期待の若手俳優・山﨑翠佳 x 杵村春希監督インタビュー、映画『カフネ』で魅せる繊細な演技:揺れ動く心情を熊野の風景と共に

期待の若手俳優・山﨑翠佳 x 杵村春希監督インタビュー、映画『カフネ』で魅せる繊細な演技:揺れ動く心情を熊野の風景と共に

大阪芸術大学在学中の杵村春希監督の長編デビュー作となる本作は、高校3年生の瀬川澪が予期せぬ妊娠を経験し、親友の支えを受けながら、自分自身の未来と向き合っていく姿を描く。 若年層の「望まない妊娠」という社会問題を背景に、思春期の揺れ動く心情、そして人間同士の不器用ながらも温かい繋がりを繊細なタッチで映し出す。 近年、国内外の映画祭で高い評価を受けている。 本作が描き出すのは、決して特別な物語ではなく、誰もが経験するであろう心の機微、そして人生における選択の重みである。主演は山﨑翠佳。俳優・岡田准一が設立した芸能事務所・AISTONに所属したことが先月発表され、今後の活躍が期待される俳優のひとり。

■映画『カフネ』山﨑翠佳、杵村春希監督インタビュー

▼お名前の話

-インタビューをはじめるにあたり、お二人のお名前の話を聞こうかなと思います。山﨑さんの翠佳というお名前のにはどういった由来・意味があるのでしょうか?

山﨑翠佳
私は、4月30日生まれなのですが、 その時期って新緑の緑が芽吹いてくる月で、 その緑がすごく綺麗でいいよねという。そこから、翠(みどり)が佳し(よし)から、“翠佳(すいか)”なんです。

山﨑翠佳

ー監督もお名前が“春希”で、春にちなんだ由来がありそうですね。

杵村春希監督
そうですね。 私も生まれが4月生まれなんですけど、 それで季節の“春”をとりまして、 希望はそのままの意味で、 春の希望ということで“春希”になっています。

▼山﨑翠佳さんの経歴

-プロフィールを見ると、 ミュージカルの経験が6年あると思うのですが、お芝居の経験として、いつ頃から始められたのでしょうか?

山﨑翠佳
芸術への憧れの始まりは、 小学2年生の時に劇団四季の「エルコスの祈り」という、 こどもに向けられた劇を一列目で見た時です。そこでやろうと具体的に思ったわけではないのですが、 その時の衝撃・お芝居に触れた時の感動が原点だと思います。

-ミュージカルそのものを始めたのは?

山﨑翠佳
中1になってから始めました。冒頭のお話しにあった憧れもあって、 地元でミュージカルをやっているところに入りました。

ー山﨑さんのプロフィールの中に、「私は演技にたくさんの感動を教えてもらった時がある」と書いてありました。感動を受けたことやまわりの方々から受けた影響などを具体的に聞かせていただけますか?

山﨑翠佳
他の作品でもあることですが、この『カフネ』に出会ったことで、特に自分に変化がありました。『カフネ』は熊野の大自然の中で2週間オールロケだったのですが、その時に海の近くで泊まって撮影したことで、「こんなに海って綺麗だったんだ」とか「空ってこんなに綺麗だったんだ」と、感動が全身に走りました。
また、本読みの時に監督とずっとお話ししたり、役についてお話ししたり帰り道に、「とりあえずこっちの方向にずっと歩いていこう」と話しながら歩いていたら、おそらく5駅ぐらい歩いていたんです。そんなスタッフの皆さんと帰った経験や、ひとつの作品に向かってみんなでいろんなことを話していく過程がすごく楽しくて、人と話すことってこんなにも素敵なことなんだって改めて思えた作品でした。
この『カフネ』に助けてもらえたことをすごく感じています。杵村監督は企画書で『カフネ』のことを「コミュニケーションの作品で、たとえ意見が違っても、やっぱり、知ろうと思う気持ちとか、 根底には温かいものがあるはずだ」ということをおっしゃっていました。
それを作品を通じて役のセリフからも感じたり、 周りの役の方々からも感じました。撮影の準備段階の実世界でもそういうことを教えてもらえましたし、 自分の至らないところも含めて、 より一層俳優業に進んで歩んで頑張っていけたらなと感じた作品でした。
本当に世界を180度変えてくれた作品です。これが私にとって原点というか、 堂々と人として生きる上での希望をもらえたと言える作品です。

