映画『恋脳Experiment』一般試写会トークイベントレポート。岡田詩歌監督 x 恩蔵絢子(脳科学者)

映画『恋脳Experiment』一般試写会トークイベントレポート。岡田詩歌監督 x 恩蔵絢子(脳科学者)

幼少期から思春期、大人になるまでのひとりの女性の恋愛経験を通し、人生で直面するさまざまな“呪い”をコミカルかつ辛辣にあぶり出していく映画『恋脳Experiment』。本作の一般試写会が1月23日(木)に映画美学校試写室にて開催され、上映後にはトークイベントが行われた。イベントには、岡田詩歌監督と、「自意識と感情」を専門に研究されている脳科学者の恩蔵絢子氏が登壇した。

岡田詩歌監督(左)と脳科学者の恩蔵絢子さん(右)

東京藝術大学でアニメーションを専攻し、これまでも女性性やジェンダーをテーマにした作品を作ってきた岡田詩歌監督は、中学生だった頃に“恋をすると可愛くなれる”と友達から聞いたことが本作の企画の原点だったと話す。「幼い頃から“恋愛をしなければいけない”とか、“可愛くなければいけない”ということに縛られているのは、ある種の呪いのようだと思っていました。映画では『恋愛の呪い』を中心に描いていますが、恋愛だけではなく、様々な固定観念に縛られている様子も呪いとして描きたいと思いました」と語る。

岡田詩歌監督

東京大学大学院総合文化研究科特任研究員で「自意識と感情」が専門の脳科学者・恩蔵絢子さんは、主人公の山田仕草(やまだしぐさ)がやられたことを創作でやり返すエネルギーがすばらしく、岡田監督の表現方法に感嘆したと話し、「仕草が自分にかかった呪いを、言葉ではなく身体を使ったダンスで解放するシーンがとても印象に残りました」と感想を伝えると、岡田監督は「仕草は、呪いから解放されたようでもあるけれど、一方で学生時代の恋人だった佐伯と踊ることに心地よさを感じ、その余韻に浸ってまだ呪いから解放されていないようにも見える。そのどちらにも受け取れるようにしたいと思いました」と返し、「言葉にとらわれていた仕草が、身体を使って踊るということ自体が、一つの解放であり、仕草にとっての答えだったと思う」と語った。

恩蔵絢子さん

▼タイトルへの思い

タイトルにある「恋脳(れんのう)」という言葉自体は岡田詩歌監督によるオリジナル。「『恋愛脳』という言葉はよく耳にしますが、主人公の仕草も恋愛脳という要素がある人物かなと思い、実験的に恋愛をして、創作をしていくという様子を『恋脳Experiment(エクスペリメント)』というタイトルに込めました」とタイトルへの思いを語る。

岡田監督(左)、恩蔵絢子さん(右)

▼いつ頃から人は恋心を抱くのか?

一方、いつ頃から人は恋心を抱くのか、本能によるものなのかを問われた恩蔵絢子さんは、自我の芽生えとの関連性を指摘。「自我が芽生えるのは1歳半頃と言われています。鏡を見て鏡に映った人物が自分である、と気づくようになる時期です。

それまでは他人と自分は一体のものなのですが、“これは私なんだ”と、他人と自分が切り離されていく、いわばとてもさみしいとも言える瞬間です。その時に、他人に対する憧れも生まれるのではないか、というのが私の仮説です。つまり1歳半で恋心のようなものが生まれる可能性とも考えられる。ただ、恋愛感情が生まれるというのは、人によって時期もばらばらなものです」と語る。

恋愛に憧れる仕草が、好きでもない人に好きと告白するシーンを例に挙げ、「自分の感情というのは、最初は自分では分からなくて、例えば親から『いま悲しいのね』と言われて『これが“悲しい”ということなんだ』と知ります。自分の感情を知ることと言葉というのは、一体になって育まれていくので、主人公もまさにその過程にあるのだなと思った」と話す。

