猫とモルックと眼差し:廣田朋菜と大河原恵が見つめる、映画『TODOKU YO-NA』(川原康臣監督)の世界

猫とモルックと眼差し:廣田朋菜と大河原恵が見つめる、映画『TODOKU YO-NA』(川原康臣監督)の世界

2024年9月14日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開となる映画『TODOKU YO-NA』。フィンランド発祥のスポーツ「モルック」を題材に、廣田朋菜さん演じる葉道と、大河原恵さん演じる奈子という二人の女性がモルックを通して友情を育む姿を、曽我部恵一さんの書き下ろし音楽に乗せて描きます。
監督は、前作『寝てるときだけ、あいしてる。』でインディーズフィルムショウの第一弾作品に抜擢された川原康臣監督。 実体験から着想を得たという本作は、 サニーデイ・サービスのMV「セツナ」でタッグを組んだ廣田さんと大河原さんを起用した世界初のモルック映画。
本インタビューでは、川原監督、廣田さん、大河原さんの3名に、映画制作の舞台裏や作品に込めた思いを伺います。

■ 映画『TODOKU YO-NA』インタビュー

▼1.モルックとの出会い。映画の始まり

ーモルックを始めたきっかけは何だったのでしょうか?


川原監督
2021年頃、友人の映画監督に突然誘われたんです。吉祥寺かどこかの公園で一緒にやってみたら、その面白さにすっかりハマってしまって。すぐにAmazonでセットを買って、一人で公園に行って練習したりしていました。
映画を作る友達が多いので、一緒にモルックをするうちに、自然と「映画にするならどうする?」みたいな話になって。自分の中で映画にするためのまとまった予算もできたので、「本当に映画にしてしまおうか」と。それが最初のきっかけですね。本当にモルックが映画の起点になっているとしか言いようがない感じです。


ー監督自身の体験から映画が始まっているんですね。

川原監督
そうですね。

▼2.主演二人のモルックとの出会いは、本作がきっかけ

ー主演のお二人は、モルックという競技に触れたのは本作が初めてだったのでしょうか?


廣田朋菜
はい、知りませんでした。


大河原恵
私も知らなかったです。


ー2024年 8月下旬には、日本で初めての世界大会が函館(2024モルック世界大会in函館)で開催されますね ※本インタビューは8月中旬に実施


川原監督
本作と大会を絡めて何かできたらと思っています。映画の宣伝もしたいですしね。大会に行かれる方が、「映画のチラシを配りますよ」と言ってくださっていて。こっそり宣伝活動もできたらと思っています(笑)。

▼3.廣田朋菜、テニスと監督への熱烈な“出演オファー”が映画出演のきっかけに

ー廣田さんの趣味はテニスや草野球と伺いましたが、今日の焼け具合からして相当な頻度で楽しんでいるのでは?


廣田朋菜
毎週水曜日に開催しているテニスサークルに所属しており、スケジュールが合えば参加しています。


インタビュアー
本作もスポーツがテーマですが、出演のきっかけはオファーだったのでしょうか、それともオーディションでしょうか?


廣田朋菜
出演のきっかけは、監督に「そろそろ映画を撮りなよ」って言ったんです。

川原監督
それで、バッと出演が決まったんだよね。

廣田朋菜
もともと監督とは11年くらい前に

川原監督
廣田さんとの知人・友人としての関係は、映画を撮る10年以上前からお互いに知っていまして

廣田朋菜
池袋シネマ・ロサで川原監督の『ゆれもせで』という映画を見て、面白かったので「面白いですね」と声をかけたのがきっかけです。その後も何本か作品を見ましたが、自分が出演する機会がなかったので、「なんで出さないんだ」と(笑)。

川原監督
ミュージックビデオには出演していただきましたけどね。


廣田朋菜
そうですね。サニーデイ・サービスのミュージックビデオに大河原さんと一緒に出演したのが初めてのお仕事でした。でも川原監督は映画監督なので、「ミュージックビデオじゃないだろ?」って脅しました(笑)でも「セツナ」のMVは素晴らしい作品です。


