4月4日、東京・丸ビルホールにて、第3回大島渚賞授賞式が開催。今回受賞された藤元明緒監督、そしてプレゼンターとして黒沢清監督、大島新監督が登壇。両監督からは『海辺の彼女たち』の感想とコメント、審査員の坂本龍一氏の講評を荒木啓子PFFディレクターが読み上げた。本記事では藤元監督の喜びの言葉を掲載する。
■藤元明緒監督 喜びの言葉
藤元明緒監督
初めまして、映画作家の藤元明緒と申します。
今日はここに立ってから何を話すかというのを考えようと思い来たんですけど、あまりにも緊張し過ぎて、いま言葉を出すのが難しいです。
大島渚監督という大先輩の名前を冠した大島渚賞をいただくというのは嬉しいとか驚きというのはもちろんあるんですけれども、本当に重いと思ってます。
重いといいますか、今日この場に立っているという事実自体も、10年前映画を志して上京したときから考えると本当に想像もつかなくて、何で、ここに立っているんだろうって、正直、まだまだ実感がわいていない状況です。
審査員の方々の講評にもあったんですけども、今回二作目の『海辺の彼女たち』を撮るにあたって、その前作『僕の帰る場所』で非常に多くの観客の方々に、「ドキュメンタリーっぽいですね」っていう言葉をいただいて、今回はそういったドキュメンタリータッチって言われないように、また違う方向で作っていこうというのは、チームで最初クランクインしたときに共有していたことでした。
それでも今回、全国で上映させてもらって、やっぱり同様に「ドキュメンタリー風の映画である」というお言葉をいただくことが多くて、やっぱりそれって本当にシンプルに言うと彼女たち(のおかげ)ですね。
ベトナムから来てくれた3人。アンさん、ニューさん、フォンさんには本名そのままで出演してもらって、その3人だったり、日本に住むベトナムの方々であったり、いつも一緒に映画に出てくださってるような俳優の方とか。
青森県外ケ浜町っていうところで撮ったんですけれども、そこに実際に暮らしてる漁師さんとか病院の方々、地域の皆さんに出演していただいた全ての俳優の方々のですね、説得力といいますか、芝居の力っていうものが、今回、大きかったんだなっていうのは思います。
それは、「立場上、監督として、演出で引き出したんじゃないか」っていうことも言われたりもするんですけれども、やはり僕だけじゃなくて、クルー、カメラマンや照明の方、音響、演出部の方とか、みんながスタッフの皆さんが本当に、どうすれば彼女たちが良い環境で、良い心の持ち方で芝居に臨めるのか、そこを本当に突き詰めていただいて、その結果、フィクション映画ではあるんですけれども、本当にこの人たちが、この彼女たちが北国に実際にいるんじゃないかっていう、そうした
親密さですね、親近感がわくような説得力と実際感を持って、あの3人のキャラクターが立ち上がったと思うので、本当にあの現場で一緒に作り上げてくれたチームの皆さんありがとうございます。
皆さんの仕事がこうやって素敵な舞台に繋がっているものだと思っております。本当に感謝を申し上げます。
またですね、僕ら少数人数といいますか、インディペンデントな体制でこれまでやってきて、それにもかかわらず全国の映画館の支配人・スタッフさんには、映画を見出してくれて、上映してくれて、「いっぱい人が入るなんて絶対に想像がつかない作品だ」ってすごい言われるんですけれども、それでも映画を信じてくれて上映してくれた映画館の皆さんや、そこに来てくれた観客の方々の口コミやその熱量ですね、そういった、本当にいろんな力で、映画が存在できたと思ってます。
そうした力がないとそもそも審査の土台にも上がらないとは思うので、そうした作品に関わったご縁すべてに感謝したいと思います。本当にありがとうございます。
ぜひ皆さんに映画館で観て欲しいです。ありがとうございます。
本当に10年間。仲間で映画を作り続けてきて、ずっとこの1年、『海辺の彼女たち』を通して、全国をまわらせていただいて、本当にそういった出会いが、映画を観るってこんなに豊かな場なんだっていうのを本当に実感しました。
一方でですね、やっぱり映画を作る・映画を観るっていうのは、平和な世の中であったり、安全な環境であったり、いろんな人々の健康であったり、そうしたもので成り立つものなんだなっていうのを改めて実感したこの1年でした。
私事なんですけど、いろいろ僕の親族もミャンマーに行って、僕もミャンマーに縁が、暮らしているっていうのもあって、この1年前に皆さんご存知の通り、クーデターが起きたりとか、映画を一緒に作ってきた仲間が、もう撮れなくなって捕まったりとかいなくなってしまったり、最近で言えばウクライナのこととか、映画って本当に何ができるんだろうなっていうのをすごい考えた1年でした。
もちろん精神的にもやっぱり結構きつくて、やっぱり映画作家として今の時代にあまりにも立ち向かうものが強大過ぎるっていう、その壁といいますか、そうしたものがこの1年浮かび上がってきて、どうすればいいんだろうなってすごい考えて、それでもですねやっぱり観てくれた人とか、観客の方々の思いやりといいますか、その映画に対する何かそうしたものに、1年間触れて本当に勇気が出ますし、本当に今日という日も含めて、背中を押されました。
やっぱり、「映画は本当に無力じゃない」っていうそこを信じて、僕らは作っていかないといけないし、それを届けて行かなければならないっていうのを強く思っています。
この『海辺の彼女たち』も、前作の『僕の帰る場所』もこれから始まる『白骨街道』という作品もですね、映画は、抵抗の力であってほしいし、闇を照らす光であったり灯火であってほしいと願っていますし、そうした人々に何か優しい世界に繋がるようなそういう力になるような、映画っていうのを仲間と届けていきたいなと思っておりますので、本当にまだまだ…
(審査員の)坂本龍一さんの言葉もやっぱり身にしみて響きますし、まだまだ未熟なんですけれども今後とも、僕ら藤元組というチーム一同を応援していただけると非常に嬉しいです。
また、3作目、4作目と映画館で、笑って皆さんとお会いできればいいなと思っております。
すいませんちょっと長々としゃべってしまいましたが改めまして、本日は本当にありがとうございました。
▼「大島渚賞」について
PFF(ぴあフィルムフェスティバル)が、2019年に新たなる映画賞「大島渚賞」を創設し、今年で3年目。「大島渚賞」は、映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする、若くて新しい才能に対して贈られる賞。
かつて、大島渚監督が高い志を持って世界に挑戦していったように、それに続く次世代の監督を、期待と称賛を込めて顕彰する。
選考は、「日本で活躍する映画監督(劇場公開作3本程度)」、「原則として前年に発表された作品がある」監督を対象に、大島渚監督作品を知る世界各国の映画人より推薦を募り、審査員が授賞者を決定。
「第3回大島渚賞」は、審査員長である坂本龍一氏(音楽家)、審査員の黒沢清氏(映画監督)、荒木啓子(PFFディレクター)の討議により、ベトナム人女性労働者たちを描く長編第二作『海辺の彼女たち』が昨年公開され話題を集めた、藤元明緒(ふじもと・あきお/34歳)監督に決定。
4/4(月)の授賞式には、大島渚監督のご子息で昨年公開の監督作『香川一区』がロングラン上映中の大島新監督も登壇。
大島渚賞公式サイト: https://pff.jp/jp/oshima-prize/