「人間は、共感能力がとても高い生き物です。幼い頃に“私はひとりなんだ”という感覚が始まりますが、この感覚はどういうものなのだろうと探るなかで色々な人に出会い、“同化”してしまいます。最終的にはまたそこから抜け出さなければいけなくて、思春期が過ぎてもう少し大人担ったくらいの頃、本当に自分というものが確立します。それは長い旅です。大人になった仕草は、かつてかかった呪いからはまだ完全には覚めていないかもしれない。そんな様子が伝わってきました」と印象を述べた。

主人公の仕草が恋愛にまつわる呪いにかかっているだけでなく、大学時代の恋人である佐伯は「創作物には恋愛は邪魔」というような観念に縛られ、また仕草が社会人になって出会う金子は「両親のような温かい家庭を築きたい」という思いにとらわれている。

岡田詩歌監督は、日々の生活の中で他人と比較してできないことが多いという思い込みからの脱却も本作の着想のひとつのきっかけになったという。「例えば“私は絵が上手ではない”など、できないことが多いと感じることが多かったのですが、ある時、人から『じゃあ逆にできることは何なの?』と問われたことがあって、その時にふと『私にもできることがあるよね』と逆説的に気づく瞬間がありました。世の中には色々な形の呪いが存在していると思います。例えば私が在籍していた芸術大学では、『恋人ができると作品がつまらなくなる』という人がとても多かった。そのことに私は違和感を感じていて、佐伯という人物にはそのような呪いを打破してほしいと思って人物像を作っていきました」と話す。

そういった言葉や概念による呪いに直面した時、脳からその呪いにとらわれてしまうのか?という質問に対して、恩蔵絢子さんは同意し、「概念や言葉というのはとても強くて、与えられるとそれに向かって自分が合わせていってしまう。自分でそれを実現しなければいけない、とそちらに動いていってしまうんです。例えば恋愛というのは、感情の中心のような存在で、言葉を介さなくても一目惚れしてしまうということもありますが、そうすると感情が下がってくる。『あ、私、好きなんだな』と気づきます。でも、逆もあって、例えば経済的な事情など様々な理由でこの人を好きにならなくてはいけない、という状況があった時には、『この人に合わせなければ』と、自分から感情を作っていくこともあるんです。つまり言葉からも感情を作ることができるし、感情から言葉を掴むこともできる、その両方のプロセスが存在します。言葉に合わせていってしまうのは不幸なことだとも思いますが、完全に避けることはできませんし、感情はまだまだ本人にとっても分からないもので、呪いから解放されるのは相当難しいものだろうなという感覚を持っています」と話す。

▼キャスティングについて

キャスティングについて、祷キララさんに仕草役を演じてもらった時、「そこに仕草がいる」と思った、と監督は話す。「仕草というキャラクター自体が少しグロテスクなものを持っていると思っていたので、祷さんの芯のある力強さが仕草を怖くしすぎず、ひどい人間にも見えすぎなくするのではと思いました。撮影中も、言葉をそれほど交わさなくても、仕草がもう出来上がっているような感覚を覚えました」と話す。

「金子は、中島歩さんがいいと思っていてオファーをしたらすぐに快諾してくださいました。衣装合わせで初めてお会いした際に金子に対する解釈をお話しいただいたのですが、まさに金子だと思いました。佐伯役が最後に決まりました。佐伯というキャラクターはモラハラ気味でプライドも高く、難しい人物だったので、怖くなりすぎてしまうのではと心配していました。初めて平井亜門さんにお会いした時に、ふと佐伯って怖いだけではなくて、チャーミングな部分もあるのではないかな、と気づいたんです。それで平井さんの第一印象にキャラクターを少し寄せました。プライドが高いという設定に、チャーミングな要素を入れて、少し抜けがあるようなキャラクターにしました」とキャスティングやキャストの魅力について話をした。

恩蔵絢子さん(左)、岡田詩歌監督(右)

そして「この映画は、恋愛にまつわる呪いをテーマにしていますが、それだけではなく『こういうことってあるよね』というような割と身近な呪いも描いています。この映画を観て、そんな呪いに気づいてもらえたらいいなと思います」と締めくくった。

『恋脳Experiment』は、2月14日(金)より新宿シネマカリテ他にて全国順次公開予定。1月30日(木)には、主演・祷キララ、平井亜門、岡田詩歌監督による舞台挨拶付き先行上映予定。

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