インディーズ映画の奇跡『侍タイムスリッパ―』安田淳一監督と山口馬木也が日本外国特派員協会で記者会見

インディーズ映画の奇跡『侍タイムスリッパ―』安田淳一監督と山口馬木也が日本外国特派員協会で記者会見

インディーズ映画として異例のヒットを記録し、第48回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む2部門を受賞した映画『侍タイムスリッパ―』の安田淳一監督と、主演で会津藩士・高坂新左衛門を演じた山口馬木也さんが4月15日、日本外国特派員協会で記者会見に臨んだ 。国内外から多くの報道陣が集まり、質疑応答では多岐にわたる質問が飛び交い、映画の魅力や制作の裏側、日本の映画業界や農業の現状まで、幅広い切り口からQ&Aが行われた 。

■ 映画『侍タイムスリッパ―』日本外国特派員協会 (FCCJ) 記者会見、Q&A

公開から8ヶ月間、世界各地の映画祭で上映され、シカゴ映画祭にも参加したばかりの両名に対し、現在の心境を問われると、安田監督は「疲れはなく、驚く日々が続いており、毎日夢を見ているようでとても幸せ」と語り、山口さんも「ずっと夢の中にいるような感覚で、多くの人と繋がることができ毎日が有意義」と充実した表情を見せた 。

映像の仕事とともに農業を営む安田監督に対し、農業と映画作りの関連について質問が及ぶと、日本の米作りの厳しい現状を説明し、一袋作るごとに赤字が出る状況であることを明かした 。自身の映画のヒットがなければ農業を続けることも危うかったとしながらも、映画作りと農業には、丁寧に手を抜かず、じっくりと良いものを作っていくという共通点を感じていると語った 。過去作に米作りをテーマにした映画「ごはん」があることも紹介された 。

若い世代でありながら時代劇を映画の主題に選んだ理由について安田監督は、インディーズ映画で時代劇はハードルが高い題材だが、困難なものに挑戦する方が観客の喜びにつながると考えたと述べた 。また、自身の世代にとって時代劇は懐かしいものであり、子供の頃に見たテレビ時代劇には、庶民の生活の中で困っている人を助け合う温かい世間が描かれており、そうした世間を描きたかったと語った 。一方、舞台を中心に活躍してきた山口さんは、俳優として何をすべきか分からなかった時に時代劇に出会い、所作や立ち回りを学ぶことで俳優に近づけると考えたため、時代劇は恩人のような存在だと語った 。この映画は京都の撮影所で時代劇を支えてきた人たちの話でもあるため、恩返しの思いも込められているという 。

劇中に登場する時代劇のVHSについて質問が出ると、安田監督はインディーズ映画のため美術も自分たちで用意する必要があり、小道具として家にあった好きな映画のVHSを持ってきたと説明した 。伊丹十三監督へのリスペクトも示し、自身の映画も映画が作られる裏側の世界を描いているという点で共通点があると述べた 。

米農家としての日本の現状認識と、何があれば変わるのかという質問に対し、安田監督は、米の値段は30年前の水準に戻っただけであり、国の政策によって日本の米作りは振り回されてきた結果、現在の状況があると説明した 。農家の自助努力ではどうにもならない状況であり、国際的な視点での大きな転換が必要だと訴え、自身の農家も赤字である現状を語った 。

主人公の新左衛門が泣き虫であるというキャラクター設定について問われると、山口さんは自身も感動しやすい性格であり、演じている時は新左衛門と一体化しているような感覚があったと答えた 。

会津出身の質問者から、戊辰戦争の記憶と重ね合わせ、劇中の描写に深く感銘を受けたという感想が述べられ、世の中の閉塞感が多い時代の中で、過去のわだかまりを払拭したいという思いが監督にあったのかという質問があった 。安田監督は、脚本執筆時には現在の国際情勢を予測していなかったものの、争いがあっても年月が経てば和解できるという終わり方を考えていたと説明した 。しかし、映画公開直前に世界各地で争いが続く状況を見て、映画が訴えるような相手を許す気持ちが現代の人には難しい状況になっていると感じたと述べた 。

キャラクターを演じる上でのインスピレーションについて山口さんは、特にモデルにした人物はおらず、脚本を読んで高坂新左衛門という人物像がすぐに思い浮かび、監督と相談して役作りを進めたと説明した 。撮影開始後に、斬られ役として知られる福本清三さんの演技からヒントを得たことも明かした 。

低予算でのキャスティングについて安田監督は、演技力だけでなく、映像にした時の存在感を重視してキャスティングを行ったと説明し、関西には素晴らしい俳優が多く、この映画で山口さんをはじめ実力のある俳優に光が当たったことを喜んでいると語った 。

当初3館上映から最終的に375館まで拡大した映画のヒットの秘訣について、安田監督は映画「カメラを止めるな!」を参考に、過去作の反省を踏まえ、作品そのものとプロモーション戦略を研究したと説明した 。論理的思考と戦略を持って進めることで、再現性のあるヒットを目指したと語った 。山口さんは、ヒットの秘訣は全く分からず、観客からはキャラクターに会いに来たくなるという声が多いと語った 。

会見では有意義なQ&Aが行われ、社会現象を巻き起こした『侍タイムスリッパ―』への期待がさらに高まる内容となった 。

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