映画『侍タイムスリッパー』全国公開前夜…安田淳一監督、沙倉ゆうの、安藤彰則インタビュー(後編)

映画『侍タイムスリッパー』全国公開前夜…安田淳一監督、沙倉ゆうの、安藤彰則インタビュー(後編)

8月17日に、“インディーズ映画の聖地”と呼ばれる映画館「池袋シネマ・ロサ」1館のみで封切られた映画『侍タイムスリッパー』。上映中の劇場内では、笑いあり、すすり泣きあり、エンドロールでは拍手が起こる。そんな懐かしく、また、令和の時代にはあたらしい映画体験が評判を呼び、絶賛のクチコミが止まらない本作。全国拡大公開が発表される前の8月某日、池袋シネマ・ロサにて、安田淳一監督と現場での助監督と作品内の助監督役であるヒロイン・山本優子役の沙倉ゆうのさん、斬られ役安藤をつとめる安藤彰則さんにお時間をいただき、ロングインタビューを実施しました。今回はその後編を掲載。

侍タイムスリッパー

■ 映画『侍タイムスリッパー』

8月17日に、“インディーズ映画の聖地”と呼ばれる映画館「池袋シネマ・ロサ」1館のみで封切られた映画『侍タイムスリッパー』。瞬く間に、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷などの松竹・東宝系をはじめ、9月13日(金)より全国拡大公開が決定。
配給に「ギャガ」が加わり、インディーズ映画として異例かつ、日本の映画史において稀にみるこの状況に、安田監督をはじめ、キャスト、スタッフ一同、驚きよりも「この状況が信じられない」との声が8月の時点ではいつも耳にしていた。

本作は、幕末の武士が落雷によって現代の時代劇撮影所にタイムスリップ。「斬られ役」として生きていく姿を描いたコメディ作品。自主制作映画でありながらも、時代劇の本場・東映京都撮影所の協力を得て撮影された本格的な時代劇となっている。その結果、老若男女問わず愛される作品となっている。

■ 映画『侍タイムスリッパー』監督、キャストインタビュー

※後編では、本作を観てから読んだ方が良い内容を含んでいます。作品鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。

▼脚本の面白さについて

◆沙倉ゆうのさんが脚本を読んだ感想

-本作は、とにかく本が面白いっていう話が出ています。それをいち早く読まれたお二人だと思うんですけど、お二人が面白いと思った部分だったり、最初の感想みたいなものを、どんな感じだったか教えていただけると。

安田淳一監督
ゆうのちゃんは、「悔しいけど泣いた」って言ってたなぁ。

沙倉ゆうの
泣きました、読み終えた時。悔しいけど。最後、新左衛門の思いと覚悟が詰め込まれていたので、泣いてしまいました。

―読んだ時はその時点でほぼ完成した脚本だったんですか?

安田淳一監督
彼女は初稿から読んでいますね。

沙倉ゆうの
ラストシーンまで書かれたものでした。

◆安藤彰則さんが脚本を読んだ感想

-安藤さんが脚本を読んだ時の感想は?

安藤彰則
時代劇にとても詳しく、愛着を持っている方だと感じました。ただ自主映画の監督がいきなり撮影所のスタッフを相手に映画を撮るのは大変だろうなと思っていました。
実際に、自主映画で賞を取った監督の方が商業映画の世界に行くと、現場を回すのが大変だったという話を聞いたことがあります。それでも、脚本は素晴らしく、東映京都撮影所の特別協力というのも納得でした。

台本は分厚かったですね~。

この台本通りに撮影したら本編は3時間以上になるだろうと思いました。
それが、どうやってこんなにスッキリとまとまったのか、不思議です。

安田淳一監督
実は、分厚い脚本には理由があります。通常、脚本にはト書きとセリフだけを書きます。目に見えるもの、聞こえるものしか書いてはいけないというルールがあるからです。
しかし、あの脚本には、あえて心理描写など、目に見えないものも書いています。それは、出演者が素人であってもイメージしやすいようにするためです。脚本のルールとしては間違っていますが、分かりやすさ優先で書きました。分かりやすいからこそ、皆さんが面白いと思ってくれたんだと思います。

▼オムニバスの構成?

-エンドロールを見ると、シーンの区切り的なものに短編作品のタイトルのようなものがつけられて並んでいて、オムニバス形式で短編を組み合わせるような構想が当初あったのかと思ったのですが、実際はどうだったのでしょうか?