川原監督
この作品を撮る一年くらい前に、廣田さんからお説教されたんです。「映画をいつ撮るんだ!」と。結構まじめに。
僕の言い分というか、言い訳になってしまうんですけども、廣田さんのことは、主役でなければもったいないと思っていました。存在感がすごいので、ちょっとした役ではもったいなさすぎるので、他の作品とは違う魅力を引き出せるようなことを考えていたんです。それを廣田さんに伝えたのですが、「そういうことじゃないだろ?」と。
そこで、本作をつくろうとなった時に、廣田さんと大河原さんが競技する姿がパッと浮かんでオファーをしました。

▼4.音楽は曽我部恵一氏による書き下ろし

ー本作の音楽は曽我部恵一さんが担当されていますが、これは先ほど話が合ったミュージックビデオの繋がりでしょうか?


川原監督
そうですね。スタッフのほとんどがミュージックビデオのスタッフで、映画の制作中は音楽を使わないつもりでした。しかし、スタッフから「音楽は曽我部さんですよね」という声から始まって、最終的にはお願いすることになりました。

ーほぼ映画を作る段階で主演のお二人が頭の中に浮かんで出演されることを決めていたんですね。


川原監督
はい、映画を作ろうと決めたときには自然と決まっていました。

▼5.主演二人を選んだ理由:直感と信頼

ーいまのお話からすると、廣田さんから川原監督への圧、後押しがあったうえでのお話だと思うのですが、主演をお二人に決めた理由は?


川原監督
モルックを映画にしようと決めたとき、最初に頭に浮かんだのが廣田さんと大河原さんでした。この二人しかいない、と直感的に思いました。


ーお二人にオファーをした時のことは覚えていますか?


川原監督
はっきりとはおぼえていないのですが、「モルックの映画を作りたいんだけど」と、軽い感じで話を持ちかけたと思います。


廣田朋菜
全然覚えていないですね(笑)。


川原監督
企画書を送ったような気がします。


廣田朋菜
たしかに初めは「モルックの映画を作りたいんだけど?」みたいな感じでしたね。監督がモルックを始めたのはなんとなく知っていました。
そのうち映画にするんだろうなと思っていたので、企画書が送られてきたときは「ついに来たか」という感じでしたね。
正直、モルックはスポーツと言ってもどんな競技なのか分からず、やってみたらゲートボールみたいなものでした。でも、ルールもシンプルで老若男女、誰でもできるスポーツというところに魅力を感じました。
なので、私たちがモルックをやっている姿がなんとなく浮かんで、映画として成立する気がしました。


ールールもすぐに覚えられるし、シンプルな競技だけど奥が深い。いろんな要素が組み合わさっているような、広場さえあれば誰でも楽しめるスポーツですよね。

川原監督
ゲートボール、ボーリング、ダーツ、ビリヤードなど、様々な要素が複雑に絡み合っているけど、シンプルにまとまっている。不思議な魅力がありますね。ルール自体は4分くらいで理解できるのも魅力の一つです。

▼6.大河原恵、特技は「利きペペロンチーノ」コンビニパスタ愛

ー大河原さんの特技は「利きペペロンチーノ」だと伺いましたが、これはどういったものですか?


大河原恵
はい、コンビニのパスタ限定ですが、目隠しして食べても、各社どこのペペロンチーノか全体的にわかります。


川原監督
まだ実際に試したことはないんだ。


大河原恵
はい、試したことはないですが、確実にわかります。

ーそれだけ食べ比べをしているんですね。


大河原恵
シーズンというか、味が変わっていくんです。企業努力なのだと思うんですけど、知らないうちに味が変わっていることがあるので、定期的に食べています。

ー つまり、“この時期のどこのコンビニのペペロンチーノ”というのがわかるんですね。


廣田朋菜
いま、どこのペペロンチーノがおすすめか、めぐちゃんに聞けばいいんだ(笑)。

ーペペロンチーノ限定の特技なのですか?


