【鼎談記事】重松りさ、主演映画づくりに自ら行動。内田英治プロデューサー、西川達郎監督へのつながり。インディーズ映画の現状と『太陽がしょっぱい』がつくられるまで

【鼎談記事】重松りさ、主演映画づくりに自ら行動。内田英治プロデューサー、西川達郎監督へのつながり。インディーズ映画の現状と『太陽がしょっぱい』がつくられるまで

重松りさ主演映画『太陽がしょっぱい』が、ケイズシネマ(東京)、シアターセブン(大阪)で公開された後、1月17日から、重松の出身地である大分県の中津市「セントラルシネマ三光」で上映される。この作品は、重松自身がプロデューサーも兼任し、映画製作の舞台裏にも深く関わった意欲作だ。映画監督は、新進気鋭の西川達郎、そして、数々の話題作を世に送り出してきた映画監督・内田英治が製作をサポートした。

重松は、自身の生い立ちを題材に映画を作りたいという想いから、以前共演した内田に相談を持ちかけたことがきっかけで、今回の映画製作がスタートした。内田は重松の熱意に賛同し、西川を紹介。西川は、当時、整形をテーマにした映画を構想しており、重松の「実家が寺である」という話と結びつき、今回の作品が誕生した。

当初は重松の出身地である大分県での撮影も検討されたが、予算や移動の都合上、最終的に愛知県豊橋市に決定。豊橋市は、映画やドラマの撮影に対して非常に協力的で、以前から内田と西川も縁のある場所だった。

製作資金は、若手映画監督を対象とした助成金を申請し、見事獲得。 しかし、助成金の申請期限までわずか2週間という厳しい状況下、重松は寝る間も惜しんで書類作成に奔走した。内田は、「あの状況で諦める人が多い中、彼女は本当に頑張った」と、重松の努力を称賛している。

キャスティングは、内田と西川の知人である実力派俳優陣が集結。撮影は、ベテランスタッフで固めた少数精鋭体制で、9日間で終えたという。

映画のタイトル「太陽がしょっぱい」は、内田が考案内田自身も経験した、影のある青春時代を表現したかったとのこと。

映画「太陽がしょっぱい」の上映に対して、重松は「自分に自信がない人や、一歩踏み出せずにいる人に、この映画がエールを送れたら嬉しい」と語っている。西川は、「生きづらさを感じている人、自分が見えてることだけが全てではないと感じている人に観てほしい」とコメント。内田は、「若い世代との価値観の違いを感じている同世代に観てほしい」と語っている。

映画「太陽がしょっぱい」は、インディーズ映画の可能性に挑戦する、若き才能たちの熱意が詰まった作品だ。

■ 映画『太陽がしょっぱい』重松りさ x 西川達郎 x 内田英治 鼎談

▼映画制作の舞台裏

内田英治:映画の記事って最近減ってるからありがたいよね、今日はありがとうございます。

インタビュアー: こちらこそよろしくお願いします。 貴重な機会をいただきありがとうございます。早速ですが、重松さんの主演作が実現した経緯から伺いたいのですが。まずは重松さんから内田プロデューサーに相談されたんですよね?


重松りさ: 実は、もともと知り合いの監督さんと映画を作れないかと思ってたんですけど、なかなか話が進まなくて。ちょうどその頃、助成金の話を聞いて、ダメ元で内田さんに相談してみたんです。主演作を撮りたい、自主制作で、助成金を申請したい、誰か紹介してくれませんかって。


インタビュアー: なるほど。内田さんと重松さんの繋がりは?

内田英治: 彼女が私の作品『異動辞令は音楽隊!』に出てくれてたんですよ。

重松りさ: はい。その前に『ミッドナイトスワン』のオーディションでお会いしたことがあって。

内田英治: そうだったね。色々話したよね。

重松りさ: 内田さんの作品も好きだし、人柄も素敵だなと思って。もしかしたら、困ってる若者を助けてくれるかも、って淡い期待を抱いて相談しました。

内田英治: 実は、過去にも何人かプロデュースしたことがあったし、彼女の熱意に心を打たれたというのもありますね。

重松りさ: 「タイトル、拒絶」もそうですし、内田さんは監督を育てるイメージがあったので、役者の私が相談したらどうなるか不安でしたが、西川監督を紹介していただきました。

インタビュアー: 内田さんは、重松さんから相談を受けた時、どんな印象でしたか?

内田英治: やっぱり、自分の意志を表明する人はパワーがある。特に日本の芸能界では、役者が意見を言うのは良しとされてこなかった。でも、最近は変わってきて、自分で声を上げる人が増えてきた。彼女は貴重だし、応援したいと思いましたね。

ただ、役者のプロデュースは初めてだったかな。若手監督の作品にはいくつか関わったことはあるけど。あ、そういえば、アメリカでショートムービーを撮った時に、NAOTOさんと一緒に仕事をしたことがあったな。

インタビュアー: なるほど。初めてといっても過言ではないんですね。

内田英治: 声を上げるということは、それだけでエネルギーが生まれる。それは素晴らしいことだと思います。

熱意と才能の出会い:映画制作の始まり

インタビュアー: 声を上げるだけで、実力を伴わない人もいて、そういう場合には、判断に迷うこともあると思うんです。重松さんの場合は、今につながる何かがあったんでしょうか?

内田英治: ええ、彼女は私の映画にも出てくれてましたし、役者としての実力も知っていました。何かを生み出せる可能性を感じましたね。それに、実際に声を上げる人って少ないんですよ。みんな口では「やりたい」って言いますけど、具体的な行動に移せる人は少ない。彼女は行動力のある人だなと。

インタビュアー: なるほど。そこから、西川監督と繋がっていくわけですが… どんな流れだったんでしょう?

