星野源、7年半ぶりのエッセイ集第2弾『いのちの車窓から 2』刊行。出版記念トークイベントレポート

星野源、7年半ぶりのエッセイ集第2弾『いのちの車窓から 2』刊行。出版記念トークイベントレポート

歌手、俳優、文筆家として活躍する星野源さんのエッセイ集『いのちの車窓から 2』が、KADOKAWAより9月30日に発売された。2017年刊行の『いのちの車窓から』以来、約7年半ぶりとなる待望の続編。本書には、2017年から2023年までの雑誌「ダ・ヴィンチ」連載原稿に、書き下ろし4篇を加えた計27篇が収録されている。出版を記念し、都内書店で出版記念トークイベントが行われ、エッセイ執筆および出版にあたっての気持ち・感情について語った。

星野源

■ 『いのちの車窓から 2』

前作では、星野さんが普段かけている度の強い眼鏡のレンズ越しに周囲を見ている自分を「窓の内側」にいるものと感じながら、「窓の外側」を綴るというテーマで執筆が進められた。しかし今作では、その視線が少しずつ「心の中」へと向かっているという。

《最新刊・単行本》

©『いのちの車窓から 2』/KADOKAWA

作品名: いのちの車窓から 2
著者名: 星野 源
発行元: 株式会社KADOKAWA
発売:2024年9月30日(月)/定価:1,540円(本体1,400円+税)/判型:四六判・並製頁数:256頁
カバーイラスト:ビョン・ヨングン/ISBN:978-4-04-115411-3

https://amzn.to/4eHtKeM

「生きるのは辛い。本当に。だけど、辛くないは、生きるの中にしかない。」(本書「出口」より)

笑顔の裏で抱えていた虚無感、コロナ禍下での日々、『喜劇』の創作秘話、進化する音楽制作、大切な人との別れ、新しい出会いと未来、新しい生活について――。約7年半にわたる星野さんの日々、そしてその時々の「心の感触」を真っ直ぐに綴ったエッセイ集となっている。

星野さんは、「日頃伝えきれない感触が、エッセイでは書けるような気がします。この本には7年間に起きた出来事や出会った人、その時々の自分の心の感触が記録されています。個人的にですが、単行本用に書き下ろした4つの新作が好きなので、ぜひ手に取って読んでいただけたら嬉しいです」とコメントを寄せている。

カバーイラストは、前作に引き続きビョン・ヨングン氏が担当。装丁も前作と同様に、角川書店のシンボルである「飛ぶ船」マークが印象的なものとなっている。

価格は1,540円(本体1,400円+税)。全国の書店、ネット書店、電子書籍ストアで販売中。


《文庫》

©『いのちの車窓から』/KADOKAWA

作品名: いのちの車窓から
著者名: 星野 源
発行元: 株式会社KADOKAWA

発売:2022年1月21日/定価:660円(本体600円+税)/判型:文庫判/頁数:208頁
カバーイラスト:ビョン・ヨングン/ISBN:978-4-04-102649-6

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■ 『いのちの車窓から 2』 出版記念トークイベントレポート

歌手、俳優、文筆家と多彩な顔を持つ星野源さんの最新エッセイ集『いのちの車窓から 2』が9月30日に発売された。10月1日には、刊行を記念したトークイベントが都内で開催され、星野さんが作品に込めた思いを語った。

▼書籍化について

イベントには、ライターの小田部仁さんが司会として参加。星野さんは、7年半ぶりの続刊となった本書について、「音楽活動や俳優業など、様々な活動をしながら、じっくりと時間をかけて書き上げた」と語った。

小田部: 前作から約7年半ぶりの刊行となりましたが、この7年間は星野さんにとって本当に様々な出来事があったと思います。アルバムリリース、ドームツアー、ワールドツアー、そして俳優活動に加えて、改めて、今回書籍化作業をされてみていかがでしたか?