ー素晴らしい出会いですね。

山﨑翠佳
はい。

▼本作制作のきっかけ

ー本作の制作のきっかけ・ 経緯には、 コロナ禍における高校生の妊娠という社会問題を題材としたところがあって、 そこから本音で語り合うことの大切さを描きたいといったことだったと思います。
言葉が悪いかもしれないのですが、 社会問題が題材となると、 日本の性教育の遅れだとか、最近ですと パパ活の話を連想してしまう部分があります。
また、作品にも描かれていますが、 責められるのは女の子だったりといった問題があると思うのですが、 そういった目に見える問題じゃなく、 人と人とのコミュニケーションのつながり、 心の動きを描きたいと思った、 その気持ち・考えの流れ、つながりを聞きたいと思います。

杵村春希監督
まさにおっしゃるとおりなんですけれども、 この作品は女子高校生の妊娠というテーマというか、事象を扱っています。 描きたいこととしては、 いまおっしゃられたような、 会話による心のやり取りだったりとか、 主人公の澪いう名前の女の子なんですけれども、 その子は自分の気持ちにあまり素直に生きてこなかったような人で、それで作品の中で成長していきます。この作品の場合は妊娠だと思うんですけれども。
その中で自分の気持ちと正しく向き合って、 それができて初めて周りの愛を受け取ることができて、彼女自身の生き方を貫くことができるようになるということを表現したり伝えたいと思って撮影しました。

▼オーディションについて

ー オーディションについてお伺いします。 時期的には2022年の4月の中旬くらいに1か月くらいで、 400名を超えるエントリーがあってという形で、 数々の出会いがあったと書いてあったのですが、 その出会いにはどんなものがあったのか聞いてみたいと思います。

杵村春希監督
そこでの出会いというのはオーディションで数々の俳優さんと話させていただくということはもちろんですし、 ご質問の意図に入っているかわからないのですが、 三重県の熊野市にロケハンを何度も行かせてもらっていたので、その時に現地の方々と直接お話しする機会が結構何度もありまして、 その中でも熊野の人とお話しする機会、そういう出会いにも恵まれていました。
その期間って自分の人生の中でも新しく出会う人の数がものすごく多かったです。 体力も使ったんですけど、 そのいろんな人の生き方とか考え方とかに触れることによって、すごく自分でもオーディションをしながら、質問をしながら、制作する中で成長できた時期だと思っています。

▼オーディションの内容

ーいわゆるオーディションって、 自己紹介や、 監督との会話、 オーディション用の台本読んだり、 お芝居したりといろいろあると思うのですが、 具体的にはどんなオーディションがなされたのでしょうか?

山﨑翠佳
会場に入った瞬間から皆さんが立ち上がって、「よろしくお願いします!」ってあいさつをしてくださって、 学生だということを感じさせないようにスーツでピシッと皆さん決めてらっしゃいました。
年上の監督とスタッフだと私が勘違いしたまま始まったんですけど、ものすごく皆さん一人一人を大切にしてくださいました。
初めは一人ずつ呼ばれて本当にいろんな質問をしていただいて、ゆっくりと自分のことを話すようなオーディションでした。

その時の私はすごく尖ってたんじゃないかなって思います。その時に “私は究極の人間になりたい”って言ったことをおぼえていてくださって、 オーディション後にいただいた私への手紙には、 監督も脚本の千葉さんも、「究極の人間になりたいというフレーズがすごく印象に残りました」って書かれていました。
私は自分になりきれていないみたいな感覚があって、 だから私は私になりたいんですみたいなことを、 お話ししていて、それが気づいたら澪にかぶっていたということを自分で気づいていなくて、役を通じて、澪に人生の指針を教えてもらったなと思っています。