安田淳一監督
エンドロールは正確に誰が何をやったかというのを記録しただけなんです。あくまで記録表示です。ただ、ちょっと書き方に癖があって、ゆうのちゃんの方針で、1回名前を出した人は出さないって言うルールがあります。
僕自身は、いっぱい名前が出てるんですけれども、1回出た人は書かないといったことを、ルールで書いてるらしいです。

沙倉ゆうの
スタッフはしている仕事が違うので、してくださった仕事を全て書いています。俳優さんは、分かりやすいように劇中劇の作品ごとに分けて書いていますが、例えばメイクさん役の方は“新撰組”“最後の武士“で出演シーンがあります。同じ役を演じているので、先に登場している劇中劇に役名とお名前を書くようにしました。

-劇中劇がとてもいい感じなので、それぞれ一本の作品としてみたいですね。

▼スピンオフ構想は?

-劇中劇をフル尺で描く作品も見てみたいと思いましたし、スピンオフ作品も見てみたいと妄想しました。『心配無用ノ介』もテレビの1時間枠の時代劇として観てみたいです。
劇中で、監督を目指す助監督・優子に「優子ちゃん、シナリオを描かなきゃいけないよ」みたいな話があったので、伏線として、その後、優子が『心配無用ノ介』の一話分、もしくは最終回の脚本を担当するのではないかとも空想しました。

沙倉ゆうの
最初の案では、私が演じる優子が“『侍タイムスリッパー』の脚本を書く”という予定でした。

安田淳一監督
実は、優子がパソコンで『侍タイムスリッパー』のシナリオを書いているシーンを最後に持ってこようかと考えました。でも、それはやめておきました。ありきたりだし、しつこい感じがしたので。

本当は、もう1本撮れるなら、優子が監督デビュー作を撮っているシーンを入れたかったんです。「よーいスタート!」のシーンは、優子が自分でカメラを回してもよいのかもしれません。彼女が初監督として頑張っている姿やサクセスストーリーを描きたかったのですが、その時は思いつきませんでした。セットも今はもうありませんしね。

沙倉ゆうの
今年の春から、東映太秦映画村は全面リニューアルの工事に入りました。撮影で使わせてもらったオープンセットは取り壊されて無くなってます。今は新しいオープンセットを使って撮影しています。以前に比べ、江戸の町は少し小さくなりましたが、セットの2階でも撮影を行えたりと便利になっています。

▼助監督・山本優子は、もう監督に?

-リアルな話をすると、沙倉ゆうのさんは、短編映画『想いのこり』を監督として撮ってますよね?

沙倉ゆうの
はい、『想いのこり』は私が監督しました。


安田淳一監督
撮影は僕ですね。

沙倉ゆうの
おじに脚本を書いてもらって。

安田淳一監督
漫画家の誰でしたっけ。

沙倉ゆうの
岡崎二郎です。

安田淳一監督
岡崎二郎って言って、アフターゼロとか漫画とか。僕、高校の時読んでましたわ。

沙倉ゆうの
ショートSFの作品を書いている漫画家なんですけど、大人が読むビッグコミックスなどで連載していたので、子供だった私は叔父がすごい人だとは全く思ってなかったんです(笑)

夏休みはいつも東京にいた叔父のところへ遊びに行って、ディズニーランドに連れて行ってもらってました。

安田淳一監督
「岡崎二郎先生が叔父」という話は出会った6年後に聞きました今それ言います?当時はびっくりしましたけど。

-『侍タイムスリッパー』を見て、助監督の話を耳にして、インタビューにあたって調べていたら、実際に監督をされていて、作品とのつながりとして面白いなと思っていました。短編映画制作のきっかけは?

沙倉ゆうの
当時、門真国際映画祭のキャンペーンモデルをしていたのですが、映画祭で米子映画祭のスタッフの方とお会いした時にチラシをもらったんです。3分以内の短編作品のコンペ募集が載っていました。「じゃあ私もなにか作ろうかな」と思ったんですけど、自分で本を書けないから、おじちゃんに「私が主役で何かできるやつを書いて」って頼んで作ってもらいました(笑)

安田淳一監督
“私が出る”っていうところがポイントやな。

沙倉ゆうの
そう、私が作れて、主役でできる本をって。

安田淳一監督
そういった脚本で、ゆうのちゃんが監督で、僕がカメラマンでした。

沙倉ゆうの
それが私が監督した短編映画『想いのこり』です。

▼時代設定について

-時代設定について教えてください。作品ではガラケーが登場し、スマホは登場しないですよね。時代設定は幕府滅亡から140年後なので2007年頃、つまり今から15~16年前ではないかと思うのですが、この時代設定にした理由は?

