2024年10月31日、東京国際映画祭アニメーション部門の一環として、「アニメシンポジウム『宇宙戦艦ヤマト』の歴史的意義」と題したトークイベントが開催された。会場は「宇宙戦艦ヤマト」のファンの熱気であふれかえっていた。
アニメ評論家・藤津亮太氏を司会に、アニメ研究家・氷川竜介氏をゲストに迎えた本シンポジウムは、50年の時を経てもなお色褪せない「宇宙戦艦ヤマト」の魅力とその歴史的意義を、当時の時代背景やアニメ業界の状況を交えながら深く掘り下げる貴重な機会となった。
子供向け「テレビ漫画」から大人の鑑賞にも堪える「アニメ」へ
氷川氏はまず、「宇宙戦艦ヤマト」が登場した1974年当時、アニメは「テレビ漫画」と呼ばれ、子供向け番組という認識が一般的であったと指摘する。しかし、「宇宙戦艦ヤマト」は緻密な設定やリアルなメカ描写、重厚な人間ドラマによって、それまでの「テレビ漫画」の枠を超え、大人も楽しめる本格的なアニメーション作品としての地位を確立した作品であると評価した。
氷川氏自身の体験談からも、当時の「宇宙戦艦ヤマト」人気がいかに凄まじかったかが伺える。氏自身も周りの友人たちがこぞって「宇宙戦艦ヤマト」に夢中になっていたこと、そして自身も作品の世界観に深く引き込まれたことを語った。
「ヤマト」が提示した「世界」という新たな表現
「宇宙戦艦ヤマト」の革新性は、単なるクオリティの高さだけにとどまらない。氷川氏は、「宇宙戦艦ヤマト」が「世界」そのものを提示することに成功した点を高く評価している。従来のアニメ作品は、主人公のキャラクターを中心に物語が展開されることが多かった。しかし、「宇宙戦艦ヤマト」は、ヤマトという宇宙船自体が旅する「時空間」を描き出すことで、観客を作品世界に没入させることに成功した作品となっている。
地球滅亡の危機、1年間というタイムリミット、14万8千光年という広大な宇宙空間。これらの要素が一体となって、観客に「世界」を体感させていると氷川氏は指摘する。また、「宇宙戦艦ヤマト」には、日常生活から切り離された独特な世界観があり、登場人物たちの生活感よりも、使命感や緊迫感が強調されている点が、従来の作品との違いとして挙げられた。
リアリティを支える緻密な設定資料
「宇宙戦艦ヤマト」の世界観を構築する上で、緻密な設定資料の存在も欠かせない。氷川氏自身も「宇宙戦艦ヤマト」のスタジオを訪れ、膨大な量の資料をコピーした経験を語り、その内容の濃さに驚いたと述懐する。
美術設定にとどまらず、ヤマト内部の構造やメカニズム、登場人物たちの行動原理まで、詳細に設定されていることで、作品全体のリアリティを高めている。特に、ヤマトの内部構造を詳細に描いた設定資料は、単なる舞台設定ではなく、登場人物たちの行動やドラマを生み出すための空間として機能していると氷川氏は解説した。[これらの設定資料は、完成画面からは直接わからない、作品の裏側に隠されたクリエイションの秘密を解き明かす重要な鍵と言えるだろう。
質問コーナー:音楽と演出から「ヤマト」の革新性を再確認
トークイベント後半の質問コーナーでは、観客から音楽と演出に関する2つの質問が氷川氏に投げかけられた。
1つ目の質問は、「宇宙戦艦ヤマト」の音楽についてだった。氷川氏は、従来のアニメ音楽とは一線を画す、独自の「世界」を表現した音楽であったと回答。具体例として、第1話Bパートで沖田艦長および、地球に帰還した古代進たちのシーンを挙げた。深刻な状況にも関わらず、悲壮感ではなく、静かで美しい音楽が流れることで、独特の世界観が生まれていると解説した。
2つ目の質問は、「宇宙戦艦ヤマト」の独特な演出についてだった。サブタイトルの表記がない、アイキャッチや次回予告がないなど、当時のアニメとしては異例と言える演出方法について、観客からその意図を問う質問が出た。氷川氏自身も明確な答えはわからないと前置きした上で、従来のテレビアニメのフォーマットにとらわれない、独自のスタイルを目指したのではないか、と推測した。
50周年を経て未来へ
「宇宙戦艦ヤマト」は、50年の時を経てもなお、多くのファンに愛され続けている。今回のトークイベントは、その魅力を再認識するだけでなく、未来に向けたアニメ研究の必要性を示唆する貴重な機会となった。
氷川氏は、NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の活動を紹介し、資料の整理・分析・言語化を通して、作品の魅力をより深く理解することの重要性を訴えた。「宇宙戦艦ヤマト」は、日本のアニメ史に大きな影響を与えただけでなく、その革新的な表現は、現代のアニメ作品にも受け継がれている。50周年という節目を迎えた今、改めて「宇宙戦艦ヤマト」という作品に向き合い、その魅力を再発見することで、未来のアニメ表現の可能性を探ることができるだろう。