボブさんとお互いの家族の話とか身の上話をしていたぐらいです。随分前にボブさんと共演しましたが、その時会うのは5回目くらいなのでお互いの事を知る為にみたいな。
それから現場に移動して、片山さんに「とりあえず段取りやってみますか」と言われて芝居を始めました。段取りで、台本上のシーンを演じ終えるときボブさんの心が溢れるような、そしてそのまま僕に縋るような状態になり、僕がそのボブさんを受け入れたんですね。
そしてカットがかかったんですが、片山監督が僕に「あれは受け入れちゃダメなんじゃないか。逃げちゃいけないんじゃないか、逃げさせてはいけないんじゃ無いのか。向き合わせないといけないんじゃ無いのか」みたいな事を言ったと記憶しています。
そこからもう一度テストで演じました。台本上のシーン以降の台詞はその時僕の内側から生まれた言葉です。「胸張れや!」とか。

テストを終えて本番。僕は基本的に台本通り演じる俳優なんですが、その台本以降はもう何が出てくるか自分でもわかりません。その芝居なのか人生なのかわからない境界線を超えたところを片山監督が撮ってくれました。
燻ってる先輩に浴びせる言葉が、いつしか自分に返ってきました。グジグジしてる先輩に腹が立ち、怒りが込み上げました。その怒りがそのまま自分への怒りになりました。
〝ボブ鈴木〟が鏡のようでした。言葉を浴びせれば浴びせるほど自分を締め付けました。

そのようにしてあのシーンが生まれた事を思い出します。

わかりません
木原勝利


▼ボブ鈴木さんへの質問

-ボブ鈴木さんと木原勝利さんの役者としてのそれぞれの苦悩がお二人の置かれた立場やポリシー、第三者からの評価、身近な人たちの反応・接し方から、見事に描かれていたと思います。
本作を通じて、ボブ鈴木さんがあらためて考えたことや得られたこと、ご自身で変わったことがありましたら、教えてください。

ボブ鈴木
『わかりません』と言う言葉はそもそもにネガティブな意味が含まれていて、放棄や無責任な意味にとられる場合も多々あると思います。事実僕も日常ではその意味合いで使う事がありますし、ましてやそのワードをタイトルに使って良いものかという葛藤もありました。
ですが、この作品の中でこの言葉をネガティブなだけではなく、人の想像と人生の中で先に進める為の『発展的な言葉』として捉える事が出来るようになったのではないかなと思います。勿論朝起きたら売れてる、芝居が良くなるなんて都合の良い事は微塵もありませんが、それでも生きていく事はできる。大袈裟かもしれませんがそんな支えをこの言葉からもらった気がします。
あとは片山監督にただただ感謝ですね。
よくぞここまで描いてくれたなと。側から見てる分には何気ない事が多いと思いますが、本人としてはひたすらしんどかったです(笑)だって本人ですから(笑)だから滑稽に見えるんでしょうけど、こんなオッサンの日常を作品として見せて良いのか?という不安もあったりします。
でも『これが自分です』と胸を張って言える部分も多いので、どう見ていただけるかは…わかりません(笑)

わかりません
ボブ鈴木

■ 映画『わかりません』

▼あらすじ
俳優であるボブ鈴木と木原勝利。ボブ鈴木は出演作多数のベテランではあるが、苦労を共にした俳優達は売れていき、ふと 50 歳も越えた自分の現在地に疑問を感じる。一方、木原は芝居が評価されているが、大きな役で呼ばれるのは小規模予算の作品だけで、妻に「いつ売れるの」と言われてしまう。
同じような葛藤を抱える二人は現状を変えるべく肩を並べてもがき始める。

▼キャスト・スタッフ

出演:
ボブ鈴木(ボブ鈴木役)
木原勝利(木原勝利役)
詩野朱布(しずこ役、ボブさんの彼女)
瑛蓮(あかね役、木原の妻)
大宮将司(立花役)
斉藤マッチュ(田口役、ボブと木原のマネージャー)
安楽涼 DEG 山本晃大 片山享 柳谷一成 江藤純平 竹下かおり カトウシンスケ

監督/脚本:片山享 プロデューサー:大松高 撮影/照明:片山享 録音:スズハラリョウジ 録音協力/整音:
坂元就 宣伝イラスト/題字:葵うたの 主題歌:ナオリュウ「今を笑っていければいいさ」
2022 年/日本/90 分/カラー/ステレオ/アメリカンビスタ・シネマスコープ/DCP

公式サイト https://www.highendzworks.com/wakarimasen

『わかりません』10 月 1 日~14 日池袋シネマ・ロサにて公開

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