第16回TAMA映画賞授賞式レポート。最優秀男優賞に藤竜也、吉沢亮。最優秀女優賞に上白石萌音、河合優実

第16回TAMA映画賞授賞式レポート。最優秀男優賞に藤竜也、吉沢亮。最優秀女優賞に上白石萌音、河合優実

2024年11月30日、パルテノン多摩大ホールにて「第16回TAMA映画賞」授賞式が開催された。11月16日から開幕した映画ファンの祭典「第33回 映画祭 TAMA CINEMA FORUM」の中でも、ひときわ華やかなイベント。「第16回 TAMA 映画賞」は、多摩市及び近郊の市民からなる実行委員が「明日への元気を与えてくれる・夢をみさせてくれる活力溢れる<いきのいい>作品・監督・俳優」を、映画ファンの立場から感謝を込めて表彰するイベント。

■ 「第16回 TAMA 映画賞」

最優秀作品賞

最優秀作品賞は、『夜明けのすべて』(三宅唱監督)と『ぼくのお日さま』(奥山大史監督)の2作品が受賞。

  • 『夜明けのすべて』は、PMS(月経前症候群)とパニック障害を抱える主人公たちの姿を丁寧に描き、観客に希望を与える作品として高く評価された。三宅監督は、この作品を通して自身も「思い込みから自由になれた」と語り、観客にも同様の体験を提供できれば嬉しいと述べた。
    主演の上白石萌音さんと松村北斗さんの自然体の演技、そして2人の軽妙なやり取りも高く評価された。
  • 『ぼくのお日さま』は、雪が降る季節の小さな恋物語を、光と音楽が一体となった美しいスケートシーンで表現し、観客を魅了。奥山監督は、本作が第11回TAMA映画賞で出会ったプロデューサーとの縁から生まれた作品であると明かし、再びTAMA映画賞で評価された喜びを語った。

  • 出演者の越山敬達さん、中西希亜良さん、池松壮亮さんは、撮影時のエピソードを交えながら、作品の魅力を伝えた。

最優秀男優賞

最優秀男優賞は、藤竜也さん(『大いなる不在』)と吉沢亮さん(『ぼくが生きてる、ふたつの世界』『キングダム 大将軍の帰還』『かぞく』)が受賞。

  • 藤竜也さんは、認知症が進行する大学教授役を、圧倒的な存在感で演じ切り、観客を作品の世界に引き込んだ。藤さんは受賞の喜びを語りつつ、53年間の俳優人生を振り返り、TAMA映画賞からの受賞を「冷たい美味しい水」に例え、感謝の言葉を述べた。
  • また、海外の映画祭でジャック・ニコルソン氏に会った時のことを明かし、思わず侍のように身構えたことを語った。

  • 吉沢亮さんは、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で、手話でコミュニケーションを取る青年役を自然体で演じ、観客に深い感動を与えた。吉沢さんは、手話の表現の難しさについて語りながらも、周囲のサポートに感謝し、作品を完成させた喜びを語った。
司会: 吉沢さん、本日はTAMA映画賞での受賞、おめでとうございます!

吉沢亮: (笑)ありがとうございます!めっちゃ緊張しますね。

司会: 6年前にもTAMA映画祭で新人賞を受賞されていますよね。今回は30歳という節目の年に、再びこの映画祭で賞をいただけて、感慨深いのではないでしょうか?

吉沢亮: はい、本当に。TAMA映画祭での新人賞は、僕にとって初めての映画賞だったので、とても特別な思い出です。そして今回、30歳になる年にまた賞をいただけたということで、すごく縁を感じています。本当にありがとうございます。

司会: 最新作『僕が生きてる、ふたつの世界』では、思春期の中学生からアイデンティティを確立した社会人まで、長い年月の成長を描いています。演じてみていかがでしたか?

吉沢亮: ええ、今年30歳になる男が中学生を演じるというのは、むちゃくちゃ大変でしたね(笑)。監督からは「声を高くしてくれ」「今、ちょっとおじさんかも」とずっと言われて、「ちょっとよくわかんないな」と思いながらも、全力でやらせていただきました。

司会: この作品では手話でのコミュニケーションが重要な要素となっていますが、苦労された点はありましたか?