西川達郎監督: 僕は藝大を卒業してから内田さんにすごくお世話になっていまして、映画の内容のこともそうですし、映画監督としてどうやって生きていけばいいかという事とか、そういった悩み相談をさせて頂いてて、日頃から恩師としてお世話になっています。ある日、内田さんに「こういう映画を撮りたいんです」という熱い想いを語ったんです。そうしたら後日カフェに誘われて、行ったら重松さんがいたんです。

重松りさ: ええ、そうでしたね。

インタビュアー: なるほど!「映画を撮りたい」という共通の想いを持った人たちが、内田さんを通じて出会った、という感じでしょうか?

内田英治: 元々は、とよはし映画祭で彼と出会ったんです。彼が自主映画を制作していて、私は審査員をしていました。映画祭って、そういう出会いの場でもあるんですよね。

インタビュアー: 最初に重松さんから相談を受けた時、「自分の生い立ちを題材に映画を作りたい」というテーマがあったと伺いました。

重松りさ: はい。「自分をさらけ出したい」という気持ちと、「だからこそ、誰かの支えになりたい」という気持ちがありました。最初は、友達と軽い気持ちで話していたことだったんです。「きっとうまくいかないだろうな」って思いながらも、内田さんに相談しました。「今、どんな映画を作ることに意味があるのか」悩んでいたので。

映画の舞台裏:大分から豊橋へ

インタビュアー: 重松さんと西川監督が出会って、「映画を作りたい!」という想いが重なったわけですが、そこから今回の作品に繋がっていく過程で、どんなアイデアが出てきたのでしょうか? 最初にお会いした時、重松さんから「実家が寺で、そこで撮影できたら…」というお話は伺っていました。

西川達郎監督: 僕自身は整形を題材にした映画を作りたくて、重松さんの「実家が寺」という話と、僕の「整形」という題材を組み合わせられないかと考え始めました。実家が由緒正しいお寺で、そこに住む10代の主人公が整形をしたいと言い出す… センセーショナルな内容になるんじゃないか、と。

インタビュアー: 大分で撮影する案も、具体的に進んでいたんですね。

重松りさ: ええ、でも予算や移動などを考えると、現実的に難しいという結論になりました。

内田英治: そうなんですよ。宿泊費や交通費もかかるし、時間も限られている。色々悩んでいた時に、豊橋市が候補に挙がりました。以前、別の作品で豊橋市にお世話になったことがあり、人柄の良さを感じていましたし、西川監督もとよはし映画祭で賞を受賞した経験があるので、縁を感じたんです。

内田英治: 大分で撮影となると、どうしても費用がかさんでしまいますからね。

インタビュアー: なるほど。豊橋市は、皆さんの縁が繋がる場所だったんですね。

内田英治: 豊橋市は映画やドラマの撮影に対して、とても協力的なんですよ。バックアップ体制も充実していて、県も支援してくれる。企画を実現しやすい環境なんです。

助成金申請と奇跡の承認

インタビュアー: クラウドファンディングの話も色々伺いたいのですが… いつから準備を始めたのでしょうか? 脚本から? 時系列で教えていただけますか? カフェで会ってから、助成金の申請まで1、2週間しかなかったとか?

重松りさ: ええ、内田さんから西川監督を紹介していただいたのが、助成金申請の締め切り2週間前くらいでした 。

重松りさ: そこから、急いで企画書を作りました 。「絶対間に合わないでしょ!」って思ってました 。

内田英治: まあ、あの状況だと諦める人が多いですよね 。役者や若い監督が映画を作りたい!って意気込んでも、助成金の申請って本当に大変で… そこで挫折するケースが多いんです 。彼女はよく頑張りましたよ 。

重松りさ: そうですね… 分厚い書類を何枚も書かなきゃいけないし、予算の計算や振り分けも難しくて… 。それに、申請には団体名が必要で、プロデューサーを立てなきゃいけなかったんです 。でも、色々教えてもらいながら、なんとか書類を完成させました 。初めての経験ばかりでしたが、前に進んでいる実感があって、すごく楽しかったです 。

インタビュアー: 楽しく取り組めたんですね!

内田英治: あの段階で諦めるか、揉めて解散する… それがインディーズ映画の典型的なパターンですからね 。あの企画が実現したのは珍しいケースですよ 。

重松りさ: 何度も投げ出したくなりました 。でも、「絶対にこの映画を作るんだ!」という気持ちで、頑張り続けました 。

西川達郎監督: 事務作業は、重松さんが中心になってやってくれました。

重松りさ: もちろん、西川監督にも文章を書いてもらったり、内田さんには制作会社を紹介していただいたり… 。

インタビュアー: 今回、制作会社は?

重松りさ: ロンドベルさんです 。皆さんに助けていただかなければ、完成させることはできませんでした 。

インタビュアー: そして、見事申請が通り、助成金が交付されたわけですね! 申請から1ヶ月くらいで承認されたんでしたっけ?

重松りさ: はい、1ヶ月くらいで承認されました 。それから撮影まで、怒涛の日々でした 。

内田英治: 正直、通るとは思っていませんでした 。まさか… 。本当にありがたいことです 。

重松りさ: 結果的に申請が通って、撮影にあたっての資金が手に入りました。申請書類が大変だから、応募者数が少ないのかもしれませんね 。そういえば、あの助成金って、映画祭などでなんらかの受賞経験がある監督じゃないと申請できないんです 。受賞歴がないと… 。
また新人であることだったり。若手の映画監督を育成するための助成金だったので、長編2作目以降の監督も対象外なんです 。

内田英治: え、条件に受賞歴とかがあったの? 

