映画『憧れdoll』W主演:みやび、秋田ようこ インタビュー

映画『憧れdoll』W主演:みやび、秋田ようこ インタビュー

1月10日(金)から1月16日(木)まで、アップリンク吉祥寺にて、映画「憧れdoll」が上映される。このたび、本作の監督であり主人公を務めたみやびさん、W主演の秋田ようこさんにお時間をいただき、本作にまつわるお話をうかがいました。

■ 映画『憧れdoll』W主演:みやび、秋田ようこ インタビュー

▼本作制作のきっかけ、経緯について

みやび
きっかけは2020年のコロナ禍でした。私は28歳で脱サラ・鹿児島から単身上京して俳優を始めた身なのですが、当初10年を俳優活動の一つの区切りと考えていました。 そんな中、俳優活動7年目でコロナ禍に見舞われ。それまで着実に積み上げてきたものがゼロになってしまった虚無感に襲われて…。

「このままただ待つのは嫌だ」「未来の自分のために何かできることはないか?」と考え、行き着いたのが「自分で映画を制作する」ということでした。 とはいえ私は脚本も書いたことがなければ映像制作も未経験。 とっかかりとして、自分自身を投影したキャラクターを主人公にして描いてみようと。 私自身、HSP(ハイリーセンシティブパーソン:通称「繊細さん」)気質があり、これは「生まれつき感受性が非常に強くあらゆる刺激に敏感な人」を指すのですが、他人の気持ちを感じすぎるが故に無意識に合わせ過ぎてしまったり、自己主張が苦手だったりする側面があって。

そんな気質を持った人を主人公に、彼女がどんな人と出会い、どんな展開をしていったら面白いかな?と考えた時に、悪意ではなくむしろ好意的な「好き」「仲良くなりたい」という感情がこじれて追い詰められていく主人公のイメージが浮かんだのです。

私は「憧れ」ってその人のコアな欲求・コンプレックスみたいなものが最もダイレクトに現れる感情だなと思っていて。この「憧れ」を、追い詰められていく主人公を描く上での一つのテーマにしてみたら面白いんじゃないかな?と現在のような形になりました。 サイコスリラーではありますが、人間の奥深い部分をとことん追い求めました。 茜と尚美、この相反する二人の姿を通して、「自分自身の幸せの形」に目を向けるきっかけになってくれたらいいな、なんて願いながら紡いだ物語です。 

 ▼キャスティングについて

ーどのようなやりとりや、選出の過程を経たか、選出の決め手などを教えてください。 

 みやび
今回、オーディションというものは一切行なっていなくて。ほとんどのキャストは元々の知り合いだったりというところから、お一人お一人お声がけさせていただきました。

けれど「尚美」という、この物語にとってあまりに重要な意味を持つこの役については、なかなかイメージに合う方が思いつかなくて。そんな時に、園田新監督の「DISTANCE」という短編映画に出逢い、出演する秋田ようこさんの繊細な感情表現と佇まいに心を打ち抜かれました。

当時感じた「尚美役はこの人だ!!」という確信と電流が走るような感覚は今でも覚えています。 それから、まだ面識のなかった秋田ようこさんのインスタを見つけ出して、無言フォロー。そして毎日投稿に「いいね」をつけ続けました。

私自身、決して嫌がらせをするつもりではなく、単にいきなりオファーする勇気がなくてこのようなアプローチ(刷り込み)になってしまったんですが、今考えると作品の内容とも相まってだいぶ不気味ですよね…(笑)そのあとちゃんと正式に事務所さんを通してオファーさせていただきましたけど。

秋田ようこ
そうなんです。ある日、俳優みやびさんからSNSをフォローされ「この綺麗な人は誰だろう?」「あれ?たくさん、いいね!してくれる…なぜだろう…」と、日常にみやびさんが突然現れました。当時はちょっと不思議に思いましたね(笑)

そして、事務所にオファーを頂いて「あ!あの方だ」と繋がりました。面識もなく、私の演技を観てオファーいただくということは初めてだったので「私のことを見てくれている人がいるんだ」と、ものすごく嬉しかったです。怖くはなかったですけど、みやびさんの刷り込みはとても効果的だったと思います(笑)

