ワルシャワ国際映画祭でのワールドプレミア上映を皮切りに、インディ映画では異例となる 10以上の海外の映画祭で上映され、市井の人々への温かい眼差しと美しい映像で世界中で高い評価を得た映画『ココでのはなし』が 11 月 8 日(金)より シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開。ついに待望の日本凱旋公開を迎えた。
今回、本作でシャオルー役を務めた生越千晴さんにお時間をいただき、生越さんご自身と本作にまつわるおはなしをきかせていただきました。
■ 映画『ココでのはなし』 生越千晴インタビュー
▼お名前の話
ー 生越さんは島根県のご出身で、生越という姓は、島根県で多いそうですね。もしご存知でしたら、お名前の由来についてもあわせて教えていただけますか?
生越千晴
生越という姓は、確かに島根県で多いと耳にしたことがあります。島根県の大田市に多いらしいです。
ただ、多いと言っても、我が家は島根県内で転勤族だったんですけど、一人も出会ったことがないんです。 でも、ちょうどこの前、エフエム山陰のラジオの方で、初めて同じ苗字である生越さんという方に出会いました。それくらい少ないです。
「千晴」の名前の由来は晴れた青空のように綺麗な澄み渡った心を持った人になってほしい。と両親が名付けてくれました。でも私、「生越千晴」って、なんか全体的にいかつい感じがする字面だなって、見るたびに思っていて(笑)、うーん。と思っていたんです。
でも、蓬莱さんと初めて演劇をやった時に、そういう話をしたら、「“”生きて越えて千の晴れを見る“”じゃん、めちゃくちゃ素敵じゃない?」と言われた時に、「あぁ、そうか…!」と、人からそんなふうに言ってもらえただけで自分の名前に対する価値観が変わるのって、言葉ってすごいな。伝えるってすごいな。と思いました。そこから名前をあっという間に好きになりましたし(笑)、素敵だなと誰かに思うことがあったら伝えるようにしています。
ー 素敵な解釈ですね。
▼役者を目指した経緯
ー 生越さんが目指すことになった「役者」について、どのような印象がありましたか?
生越千晴
そもそも興味がなかったです。全く。もちろん島根という田舎にいたっていうのもあるし、興味がなかったから、余計に関わりがなかったというか。だから映画を見るとか映画館に行くっていう行為もあまりなくて。初めてジブリの「千と千尋の神隠し」を家族と映画館に見に行った時とか、デートで行くとか、そういう私にとってはちょっと特別なことで日常とはかけ離れていたので、役者になりたいっていう感覚は全くなかったです。
なので演劇・舞台をやるんだって初めて家族に伝えた時は、すごくびっくりしていましたし、「上京したい」って言った時も、とても衝撃を受けていました。でも演劇を見てくれた後だったので「そう言うと思った」と言ってくれて、家族それぞれいろんな想いがあったと思いますが送り出してくれました。
▼大学で学んでいたことと演劇へのつながり
生越千晴
大学は芸術系だったので、卒業制作がありまして、それにかなりのお金をかけて作品を作るのはもったいないって思ってしまったんです。「こんな気持ちでやってちゃダメだ」っていうのもありましたし、その資金を上京資金にもしたかったので、決断の勢いはあったと思います。
そういった私を、大学卒業してからにしたら?後悔するよ。と止めようとしてくれる人もいたし、「よく決めたね」って言ってくれる人たちもいて、大人たちが二手に分かれていたな…ていう記憶があります(笑)お陰でしっかりと考えられたし、そういう周りにいてくれた人生の先輩たちのおかげで今の私があるのでとても感謝しています。
ー 上京することは、大きな決断でしたね。
生越千晴
そうですね。でも、やっぱり「良かった」って思っています。これまでのいろんな選択は私にとって必要だったというか。上京してから自分のことが嫌いな時期も長くありましたが、いろんな経験、選択をしてきて、今の自分はとても好きです。なので上京する選択も私が人として成長していくために必要だったんだなと感じています。まだまだこれからもいろんな経験や選択をしながら自分を見つめていきたいです。
▼ものづくりから
ー ものづくりという点では、今の演劇や芝居作りとつながっている部分はありますか?
生越千晴
そうですね。みんなでひとつの作品を作り上げる中での楽しさや苦しさとか、想像もできないところへ行けるかもしれないワクワクは繋がっていると思います。
ー 以前、コンパクトなフィルムカメラのCONTAX T2をお持ちだったとか?