重松りさ: そうです。内田さんは長編を2作以上撮っているので、申請できないです。

内田英治: なるほどね 。若手監督限定で、グランプリ受賞者… 。結果的に運がよかったね 。

重松りさ: それで、内田さんに西川監督を紹介していただいたと思います。

西川達郎監督: ああ、だから僕が監督を引き受けられたんだ。グランプリを受賞していたこととか。

インタビュアー:そうなんですか 。受賞歴がないとダメだったんですね 。偶然が重なって、本当に良かったですね。

奇跡的な縁とキャスティング秘話

インタビュアー: 助成金の承認、本当によかったですね!まさに奇跡的な展開です。色々なご縁に恵まれて…

内田英治: いやいや、まだまだですよ。特に日本の映画界は、助成金も少ないですからね。もっと増えてほしいものです。

インタビュアー: そうですね。 まさに奇跡的な流れで助成金が交付されて、そこから本格的に脚本の制作が始まったわけですね。

重松りさ: はい。

インタビュアー: かなりあわただしいスケジュールだったのではないでしょうか。

西川達郎監督: 脚本を書きつつ、お寺へロケハンに今すぐにでも行かなければいけない状況だったと記憶しています。あわただしかったですね。

インタビュアー: 西川監督は、お寺に詳しいとか…?

重松りさ: はい、お寺が好きとおっしゃってました。

西川達郎監督: そうですね。神社仏閣に行くのが好きなので重松さんの実家がお寺だというのも、僕としては魅力的でした。

重松りさ: よかったです。

インタビュアー: 出演者のキャスティングはどのようにおこなわれましたか?

内田英治: 男性陣は、僕が声をかけました。家族のメンバーは、僕が過去に仕事をしたことがある俳優さんにお願いしました。
やっぱりインディーズ映画を短期間で良いものにするには、顔見知りの役者さんと作るのが一番なので。なるべく親しい俳優さんと仕事をするように設定しました。

インタビュアー: ということは、キャスティングは、内田さんと西川監督のお知り合いの方々で固められたんですね。皆さん、素晴らしい演技をされる方ばかりで、個性豊かな家族が完成したと感じました。キャスティングについて、何かエピソードはありますか?

重松りさ: 顔合わせの時、役者さんたちの顔が、みんな似てる!って思ったんです。特に赤間さんは、私の母親にそっくりで…。天然キャラではないんですけど、どこかふわふわした雰囲気が似てるんです。でも、怒ると怖いところも、そっくりなんですよ(笑)
野村さんの仏様のような顔も、すごく素敵だなって思いましたし…。

重松りさ: キャストが決まった時、この映画は絶対に成功する!と確信しました。お兄ちゃん役の梁瀬くんは、本当に面白い人で… いい意味で、つかみどころがないというか…。
皆さん、本当に魅力的な役者さんばかりで…。素敵なキャスティングをしていただき、本当にありがとうございました!

個性豊かなキャスティングと最強の制作チーム

インタビュアー: キャスティングについてもう少し詳しく教えてください。重松さんは主役を中心に全体のバランスを短時間で取っていくのが難しかったのではないでしょうか? また、主役としての心構えのようなものは、撮影前に話し合ったりしましたか?

重松りさ: はい、お話をしました。

西川達郎監督: 金野さんのキャスティングについてですが、彼女は内田さんからの紹介でした。金野さんは家族の一員ではないけれど、ふらっと現れて家族の輪の中に溶け込んでいく… そんな不思議な存在感を持ち合わせています。現場でもまさにそんな感じでした。重松さんとすごく仲良くなってましたよね?

重松りさ: 金野さんが演じた役は、主人公の美波を見守り、成長を促す存在です。金野さんが現場に来た瞬間、雰囲気がパッと明るくなりました。 美波としては、「このままではいけない」と、良い刺激を受けました。役柄と重なる部分もあったと思います。それに、金野さんは、私とほぼ同世代なんです。
現場では、タメ口で話していました(笑)

西川達郎監督: 同級生役の松尾潤くんは、以前ドラマでご一緒したことがあって、今回の役に合うなと思いオファーしました。キララ役は、内田さんが開催したワークショップを見学させてもらった時に、平さんが参加されていて、「あの子、キララにいいね」と僕と内田さんの意見が一致しました。 今回は僕たちと繋がりがあり、才能のある役者にたくさん出演していただきました。

インタビュアー: うまくまとまったキャスティングだなと感じました。

重松りさ: 準備期間が短かったにもかかわらず、撮影は本当にスムーズに進みました。慌ただしい日々でしたが、あっという間に駆け抜けていったようなイメージです。大きなトラブルもなく、順調に進んだと思います。 ロケハンで豊橋に決まってからは、特に… 実は、途中まで私の出身地である大分で撮影する話もあったんです。
話も具体的に進んでいたのですが、最終的には豊橋で撮影することになりました。そこから、急ピッチで準備を進めていただきました。

内田英治: インディーズ映画の制作チームには、大きく分けて2つのパターンがあると思います。 1つは、これから映画界を目指そうとしている学生や若手中心のチーム。もう1つは、現場経験豊富なベテラン中心のチームです。今回は、人数は少ないですが、ベテランスタッフで固めました。そのため、撮影はサクサク進んだのではないかと思います。

西川達郎監督: そうですね。

内田英治: 駆け出しのスタッフと長期間撮影するよりも、ベテランスタッフと短期間で集中して撮影する方が、インディーズ映画には向いていると思います。今回は、後者を選択しました。

西川達郎監督: 長年、内田監督と映画制作をしてきた、大先輩の方々と仕事ができました。本当に心強いチームでした。

重松りさ: 本当に、みんなヒーローみたいでした!最強のチームでしたね!

内田英治: その分、撮影期間は短くなってしまいましたが…(笑)

豊橋という奇跡のロケ地とインディーズ映画への熱い想い

インタビュアー: 助成金の性格上、期限内に撮影を終え、上映まで終えなければいけないのだと思いますが、時間的な制約は厳しかったのではないでしょうか?