▼オーディションで質問されたこと

山﨑翠佳
オーディションは本当にいろんなことを聞いてくださって、その後はスタッフさんの一人と演技をしました。 私は澪が渚に自分が妊娠したということを初めて伝えるシーンを演じたんですけど、「なぜこのシーンを選んで演じられたんですか?」という質問もありました。
「澪の中で変化というか、大きな勇気がいるシーンなので、このシーンは澪にとっても自分にとってもすごい大切なシーンだなと思って、演技したいって思いました」といったことを言ったと思います。
その後に他の方と組んでまた違う役でシーンを演じてという形でした。

ー時間をかけて皆さんとオーディションをされたんですね。人柄、 演技力、シーンの選び方だったりも見られたということですね。 実際には、「究極の人間になりたい」ってどんなことを語ったんですか?

山﨑翠佳
人生の目標として様々な感情を体感したいですし、それをもって人と真正面から真実のやりとりで交流をしたいですし、想像力があったら人や世界にも優しくあれるんだろうなって、そういう人物像が究極の人間であって、 そういう人になりたいということを語りました。

▼杵村監督が山﨑翠佳さんを選んだ理由と手紙

ー監督として、山﨑さんを選んだ理由を聞いてみたいと思います。 すでに手紙では伝えられているのでしょうか?

杵村春希監督
手紙では理由とか書きましたし、究極の人間にも触れました。
お芝居っていろいろあるじゃないですか。
いろいろあるんですけど、 オーディションの場では素直に自分を出してくれた部分・瞬間があったかっていうこと。 例えば、素直なところが感じることができたのとか、 主人公の性格にも合ってるんじゃないかって話し合ったんですけど、そういう部分とか、究極の人間を目指している生き方とか、 その部分に共鳴したところが大きいと思いました。

山﨑翠佳
さっきおっしゃってくださったみたいに、「澪を通じて究極の人間への道を歩んでいってください」 ということを書いてくださっていたことがすごく印象的で、 人生でもらった手紙の中でその時は本当に一番嬉しかったです。 「こんなに丁寧に向き合ってくださる方がいるんだ」 と。

▼オーディションに臨む時の想い、心がけたこと

ーちなみにオーディションへ臨む時の思いとか心がけたことって何ですか?

山﨑翠佳
「カフネ」のオーディションを見つけた時、 澪の言葉を言いたいと思ったんです。企画書とか脚本もちょっとだけ載っていて、 熊野の写真を見た時、「ここに行きたい!素直にこれをやりたい!出たい!」って、 思ったんです。 当時所属していた事務所に、「これはどうしても出たいです!」って強く言ったんです。
とにかく澪の気持ちを考えていこうとか、この作品のテーマや意図が企画書に載っていたので、それについてもどういうことをおっしゃってるのか自分の言葉で噛み砕いてしっかり何かを言えるようにできる限り準備をしていこう考えてオーディションに臨みました。

杵村春希監督
本当にオーディションを受けていただいて、 ありがとうございます。
出会いに感謝しています。

山﨑翠佳
『カフネ』には特に出たいと思っていて、 それだけ心が惹かれた作品が『カフネ』でした。

杵村春希監督
いろんな理由をもってオーディションに来られる方は多分いると思うんですけど、 そういう強い思いとか、 真っ直ぐな心っていうのは、話していると、伝わってくることがすごくあって、温かい気持ちになっていく感じがあります。

ー単に映画に出たいっていうだけじゃなくて、 この役がやりたいとか、 この作品の脚本だからでたいとかっていう気持ちがやっぱりあると違うんでしょうね。

▼タイトル『カフネ』について

ー『カフネ』というタイトルを見た時に、どんな意味なのだろうと思って調べてみて、その意味はわかったのですが、杵村監督のコメントに、「脚本を書いているときにふと出会った言葉です」と書いてありました。この出会いはどういったものだったか聞かせてください。