大河原恵
はい。他のパスタは全くわかりません。


ー ミートソースやカルボナーラは区別がつかない?

大河原恵:
はい。


ー ペペロンチーノはシンプルだから、違いの判断が難しそうな気がします。


大河原恵
味の濃さや、上に載っている具材の大きさなども意識して食べています。

廣田朋菜
ペペロンチーノもモルックもシンプルで奥深いよね?

ー大河原さんの趣味として、一眼レフ、「フィルムカメラでの人物撮影」とありますが、どんなカメラを使っているのですか?


大河原恵
今は使えなくなってしまったのですが、大学の先輩からもらったCanonのEOS60Dを使っていました。

ー懐かしいですね。一眼レフでの動画撮影機能が話題になった頃を思い出します。

▼7.映画タイトル『TODOKU YO-NA』誕生秘話:モルックの動作から生まれた“呪文”

ー『TODOKU YO-NA』というタイトル、そして劇中の「と・ど・く・よ・う・な・き・が・す・る!」」というかけ声の“よ・う・な”は、主人公二人の名前「葉道(よみち、YO)」と「奈子(なこ)、NA」から来ていると思いました。このタイトルやかけ声は、どのようにして生まれたのでしょうか?

川原監督
一人でモルックの練習をしているときに、どうやったら当たるのか試行錯誤していました。足を揃えて投げるのか、前に出して投げるのか、腕は伸ばしきるのか、指を曲げた方がいいのか…。色々試して、わけが分からなくなってきたので、飛び跳ねてみたんです。


川原監督
立体的に見ようと、背伸びしても届かない時にピョンと飛び跳ねてみたら、「この見え方だと届くような気がする」と思ったんです。実際にやってみたら当たって、「これだ!」と思いました。でも、その後は当たらなくなりました(笑)。


川原監督
でも、この動作は面白いと思い、キャラクターに取り入れようと決めました。そして、この言葉をローマ字にしたら呪文みたいになるなと思い、タイトルにしました。最初は「TODOKU YOUNA」でしたが、登場人物の名前と合わせられることに気づき、撮影直前に「YO-NA」に変えて『TODOKU YO-NA』となりました。

▼8.猫の存在:登場人物の心情とリンク

ー映画のポスターに白い猫がいたり、奈子の自己紹介で「にゃーご」と言ったり、猫が印象的に登場しますが、監督の趣味でしょうか?それとも何か意図があるのでしょうか?


川原監督
「にゃーご」は脚本の上原さんのアイデアです。


ー猫の名前「おいで」には何かエピソードがあるのですか?


川原監督
私も猫を飼っているのですが、「おいで」と呼ぶと自分の名前だと思って来るんです。いつか映画で使いたいと思っていたので、今回登場させました。


ー廣田さんが演じる葉道のペットロスとも思える背景などは、演じる上で意識したことはありますか?


廣田朋菜
葉道は年齢の割に幼くて自分勝手な人間だと思っていました。でも、モルックを通じて奈子と出会い、人との関わり方に悩んでいた二人が、スポーツを通じて小さな一歩を踏み出す。そんなささやかな物語ですが、二人にとっては大きな出来事でした。
日常生活でも些細なことで悩んだり、「しょうもない」と感じることはたくさんあります。だからこそ、小さなことでも乗り越えることは大きなことで、その先にきっと楽しいことがある。後半に向けてのコントラストは意識しましたね。ペットロスについては、脚本を読んだ時点ではあまり意識できていませんでした。


川原監督
ペットロスについては特に説明はしていませんでした。廣田さんも大河原さんも脚本を読んで理解できると思ったので。
でも、撮影中に廣田さんが見せた表情がとても良かったので、休憩中に「猫はどうなったと思う?」と聞いてみました。すると、私とは全く違う想像をしていて、とても腑に落ちました。