重松りさ: そうですね、かなりタイトなスケジュールでした。公開時期も11月になりましたし。

インタビュアー: 苦労も多かったと思いますが、映画館や宣伝会社の方々にもご協力いただき、無事に公開にこぎつけることができそうで、本当に良かったですね。ところで、豊橋の話になると、重松さんは先日も涙ぐんでいらっしゃいましたが…とよはしフィルムコミッションの方にとてもお世話になったんだとか。

重松りさ: 先日は…ごめんなさい、とよはしフィルムコミッションの恵子さんのことを思い出してしまって…。

インタビュアー: 恵子さんの存在は、この映画にとって、それだけ大きかったということですね。

重松りさ: ええ、本当に…。

インタビュアー: 寺で撮影したいという希望を叶えてくれたのも、恵子さんだったんですよね?

西川達郎監督: はい。恵子さんに相談したところ、豊橋市の中からいくつもの候補を見つけてくださいました。 ほぼ全てのロケ地を恵子さんのおかげで見つけることができたと言っても過言ではありません。 それだけでなく、撮影に必要なものも豊橋の皆様にご協力いただき、全て揃えることができました。  豊橋市が映画やドラマの撮影にこれほど協力的で熱心なのは、間違いなく恵子さんがいたからです。この作品は恵子さんにとって最後の作品になったと思います。 その思いも背負って公開に向けて頑張らなければいけないと思っています。 

インタビュアー: 映画は、本当に多くの人たちの協力によって作られているんですね。 特に、地元の方々の協力は、作品にリアリティを与え、深みを与えてくれる、かけがえのないものです。 今回は、本当に様々なご縁が重なって、この作品が完成したんですね。貴重なお話を聞かせていただき、感動しています。

西川達郎監督: とよはし映画祭で賞をいただいたことがきっかけで、豊橋に何度か行く機会がありました。 恵子さんとはその時に知り合いました。 恵子さんはいつも応援してくれて、とても良くしてくれました。 いつか豊橋で映画を撮りたい、という話をしたこともありました。  それが実現できたことは本当に嬉しいです。 内田さんは豊橋とは長い付き合いなんですよね?

内田英治: ええ。10年ほど前に、数百万円規模のインディーズ映画を豊橋で撮影したことがあります。  「全裸監督」よりも、ずっと前の話です。 その時が、恵子さんとの出会いでした。  当時から、恵子さんは、数億円規模の大作映画から、数百万円規模のインディーズ映画まで、分け隔てなく、全ての作品に、同じ熱意を持って接してくれました。  規模の大小にかかわらず、映画を応援してくれる人は、本当に貴重です。  残念なことに、そういった人たちは、どんどん減っているように感じます。

インタビュアー: 地元で映画を応援してくれる人たちも、高齢化が進んでいるという現状がありますからね…。

内田英治: ロケハンに行った時に、恵子さんが、ご飯をおごってくれたこともありました。  フィルムコミッションの人が、そこまでしてくれるなんて、本当に珍しいことです。  インディーズ映画は、今や存続が危ぶまれる文化ですが 、恵子さんのような人たちが支えてくれていたんだと、改めて実感しました。

西川達郎監督: 実は、撮影の前日に足の小指を骨折してしまったんです。  不注意で何かにぶつけてしまって…。 初日は足をひきずりながら撮影していました。  それを見た恵子さんが、心配して病院に連れて行ってくれたんです。  そこで初めて骨折していることが分かりました。  恵子さんは本当に面倒見の良い方でした。  ロケ中はいつも元気な姿を見せてくれました。 

インタビュアー: SNSで、その時のことを投稿されていたのを、 私も見た記憶があります。

インディーズ映画の思い出と製作現場の裏側

インタビュアー: ところで、今回の撮影はどれくらいの日数で行われたんですか?

西川達郎監督: 撮影日数は9日でした。

重松りさ: 都内でのロケも含めて9日間でしたね。

西川達郎監督: 8月だったので、とても暑かったですね…。あの暑さは忘れられません (笑) 。内田さんが、差し入れでアイスを持ってきてくれたのは本当に助かりました。アイスボックスに詰め込んで持ってきてくれたんですよ。

インタビュアー: それは嬉しい差し入れですね (笑) 。

内田英治: インディーズ映画の撮影って、大体10日から2週間くらいで終わらせることが多いんです。2週間あれば、ラッキーなくらいですね。昔は僕も10日くらいで撮影していたこともありましたが、今はもう無理ですね (笑) 。

インタビュアー: 短い期間で集中して撮影するんですね。

内田英治: ええ。みんなで協力して、楽しく、時には巻き上げ合いながら撮影していました (笑) 。

重松りさ: 撮影中の面白いエピソードはたくさんあるんですけど、話すと長くなるので、また今度…。

インタビュアー: それは気になりますね!ぜひ、後で聞かせてください!

重松りさ: 控室がいつも賑やかで、楽しかったです。撮影中は、それぞれが役柄に集中していましたが、裏では、梁瀬くん(お兄ちゃん役)が、みんなの余ったロケ弁を全部食べるまで帰らない、なんていうこともありました (笑) 。

インタビュアー: 微笑ましいエピソードですね (笑) 。

重松りさ: くだらない楽しさがたくさんありました。まるで本当の家族みたいでした。

西川達郎監督: そうそう。あと映画の中で襖絵が出てくるんですが、あれは実際に襖絵師さんに描いてもらったんですよ。撮影と並行して寺で襖絵を描いてもらっていました。時々、進捗を見に行ったりもしていましたね。

インタビュアー: へえー、本格的ですね!

西川達郎監督: 絵師さんは作品に対してとても理解のある方で、登場人物の描く襖絵について深いところまで質問をしてくれました。それを元に素晴らしい襖絵を描いていただきました。アーティストとしての気質を感じましたね。

インタビュアー: 撮影の裏側には、そんなエピソードがあったんですね。とても興味深いです。

インディーズ映画の現状:役者、監督、プロデューサーそれぞれの視点

インタビュアー: 襖絵の話、興味深いですね! さて、撮影のお話はここまでとして、少し話題を変えましょう。インディーズ映画の「今」について、それぞれの立場からお話いただけますか?