杵村春希監督
タイトルに関しては、日本語にない言葉みたいなものを探していました。それに意味があって、 その言葉の持つニュアンスが作品の入り口にあったら面白いんじゃないかという考えがありました。
カフネという言葉自体は脚本の千葉が高校時代につけていた手書きのノートに書き留めてあるのを偶然見つけて、 「これ、いいね」と、二人でつけることになりました。 それがちょうど脚本を一緒に執筆をしていた時期です。
映画の雰囲気を持つクオリア(感覚質。感覚的な意識や経験)みたいなものが共通しているなと思ってタイトルをつけました。

ーすごいですね。 これも偶然が重なって、タイトルが出てきているんですね。
千葉さんもよく知ってらっしゃいましたね。

杵村春希監督
“日本語にない言葉辞典”みたいなものがあるんです。それを高校時代に読んでいた千葉がノートにたまたま書いていて、 それをまた大学時代、脚本執筆の際にたまたま開いたという経緯がありました。

ータイトルは、 企画、 オーディション応募の時には決まっていたんですか?

山﨑翠佳
(仮)と書いてあったのですが 決まっていました。
 オーディションの際に事前に“カフネ”って何だろうと思って 調べました。

▼杵村監督が監督を目指したきっかけ

ー杵村監督が映画監督を目指したきっかけを聞きたいと思います。高校生時代に山戸結希監督の『ホットギミック ガールミーツボーイ』が心に残っているような話があったんですけど、監督を目指したきっかけは?

杵村春希監督
目指したきっかけなのですが、 この瞬間に目指すことが決まったみたいな、 そういうのはなくて、普通に生きていく中で自然と向かっていったという感じがあります。
だから、きっかけというとお答えしにくいのですが、もちろん、『ホットギミック ガールミーツボーイ』でも強く衝撃を受けています。
確かにその時期って高校3年生で、進学っていう機会がちょうど目の前にあって、その結果大阪芸大に進学することで背中を押されたというのもありますし、高校時代に映画が好きだったっていうのも、また小さい頃から父親の影響で映画や漫画に触れていたので興味が元々あったというのもあります。
ごく普通に、映画に触れていたら、いつの間にか監督を目指していたという感じが近いかもしれません。

▼杵村監督が影響を受けた作品

ー影響を受けた作品にはどういったものがありますか?

杵村春希監督
たくさんあるのですが 映画で言ったら、 『ジュラシック・パーク』や『スター・ウォーズ』があります。マンガも凄い好きで、手塚治虫、横山光輝とか、 白土三平とか、 そういった時代の映画や漫画がすごく好きです。
小学生の時は『ファイト・クラブ』、デヴィッド・フィンチャーの作品が好きでした。 高校時代は日本の映画をよく見て、 新作で公開される映画も好きでよく劇場に足を運んでいたと思います。

▼カメラマンの髙本さんとライバルのような関係

―カメラマンの髙本さんとは、ライバルのような関係だったそうですね。

杵村春希監督
映画を作る上で、言葉で上手く表現できないんですが、何か競い合うような、高め合うような関係でした。お互いの考え方が全く正反対なんです。例えば、「これをどこから撮る?」と聞くと、僕はこう撮る、髙本はこう撮る、という具合に。全く違う意見をぶつけ合うことで、「本当に良い作品とは何か」を深く議論できるんです。

ーそれは、良い意味で、バチバチとぶつかりあう感じでしょうか?

杵村春希監督
そうですね。でも、それが本当に楽しくて、いつも彼と作品を作っていますし、今後もそうしたいと思っています。

ー髙本さんの意見を聞きながら進めることもあれば、正反対の意見をぶつけ合いながら、お互いを認めつつ、作品を作り上げていくということでしょうか?