廣田朋菜
私は猫が目の前でトラックに轢かれて死んだと想像しました。


川原監督
私は「いなくなった」とだけ書いて、まだどこかで生きているかもしれないと思っていました。でも、廣田さんの解釈も素敵だったので、あえて訂正はしませんでした。


廣田朋菜
私の周りにも猫を飼っている人がたくさんいますが、みんな猫の姿が見えなくなるだけで大騒ぎします。私ももちろん心配しますが、まるでこの世の終わりみたいな顔をする人もいます。その感情を参考にさせていただきました。


川原監督
猫を飼っている人は、そういうところがあるかもしれませんね。ふらっと出かけて帰ってくる猫もいれば、外の世界で何が起こるかわからない。この映画を見て、事故で亡くなったのか、行方不明なのか、観客それぞれに想像してもらえたらと思います。

▼9.大河原恵、奈子を演じて:束縛からの解放と“素”の自分

ー 大河原さんが演じた奈子は、家庭に何か問題を抱えているような印象を受けました。演じる上で、どのような背景を想像しましたか?

大河原恵
撮影前に、奈子の背景について監督にいくつか提案したと思います。それをさらに膨らませて返してくれたのを覚えています。


ー厳格な夫がいるのか、夫が働いていなくて奈子が家計を支えているのかなど、奈子の背景が気になっていました。


大河原恵
私の中で考えた背景はありました。奈子は、葉道といる時間だけは、束縛された私生活から解放され、素直な自分でいられると感じていました。


ー 劇中、奈子は葉道といるときは完全に日常を忘れて楽しんでいるように見えます。


大河原恵
はい、普段の奈子の生活を忘れて演じていました。


川原監督
二人が一緒にいるときは、お互いにとって楽しい時間になっていると感じました。それは素晴らしいことだと思います。競技中は、普段の生活とは違う“素”の自分が出てくる。それが原因で対立することもありますが、それがリアルだと感じながら撮影しました。

▼10.「遊びじゃない」:モルックに隠された真剣勝負

ー劇中で「遊びじゃないんだ」というセリフが印象的でしたが、この言葉に込められた思いやこだわりを教えてください。


川原監督
モルック映画を作る上で、見た人が「モルックをやってみたい」「モルックって面白いんだ」と思えるようにしたいと考えていました。そのためには、モルックの魅力をどう表現するかが重要でした。

モルックをやっているときは、無心になって楽しめる一方で、勝ち負けを意識すると複雑な感情が生まれます。相手がミスすると嬉しいけれど、一緒に遊んでいるのに喜んでいいのか悩む。でも、負けたくはない。自分がミスすると相手は喜ぶ。この相反する感情こそがモルックの面白さだと思います。

遊びのはずなのに、だんだん真剣勝負になっていく。勝負なのに、遊びだと思い込もうとする。相手がミスすると嬉しいけれど、本当は勝負をしている。それに気づかない。自分は遊びじゃないと思っているけれど、それが勝負だと気づいていない。この葛藤が面白いと思い、二人の対立構造に繋がりました。

「遊び」というキーワードは脚本家と話し合って決めました。同時に、これは「戦いの映画」でもあると伝えました。音楽を担当する曽我部さんにも「戦いの映画にしたい」と伝えました。「遊び」と「悔しい」というキーワードが、映画のテーマを掴む鍵になると思います。「悔しい」という感情は、様々な形で表現されています。

▼11.葉道とモルックの出会い:喪失から生まれた新たな情熱?

ー葉道は人間関係が苦手な印象ですが、モルックを始めたきっかけは何だったのでしょうか?一人で始めたのか、それとも誰かに誘われたのか、気になりました。


川原監督
その部分は特に決めていません。


廣田朋菜
そうですね、特に話し合ってもいませんでした。


川原監督
葉道はアウトドア好きという設定だったので、一人でモルックを始めたのかもしれません。


廣田朋菜
私は、葉道が猫を失ったことがきっかけで、同棲していた彼氏とも別れたと考えていました。おそらく、猫が葉道にとって一番近しい存在だったのでしょう。葉道はなにかに執着しないとバランスを保てないタイプの人間なのかもしれません。


ー脚本に書かれていない部分を、役者さんがどのように想像するのかは興味深いですね。

▼12.大河原恵が捉えた奈子の心情と猫のオブジェの意味

ー大河原さんは、奈子についてどのように解釈しましたか?


