カメラは魔法のアイテム、『ほなまた明日』田中真琴×道本咲希監督、写真を通して描く自分と向き合う道のり

カメラは魔法のアイテム、『ほなまた明日』田中真琴×道本咲希監督、写真を通して描く自分と向き合う道のり

写真家を夢見て、ひたむきに生きる主人公ナオとその仲間たちの青春群像劇を描いた映画『ほなまた明日』。今回は、本作で長編映画監督デビューを果たした道本咲希監督と、主人公ナオを演じた田中真琴さんにインタビューを行いました。SNSでの評価に左右されがちな現代において、本当に大切なものとは何かを問いかける本作。自身の体験を投影させたという道本監督のリアルな視点と、撮影を経て役柄と自身を重ね合わせたという田中さんの想いに迫ります。

ほなまた明日

■映画『ほなまた明日』田中真琴、道本咲希監督インタビュー

▼イントロ ~お名前の話~

-当サイト恒例のお名前の話から始めたいと思います。道本咲希監督のお名前の“さき”は、“咲”だけでなく、希望の“希”が含まれていますが、名前の由来にはどういったものがあるのでしょうか?

道本咲希監督
漢字の通りで、「希望が咲くように」という願いから来ています。

-田中真琴さんの“真琴”に込められた意味は?

田中真琴
真実を奏でるということで、「正直な人間になるように」という意味があるらしいです。

ほなまた明日

▼道本監督への質問。道本監督とカメラとの出会い

ーそれでは作品に関するインタビューに入ります。すでに公開されているお二人コメントから質問を立案しております。よろしくお願いします。


ー道本監督は「カメラというものがあるからこそ、他者とコミュニケーションが取れているように思う」とか、「カメラがなければ出会うことのなかった人や、接することのなかったはずの世界を知ることができる」とおっしゃっていました(「ほなまた明日_作品資料.pdf」の監督インタビュー内)。
カメラというものが監督にとって大事なアイテムであり、友達であったり、相棒であるという感じがするんですけれども、カメラを通じたエピソードや、助けられたこととか、カメラとの出会いみたいなのを聞かせていただけますか?

道本咲希監督
私自身はカメラだけというより、監督をすること自体が他者とのコミュニケーションを取ることであったり、知らない世界を知ることができるきっかけになっています。他者のことを知れる・考えられるということが私にとって映画作りで大事にしている部分なので、今まで全ての行為が私に影響を与えていると思います。

ーカメラ…スマホでもいいのですが、カメラに最初に触れたときって、何か覚えていることがありますか?

道本咲希監督
私のカメラの始まりは ミーハー心というか、かなり浅はかな感情から入っているんです。

ー“浅はか”という単語が、コメントにも載っていましたね。

道本咲希監督
そうです。“カメラを持った私は何者かになり作品を作るだろう”ぐらいの安易な気持ちでカメラをはじめてみたら、もちろんそんなのでは作品は撮れなくて。

ーミーハーというと、“芸能人の誰かを撮りたい”といった気持ちなのかなと思いましたが、それよりかはカメラで何かができるかもしれないという思いだったということなんですね。

道本咲希監督
私は学生の頃に初めて映画を撮ったんですけど、“個人作家ゼミ”というゼミにいて、一人で作品を作るっていうゼミだったんです。なので、カメラを持つ・自分でカメラを回すということが必然かなと思っていました。ひとりで映画を撮るためにカメラを買ったことがスタートだったかもしれません。

▼道本監督の準備作業。どういった言葉を交わした?