杵村春希監督
そうですね。もちろん、否定し合うこともあります。でも、それは人格を否定するのではなく、自分が正しいと思うことをお互いに主張し合って、作品をより良くしようとしているんです。

▼山﨑さんからみた二人の姿

―山﨑さんからは、お二人の関係性はどのように見えましたか?

山﨑翠佳
戦友のような関係でしたね。撮影前に、「こう撮りたい」、「いや、こう撮るべきだ」、と作品のために意見をぶつけ合っていました。それは決して喧嘩ではなく、お互いを尊重した上で、より良い作品を作り上げるための建設的な意見交換でした。

髙本さんはまさに職人のような方で、撮影期間中も筋トレやサイクリングで体を鍛え、集中力を高めていました。撮影中は、絵作りや見え方に徹底的にこだわってらっしゃったように感じました。一方で、杵村監督は、内側から湧き出るインスピレーションをそのまま表現するような、自由なスタイルでした。髙本さんが秩序を重んじるタイプだとすれば、杵村監督は無秩序と言えるかもしれません。しかし、その対照的な二人がコラボレーションすることで、驚くような化学反応が生まれ、最強のコンビと言えると思います。
杵村監督が「現場でもバチバチと青い炎を燃やしている」と表現されていたのも、二人の関係性をよく表していると思います。作品に対してこれだけ熱意を持って向き合える関係性は、本当に素晴らしいと思いました。

▼オーディションを振り返って

ー山﨑さんからみて、オーディションの時の杵村監督の印象はいかがでしたか?

山﨑翠佳
オーディション会場に入った瞬間、温かいオーラに包まれたように感じました。役や作品のことよりも、まず人として皆さんとじっくり話してみたい、という気持ちが強く伝わってきました。本当に素敵な方々との出会いだな、と心から思いました。

ー杵村監督も、その温かい雰囲気についてどう思われますか?

杵村春希監督
ありがとうございます。やはり、温かい気持ちを受け取ってもらえると嬉しいです。それは、相手にも温かい気持ちがあるからこそだと思います。

▼本読みで取り入れた手法

ー今回の映画で、本読みの際に、“無表情な棒読み”という手法を取り入れたそうですが、その意図はどういったところこにあったのでしょうか?

杵村春希監督
俳優たちが型にはまった演技をするのではなく、心の奥底から湧き出るような、自分だけの言葉で表現してほしいと思ったからです。

ー俳優として山﨑さんはこの手法にどう思いましたか?

山﨑翠佳
最初は戸惑いました。でも、何度も繰り返すうちに、セリフを意識しすぎず、自然な言葉が出てくるようになったんです。まるで体が覚えてしまったかのように。

ー杵村監督は、この手法をどこから学んだのですか?

杵村春希監督
濱口竜介監督の作品に影響を受けた部分もありますが、直接学んだわけではありません。大阪ビジネス大学の先輩がやっていた「イタリア式本読み」という手法に興味を持ち、そこから自分なりに研究を深めました。

ー具体的に、俳優の方々にどのようにこの手法を伝えたのですか?

杵村春希監督
明確な指示を出すのではなく、一人ひとりの俳優と向き合い、それぞれの個性を引き出すことを心がけました。

ーこの手法の最終的な目的は何ですか?

杵村春希監督
俳優たちが自分自身の言葉で表現し、観客に深く感動を与えるような作品を作りたいと思っています。

ーこの手法によって、俳優や作品にどのような変化が生まれたと思いますか?

山﨑翠佳
この手法のおかげで、私は自分の演技の幅を広げることができたと思います。
俳優たちは、自分自身の可能性に気づき、より深く役に入り込めるようになったと感じています。

▼“愛のある方々”

ーコメントの中で、“愛のある方々”というフレーズが気になりました。これにはどういったエピソードがありますか?人に対してもそうですし、熊野という土地を好きだったり、 いろんな愛のある方々がいらっしゃるんじゃないかなと思うんですけど、 ちょっとそんな話を聞いてもいいかなと思います。