大河原恵
奈子の背景について考えようと思ったときに、葉道と奈子の出会のシーンで脚本に「奈子がモルックをする葉道の姿をじっと見つめた後、段々と葉道のそばに置いてある猫のオブジェの方に近づいてしゃがんで見つめる」というようなト書きがあって、そこが個人的に「葉道じゃなくてオブジェの方に行くんだ…!」というのが印象的だったので、自分なりに奈子を解釈していく糸口にしました。「オブジェ」というのが奈子にとって自分の夫との問題のキーというか。
そしてそのオブジェのそばで今の自分よりもはるかにカッコよく、魅力的にモルックをしている葉道に惹かれるきっかけになるというか。
もしかしたら、私の解釈は監督の意図とは違ったかもしれません。


川原監督
役者さんは、それぞれの解釈で役柄に深みを与えてくれます。


廣田朋菜
理由と感情がないと動けませんからね。


ー猫のオブジェは、葉道が買ったものなのか、それとも自分で作ったものなのか気になります。手作り感がありますよね。


川原監督
手作りです。美術スタッフに作ってもらおうかと思いましたが、最終的には私が作りました。
脚本には、もともと写真立てがあったのですが、インパクトに欠けるという意見があり、ペットロスの人向けにペットの遺骨や毛を入れるオブジェがあることを知り、参考にしました。しかし、それを見ているうちに、私もペットを飼っているので辛い気持ちになり、葉道が作ったとしたらこんな感じだろうと思いながら作りました。

ーオブジェを見守ることで、葉道との繋がりを感じているようにも見えました。邪魔されると嫌がるのは、二人の間に特別な絆があるからでしょうか?


廣田朋菜
葉道は、猫を気にかけていなかったからこそいなくなってしまったと感じているのかもしれません。猫のオブジェを近くに置くことで、見守らせているというよりは、自分の近くに置いておきたいという気持ちが強いのかもしれません。

▼13.モルック練習はほどほどに?自然な“初心者感”を大切に

ー撮影にあたって、モルックの練習はどれくらいされたのでしょうか?


廣田朋菜
モルックセットを借りて自主練したり、たまに時間があれば集まって練習したりはしましたが、それほど多くはありませんでした。1、2ヶ月くらいでしょうか。


川原監督
あまりモルックが上手くなりすぎても困るので(笑)。二人ともモルック初心者で、誰かと対戦した経験もなかったので、自然な“初心者感”を大切にしました。

廣田朋菜
経験がまったくなかったので友達を呼んで対戦したり普通に楽しみました。

▼14.白熱のモルック競技シーンの裏側

ー映画のクライマックス、モルックの競技シーンはどのように撮影されたのでしょうか?

川原監督
観客が手に汗握るような試合にするため、試合展開は事前に考えていました。モルックでは、普通は狙わないような場所を狙うことで、試合が盛り上がります。それを念頭に置きつつ、助監督にモルックの配置などを伝え、何度も投げ合って調整しました。


川原監督
試合のシーンでは、実際に二人に投げてもらって撮影しました。廣田さんは本当に当ててくれました。


廣田朋菜
とあるシーンのモルックは、本当に一発で当てたんです!


川原監督
カメラマンが完璧に捉えてくれて、「綺麗すぎるんじゃないか?」と思うほどでした。でも、物語の雰囲気には合わないので、そのシーンは使いませんでした。


廣田朋菜
でも、モルックがコロコロ転がるシーンは使われましたよね?