星野:そうですね、7年半という時間が経っているので、最初の頃の原稿を読み返すと、まるで他人が書いたもののように感じました。「そういえばこんなこと書いてたな」と思い出すような感覚でしたね。そこから単行本化に向けてまとめる作業が始まりました。
実は、連載が終了した昨年には出版する予定だったのですが、音楽活動に集中していたため、少し延期になりました。『命の車窓から 2』は、私にとって本当に大切な作品にしたかったので、3ヶ月ほどかけてじっくりと制作しました。連載時の文章に加筆修正を加え、書き下ろしも収録しました。書き下ろしは、単なるおまけではなく、作品にとって重要なピースとなるように意識しました。おかげで、納得のいく作品に仕上がったと思います。


エッセイを書き始めたきっかけについて、星野さんは「20代の頃、メールで自分の思いをうまく伝えられなかった」という経験を明かした。「文章を書くことで、自分と向き合い、より深く理解できるようになった」と述べ、エッセイは自分にとってセラピーのようなものだと語った。

▼執筆キャリアは20年

小田部: バックカバーにも仕掛けがあったりして、素敵な本に仕上がりましたね。改めて伺いたいのですが、星野さんのエッセイ集はこれで5作目、執筆キャリアとしては約20年になりますよね?

星野: はい、そうです。もう20年になりますか。

小田部: まもなく20年ですね。雑誌などに書かれていたものを数えると、20年ぐらいになるという感じで。そもそもの話になるのですが、音楽家、俳優に加えて文筆業も始めようと思われた理由は何だったのでしょうか?

星野: 中学1年生の時に演劇を始めて、同じ頃にギターを始めて音楽を始めたんです。小学生の頃から国語の授業が好きで、感想文や作文を書くのが好きでした。文章を書く仕事にも憧れがあって、よく書いていましたね。ただ、それは好きでやっていたことでした。音楽と役者、どちらも趣味でやっていたものが20歳を過ぎてから仕事になっていく中で、20代前半に文章も書きたいと思いながら書けていなかったんです。20歳を過ぎた頃からPHSや携帯電話でメールを書く機会が増えてきたのですが、メールを打つのがすごく下手だったんです。自分の思いが全然伝えられないというか。例えば、一緒に物作りをしている相手に「こうしたい」ということがうまく伝えられない。言葉が足りないなと思って、どうすれば上手くなれるだろうかと考えた時に、勉強が苦手なので習うのは無理だなと(笑)。だったら仕事にしてしまおうと。仕事にすれば責任感も生まれるし、絶対に上手くなるために頑張るんじゃないかと思ったんです。それで、知り合いの編集者に「何でもいいので、連載をやらせてください」と頼み込んで、そこから始まりました。自分が好きなエッセイの影響を受けながら、自分にしか書けない文章とはどんなものだろうと追求していく中で、この本にたどり着きました。


本書には、星野さんの日常や創作活動、心の内面を描いたエッセイが多数収録されている。書き下ろし作品を含む、4編のエッセイは特に印象的だ。星野さんは「書きながら終わり方が見えてくる」という独特の執筆スタイルで、読者を惹きつける文章を生み出している。

▼エッセイを書くときに意識していること


小田部: 星野さんがエッセイを書く際に意識されていることはありますか?

星野: そうですね。エッセイを書き始めた頃は、面白い文章を書きたいと思って、面白い体験を探していました。でも、「命の車窓から」に関しては、何も考えずに書き出すようにしています。もちろん締め切りがあるので、「締め切りがあるな」と思いながらパソコンの前に座って、「何を書こうかな」から毎回始まるんです。

「そういえばあんなことあったな」と思い出して書き始めるのですが、オチは決めていません。書きながら終わりが見えてくるというか。どうやって終わるんだろう? と思いながら書いていると、急にパーンと綺麗に終わる時があって、それがすごく気持ちいいんです。作為的に何かをしようとせず、自然に自分の中から出てくるものを書き留めるようにしています。


▼びっくりするような終わり方


小田部: それであんなにすごい終わり方のエッセイがいくつもあるじゃないですか。あれ、その場で考えながら作っているということですよね?