ーこれも監督の言葉なのですが、“現場で突発的に面白いことを考えるのが苦手なで準備段階を大切にしている”とおっしゃっていました。リハーサルをやられて、特に監督が“ナオ役の田中さんにはいろいろ話した”という話もありました。そこでどんなことを話したのか、その時のことをお二人からお話しいただけますか。

道本咲希監督
そうですね。映画を撮ることが決まって、いざ、田中さんとお会いするというタイミングで、早々に、「ナオちゃんはこういう子です」みたいなお話をさせていただきました。あとは「こういう写真を撮りたくてナオは写真をやっています」と一緒に写真集を開いてみたり。その後に、リハーサルをして、田中さんの出してくださるお芝居のアイデアに対して「私はこう思います」みたいな話を,結構時間をかけてさせていただきました。

田中真琴
具体的なことだと、ナオの懐の深さとか器の大きさとか、そういう部分を求められることがリハーサルの段階であって、自分はまだ役づくりの途中だったんで、どういう懐の大きさ、深さを持っているかは未知だなと思いました。
正直、自分のことと写真のことでいっぱいいっぱいの彼女に、人を母のような愛情で包むまでの余裕があるのかなとか、そういうのをすごく悩みながらリハーサルをやっていました。
ただ、それって一人だけのことじゃなくて、相手の、今回は松田さんとの役とか、役者さん同士が考える期間だと思うので、そういうことを気をつけながらやっていて、気づいたらそういうふうに見えていたので、私的には結果として、それはすごい良かったなって思いましたね。

ほなまた明日

▼写真を撮る所作、構え方

ーカメラといえば、写真を撮る所作とか、カメラの構え方みたいなものって何か伝えたことはありますか?

道本咲希監督
今回は写真学生の映画を作る上で、写真にはすごく真摯でいなくちゃいけないと思っていて、身体的にも嘘をつきたくないな思いました。なのでナオの劇中の写真を撮っていただいた写真家の淵上さんと田中さんと一緒に街を歩いて、カメラを使い方をレクチャーしていただいたり。田中さんには劇中で使うフィルムカメラをお渡しして、なるべくカメラを体に馴染ませていただくようお願いしました。

田中真琴
カメラとフィルムをたくさんいただいて、フィルムを実際に換えるシーンがあったりすると思うので、そういうのに慣れるように自分でYouTubeで勉強したり、フィルムの現像の仕方とかもいろいろあると思うので、そういうのもYouTubeの動画のリンクを監督から共有してもらったりして、動画を見ながらイメージを膨らますことをしました。

田中真琴

▼写真家の方とのフォトウォークを通じて得たもの

ー先ほど、五反田を歩いたりといった話があったと思うんですけど、そこで得たものというか、写真家さんの動きとか撮り方とか、声のかけ方とか、その辺りで印象に残っていることはありますか。

田中真琴
知らない人に声をかけてストリートスナップを撮らせてもらうので、どういうふうに思われるかとかはいろいろあると思うんですけど、どういうふうに声をかけても嫌な人は嫌だし、あんまりそこは考えずに、フラットに話しかけていたほうが怪しくないんじゃないかなとか、実際、自分が池袋をいろいろ練り歩いて思ったことで。淵上さんが実際に声をかけた人を撮るところも見せていただいて、その時も普通に話しかけていらっしゃったので、これぐらいフラットでいいんだなというのがすごく印象的でした。

田中真琴

ー写真家さんの撮影風景を見る機会はなかなかないと思うのですが、道本監督もこれを見て気づきがあったのではないでしょうか?。

道本咲希監督
そうですね。フィルムカメラで撮影される淵上さんの体の使いといいますか、撮る瞬間に体を自分が撮りたいところに瞬時に持っていくっていう、運動的な体の使い方とか、素直にすごいなと思いながら見ていました。忙しない街中で、本当にこう一瞬時が止まるような、“ひと呼吸の間(ま)”みたいなのが感じられて、そこに意志の強さや覚悟が見えるという、そのお姿に感動していました。

ほなまた明日

▼田中さんのナオのとらえ方

ー田中さんがナオに対して「強くて儚くて大好きな役」っておっしゃってたんですけど、その強さだったり儚さだったり、どんな点が好きだったり、みたいなところについて教えてください。

田中真琴
強さでいうと、やっぱり写真へのまっすぐ向かう強さっていうのが圧倒的で、それが彼女自身と言えるくらい強いなっていうのをみるからに思っていました。本人がどこまで自覚しているかは、見ているお客さんがそれぞれ感じるものでもあると思うんですけど、それが彼女の強さだとおもいます。