役者視点、監督視点、プロデューサー視点、それぞれの立場から語っていただけますか。

重松さんは、役者として、インディーズ映画の現状をどのように見ていますか?

重松りさ: うーん…、語れるほどのことではないんですけど…。そうですね、最近は、役者が主導となって製作する作品が増えている気がします。 内田さんも言ってましたけど、最近拝見し感銘を受けた「SUPER HAPPY FOREVER」みたいに、役者が自分の表現したいものを追求した作品が、共感を呼んでいるように思います。純粋に面白い作品を作ろうという原点に立ち返って製作されている作品が増えていると感じますね。

 あの…、内田さんは「インディーズ映画が消えてしまう」と言ってるんですけど…。 私は、インディーズ映画は消えてほしくないので、頑張りたいです! それが役者としての私の視点です! 

内田英治: いやいや(笑)。「消えてほしい」って聞こえちゃうから、言い方を変えようよ。

重松りさ: あ、そうですね…。語弊がありました…。 インディーズ映画の存続が危ぶまれているというなか、世の中全体として、お金もチャンスも少ない映画界、芸能界ではありますが、インディーズ映画から素晴らしい俳優さんたちがたくさん輩出されています。私も、そんな先輩方のように、インディーズ映画から成長していきたいと思っています! 

インタビュアー: なるほど。確かに、役者主導の作品が増えている印象はありますね。以前、コロナの影響で仕事が減った役者さんたちが、自ら作品作りに乗り出すという話を聞きました。 今回の作品も、そういった流れの一つと言えるかもしれませんね。

重松りさ: そうですね。待っているだけでは何も生まれません。 チャンスを得るためには、自分から行動を起こさないといけないと、最近ようやく気づきました。助成金を申請するくらいの気持ちで、動き始めました。

インタビュアー: 素晴らしいですね! 西川監督は、監督の視点から、インディーズ映画の現状をどう見ていますか?

西川達郎監督: 実は最近、商業映画を撮ったんです。それは物語の舞台となる土地も重要な存在であるという前提でスタートした企画だったので、ある意味でロケ地をポジティブに描くというのが、製作側の想いでありミッションでした。僕ら監督はその中でどんな物語を紡ぐのかを考えるわけです。商業映画には多かれ少なかれ、そういったミッションが存在します。 しかしインディーズ映画にはそういった制約がありません。 それがインディーズ映画の良さであり、自由度の高さだと思います。 短い期間に「太陽がしょっぱい」と「BISHU」という2つの作品を経験してそう感じましたね。

インディーズ映画の未来:商業映画との違い、そしてインディーズ映画界の危機

インタビュアー: なるほど。資金面で自治体からの援助を受けられる場合もあるでしょうし、「町おこし」的な側面も期待されているわけですね。でも、単なる「町おこし映画」ではなく、作品としての質も追求したい。その土地の魅力と作品性をうまく融合させることができれば、素晴らしいものができる可能性を感じます。

西川達郎監督: 豊橋には愛着があって、この場所で映画を撮りたいという気持ちがありました。「BISHU」では準備を進める中で土地のことを知って、それから興味を持つようになりました。思い入れが先にあるか、後から興味を持つようになるか、その順番は様々だと思います。

インタビュアー: なるほど。原作ものを映画化する際にも、そういった「制約」や「ミッション」は存在するかもしれませんね。 それがないのが、インディーズ映画の良さの一つかもしれません。 さて、内田さんから見て、インディーズ映画の「今」はどんな状況でしょうか?

内田英治: インディーズ映画について語り始めると、本当に話が尽きないのですが…(笑)。 やはり、一番の魅力は「作家性の自由度」だと思います。 いかに自由に映画を作れるか、という点において、インディーズ映画は昔から大きな可能性を秘めていました。 僕自身も、インディーズ映画出身です。

 低予算で製作したインディーズ映画が、Netflixのプロデューサーの目に留まり、その後、商業映画の監督に抜擢される、といったケースも実際にありました。 インディーズ映画は、まさにチャンスの「糸口」となり得る存在でした。

しかし、近年、インディーズ映画は「消滅の危機」に瀕していると感じています。 映画祭がどんどん減っていること、若い世代がインディーズ映画に目を向けていないことなど、理由は様々です。

僕や深田晃司監督など、多くの映画監督が、東京国際映画祭の「ジャパンスプラッシュ」という部門出身ですが、現在では、そういった若い才能を育てるための映画祭の部門も少なくなっています。 地方の映画祭も、以前のような盛り上がりを見せていません。 インディーズ映画を上映する映画館を応援してくれる世代も高齢化が進み、若い世代がその役割を引き継いでいません。

いい映画を作ればそれでいい、という時代ではありません。 インディーズ映画の文化を守るためには、もっと「合理的な」考え方を取り入れる必要があると思います。 ヨーロッパやアメリカでは、すでにインディーズ映画の文化が衰退しています。 日本も、いずれ同じ道を辿る可能性は高いでしょう。

 インディーズ映画の文化を「合理的に」守っていくためには、具体的な方法論が必要です。 例えば、役者主導の映画製作も、一つの有効な手段だと思います。 大事なのは、「アイデアを形にする」プロセスを、いかに合理的に進めていくかです。 僕ら上の世代が、若い世代をサポートしていく必要があると感じています。 若い世代だけでは、この文化を守り抜くのは難しいでしょう。

インディーズ映画は、未来へ繋いでいきたい文化です。 しかし現状は、世界的に見ても、厳しいと言わざるを得ません。

インディーズ映画の希望:「侍タイムスリッパー」の成功と、インディーズ映画界の課題

インタビュアー: 最近話題の「侍タイムスリッパー」、ご覧になりましたか? インディーズ映画としては異例のヒットですが、皆さんはどう見ていますか?

