2024年10月11日、若松孝二監督の十三回忌を記念した上映会が開催され、初日には映画「キャタピラー」を上映。上映後にはトークイベントが行われた。会場であるテアトル新宿には、国際法学者で元国連職員の伊勢﨑賢治氏、そして映画監督の井上淳一氏が登壇し、戦争のトラウマ、平和への希求、そして現代社会における課題について熱くトークを展開した。また、同作に出演した俳優の井浦新さんがサプライズでテアトル新宿に駆け付け、座席側からトークに参加するとともにフォトセッション時には壇上に上がった。
井浦さんは、「キャタピラー」撮影当時の若松監督の様子を振り返り、戦争というテーマと真摯に向き合っていたと語った。若松監督が発したという「戦争なんか好きなやついるわけないだろう」「戦争をやりたい奴らは、何かお金ができたりとか地位が上がったりとかするけれども結局戦争に巻き込まれた人たちが一番つらい思いして」といった言葉から、戦争の愚かさに対する強い憤りが感じられたという。
伊勢﨑氏は、戦争がもたらす広範な被害と、責任の所在が曖昧になっている現状に警鐘を鳴らした。第二次世界大戦後の世界各地での紛争、そして現代のウクライナ戦争やパレスチナ問題などを例に挙げ、国際社会における平和構築の難しさを指摘した。 特に、日本国内においては、戦争を扇動・命令した者を裁く法体系が整備されていない点を問題視し、福田村事件や自衛隊の法律などを具体例として挙げながら、法の空白が放置されている現状を伝えた。
トークは、平和とは何か、そして平和を考えた言動や活動に対する無力感に苛まれる苦悩や私たちに何ができるのかというテーマへと移っていった。伊勢﨑氏は、長年、大学で戦争と平和について教えてきた経験から、研究や教育活動だけでは社会を変えることは難しいという無力感を吐露した。 一方で、井上監督は、映画「キャタピラー」や「福田村事件」のような作品を通して、戦争の悲惨さを多くの人に伝えることこそが、自分たちにできることだと訴えた。
ウクライナ戦争やパレスチナ問題に対する日本の役割、そして平和構築のために私たちにできる具体的な行動など、重要なテーマが展開され、登壇者たちが、それぞれの立場から真摯に話し合い、トークイベントは予定時間を大幅に超えるほど白熱した。
若松監督の十三回忌に開催されたこのトークイベントは、戦争のトラウマ、そして平和への希求という普遍的なテーマを改めて私たちに突きつけ、未来へ向けた深い思考を促すものとなった。
なお、若松孝二監督 十三回忌上映会は、10月17日(木)まで、テアトル新宿にて開催。
テアトル新宿には、若松孝二 十三回忌イベント スペースあり。
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