秋田ようこ

 みやび
あとは、同じ手口(笑)でいうと、梨々香役もそうですね。尚美が憧れる「梨々香」には圧倒的なカリスマ性と輝きが必要でした。それはまた「演技」とは違う領域の個性です。タレント名鑑や各事務所さんのHPなども見て回りましたがなかなかイメージに合う方がいなくて。毎日インスタで探していたところ、当時岐阜でモデルをされていた髙田百葉さんのサロンモデルの写真に目が止まって「梨々香いた!」と。それで映画に出てほしい旨をDMさせていただいたんです。

百葉さんに後々聞いたらかなり怖かったらしいですね(笑) あとは、尚美の高校時代の穂紫朋子さんや、茜の高校時代の増田結芽さんなども、「秋田さんや私になるべく雰囲気の近い人を」と色んな人に聞いて回ってようやく探し当てた方たちです。

当時は百葉さんも穂紫さんも演技未経験で、結芽さんも映画は初めてだったとのこと。よくぞこの作品を受けてくださったなと感謝でいっぱいです。 

▼作品作りのエピソード

ー脚本執筆時、撮影後の編集、完成に至るまでのエピソードを教えてください。  

 みやび
先ほど申し上げたように、私は当時脚本を書いた経験も映像制作の経験もなかったので、脚本執筆から撮影・編集・完成に至るまでのすべての工程が手探りの状態でした。 実は当初『憧れdoll』とは別の物語を考えていたのですが、そのお話は早々に煮詰まって書けなくなってしまって。気分転換にとフリマアプリを覗いていた時に「あ、こういうことってありえるかもな?」と突然アイデアが降りてきて。それから3日くらいで今の『憧れdoll』に近い物語のプロットが書き上がったんです。

そのあと、いろんな方に読んでいただいて意見をもらったり、自分でも「各キャラクターに整合性は取れているか?」などと各キャラクターを「今日は尚美」「次は淳平」といった感じに一通り演じながら言動を整理・修正していきました。

最も苦労したのは資金集めとスタッフ集めの部分で…AFFなどの助成金も一通りチャレンジしたのですが通らず。結局、クラウドファンディングと当時の全財産、それでも足りず借金もして制作に踏み切りました。スタッフも元々チームがあったわけではなく、縁とタイミングが合わさってたまたま繋がることができた人たちでした。

実際、コロナの影響が残る中での撮影は想像以上にハードなもので、途中で私自身がコロナにかかり撮影を中断したり、犬キャストさんの飼い主さんがコロナになって撮影3日前にやっと代役の「なずなちゃん(柴犬)」が見つかったり…と、次から次に襲いくる不測の事態に早々に資金もつき、心もズタズタに。

けれどスタッフの皆やキャストの皆さんが本当に良い人ばかりで、とにかく仲が良くて。色々と苦労も強いてしまったのに、皆文句も言わず最後まで並走してくれました。状況は大変ではありましたけど、撮影時を思い出すと楽しかった思い出ばかりが思い浮かびます。奇跡のようなチームに感謝です。

編集は撮影とは打って変わって一人で行う孤独な作業だったので、結構辛かったですけど。それでも物語が終盤に差し掛かる頃には「思った以上に良い作品になったかもしれない」という感動が勝って、シーンを繋ぐのが楽しかったです。

▼脚本・作品に対して

-脚本を最初に読んだ時の感想、完成した作品を観ての感想はいかがでしたか? 