安田淳一監督
2007年頃をイメージしています。実は、撮影所の人から「現代(2020年代)の設定だとしたら、この話はおかしい」との指摘を受けました。「“週に一本程度しか時代劇が制作されていない”状況は、スマホのある時代設定だと嘘っぽく見えてしまう」と指摘されました。
つまりスマホ時代はほぼ0本。

―このあたりの話は、時代劇の最盛期と衰退がストーリーとリンクしていて、非常に面白いと思いました。タイムスリップ作品の設定としても、タイムスリップする地点が変わらないことを踏襲しつつ、その時間のずれ方などにオリジナリティがあって面白かったです。

▼きっかけは、宝くじのCM、そして逆算

-この作品のきっかけとして話されているCMは宝くじのCMですか? シリーズ物のCMで、作品のモチーフと思える内容もいくつかありますが。

安田淳一監督
宝くじのCMが直接のきっかけというわけではありません。そのCMは、印象に残っています。

そこで「親交のあった福本清三さんがタイムスリッパーだったら?」と考えました。
その時「これは面白くなるわぁ」と思いました。

単なるコメディで終わらせないために、後半に向けて盛り上がりを作りたいと考えました。 そういった逆算の考え方です。そのために、時代劇映画の撮影所を舞台に、「斬られ役」俳優という存在、そして「真剣による殺陣」というアイデアを盛り込みました。

さらに、物語に深みを与えるために、幕末の史実を踏まえ、会津藩と長州藩の対立をモチーフに、主人公とライバルの関係性を構築しました。 これらの要素を逆算的に繋ぎ合わせていき、現在のプロットの原型が完成したんです。

▼海外での反応

―本作は、ファンタジア国際映画祭で観客賞を受賞されて、スタンディングオベーションも起こったそうですが、海外の方の反応はいかがでしたか?

安田淳一監督
めちゃくちゃ良かったですよ! みんな無邪気で、コメディと分かるとどこでも笑うんです。シリアスな場面でも笑いが起きて、僕は「あれ? 日本人なら静かに観るところなのに…なんで笑うんだろう?」と不思議でしたね。


海外のみなさん、もう、笑いが止まらない様子で。海外ではまず武士に対するイメージが私たちとは全く違いますし、なかには日本人らしい反応を示していた人もいたかもしれませんが、基本的には大爆笑でした。
新左衛門もすぐに気に入ってくれて、あっという間にファンになっていましたね。「よくやった!」と褒めてくれる人も多かったです。

「あんたら笑いすぎやろ!」って感じでしたよ(笑) 本当にすごかったです。この反応を見たら、なぜ海外の映画祭に監督たちが行きたがるのかが分かりました。こんなに反応が違うと、そりゃハマりますよね。日本人は大人しくて、笑ったら迷惑になるんじゃないかと考えてしまう人が多いですが、海外の観客の反応を見たら、もっと自由に映画を楽しんでいいんだと思えました。みんなで手を叩いて喜んで、そんな風に映画を観られたらいいですよね。

日本では、笑うべきところで笑って、静かに観るところでは静かに観てくれますが、海外の人はとにかく最初から最後までずっと笑っているんです。真面目なシーンでも笑っていて、本当にすごいなと思いました。とにかく大好評でしたね。ただ、審査員が選ぶ賞は一つも取れなくて…。
観客の反応が良かっただけに、正直ガッカリしました。でも、観客の皆さんが喜んでくれていたのが救いでしたね。

でも、心のどこかで「審査員賞は全然ダメだったしなぁ… あの拍手は社交辞令だったのかな?」と疑っていました。

ところが、帰国して一週間後くらいに、審査員代表のアダムさんから連絡があって、「観客賞金賞を獲った!!!!」と大興奮で言われたんです。それを聞いて、「あれ? 本当に評価されてたんだ!」と驚きましたね。

-観客賞の金賞を受賞されたんですよね?