星野: そうですね、その場で考えながらですね。

小田部: 本当ですか? 信じられないくらいすごい終わり方だなと思うのですが。

星野: 本当ですか?(笑)まぁ、嘘はつけないですからね。

小田部: ちょっとびっくりしますよね、あの終わり方とかって。

星野: そうなんですよね。もちろん自分のエッセイなので自分の話が書いてあるわけですが、どうしてもエゴが出てきてしまうと思うんです。それは全然いいと思うんですけど、なるべくそういうのを削ぎ落としていく作業をいつもしています。強調したいという思いを抱いたら、なるべくそこを削っていくというか。強調するって、すごく欲と似ている感じがするので。自分がその体験をした時は、何かを強調されていたわけではなく、たまたまその場にいて、例えば「痛み重増症」をいただいた時のエピソードの最後にあったことは、ものすごく感動したんです。

すごい感動したことを強調したくなるじゃないですか。どうしても人に伝えるときって。だけど強調してしまうと、強調している僕の話を読むだけになってしまう。それをどんどん削ぎ落としていくと、読む人が同じように体験できるんじゃないかなと思って。なるべくこのエッセイに関してはそういう気持ちで書いています。


▼エッセイを書くということ


小田部: ちょっと根本的な話になってしまうのですが、星野さんにとってエッセイを書くってどういうことなのでしょうか?

星野: なんとなく気がついたら書いていたという感じはあるのですが、一番最初は、20年前くらいですかね、とにかく文章を書けるようになりたいと思っていました。面白い文章が好きだったので、素敵な文章を書けるようになりたいなと。でも、特にこの本を書いているときは、自分との対話というか、自分と向き合うことになりますよね。普段はなるべく自分と向き合いたくないものですが、エッセイを書くと自然と向き合わざるを得なくなる。そこで自分と何か会話をしながら書いているというか。「大体そんな感じだな」と思うことでも、「本当にそう思っているのか?」と自問自答を繰り返すんです。

小田部: なるほど、なるほど。

星野: 「なんとなくこう感じているんだよな」という漠然としたところから、「それは本当なのか?」と掘り下げていく。例えば「悲しかった」という出来事があったとして、「本当に100%悲しかったのか?」と自問自答していくと、実際には「70%は悲しいけど、20%はどうでもよくて、10%は面白い」だったりするんです。それを嘘をつかずに、ちゃんと書く。

星野: そうすると、悲しみでいっぱいだった思い出が消化されて楽になるんですよね。「意外とちょっと面白がっていたよね」みたいな。そういう意味で、自分と向き合うことには利点があると感じています。だから、エッセイを書くことは、自分にとってセラピーのようなところがありますね。


▼心の感触

小田部: 「心の感触」という言葉を使われていましたが、星野さんにとって「心の感触」とはどういったものなのでしょうか? 感情を書くのとはまた違うわけですよね。

星野: そうですね。

星野: 「心の感触を書きました」って、すごく抽象的な表現ですよね。「何それ?」みたいな(笑)。自分でも漠然とはしているのですが、起こったことをそのまま書く、ということでしょうか。ただ、事務的に書くのではなく、そこには自分の心の反応が必ずあるので、そこも含めて書く。そうすると、自分も含めた風景を書くことになり、客観的になれるんです。

星野: 感情を描こうとすると、「こうこうこうなんだ、わかってくれよ」という気持ちになってしまう。それよりも、「こういう風に心が変化した」という風景を描く。そうすることで、自分に対して客観的になれる。客観的になることで、変に盛らずに書ける。それは自分の心模様を写し取るような感覚です。


▼書き下ろしの題材の決め方

小田部: あともう1つ伺いたいことがあって、書き下ろしのエッセイが4編収録されていますが、どれも本当に素晴らしい作品です。この書き下ろしの題材ってどんな風に決められたんですか?