山﨑翠佳
まず熊野に行く前に出会った監督をはじめ、 杵村組の皆さんがnoteを一人一人書いていらっしゃったり、作品への愛だったり、面接での人への向き合い方だったり。これだけ人を大切にしてくださっている姿勢に感じた愛もあります。
そういう想いって見えないけど、撮影中もひとつに向かっているという感覚がすごくありました。これだけ、愛があふれた方々に出会えたことが嬉しかったですし、それがまず初めに出会った“愛ある方々”です。
お父さん役の入江崇史さんやお母さん役の桜一花さんも「なにかあったら相談してね」と、愛のある言葉を現場でもかけてもらいました。作品に対して、「こう思います」って、しっかりおっしゃっていた姿を見て頼もしいというか、それも愛の一つの形だなって思いました。

現場に入った時に、地元の方の愛というか、こどもがかなり少ないという話を聞いてたのですが、街を歩いていたら、「何やってるの」といった感じで、「暑いからジュースをどうぞ」みたいなことをいってくださいました。
私はロケの現場となる家に住んでいたのですが、その家を貸してくださったり、その他にも偶然だけど必然だったような愛に囲まれていたと思います。
熊野という土地自体が愛で溢れている感覚があり、温かいこの場所が本当に好きになりました。

愛あふれる方々に囲まれて、本当に貴重な経験をさせていただいたなって思います。

▼熊野を選んだ理由


ー熊野を撮影地として選ばれた理由について、監督のコメントでまだ語られていないことはありますか?

杵村春希監督
この件については、もう色々な場所で話したのですが、最初に言ったように、自然の流れで熊野を選んだというそれだけなんです。
例えば、熊野とどういう繋がりがあったのかとか、そういった話は色々出てくるのですが、結局は、実際にその土地を訪れて感動したという、それだけのことなんです。 あまり色々言わない方が、熊野の力が正しく伝わるんじゃないかと思うんです。「熊野は良いところだよ!色々な人がいるよ!」といった感じです。

ー具体的に、熊野のどんなところに惹かれたのでしょうか?

杵村春希監督
まず、熊野は港町なので海が素晴らしいんです。海が本当にすごい。そして、すぐ近くに山がせり立っていて、磯崎というところが主人公の拠点なのですが、海のすぐそばに切り立った山があって、そこに家族が段々畑のような場所で暮らしている。


山﨑翠佳
熊野の時間の流れは独特だと感じます。太陽が昇ると起きて、沈むと眠る。
東京のような都会では夜も光が輝いていますが、熊野は自然と共に生きています。産業も漁業が中心で、自然と関わり合いながら生きている地域の人々の姿に、時間の本来の流れを感じました。

ー映画の中で、熊野の時間の流れが意識的に表現されているように感じます。

杵村春希監督
翠佳さんも言っていましたが、熊野の時間の感覚は独特です。時間というのは映画においてとても重要な要素で、特に編集においては、熊野に流れる時間というのは、意識したわけじゃないのに、自然と作品の中に出ているんじゃないかと思います。

▼本作を通じて、山﨑さんが得たもの

ー『カフネ』という作品を通して、得られたものはありますか?

山﨑翠佳
この作品で、私は自分自身の道しるべを見つけたんです。

ー周りの期待に縛られて、本当の自分を見失ってしまうことは、よくあることですよね。山﨑さんは、自分を取り戻すことができたんですね。

山﨑翠佳
自分を取り戻すことで、初めて自分らしくいられると思いました。特に、杵村監督との出会いは大きかったです。監督の豊かな感性に触れて、私も自分自身の感情に素直に向き合えるようになりました。
悩んでいる時って、周りの目を気にして、本当の自分を隠してしまうことがあると思います。でも、今回の経験を通して、自分自身の心に素直に向き合うことの大切さを学びました。

▼メッセージ

ー映画を見る方へのメッセージって、観る側に委ねる映画としては難しいと思いますが、作品紹介とか、見どころとか、役どころとか、色々あると思います。そんな中、お二人からメッセージをお願いします。