安田淳一監督
そうです。観客賞の金賞です。

沙倉ゆうの
観客賞のなかで1位なんです。3位まであるんですけど。

安田淳一監督
金賞、銀賞、銅賞があります。

ファンタジア国際映画祭 2024 観客賞最優秀アジア映画賞
金賞:侍タイムスリッパー
銀賞:Twilight of the Warriors: Walled In
銅賞:ペナルティループ

2位の香港映画「Twilight of the Warriors: Walled In」は、サモ・ハン・キンポーさんが出演している作品です。香港では6週間連続興行収入1位を獲得したらしいのですが、それよりも上だったと言われました。サモ・ハン・キンポーさんといえば、僕らの世代のアイドルですから、嬉しいですよね。観客賞は本当に嬉しいです。観客の素直な反応ですし。僕の作品は批評家ウケは良くありませんから(笑) お客様に楽しんでもらえればそれでいいんです。だから観客賞は本当に嬉しかったですね。

▼メッセージ、みどころ

ー最後に、この作品の見どころだったり、より多くの人に広げるためのメッセージをそれぞれいただければと思います。

安田淳一監督
沢山ありますが・・・あえて言うと、東映の俳優部の皆さんの仕事ぶりです。彼ら彼女らは衣装を渡されると、この衣装なら…と自分で芝居を考えてくれて、撮影シーンの概略を伝えると、自分で状況を想像して演じてくれるんです。スタートの立ち位置と歩く先を伝えるだけで、あとは全部アドリブでやってくれる。歩き方までね。

例えば、作品を観ていただくとわかるのですが、「警笛鳴らすな」のシーンで、向こうから歩いてくる赤い服を着た女性がいます。彼女もきっと「私たちの仕事は大変なんだ」ということを歩き方で表現してくれていて。東映京都撮影所の俳優陣の演技力は本当にすごい。彼らの存在があってこそのリアリティです。

彼らの活躍がいいんです。彼ら彼女らがいるからこそ、ちょっとした演技をつけるだけで江戸時代の街が完成する。それは東京じゃできないですから。
着物を自分で着て、カツラも自分でつけて、メイクも自分でやって…って、すぐできる。こっちで素人に着物を着せて歩かせたら、現代アートになってしまう。全く違うものになってしまうので、京都の撮影所で撮る価値はすごくあると思います。そこを推します。

沙倉ゆうの
侍の話ですが、映画を作っている人たちの話でもあります。東映京都撮影所で殺陣を習っていたこともあるのですが、撮影での立ち回りを目の前で見たのは、この作品の撮影が初めてだったんです。

その迫力はすごくて、時代劇を残していきたい、大事にしたいと強く思いました。

時代劇が好きで映画を作っている人たちの部分も見ていただけたら嬉しいです。

安藤彰則
僕も小さい頃はテレビで時代劇の再放送をよく見ていました。最近は民放でも時代劇の再放送は減りましたよね。

出演者の息子さんに6歳の子がいるのですが、この映画を見てゲラゲラ笑っていて。「ああ、小さい子にもわかる映画なんだな」って思いました。

小学生くらいのお子さんでも、この映画を見たら、きっと時代劇を好きになってくれるんじゃないかな。ぜひ家族で見てほしいですね。
実際に5歳の男の子が、この映画を見ておもちゃの刀でチャンバラごっこをしていたそうです。
もちろん、小さい子たちだけでなく、小学生、中高生、大学生、若い方達にもぜひ見てほしいです。

戦争の時代を映す映画をみて、そういった時代背景があったことを初めて知ったという感想を最近読みました。

歴史や時代背景を知らない世代もいるわけです。時代劇もそこに含まれるのかもしませんが、時代劇を見たことがある人ももちろん、時代劇を見たことがない人にこそ見てほしいです。

-時代劇ブームがまた来るかもしれませんね。


■ 待望のパンフレット完成!

誰もが望んでいた『侍タイムスリッパー』のパンフレットが、10月4日(金)に、池袋シネマ・ロサで先行販売開始!10/11(金)から、全国劇場にて販売を開始します!


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■ 作品概要

映画『侍タイムスリッパー』

【ストーリー】
時は幕末、京の夜。会津藩士・高坂新左衛門は、密命のターゲットである長州藩士と刃を交えた刹那、落雷により気を失う。眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。行く先々で騒ぎを起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだと知り愕然となる新左衛門。一度は死を覚悟したものの、やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と、磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩く。「斬られ役」として生きていくために…。

出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの 監督・脚本・撮影・編集:安田淳一 殺陣:清家一斗
撮影協力:東映京都撮影所 配給:ギャガ 未来映画社 宣伝協力:プレイタイム 南野こずえ
©2024未来映画社
2024年/日本/131分/カラー/1.85:1/ステレオ/DCP 
公式サイト https://www.samutai.net/

侍タイムスリッパー

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