秋田ようこ
自主作品は、作家性が色濃く反映されていたり、語りが少ないものも多いですが、みやびさんの脚本は自分の色を出しながらも、あくまで、観客がいるという視点をもっていて、エンターテイメント性というか、娯楽性を感じさせる脚本だなと思いました。

それを初脚本で書き上げたなんて、驚きでした。 あと、読み終えてからはしばらく、取り憑かれたように「憧れ」という感情について考えてしまいました。その気持ちの動機や変化、好意的な感情が、なぜ相手を傷つけることに変わってしまうのか。尚美の「憧れ」の気持ちは特別なものなのだろうか、など。

完成した作品を観た時は、「みやびさんやり切ったな!」という想いと、それから、想像以上に尚美を丁寧に描いてくださったことがたまらなくて、涙が流れました。ご自身が主演されていながらも、描きたい人物の最期をしっかり描ききって見放さなかった。ありがとうございました、という気持ちでしたね。 

▼ご自身が演じたキャラクターに対して

 -ご自身が演じたキャラクターをどのようにとらえ、お芝居にどう活かしたか。取り組んだことは? 

 みやび
茜は、親切で繊細な性格の中にも、弱さゆえの狡さみたいなものを持っていて。それは作為ではなく刺激に弱く傷つきやすい性質の自分を守るための防衛反応故ではあるのですが、そんな自分の一面を自覚し苦しんでいたりと、ある意味とても人間らしい人だなと思っています。あまり主人公にならないタイプのキャラクターかもしれないですね。

私はそれまで、どちらかというと自分とかけ離れたキャラクターを演じさせていただくことが多かったんですが、今回演じた茜は極めて私に近い人物。いわゆる「役づくり」というものが要らない代わりに、何の鎧も纏わず丸腰で戦に出されるような一種の怖さがありました。

けれど似てはいるけど、茜と私は違う人物。脚本を書く作業と同時に、演技の下準備といいますか…茜の経験したことを徹底的に自分にインプットして信じ込ませていきましたね。 茜が抱えている高校時代のトラウマがあるのですが、あのエピソードは私自身の大学時代の親友とのことをベースにしていたりするので。

さえちゃんに関連するシーンでは、胸がチクチク痛むような…演じながら自分と茜との境界線が溶けていくような不思議な感覚を何度も味わいました。 現場では監督として色々と段取りもしなくてはいけなかったので、普段俳優として現場で演じる時のように役をずっと自分の中には留めて置けなくて、演じることと監督業との切り替えには毎回苦労しました。

秋田ようこ
初めてお会いしたときにみやび監督から『尚美を決して悪者には描きたくない』というお話を伺って、その言葉が自分の中に宿ったように思います。尚美の描き方によって、全然違う作品になると思っていたので、その言葉を聞いてこの作品の方向性を感じ取り、共感しました。

尚美を演じる上で、特に重要だったのは脚本に描かれていない部分でした。みやびさんがキャラクターノートを渡してくださったので、尚美の幼少期の母との関係、高校時代の梨々香との思い出を核として、茜と出会うまでどのように生きてきたかを1枚ずつ重ねていくような感じでしょうか。

あと、前髪を少し切りすぎてしまったことがあったんですけど、その髪型が「あ、尚美っぽい」と直感的に感じて。それは「幼さ」でした。年齢も体ももう大人の尚美ですけど、内面は高校時代から何も変わっていない。尚美の中に内在する幼さを表現することで、説得力を持たせられるのではと考えました。

そして、尚美の生きる意味を考えました。きっと何度も自分の人生を終わらせようと考えたこともあった。それでも生きている。それは、梨々香と過ごした時間が生まれて初めて幸せを感じた時間で、そんな時間がまたいつかきっと訪れると信じたかったのではないでしょうか。ただそれだけに向かって生きた。尚美は”幸せになりたい”と、ただ願っていた。私と変わらないんですよ。

でも尚美からしたら、その幸せへの手がかりは「オソロイ」ということしか分からなかった。私は尚美の味方になって、一番の理解者になろう、良い部分も悪い部分も知っている親友のように、尚美とゆっくり対話をしていったような感覚です。 

▼撮影時のエピソード 

みやび
撮影スタッフは私の他に、撮影監督の角さん、助監督の緒方さん、録音の渡邉さん、たまに制作部の山田さんに入ってもらう、といった感じに、3〜4人で回していたので。 私自身も衣装・小道具・制作…と、とにかくやることに追われフル稼働で睡眠時間も連日2〜3時間。 撮影7日目のある朝、撮影部屋のインターホンが鳴って飛び起きたら助監督やスタッフ、秋田さんが来ていて…ということがあったんですけど。