吉沢亮: 手話って、眉毛の動かし方や口の開き具合で文法が変わってくるんです。同じ手話でも、眉毛を上げることで疑問形になったりとか、表情がとても豊かです。僕が演じた五十嵐大は、どちらかというと表情が出づらい寡黙な男というイメージで演じていたので、演技と手話の表現が矛盾してしまう瞬間が結構あって、そこが大変でしたね。

司会: ではここで、『僕が生きてる、ふたつの世界』の呉美保監督にお越しいただきます。監督は以前から吉沢さんの演技のファンだったそうですが、実際に現場でご一緒されていかがでしたか?

呉美保監督: あのー、ちょっといいですか?皆さん、スマートに表彰されている中、私は表彰されるとき、どっちを向いて立ったらいいか迷ってしまって…でも吉沢さんも同じで、クククッってなって、すごい嬉しかったです(笑)。

司会: (笑)

呉美保監督: 私が育児中に吉沢さんの作品をいくつか拝見したのですが、どれも完璧で。でも、もっと別の面も見てみたいと、一視聴者として思っていたんです。それで今回、この作品でご一緒することになった時、無理やりなこじつけではなく、新しい吉沢亮を見せられるんじゃないかと。私自身がまず観客という立場で想像したときに「これは!」と思い、プロット段階からオファーさせていただきました。

司会: なるほど。吉沢さんは、オファーを受けた時のお気持ちはいかがでしたか?

吉沢亮: 僕も呉監督の作品のファンでしたし、いつかご一緒したいと思っていたので、お話をいただいた時は本当に光栄でした。

司会: 吉沢さんは手話での演技に苦労されたとのことですが、監督はどのようにご覧になっていましたか?

呉美保監督: 実は、吉沢さんにオファーをして快諾していただいた時点で、正直心配はしていませんでした。この作品は手話はもちろん、ろう者の役は全員当事者の方に演じていただいています。リアルな世界観を作りたかったんです。実在する方のお話なので、ドキュメンタリーを見ているような感覚の中で、手話ユーザーではない方が演じるのは大変だったと思います。

司会: きっと大変なプレッシャーだったでしょうね。

呉美保監督: コーダ(Children of Deaf Adultsの略称で、耳が聞こえない、または聞こえにくい親のもとで育つ子どものこと)と言っても様々な方がいらっしゃいますが、この作品の主人公は思春期の反抗期で一度手話を捨ててしまったという設定でした。なので、クシャクシャとした部分も含めた手話表現と成長していく姿を見たいと思っていました。吉沢さんはそのハードルを軽々と越えてくださって、本当に感謝しています。

司会: この作品の手話を演出された方は、吉沢さんの演技を「白鳥のよう」だとおっしゃっていました。一見優雅に見えますが、水面下では一生懸命足を動かしている、と。

吉沢亮: これまでにも手話を扱う作品はありましたが、この作品では日常にまで落とし込まれたリアルな手話を監督は目指していました。僕もその部分を大事にしていたので、ハードルは高かったですね。手話を演出してくださったお二人(石村真由美さん、早瀬憲太郎さん)と監督と、2ヶ月間みっちり練習させていただき、どうにか形にすることができました。

司会: 素晴らしいですね。最後に、今後の抱負や映画の予定について教えてください。

吉沢亮: 来年は2本くらい映画が公開されるので、ぜひ観てください!抱負は、今までと変わらず、自分が好きな作品や愛せる役をこれからも演じていきたいと思っています。今後とも頑張ります!よろしくお願いします!

▼最優秀女優賞

最優秀女優賞は、上白石萌音さん(『夜明けのすべて』)と河合優実さん(『ナミビアの砂漠』『あんのこと』『ルックバック』『四月になれば彼女は』)が受賞。

  • 上白石萌音さんは、『夜明けのすべて』で、一生懸命に生きる女性役を愛情たっぷりに演じ、観客に穏やかな幸福感をもたらした。上白石さんは、様々な挑戦を通して多くの支えがあったことに感謝し、今後も周りの人に感謝しながら活動していきたいと語った。
上白石萌音さんコメント要約

司会: この度は、素晴らしい賞の受賞おめでとうございます!

上白石萌音: ありがとうございます!映画『夜明けのすべて』に関わった皆様、そして原作者の瀬尾まいこ先生に心から感謝申し上げます。この映画祭の温かい雰囲気に感動し、喜びもひとしおです。

司会: 上白石さんは、色々な場所で「この映画が好きです」と言われる度に「わかります。私も好きです」とおっしゃっているそうですが、具体的にどの様なところが気に入っていらっしゃるのでしょうか?