生越千晴
もうないんですけどね。壊れちゃって。それまでは使ってたんですけど、最近はGRとかを使ってます。でも私めちゃくちゃ面倒くさがりなので、結局iPhoneになってしまってるんですけど(笑)
ーカメラがお好きなんですね。
生越千晴
でも最近の趣味は座学です(笑)出不精だから、家で一人でいると、机に座って勉強したりすることがすごく心地いい時間になるんです。独学で韓国語も勉強しています。
黙々と文字をノートに書く時間がすごく好きで、日記を書いたり感情を書き留めることも大切な時間です。
ー 一人でいることが多いんですね。
生越千晴
でもそれだけじゃ寂しいし、やっぱり一人では生きていけません。究極なんですけど、わたし自身生きるための手段が演劇だったり、映画をみんなで作るっていう、私にとってはもうそれでしかなくて。一人でこもることは好きだしいくらでもできるんですけど、いろんな人ともの作りをする楽しさを知ってしまったし、芝居で体感する衝撃を知ってしまったので。だから、俳優をやっているというのはすごくあります。
▼作品への参加について
ー 今回の作品の魅力について、教えてください。
生越千晴
何か大きなことが起きる作品ではないんですけど、それぞれの登場人物たちがもがきながらも生きている姿がとても美しいんです。この映画を見ているとゆっくり自分と会話したくなる気がするんです。そういう魅力がある映画です。
ー 撮影を終えて、完成した映像をご覧になった感想は?
生越千晴
一番初めに思ったことは、私はこの作品で出会った人たちが本当にみんな素敵な人たちだということを肌で感じているのでやっぱりいい人たちと作ったものってそれがとても滲み出るなぁと感じました。これが見てくださるお客さんの誰か一人にでも感じてもらえたら嬉しいなと思いました。
ー 今回の作品は、生越さんにとってどんな作品になりましたか?
生越千晴
映画に深く関わったことがあまりないので緊張していたんですけど、私自身映画で演じがいのある役があって、みんなのいろんな思いもありつつ、それぞれの個性を受け止めながら一つにまとまっている感じがすごくしたんです。役者さんたちも役ではあるんだけど、それを演じる役者自身ももう半分ちゃんといるというか。スタッフさんたちもあたたかくて心強くて。そんな中でお芝居ができるという本当に素敵なチームに参加させてもらえたことは私の財産ですし、大切な作品になりました。
▼役の選択について
ー ご自身が気に入ったシャオを演じられていますが、それにちなんで、ご自身が選んだシャオというやりたい役、選んだ理由みたいなもの、「これだ!」というものがありますか?
生越千晴
シャオとは比べものにならないけど私自身島根から上京していたり、自分がやりたいことと大切にしたいものとのバランスに悩んだりすることがあるので共感ポイントが多かったというのと、中国人を演じるという俳優としてのチャレンジをしたかったからだと思います。
ー 役作りで工夫した点はありますか?
生越千晴
脚本に書かれていない部分を自分の想像力を最大限に使って補う作業をしました。出身国が違うので中国人の留学生の友達に頼ってたくさん話を聞かせてもらったり、自分で調べたり書き出したりして膨らます作業をとにかく必死にした記憶があります。
▼役作りの取り組み
ー 生まれ育った国の違いや家族と自身の関係、アニメの声優を目指しているなど、さまざまな背景があって何かしらの人生を歩んできた人物を、ご自身が演じたキャラクターをどんな風に捉えて、それを演技にどう活かしたか、そんな取り組んだ部分はありますか?
生越千晴
そうですね。
例えばアニメに関しては私はほとんど見ないタイプですし、声優界のことにも詳しくないので声優をしている友人に色々話を聞いたりしました。話を聞くと俳優と似た葛藤を持っている印象があったので、自分のこれまでの俳優活動の中で利用できる感覚をシャオに落とし込んでいきました。
▼吉行和子さんとの共演について
ー 吉行さんとの共演はいかがでしたか?
生越千晴
とても緊張しました。でも変に気負っても仕方ないし、もったいないっていうのは思っていたので、とにかくココのあの空間で吉行さん演じる泉さんと話す、その場の空気を大切にしました。吉行さんもとにかく対等にいてくださって、それがすごくありがたかったですし、周りにいたスタッフさんたちも、場の空気を壊さないようにいてくれたり、そういうありがたみを感じさせていただける中で集中してやりとりをさせていただけたので、すごく貴重な、ありがたい経験でした。
ー 共演シーン以外では、お話されましたか?
生越千晴
共演シーン以外ではそんなにお話しできるタイミングはなかったんですが、果実酒のシーンでは瓶に入った果実酒がとても美しくて、二人で「美味しそうね。」「きれいですね〜」と会話させていただいたのが思い出として残っています。果実酒を作ってくださったスタッフさんに感謝です。
▼共演者との役作りについて
ー 中山雄斗さんとの共演シーンについてお伺いします。役作りで何か意識されたことはありますか?
生越千晴
撮影が始まる前に、中山雄斗さんと上野に一緒に行って、シャオとヤーモンの関係性のように、二人で行けるところには行ったりしました。
ー 役柄とリンクするような場所に行ったんですね。
生越千晴
そうですね。コミュニケーションをすごく大事にしていました。関係性がある二人なので少しでも私たち自身の距離が近くなることでお芝居の空気にも出ると嬉しいなと思っていました。
ー 具体的にはどんなことを?