西川達郎監督:素晴らしい作品だと思います。「侍タイムスリッパー」の監督やキャストのインタビューを拝見させていただきましたが、素晴らしい熱量を持った方々だと感じました。

インタビュアー: 私もインタビューを実施しましたが、監督は映画以外の本業で資金を貯め、それを映画製作に全投入したように思えました。東映撮影所のバックアップもあったそうですが、そういった製作スタイルも、インディーズ映画の可能性を広げる一つの方法だと感じました。

内田英治: 本当に、脈々と受け継がれてきたインディーズ映画の製作スタイルですよね。素晴らしいと思いますし、見事に成功した好例だと思います。

西川達郎監督: 「カメラを止めるな!」がヒットした頃、監督の上田さんや出演者のしゅはまさん達が、池袋シネマ・ロサでチラシ配りをしていたのを思い出します。映画館の前に沢山の観客が詰めかけていて、すごい熱気でした。でも、コロナ禍でそういった光景は一気に消えてしまいました。

インディーズ映画がああいう大ヒットするのは奇跡のようなことだと感じていました。でも「侍タイムスリッパー」の成功を見て、再びあの熱気が戻ってくるかもしれないと感じています。インディーズ映画をヒットさせることは、決して不可能ではないと証明してくれたと思います。

インタビュアー: 池袋シネマ・ロサのような映画館で上映され、観客の口コミで広がっていく…、まさにインディーズ映画の王道ですね。コロナ禍で多くの映画館が苦境に立たされましたが、それでも映画への情熱は失われなかった。そして、コロナが収束に向かう中で、「侍タイムスリッパー」のような作品が誕生した。これは、インディーズ映画の未来に対する希望と言えるのではないでしょうか?

内田英治: 「侍タイムスリッパー」のすごいところは、インディーズ映画ファンだけでなく、より幅広い層に受け入れられていることですよね。もはや「インディーズ映画」という枠を超えて、「映画」として楽しまれている。これは本当に素晴らしいことです。「カメラを止めるな!」と同じような現象だと思います。

インタビュアー: 「カメラを止めるな!」のブームは、私がこの仕事を始める前のことなので、リアルタイムでは経験していませんが、「侍タイムスリッパー」は実際に見て、関係者にもインタビューしました。時代劇というと、どうしても年配の方向けのイメージがありますが、「侍タイムスリッパー」はコメディ要素も強く、若い世代にも響く作品に仕上がっています。

製作陣も、「こどもたちがチャンバラごっこをしたくなるような映画を作りたかった」と話していました。実際に、劇場にはお孫さんと一緒に来た方や、高齢のご夫婦など、幅広い年齢層の方が訪れているそうです。口コミで評判が広がり、これまで映画館に足を運ぶことのなかった人たちも劇場に集まっている。

これは、狙ってできることではありません。時代の流れや、作品の魅力、そして観客の口コミなどが複雑に絡み合って生まれた現象だと思います。こうした成功例が、今後、インディーズ映画界をさらに盛り上げていくことを期待しています。

インディーズ映画を取り巻く状況:上映コストの変遷と課題、そして未来への希望

インタビュアー: 「侍タイムスリッパー」のヒットは、上映コストの面でも追い風になったのではないでしょうか? 以前は、1スクリーンにつき数十万円単位の費用がかかっていたと聞いていますが…。

内田英治: そうですね。以前はVPF(バーチャルプリントフィー)という、ひとつひとつのスクリーンに対してかかる費用がかかっていました。それがなくなり、インディーズ映画にとって非常に大きな良い変化が起きたのです。

内田英治: 以前は、100館上映するとなると1,000万円もの費用がかかっていました。それが今や0円ですからね。インディーズ映画にとっては、非常に大きなメリットです 。

インタビュアー: なるほど。それでも、ヒットしなければ当然赤字になってしまうわけですよね。映画が公開されてから収益が入ってくるまでの期間も、かなり長そうですし…。

重松りさ: そうですね。かなり長い期間になりそうです 。

インタビュアー: インディーズ映画界には、他にもさまざまな課題があると思います。皆さんが考える、インディーズ映画界の課題、そして未来への希望についてお聞かせください。

内田英治: まずは、若手監督の支援を強化してほしいですね。才能ある若手監督はたくさんいるのに、活躍の場が限られていると感じます 。

インタビュアー: 私も同感です。若手監督の作品は、なかなか上映の機会に恵まれなかったり、十分な評価を得られていないと感じることがあります 。才能ある作り手が、正当に評価される仕組みが必要です。

内田英治: また、若手映画人が活躍できる映画祭を増やすことも重要です 。ベテラン監督向けの映画祭は多いですが、若手のための映画祭は限られています。

インタビュアー: そうですね。若手映画人が作品を発表し、経験を積む場が必要です。ただ、中には、作品を応募すると、エントリーフィーだけ取られて上映機会は与えられない、悪質な映画祭も存在するという話も聞きます 。

内田英治: 残念ながら、そういった悪質な映画祭も存在します。海外では、エントリーフィービジネスが横行しているという話も聞きます 。

内田英治: そして、映画製作に関する情報共有の場を増やすことも重要です。コロナ禍以降、監督や役者が情報交換する場が減ってしまいました 。以前は、映画祭などで活発な情報交換が行われていましたが、今はそういった場が不足しています。

重松りさ: 私も、映画製作を通して、全体を俯瞰して見られるようになるには、まだまだ経験不足だと感じています 。先輩方の経験や知恵を共有できる場があれば、より多くの若手映画人が成長できると思います。

インタビュアー: 確かに、個性的な俳優が活躍できる場が狭まっているという問題は深刻です。大抜擢されるような、新しい才能の発掘が少なくなっていると感じます。

内田英治: また、大手事務所所属の俳優が大きな作品にキャスティングされる傾向が強まっていると感じます 。

才能ある俳優がスタート地点に立てない現状は、大きな問題です 。事務所の力関係だけでキャスティングが決まってしまうのではなく、実力のある俳優が公平にチャンスを得られるようにすべきです。