儚さっていうのは、彼女自身というよりかは、それを取り巻く周りの人たちから見ての彼女というか、あっという間にそばを過ぎ去ってしまいそうな、刹那的な、ずっと留まってくれないような、ある意味安心感もない人みたいなところに儚いなって思いました。
たぶん自分がそばにいたらそう思ってしまう。私はこの人のそばで見ていたいけど、彼女はもっと前に進むだろうなっていう意味で、たぶん周りから見た儚さ、なんかそういうところがすごく儚いと思いました。
ギャップというのかわからないですけれども、その2面性というか、そういうところがすごく素敵だなと思いました。やらしくないというか、ねちねちしてないというか、すごくすっきりしていて、力強い人にやっぱり私も惹かれるし、かっこいいなって思いますね。

ー確かにブレない感覚と、目指す先の遠さとかがナオにはありましたね。

田中真琴

▼田中さんが生きたナオの時間から影響を受けたもの

ー続けて田中さんに質問なんですけど、ナオという役を演じて、ナオだったらこういう写真を撮るだろうなとか、写真展に入ってみたり、田中さん自身の生活だったり、考えの中にナオが入ってきたような感じがすると思うんですけど、影響を受けた部分を聞いてみたいと思います。

田中真琴
漠然と今まで自分が役者をやるってなった時に、頑張らなきゃ頑張らなきゃっていうのがありました。ナオの写真への強い思いを知って、私も“これぐらいの気持ちで…”じゃないですけど、“周りのことを考えずに…”じゃないですけど、きちんと突き進みたいって改めて思うようになったのと、それってもともと私が持っていたもので、それに改めて気づけました。
私って確かにこういうところが昔からあったな、周りが「こっちにした方がいいんじゃない?」っていうことを無視して決めたりとか、いいと思ったものがいいっていう感性はずっと小さい時から持っている子だったので、そういうところを改めて見つめ直せているなって思っています。

それがやっぱり、写真を撮るのも、自分がいいと思ったものを撮りたいっていうのは、ずっと小さい時から写真が好きだったのもあって、それは別に仕事じゃなくても、趣味程度でもやっていいんだっていうか。私の人生の中で好きなこととして、そばにおいておきたいなって思ったんです。

なので、写真をやるんだったら、ちゃんとカメラマンを目指さなきゃとか、勉強しなきゃとか、いろいろ考えるんじゃなくて、ふらっと撮りたいなって思ったものを大切にしたい。そういういろんな強さみたいなのは、改めてナオから気づかされたことだなって思っているので、写真展とかも気になったらふらっと入ってみたりとかできるようになりました。

ーいい影響をうけましたね。

田中真琴

田中真琴
人生を豊かにする影響をいただいたかなって思います。

▼撮られる側、撮る側の意識について

ー基本的に俳優やモデルをされていると、撮られる側が多いと思うのですが、田中さんは、写真を撮ること(飼い猫のチャーリー先生の撮影)や動画配信をおこなっていて、情報を発信することもされています。そういった面で、今回の作品を通じて自分の中に得られたものってありますか?

田中真琴
写真を撮られるときと撮る側って結構乖離した感覚があるってずっと思っていて、でも今回この役を通して、いろんな写真家さんのメッセージみたいなものを映像とか本から受け取って、お互いに見てるし見られてるっていうのをより感じられました。
レンズを通してカメラマンが見ているんじゃなくて、相手も見ているし、それって結構写し鏡みたいなものだなって抽象的ですけども思って、それはこれから自分が撮られる側をやるときもまたこれからに。猫とかを撮るときも、猫を撮っているように感じて猫に見られているし、そういう意識が働くと、またちょっと分厚さというか写真の重みみたいなのは増すのかなって、今回いろいろ勉強して、いろんな写真家さんたちの心持ちを学んで思いました。そこは変化しているなって思いますし、自分がこれからまたYouTubeとかで映像を撮るときに、そういう、「これでいいや」みたいな、そういうかたちではやらなくなるだろうなと思いますね。

田中真琴

▼道本監督とカメラ。道本監督にとってカメラってなんぞや

ー監督の作品で、『19歳』を今回のインタビューにあたり、『ほなまた明日』に加えて観ました。両作品とも、道本監督とカメラというものがすごく結び付いているような気がしました。道本監督にとってカメラとは?