どうやら私は前の日の衣装・メイクのまま、翌日の衣装を準備している最中に寝落ちしてしまったようで。 歯を磨きながら「ふぉふぁようふぉざいまふ…」って皆を迎えて、秋田さんに「すみません。寝過ごしちゃって、お風呂も入ってなくて。

急いで準備するので少し待ってていただけますか?」と伝えながらパニクっていたら「大丈夫ですよ。私、ちょっと散歩してきますね」と言って外に出て行かれたんですけど。戻ってこられた時に「これ、食べてください」ってコンビニのおにぎりと飲み物の入った袋を手渡してくださって。あの時の秋田さん…聖母マリアかと思いました(笑)

その後に撮影したシーンが、茜が部屋で尚美を介抱しながら「…疲れが溜まってたのかな?」と心配そうに声をかけるシーンなんですが、カットがかかった後に「いや、みやびさんがね!」と現場のみんなに突っ込まれました。 

秋田ようこ
すでに公開後のインタビューになりますので、ネタバレありでお話しますと、


<以下、文字の色を薄くしてあります>


最後のクライマックスのマンション別室のシーン。画面に映っていない側の尚美はもちろん、茜も私が演じています。作品の肝になる重要なシーン。カットごとに役を入れ替えて、衣装を取り替えて、とにかく全集中、スタッフキャスト全員が極限状態でしたね。深夜におよぶ撮影となり、精神的にも体力的にもかなり消耗しました。役だけでも大変なのに、監督脳と俳優脳を切り替えながら、やりきってみせたみやびさんは怪物です…(笑)いえ、本当に尊敬しかないですね。そんな挑戦をご一緒できて、とても光栄でした。

 ▼作品を観る方へのメッセージ 

秋田ようこ
この作品はジャンルとしてはサイコスリラーですが、コミカルな部分もシリアスな部分もあり、人間が描かれています。観た方からはさまざまな感想があり、その反応に、映画としての広がりを感じています。きっと楽しんでいただけると思いますので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。みやび監督のすべてを注ぎ込んだ魂の一作です!よろしくお願いいたします。

  みやび
SNSが発達して、芸能人やインフルエンサー、これまで知り得なかったいろんな人の生活を垣間見れるようになった反面、必要以上に自分を惨めに感じたり、抱く必要のなかったコンプレックスを強く抱いてしまうこともあるんじゃないかなと思います。

傍目には十分素敵で恵まれているように見えていても、心の奥底には暗いものを抱えていたり。「尚美」はそういった現代の病や理不尽を凝縮したような人物。 目には見えない生きづらさを抱えた人たちにとって、この作品を観る2時間とちょっとが、少しでも心の拠り所になってくれたらなと思いながら作りました。

秋田さんを始め、魅力あふれる素晴らしいキャストの皆さんにもぜひご注目いただきたいです。 本作メインロケ地となった吉祥寺にて、皆様のご来場をお待ちしています。 


映画『憧れdoll』

Cast
みやび 秋田ようこ
大門嵩 渡部瑞貴 浅森夕紀子 穂紫朋子
髙田百葉 岡慶悟 ホビー 高木公佑 斎藤陸
増田結芽 南山莉來 高木美嘉 大山真絵子 太田真也
アベラヒデノブ 佐々木しほ 児島陽子 佐藤大地  ほか



Staff
助監督 緒方一智
撮影監督 角洋介 
録音 渡邉玲/木原広滋
制作 山田岬
カラーグレーディング 角洋介
VFX ひらさわとも
スチール 藤咲千明/臼田亜佑美
ポスタービジュアル撮影 澤田もえ子
ラインプロデューサー 中根大輔
主題歌 「Figaro」fumi
監督・脚本・編集 みやび


2025年 1/10(金)〜1/16(木) 各日19:50〜(連日アフタートークあり)
アップリンク吉祥寺にて1週間限定ロードショー

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