西川達郎監督: 今回の「太陽がしょっぱい」のように、役者主導で映画を製作するスタイルは、今後ますます増えていくと思います 。役者が作品に深く関わることで、より魅力的な作品が生まれる可能性があります。

インタビュアー: 作品への愛着も強まりますし、チーム全体の一体感が生まれますよね。

西川達郎監督: ええ。商業映画では、どうしても役者は「最後に呼ばれる存在」になりがちです。限られた役割しか与えられないことが多いですが 、インディーズ映画では役者が主体的に作品作りに参加することができると思います。

インタビュアー: インディーズ映画には、まだまだ多くの可能性が秘められていますね。今回の皆さんの話を聞いて、改めてそう感じました。

インディーズ映画界における事務所の力と役者主導型映画の台頭

インタビュアー: インディーズ映画界でも、事務所の大小やフリーランスなど、様々なバックグラウンドの役者が活躍すると、もっと面白い作品が生まれると思いませんか? 最近は、集客力のある有名な俳優さんばかりを起用した映画が増えている気がします。現場で頑張っている役者にも、もっと活躍の場を与えてほしいですね。

内田英治: そうですね。一昔前までは、インディーズ映画から頭角を現す役者も多かったのですが…。
最近は、大手事務所が力を持っているため、そういったチャンスが減っているように感じます。監督やプロデューサーは、新しい才能を発掘することに、もっと積極的になってほしいです。

西川達郎監督: 確かに話題になるような大抜擢は、少なくなりましたね。

重松りさ: 映画『ミッドナイトスワン』で、内田さんが服部樹咲さんを抜擢したケースは、まさにそういった大抜擢だったと思います。

インタビュアー: 本当に、素晴らしい抜擢でしたね。

内田英治: 事務所の力関係だけでキャスティングが決まってしまうのは、問題です。才能ある役者がスタート地点にすら立てない状況では、映画界の未来は暗いと言わざるを得ません。

西川達郎監督: 今回の「太陽がしょっぱい」のように、主演俳優がプロデューサーを兼任するスタイルは、一つの解決策になるかもしれません。

内田英治: トム・クルーズも、自分で製作会社を立ち上げて、自分の作品を製作しています。役者が主体的に映画製作に関わる流れは、今後ますます加速していくと思います。

重松りさ: 商業映画では、役者はあくまでも役者でしかないことが多いです。

インタビュアー: 確かに、商業映画では、どうしても「力とお金」が優先されてしまう部分があります。役者が主体的に作品作りに参加できる環境を作ることは、インディーズ映画界の大きな課題ですね。今日は、貴重なお話をありがとうございました。今後のインディーズ映画界の発展に期待しています!

整形をテーマにした理由と主人公のビジュアル

インタビュアー: 作品の内容について伺いたいのですが、クラウドファンディングのページに掲載されていたテーマとして、未成年の整形、家族、自分自身という3つがありましたよね。その中でも特に、整形というテーマは西川監督の発案だったそうですが、このテーマに注目したきっかけや、映画で描きたいことについて教えていただけますか?

西川達郎監督: SNSで整形に失敗した人が「どうしたらいいんだろう」と悩んでいる投稿を見たのがきっかけです。整形手術には失敗のリスクがあること、失敗したら簡単には修復できないこと、そして、質の悪いクリニックが増えていることを知りました。調べてみると、整形をする人は10年前と比べて10倍に増えているそうです。需要が増えている一方で、技術のある医師は不足しているという現状があります。 元々、様々な問題を抱えながら生きている人たちの姿を映画にしたいという想いがあって、整形をしなければならないほどのコンプレックスを抱えている人の苦しみや、現代社会におけるルッキズムの問題などを描きたいと考えました。 ルッキズムをテーマにした映画はサスペンスやホラーが多いのですが、今回はそういったジャンルとは違う作品に挑戦したいと思いました。 重いテーマではありますが、作品全体としてはどこかユーモラスに仕上がっていると思います。

インタビュアー: なるほど。重松さんの役作りについても伺いたいのですが、コミカルなシーンも多く含まれ、とても魅力的な作品でした。重松さんの演技と西川監督の演出が見事に調和していて、素晴らしい作品だと思いました。あの独特な雰囲気は、どのようにして作り上げたのでしょうか?

西川達郎監督: 重松さん自身は、正義感が強く、華やなイメージなので、今回の主人公像とは少し違っていました。そこでメイクで一重まぶたにすることにしました。 そのレッスンもしましたね。 結果的にイメージ通りの主人公を表現することができました。

インタビュアー: 魅力のマスキングですね。重松さん自身のリミッターをかけたというか…。 重松さんご自身は、伏し目がちで、どこか不機嫌そうな、抑圧された雰囲気をどのように作り上げていったのでしょうか?

重松りさ: メイクでは、まぶたにノリを付けて二重を隠していました。カメラアングルや顔の角度によっては、ノリが見えてしまうこともあったので、西川監督に「大丈夫ですか?」と確認しながら撮影を進めました。 衣装合わせの最終日には、内田さんにもチェックしていただき、「このぐらいの目の開き具合でいきましょう」と決めました。 まつ毛の本数を減らすことで、さらに重たい印象を出すことができました。 見た目を変えて演技をすることに、少し抵抗もありましたが、私自身もコンプレックスを抱えているので、そういった部分を役に重ね合わせれば大丈夫だと思っていました。 見た目と内面をリンクさせて演じることを心がけました。

インタビュアー: なるほど。伏し目がちな表情が多くなりがちな役柄でしたが、見事に演じ切っていましたね。 これは、ある意味、冒険的な挑戦だったのではないでしょうか?