生越千晴
私は告白される側なので、単純に「生越って嫌なやつだなぁ」とか「ちょっと役者としてやりずらい」みたいな印象を与えてしまうことがすごく嫌だなって思ったんです(笑)そういう悪影響をなるべくなくしたかったので、とにかく私自身素直に彼に接することを心掛けました。彼にいいやつと映ったとしても、嫌なやつと映ったとしても、せめて素直であれば最悪は免れることができるのかなと思って、、(笑)
ー 積極的にコミュニケーションを取るのは、今の時代の役者さんには必要なことですか?
生越千晴
そうですね。ただどちらにせよ一方的になるのは絶対に良くないと思います。それぞれのやり方はありますし、お互いを認め合いながら、受け入れ合いながらコミュニケーションを取っていきたいです。
ー なるほど。
生越千晴
やっぱり演劇と違って、映像作品だと稽古時間がないじゃないですか。演劇だと稽古するから、自然と同じ釜の飯を食うというか、コミュニケーションを取れる時間があるので、役柄によって良い悪いはあると思いますが、芝居にも影響してくるように思います。シャオとヤーモンに関しては少しでもそういう時間が作れたらいいかなって思いました。
ー 生越さんにとって、演じることはどんな意味を持つのでしょうか?
生越千晴
私は普段すごく出不精なので、一人でいることは平気だし、簡単で楽なんです。でも、やっぱり生きていく上で誰かと関わっていくことも絶対に必要で。
私にとって演じることは、人とコミュニケーションを取るための手段なんです。台詞があれば、人と話せる。普段コミュニケーションを取ることが得意でなくても、台詞があれば人と会話ができる。関係を作れる。それにすごく助けられています。
インタビュアー: 生きる上で、演じることは必要不可欠ということですか?
生越千晴: そうですね。ちょっとかっこいい風になっちゃいますけど…(笑)でも今の所、生きるための手段にはなっていると思います。
▼目標
ー 今後の目標を教えてください。
生越千晴
これからもいろんな人たちとものづくりがしたいです。いろんな人に出会っていきたいです。その中で、もちろん必要とされる、「生越がいたらいいかもね」って思ってもらえる人でいなきゃいけないし、あり続けたいので、そういう人であり続けることが目標です。
▼お客様へのメッセージ
ー 映画『ココでのはなし』は、生越さんにとってどんな作品ですか?
生越千晴
鼎談でも話したのですが、歳を取れば取るほど、生きる大変さを感じるじゃないですか。難しさとか、しんどいことも多いなって。
ー そうですね。
生越千晴
時代の変化もあるので、「昔だったらよかったのに」とか「あの時代に生きていれば」とか、そういうことを思ったりもするんですけど。でも、誰しもそういうことを抱えながら、生きるしかない。
『ココでのはなし』の中でも、いろんな状況とか悩みとか、自分にはどうにもできない状況とか、そういうものの中で懸命に生きている人たちが描かれています。
私、友達が多いタイプじゃないのですが、、
でも、この映画は、そういう存在、親友みたいな映画だなって思うんです。嬉しいことも、しんどいことも分かち合える、それでいて自分と会話させてくれる映画。この映画を見ると現在の自分を一旦肯定できてそこからまたゆっくり人生進んでいこうと思える。これから先どんな時代がくるかも分からないし、どんなことが起きるかもわかりませんがずっとそばに置いておきたい映画です。
ー 最後に、映画を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
生越千晴
ぜひ劇場に足を運んで、『ココでのはなし』を体感してください!
ヘアメイク:中島彩花(TENT MANAGEMENT)
映画『ココでのはなし』
⼭本奈⾐瑠
結城貴史 三河悠冴 ⽣越千晴
宮原尚之 中⼭雄⽃ 伊島 空 ⼩松勇司 笹丘明⾥ 三⼾⼤久 / モト冬樹
吉⾏和⼦
監督︓こささりょうま
脚本︓敦賀 零 こささりょうま 主題歌︓kobore「36.5」(⽇本コロムビア)
エグゼクティブプロデューサー︓笠井出穂 プロデューサー︓渡邊健悟 ⼩林紀美⼦ ⼩原拓真
助監督︓内⽥知樹 撮影︓岩渕隆⽃ 照明︓⼩松慎吉 録⾳・整⾳︓落合諒磨 美術︓佐々⽊麗⼦
⾐裳︓牧野優志 ヘアメイク︓南辻光宏 写真︓⽯原汰⼀ 編集︓深沢佳⽂ ⾳楽︓⽥中拓⼈
企画・製作・プロデュース︓BPPS 協⼒︓⽇本コロムビア / 講談社 ワインド・アップ pingset 割烹 いそ崎
配給・宣伝︓イーチタイム 宣伝協⼒︓フリーストーン 永瀬智⼦ 宣伝デザイン︓中村友理⼦
2023 年/⽇本/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/カラー/86分
©2023 BPPS Inc.
公式HP︓cocohana-film.com 公式X/Instagram︓@cocohana_film
2024年11⽉8⽇(⾦)シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開