川原監督
「外れたけど、もしかして当たる?」みたいなシーンですね。

廣田朋菜
意外と全部投げたシーンが使われているんですよね。ひたすらモルックしていたので腕が痛かったです(笑)


川原監督
廣田さんは本当に上手で、何回かリテイクするだろうと思っていたのに、ほとんど一発で当ててくれました。さすがでしたね。でも、撮影後に「どうだった?楽しかった?」と聞いたら、「モルックのことしか考えられなかった」と言われました(笑)。


廣田朋菜
演技しながらモルックをするのは、本当に大変でした。


川原監督
その点は全く考えていませんでした(笑)。

▼15.奈子の観察眼とモルック指導シーンの裏側

ー撮影中、印象的だったのは、奈子が葉道の投げる動作を目で追うシーンと、モルックのルールを教えるシーンです。特に、下から投げる動作を教えるシーンは難しかったのではないでしょうか?何か印象に残っているエピソードはありますか?


川原監督
葉道がスイングしている間、奈子がずっと目で追っているシーンは、実は演出ではありません。編集中に気づいて、「ずっと見ているな」と思いました。
大河原恵:あれは、モルックを習得しようとして見ていたんです。「こうやって投げるんだ」という感じで。


ー首を動かさずに目だけで追っているのが印象的でした。


大河原恵
特に意味はありませんが、とにかく習得しようと集中していました。


川原監督
あくまで演じる役〝奈子〟として集中していましたね。
葉道が奈子にモルックを教えるシーンは段取りを経て、廣田さんも大河原さんもお互いが演じる人物のままを生きてくださるからすんなりできましたね。

▼16.観客へのメッセージ:モルックを通して小さな一歩を踏み出そう

川原監督
モルック経験者も初心者も、ぜひ映画を見てほしいです。モルックの面白さが詰まっているだけでなく、「生きていく上で必要なことが詰まっている」と言われたこともあります。私自身はそんなつもりはありませんでしたが、一つのスポーツを通して成長していく姿を描けば、自然とそう感じるのかもしれません。
何かに行き詰まっている人が、この映画を見て小さな一歩を踏み出せたら嬉しいです。肩の力を抜いて、モルックを楽しんでほしい。そして、友達を作ってほしいですね。


廣田朋菜
監督がおっしゃる通り、モルックを押し付ける映画にはなっていません。モルックはあくまで手段であり、人と人との繋がりを描いています。優しくも厳しくもない、フラットな視点で人生を描いている作品です。
この映画を見て、「こんな生き方でもいいんだ」と感じて、明日も頑張ろうと思える人もいれば、明日もゆっくり休もうと思える人もいるでしょう。「大丈夫だよ」と伝えてくれる映画だと思います。
競技として競い合っているのに、フラットな気持ちなれる不思議なスポーツです。とにかく、見て感じてください!


大河原恵
私は、廣田さん演じる葉道の目が好きです。モルックをしているときの真剣な眼差しや、猫のことを思って物思いに耽る眼差しや、奈子を見つめる優しい眼差しなど、様々な表情を見せてくれます。それはモルックを通して生まれたものだったり、二人の友情の中で生まれたものだったり。葉道の様々な眼差しを、ぜひ映画館で見てほしいです。

ーお二人の目は本当に印象的です。カメラ越しに、どこを見ているのか、モルックを見ているのか、それとも違う何かを見ているのか、考えさせられました。この映画は、ある意味「目の映画」なのかもしれませんね。


■ 作品情報

監督:川原康臣
脚本:上原三由樹/音楽:曽我部恵一
協力:(株)エビス大黒舎 (株)融合事務所/宣伝協力:一般社団法人日本モルック協会
製作・配給:MayFly/配給協力:モクカ
出演:廣田朋菜、大河原恵、礒部泰宏
2024 年/日本/DCP/カラー/58 分/シネマスコープ/ステレオ
公式サイト:https://www.tdkyn.com 公式 X:@todokuyo_na


2024 年9月 14 日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

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