重松りさ: 西川監督は、「もっと目を開けてもいいよ」とか「今はこのままで」とか、シーンに合わせて指示を出してくれました。 おかげで、安心して演じることができました。

内田英治: 俳優は、意外にも自分に自信がない人が多いんです。美男美女が多い世界なのに、不思議ですよね。 今回の重松さんのように、自分のコンプレックスと向き合い、それを役作りに活かすことで、新たな魅力が引き出されることもあるのではないでしょうか。

映画タイトル「太陽がしょっぱい」に込められた想い

インタビュアー: 重松さんの役作りは本当に素晴らしかったです!伏し目がちの表情が多かったですが、見事に演じ切っていました。ところで、映画のタイトル「太陽がしょっぱい」は、どのように決まったのでしょうか?内田さんのアイデアだと伺いましたが…。

内田英治: 実は、僕自身も10代の頃は太陽の光をまともに感じることができない、暗い少年時代を過ごしていました。太陽は燦々と輝く明るいイメージだけでなく、「しょっぱい太陽」もあるんだということを表現したかったんです。 僕も西川監督も、影のある人物を描いた作品が多いので、今回のタイトルに繋がったのだと思います。

西川達郎監督: 今回の主人公は「キラキラ」とは程遠い女の子ですからね。だからこそ、「しょっぱい太陽」という言葉がぴったりだと思いました。

内田英治: 「太陽がサンサン」なんていうタイトルの映画は、僕の人生では絶対に作ることはないでしょうね(笑)。

インタビュアー: ああ、あの名作映画のタイトルをもじったんですね!

内田英治: まあ、そうですね。でも、あの作品も主人公は影のある人物でしたよね。 考えてみると、「太陽」という言葉がタイトルに入っている映画で、主人公が明るいキャラクターの作品って、意外と少ないかもしれませんね。

インタビュアー: 「しょっぱい」という言葉は、昔と比べて様々な意味で使われるようになりましたよね。 この映画全体の世界観や、ちょっと変わった雰囲気を表現するのに、ぴったりの言葉だと思いました。

重松りさ: 本当にインパクトのあるタイトルですよね。

内田英治: 実は、雑誌記者時代に毎週たくさんの記事タイトルを考えていた経験が、今回のタイトルにも活かされているのかもしれません。 あの頃は「タイトル千本ノック」状態でしたから(笑)。

重松りさ: 「タイトル千本ノック」ですか(笑)。

インタビュアー: 最近はAIで簡単にタイトルを生成できるようになりましたよね。テーマやキーワードを入力するだけで、あっという間に何百個もの候補が出てくる時代です。 便利な反面、じっくりと考え抜く時間が減ってしまうのは、少し寂しい気もしますね。

内田英治: そうですね。 苦労して生み出したタイトルだからこそ、愛着もひとしおですから。

映画「太陽がしょっぱい」観客へのメッセージ

インタビュアー: 上映にあたって、作品を見る方へのメッセージ、見どころなどを教えていただけますか?

重松りさ: この作品は、私一人では作れませんでした。沢山の方に助けていただいて、ようやく完成した小さな映画です。 この映画を通して、自分に自信がない人や、一歩踏み出せずにいる人に、エールを送りたいと思っています。コメディ要素もあるので、気軽に楽しんで観ていただけたら嬉しいです!

西川達郎監督: 僕自身、コンプレックスを抱えながら生きてきました。 同じように生きづらさを感じている人に、ぜひこの映画を観てほしいです。この映画は「自分が見えてることだけが全てではない」ということを伝えています。 人生の悩みは、意外と大したことではないと気づかせてくれるかもしれません。もちろん、オフビートなコメディとして純粋に楽しんでいただくこともできます。 重松さんをはじめ、素晴らしいキャスト陣の演技にもご注目ください。

内田英治: 私は50代なので、若い世代との価値観の違いを感じることがあります。 この映画は、そんな価値観の違いを浮き彫りにしている作品だと思います。同世代の方々には、ぜひその点に注目して観ていただきたいです。 そして、役者である重松さんが、ここまで情熱を注いで作り上げた作品であるということを、多くの役者の方に知ってほしいです。 特に、チャンスに恵まれない役者の方々に、この映画が希望を与えられたら嬉しいです。

インタビュアー: 私もインディーズ映画を応援する理由は、まさにそこにあります。 頑張っている人が報われてほしい、そして、その成功体験が後に続く人の道しるべになってほしいと願っています。

内田英治: インディーズ映画は、経験した人でないと、その苦労や魅力はなかなか理解できないかもしれませんね。

インタビュアー: そうですね。一般的には、映画館といえば、東宝、東映、松竹のほか、映画館では、イオンシネマや109シネマズ…などが思い浮かぶと思いますが、それ以外の映画館の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。

内田英治: 最近の若い子は、「ミニシアター」という言葉を知っていても、「単館」という言葉には、馴染みがないのかもしれません。

インディーズ映画が、それなりに盛り上がっていた時代もあり、単館映画文化が花開いていた時代があった。そういった流行がまたやってくる可能性もなきにしもあらず。盛り上げたいですね。


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映画『太陽がしょっぱい』

【ストーリー】
由緒正しきお寺の娘である河合美波は、愛知・豊橋の⽥舎で育った高校2年生。

友達の彼氏の話を聞いたり、暇つぶしにsns動画を見ては、のほほんとした⽥舎生活を過ごしていた。そんな折、中学生の同級生、花怜の動画を見つける。

なんと花怜はぱっちり二重まぶたに大変身していた。パッとしなかったあの花怜が、キラキラモテ女になってる事に驚く。

自分も整形をしたいと家族に打ち明けるが、大反対をくらう。そんな中、美波は決意する。

美波は整形に向けて行動を起こし始めるが、様々な価値観が交差するなか、美波は整形をするのか?

監督 西川達郎
出演
重松りさ/金野美穂/赤間麻里子/野村たかし/小田原さち/速水今日子/平美乃理/松尾潤/斉藤天鼓/梁瀬泰希/小浜桃奈/永田彩葡/安部一希/静谷篤

作品データ 2023年/日本/86分/2ch/シネスコ
配給 ARK Entertainmet,Inc.

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1/17(金)より、いよいよ大分県中津市 セントラルシネマ三光 にて上映

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