星野: そうですね。書き下ろしに関しては、「これ書きたいな」というのがあって書いたものが3つありますね。最後の最終回として「命の車窓から」と書いたもの以外は、書こうと思って書きました。僕がすごく大事に思っている若い音楽ディレクターさん、もう亡くなってしまったんですけど、東さんという方のことはずっと書きたいなと思っていて。連載ではどうしても書ききれないところもあって、亡くなったばかりだと、その方への思いみたいなものが自分の中でまとまりきっていなかったのですが、今なら書けるなというのもあったので書かせていただきました。なので、この本の中では異例というか、あまりやってない書き方をその3編ではしています。


▼思い入れの深い作品

小田部: 星野さん、ちなみにこのエッセイの中で特に思い入れの深い作品とかってありますか? 全部、本当に素晴らしいですよね。

星野: 僕、「命の車窓から」も大好きです。全部大好きなんですけど、特に… えー、なんだろう。あ、でも、書き下ろしの最終回、「命の車窓から」っていうタイトルで、一番最後に載っている話なんですけど、あれはすごく好きですね、自分でも。あれは書き下ろしの中では何も書こうと思って何かを決めて書いたわけじゃなくて、何かできちゃったっていう感じなので。自分でも書きながら「これはどこに行くんだ?」っていうのはすごく楽しかったです。

小田部: 最初に読んだ時、何の話なんだろうと思ったんですよ。いろんな「命の車窓から」っていうテーマがガーッと集まってきたというか。これは本当の話なのか、お嬢さんの妄想の話なのか、何なのかっていうことが、その…圧倒的な分からなさに包まれているのが、読んでいる間すごく気持ちよくて。ああいう体験はよくあるんですか? 星野さんの中でというか。

星野: そうですね。生きていて、ある意味「ここどこにいるんだっけ?」みたいな感覚に突然陥ることがあるんですけど。「そういえばそんなことあったなー」から始まって、あれはなんでそんなことになるんだろう、そういう気持ちになるんだろうと考えていくうちに、この「命の車窓から」っていうエッセイのテーマが全部そこに集まってきたんです。急に「うわー、集まってきた」みたいな。ごめんなさい、全然説明になってないと思うんですけど(笑)。とにかく書いていて面白かったのはその回ですね。

小田部: すごく星野さんの頭の中を覗かせていただいたような感じがして、めちゃくちゃ面白かったです。



イベントでは、海外でのエピソードや、夜型の生活リズム、印象的な作品など、興味深い話題が次々と飛び出した。星野さんは「これからも様々な活動を続けていきたい」と抱負を語り、イベントは盛況のうちに幕を閉じた。


▼星野源はこれからどこに行くのか

小田部: この後、星野さんがどこに行くのかっていうのは本当に気になるところではあるんですけども。

星野: ちょっとよくわからないですけど(笑)でもどうなっていくんでしょうね。

小田部: 書いていったり、でも創作活動はどんどんまだ続けていくわけじゃないですか。音楽はもちろんのこと。どうされていくのかなっていうことが気になるんですけどね。

星野: そうですね。でも、以前は同時にいろんな仕事をしたいという気持ちがあったのですが、今は1つ1つを大事にやっていきたいという気持ちが強いです。音楽にしろ、役者の仕事にしろ、文筆にしろ(笑)、1個1個じっくりやっていけたらいいなと思っていて。もうやらない、ということは基本的にないんですけど、またいつかやるかもしれないですし。どうなっていくんでしょうね。


『いのちの車窓から 2』は、星野さんの心の感触が率直に綴られた、読み応えのある一冊となっている。ファンはもちろん、星野さんの作品に触れたことのない人にも、ぜひ手に取ってほしい。

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