上白石萌音: 私が演じたPMS(月経前症候群)に悩む藤沢美紗と、松村北斗さん演じるパニック障害を抱える山添の物語ですが、この映画の好きな点は、PMSやパニック障害が主題ではないところです。
これらはあくまでも一つの要素で、そこから生まれる人と人との繋がりや優しさ、面白さなどが主軸になっています。押し付けがましくなく、自然な温かさが漂っている作品だと感じています。

司会: なるほど、登場人物たちの心の交流が魅力的なんですね。ところで、上白石さんご自身も「好きです」と言われたら「ありがとうございます」より先に「わかります」と言ってしまうほどこの映画がお好きだそうですね。

上白石萌音: はい(笑)。それほどこの作品に共感しています。

司会: 身体のリズムによる不調や心の浮き沈みに翻弄されながら、懸命に生きる藤沢さんを演じる上で、難しかった点はありましたか?

上白石萌音: 実は私も生理が重くて、藤沢さんほどではありませんが、生理前後は心身が不安定になることがあります。なので、今回はこの辛さも何かの役に立つんだなと思えました。
自分自身の心身を観察し、藤沢さんへの共感と理解を深めようと努めました。難しいシーンばかりでしたが、現場では同じ熱量で答えを探してくれるチームの皆さんに支えられ、たくさんの会話を通して心強く撮影に臨むことができました。

司会: 受賞理由に「一生懸命な藤沢さんを愛情いっぱいで表現し、星空を見上げたときのような穏やかな幸福感を観客にもたらした」とありますが、ご自身ではいかがですか?

上白石萌音: なんて詩的で美しい表現だろうと、とても嬉しくて、何度も読み返してしまいました。特に、役への愛情という点を評価していただけたのが、本当に幸せです。

司会: 舞台「千と千尋の神隠し」のロンドン公演、映画のナレーション、歌手活動など、多岐にわたって活躍されていますが、今年一年を振り返っていかがですか?

上白石萌音: ありがたいことに、たくさんの挑戦をさせていただきました。その度に壁にぶつかり、自己嫌悪や周りの方への嫉妬に苛まれることもありました。
でも、その度に周りの方々が、言葉や態度で示してくれたり、相談に乗ってくれたり、優しく接してくれたりして、本当にたくさん支えていただいた1年でした。
この仕事を続ける限り…というか、どんな仕事でも、仕事をしていない時でも、そういう負の感情は一生ついて回るものだと思います。でも、その度に周りを見渡して感謝し、これからも頑張っていきたいです。

司会: 上白石さん、最後に今後の抱負や映画のご予定があれば教えてください。

上白石萌音: 映画は、また何作品か出演させていただいていますので、もしご興味があれば是非。
いつも楽しそうで、幸せそうな人でいたいというのと、小さい頃から両親に「人の役に立ちなさい」と言われ続けてきたので、誰かの役に少しでも立てるような、藤沢さんのような温かいおせっかいをいっぱいしていけたらいいなと思っています。

  • 河合優実さんは、『ナミビアの砂漠』で、新時代のヒロイン像を体現し、観客に強い印象を残した 。河合さんは、出会いに恵まれた1年であったこと、作品を通して世界で起きている問題について考え続けていきたいという思いを語った。

最優秀新進監督賞

最優秀新進監督賞は、近浦啓監督(『大いなる不在』)と山中瑶子監督(『ナミビアの砂漠』)が受賞しました。

  • 近浦監督はビデオメッセージで、受賞の喜びと、主演の藤竜也さんへの祝福の言葉を伝えた。
  • 山中監督は、『ナミビアの砂漠』で、日常の小さな出来事を独自の感性で描き、観客を魅了した 。山中監督は、主演の河合優実さんから高校生の時に出演依頼の手紙をもらったことが、本作の制作のきっかけであったことを明かした。

最優秀新進男優賞

最優秀新進男優賞は、松村北斗さん(『夜明けのすべて』『ディア・ファミリー』『キリエのうた』)と齋藤潤さん(『カラオケ行こ!』『瞼の転校生』『からかい上手の高木さん』『正欲』)が受賞。

  • 松村北斗さんはビデオメッセージで、受賞の喜びと、作品に対する思いを語った。

  • 齋藤潤さんは、『カラオケ行こ!』で、ヤクザと合唱部部長の交流を描いた作品で、コミカルな演技で観客を笑わせた。齋藤さんは、共演者の綾野剛さんとのエピソードや、作品への思いを語った。
齋藤潤: ありがとうございます!ここに立てているのは、力強いスタッフの皆様、主演の綾野剛さん、キャストの皆様、そして劇場に足を運んでくださった皆さん、作品を愛してくださる皆さんのおかげです。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

司会: 今年は出演された映画が5本公開されて、ほんとうに大活躍の1年でしたね。その中で特に記憶に残っていることは?