道本咲希監督
本作をとっている間、私自身がカメラを使って制作をする(映画を制作する)理由を考えていました。

やはり、私にとってカメラはそれを理由に他者と接することができる・知ろうとすることができる、大事な道具です。カメラを理由に、壁を超えていける。

あとはカメラに映る登場人物の芯をついた姿がとても好きです。カメラがあるから芝居をしてもらえる。

本来は狭い世界でしか生きられない私を外に連れて行ってくれる魔法みたいなアイテムです。

ほなまた明日

▼メッセージ、みどころ

ーお二人から、みどころやメッセージをお願いします。

道本咲希監督
SNSが発達したことで簡単に「いいね」と言ってもらえるようになりました。その簡単に褒めてもらえる現代社会だからこそ、他者からの意見を気にせず自分のことを信じ、一つのことを極めていくということが一段と難しくなっています。そして、言葉にできなくとも、この状況に違和感を感じている人も多いのではないでしょうか。「何かを頑張りたい。でも何だか難しい」そういう方達にぜひこの映画をみていただきたいです。

『ほなまた明日』というタイトルには、登場人物全員が自分のペースで歩み、またどこかで出会えるようにという願いが込められています。派手な映画ではないかもしれませんが、ぜひ気軽に見て、何かを感じてもらえたら嬉しいです。

田中真琴
私の周りの人やクリエイターの方々がこの映画を見て、それぞれ共感するキャラクターが異なることに気づきました。ナオに共感する人もいれば、サヨ、多田、山田に共感する人もいます。人生で様々な選択をしてきて、「この選択でよかったのかな」と誰もが思う瞬間があると思います。この映画を見て、誰に共感し、誰と同じような選択をしてきたのか、そして自分の人生を振り返るきっかけにしてほしいです。フリーターでなくても、立ち止まって考えることは大切です。ぜひ映画を見て、感想を聞かせてください。

ーありがとうございます。誰に共感するか。映画を観る前に質問をなげかけておいて、「映画鑑賞後にその答えを聞きます」といったアンケートみたいなことを事前にしておくとよい答えが数多く返ってくるかもしれませんね。

ほなまた明日
ほなまた明日
田中真琴

スタイリスト: 槇 佳菜絵
ヘアメイク:菅井彩佳

【田中真琴さん着用衣装】
ドレス¥104,500(ミューラル/ザ・ウォール ショールーム)
靴¥11,900(チャールズ&キース/チャールズ&キース ジャパン)
ピアス¥28,600(アミティエ・クレディール/ロードス)
バングル¥3,900(soie/ロードス)

【問い合わせ先】
ザ・ウォール ショールーム:www.thewall.co.jp
チャールズ&キース ジャパン:https://charleskeith.jp/
ロードス:03-6416-1995


▼場面写真


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映画『ほなまた明日』

監督:道本咲希 脚本:郷田流生 道本咲希

出演:田中真琴 松田崚汰 重松りさ 秋田卓郎

大古知遣 ついひじ杏奈 越山深喜 ゆかわたかし 加茂井彩音 福地千香子 西野凪沙

撮影:関瑠惟 照明:松島翔平 録音:坂元就 美術:畠智哉 スタイリスト:大場千夏

ヘアメイク:荒川瑠美 助監督:中村幸喜 制作:小林徳行 スチール:染谷かおり

劇中スチール:淵上裕太 編集:中村幸貴 音楽:大江康太 小金丸慧 入江陽 宣伝:平井万里子

題字・宣伝デザイン:三宅宇太郎 ラインプロデューサー:田中佐知彦

アソシエイトプロデューサー:大久保孝一 黒川和則 児玉健太郎 南太郎 渡辺雄介

プロデューサー:市橋浩治 特別協賛:真琴の愉快な仲間たち ラディアスセブン

制作:Ippo 製作・配給:ENBUゼミナール

2024|カラー|アメリカンビスタ|2ch|99分 ©ENBUゼミナール

http://honamata-ashita.com/

9月28日(土) 新宿K’s cinemaほか全国順次公開

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