杵村春希監督
気軽に映画館に来てほしいです。特別な気持ちで構えずに、友達や恋人、家族と一緒でも、一人でも。映画館って素敵な場所なので、ぜひ色んな人に来てほしいですね。特に、これからどう生きていこうか悩んでいる若い人たちには、何か力になってくれるんじゃないかなと思います。

山﨑翠佳
私もこの作品を通して、自分の人生について、そして周りの人との関係について、たくさんのことを考えさせられました。特に、悩んでいる人や、つらい経験をしている人たちに届けば嬉しいです。この映画は、妊娠をテーマにしていますが、実はもっと普遍的な、人間の本質的なことを描いていると思っています。多くの人に、自分の人生について深く考えてもらうきっかけになれば幸いです。
試写会で、中絶の経験があるという方が、「この映画を見て、当時のことを思い出しました。多くの方に見てほしい。見てもらうべき。この映画を見ていたら、悩んでいた時、相談できていた自分がいたかもしれないと思った」とおっしゃっていたんです。こんな風に、誰かの心に届く作品になったことが本当に嬉しいです。妊娠だけでなく、男性にも何か感じてもらえる部分があると思うので、ぜひ多くの人に見てほしいです。
熊野という美しい場所で撮影したこの作品を、たくさんの人に愛してもらえたら嬉しいです。




■ 作品概要

映画『カフネ』

杵村春希長編初監督作品 
山﨑翠佳初主演

小さな田舎の港町を舞台に、少女澪の新たなる決断と希望の物語。

高校三年生、澪。彼氏である渚の子を妊娠してしまうが、彼氏や家族に打ち明けられずにいた。澪は、孤立しながらも、さまざまな困難に直面し、今まで言葉にしてこなかった気持ちを伝えるために、渚の元へ向かう・・・。

熊切和嘉、山下敦弘監督らを輩出した大阪藝大が久しぶりに生んだ若干21歳の新鋭・杵村春希監督。キャストとの綿密な本読みで撮影に臨み、人々の心の動きを真摯に映像に定着させた。

ヒロイン澪には山﨑翠佳。コブクロMTVのコンテンポラリーダンスで脚光を浴び、「虎に翼」のヒロイン寅子のクラスメイト佐野光子役で注目される。

本作では初の長編映画の主役にして,きらめく程に繊細な少女澪を見事に演じきった。

また、神秘の町、三重県熊野オールロケを生かした自然のもたらす空気感見逃せない。

⚫出演 
山﨑翠佳,太志,松本いさな,木下隼輔,桜一花,入江崇史 ,澤真希,渡辺綾子


⚫監督 杵村春希(Kinemura Haruki)
⚫プロデューサー 吉田光歩(Yoshida Mitsuho)
⚫共同プロデューサー 眞鍋瞬(ManabeSyun)                 
⚫脚本 千葉美⾬(ChibaMiu)/杵村春希(KinemuraHaruki)          
⚫⾳楽 井澤岳丸(IzawaTakamaru)                    
⚫撮影 ⾼本優(TakamotoYuu)                        
⚫照明 徳⼭魅⽃(TokuyamaKaito)/⻄村元汰(NishimuraGenta)       
⚫ 録⾳ 中村駿輔(NakamuraSyunsuke)                     
⚫ 編集 柳本信鷹(YanagimotoNobutaka)/杵村春希(KinemuraHaruki)    
⚫ 美術 ⽥中杏奈(TanakaAnna)/駒澤樹(KomazawaTatsuki)         
⚫ 助監督 ⼤井薫幾(OiYukino)                       
⚫ 制作 ⽔⼝綾花(MizuguchiAyaka)

66分24秒 / カラー / シネマスコープ / DCP / ステレオ / 2023年1月(完成)

主題歌 終日柄「秘密」

・2024年10月12日(土)〜25日(金) ポレポレ東中野にて、20:20より上映
・2024年11月2日(土)〜14日(木) シアターセブン(大阪)にて上映

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