齋藤潤: たくさんの映画に出させていただいて、歴史ある現場に自分が立たせていただく責任や、映画が公開されて、皆さんから反応をいただけるのはすごく幸せなことだなと思いました。撮影中では、役を愛する大切さと責任を感じ、自分自身の弱さを実感する1年でした。同時に自分の中で幸せだなと思える瞬間がたくさんありました。

司会: 『カラオケ行こ!』の撮影現場での綾野剛さんはいかがでしたか?

齋藤潤: 剛さんは愛が強く溢れた方で、初めてお会いしたときから今もその想いは強まっていくばかりなんです。全関係者の皆さんに対する愛だったりとか、役に対する愛を現場の最前線に立ちながら持たれていて、ほんとにほんとにカッコいいっていう想いがずっとあります。その剛さんが、まだ何も知らない僕の隣にずっと居てくださって、撮影中も、そして、公開されてからもずっと助けてくださり、支え続けてくださって、ほんとに感謝しかありません。

司会: X JAPANの「紅」を熱唱するシーンがとても印象的ですが、いかがでしたか?

齋藤潤: X JAPANさんの「紅」は、オーディションの頃から取り組んでいて、この映画にとっての重大さを原作を読んだときも感じていたので、監督をはじめとするスタッフの皆さんと毎回お話をさせていただきながら、そして、毎日のように練習の場を設けてくださって、すごく感謝しています。

司会: あのシーンが成立するまでに長い道のりがあったわけですね。

齋藤潤: とても難しかったです。

司会: 映画祭のパンフレットにもコメントされていますが、『カラオケ行こ!』の脚本の野木亜紀子さんは齋藤さんにとってどんな存在ですか?

齋藤潤: ほんとにカッコいいですね。作品をやられている最中も、そして別の作品に取り組んでおられる今も。野木さんの脚本を演じるのは僕にとってすごく難しかったんですけども、読んでいる時も演じる時も、完成した映像を見ても、楽しみ方が毎度違って見えるので、そこはほんとうにすごいなって感じました。なので、今回この作品で一緒に仕事をさせていただいたのが、すごく幸せでした。

司会: 最後に今後の抱負や映画のご予定があればお願いします。

齋藤潤: もっともっとたくさんの映画にこれからも携われるように頑張りたいという想いが強いです。そして、この映画の2時間という短い中で、役のすべてを写し出せるように、愛することをやめず、生き抜くことを諦めないで、これからも日々精進していきたいです。

最優秀新進女優賞

最優秀新進女優賞は、森田想さん(『辰巳』『朽ちないサクラ』『サユリ』『NN4444』『愚鈍の微笑み』『正欲』)と早瀬憩さん(『違国日記』『あのコはだぁれ?』)が受賞。

  • 森田想さんは、『辰巳』で、復讐心に燃える少女の成長を力強く演じ、観客を圧倒した。森田さんは、7年前、高校生としてTAMA映画祭に参加した思い出を語り、受賞の喜びを噛みしめた。
  • 早瀬憩さんは、『違国日記』で、事故で両親を亡くした少女を瑞々しく演じ、観客の心を温めた 。早瀬さんは、共演者の原日出子さんとのエピソードや、作品への思いを語った。

特別賞

特別賞は、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(呉美保監督)と『ルックバック』(押山清高監督)の2作品が受賞。

  • 『ぼくが生きてる、ふたつの世界』は、ろう者の両親を持つ少年の成長を描き、観客に深い感動を与えた。呉監督は、9年ぶりの長編監督作品となった本作に込めた思いを語り、受賞の喜びを伝えた。

  • 『ルックバック』は、漫画を描く少女たちの友情を圧倒的な熱量で描き、多くのクリエイターに感動を与えた。押山監督は、本作に込めた思いや、主演の河合優実さんと吉田美月喜さんの演技について語った。

授賞式では、受賞者たちの熱い思いが語られ、会場は感動と興奮に包まれた。TAMA映画賞は、映画ファンの立場から、明日への元気を与えてくれる作品、監督、俳優を表彰する映画賞。受賞作品、監督、俳優たちの今後ますますの活躍が楽しみだ。



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