長編映画『つゆのあとさき』が、6月22日(土)よりユーロスペースにて公開。本作は永井荷風が1931 年に発表した小説『つゆのあとさき』を原案にした作品。映画は、小説の持つ普遍性を踏襲しながら、時代をコロナ禍の渋谷に置き換え、様々な事情で パパ活をすることになった女性達のリアルな青春を描く、「令和の渋谷の現在(いま)」を映した作品になっている。今回、主演の高橋ユキノさん(主人公・琴音役)にお時間をいただき、本作出演のきっかけから撮影のエピソードなどをうかがいました。
本作の“パパ活をする女性達”の配役はオーディションにて選出。
主人公の琴音には、約200名の中から主演に選ばれた新人の高橋ユキノ。
出会い系喫茶で知り合い、友人となるさくら役には、ムロツヨシ演出・出演の舞台「muro式.がくげいかい」で注目を集めた西野凪沙。
琴音の友人でホストに貢ぐためにパパ活を続ける楓役には、若者の支持を集める吉田伶香が演じている。
そして“パパ活をする男たち”は、前野朋哉、渋江譲二、守屋文雄、松㟢翔平、テイ龍進の個性派俳優5人が揃った。
■ 映画『つゆのあとさき』高橋ユキノ インタビュー
▼本作出演のきっかけ
ー本作出演のきっかけを教えてください。
高橋ユキノ
きっかけはオーディションでした。
普通に事務所の方へ応募情報が届いて、 まずは企画書を読ませていただいたんです。
そして読み終えた後、今、届けるべき必要がこの映画にはあると感じました。
その時点で強く惹かれていたのですが、脚本を拝読して更にその想いが増し、すぐに参加の意思を伝えました。
▼オーディションから、主人公に選出されるまで
ー高橋さんが演じる主人公・琴音には、オーディションで約200名の中から選出されたとうかがいました。オーディションでのエピソードを教えてください。
◆二次の実技審査の日に…
高橋ユキノ
忘れもしない事がありまして。 二次の実技審査の日、オーディション会場が大きな敷地の中にある施設で、道を迷ってしまい焦ってたんです。 外も暑かったし、全身汗まみれになりながらドアを開けたら、待機室ではなく審査員の方々がいる部屋で…。
もう「やっちまった」っていう頭になってて。でももしかしたらそれである意味、余計な思考が吹っ飛んだかもしれないです…(笑)
◆印象的だった監督からの質問。そして連絡
高橋ユキノ
最初から演じたい役として「琴音を…」という気持ちがあったのですが、オーディションのシーンでは、琴音、さくら、楓、全員の役を演じました。
5、6 人くらいで一組になって審査を受けたのですが、印象的だったのは、監督が質疑応答の時に「映画に出てくるこの子達の状況、理解できますか?」という質問を 1 人 1 人に投げかけていたことです。
映画の登場人物である女の子たちはパパ活をしてお金を稼いで生活をしていますが、当事者でなくとも、演者として“彼女たちの街の見え方”をどう捉えられるかを問う、鋭い質問だなと感じました。
その時の芝居はすごく楽しかった記憶があります。 自分が琴音を演じた時に審査員の方々が、「笑うところ?」みたいなポイントで吹き出していました。
その後すぐに、山嵜監督から「もう一度お会いしたい」とご連絡をいただいて、最終オーディションを受けました。
◆最終審査。そして…
高橋ユキノ
最終では、 何パターンか変えた芝居を見せて、あとは雑談もたくさんしてました。
監督自身も、琴音はどんな子なのか模索しながら私達に向き合っていることが伝わってきて、そのために雑談の時間があったのかなと思っています。のちに山嵜監督に伺ったお話では、「この子が琴音だったら面白い」 となったとお聞きしました。
「決まったよ」と連絡をいただいた時には、「わたしが琴音を演じていいんだ」という嬉しさと責任感が込み上げてきて、外にいたにも関わらず涙が止まりませんでした。
▼脚本を最初に読んだ時の感想、完成した作品を見ての感想
ーまず、脚本を最初に読んだ時の感想を教えてください。
◆脚本を最初に読んだ時の感想
高橋ユキノ
脚本を最初に読んだ時のことはよく覚えていて、集中が一切途切れないまま一気に読み終えました。
すごく、面白かったんです。
そのまますぐに監督の過去作 『テイクオーバーゾーン』を観て、どんな映画になるか想像を膨らませていました。
◆完成した作品を見ての感想
高橋ユキノ
完成した作品を見た時の印象としては、本で頂いた時に持ったイメージよりも良い意味で観やすい作品になっていると感じました。
脚本からの大幅な変更はないものの、楽曲や撮り方のこだわりなど、様々な要素が組み合わさってそう仕上がったのだと思います。
今回、この「つゆのあとさき」という作品では社会問題を切り取った様な要素がありますが、あくまでその中で生き抜く人間にフォーカスを当てていて。
そこには監督の、若い人たちに届けたい想い、もっと言えば制作のきっかけとなった一人の女の子へ、届けたいという思いが表れているのかなと思いました。
▼原案となる、永井荷風の「つゆのあとさき」に関して
ー原案となる、永井荷風の「つゆのあとさき」 を読みましたか?
高橋ユキノ
拝読させていただきました。 昭和 6 年に発表された作品ですが、うごめく人や建物や街の佇まいが映像で浮かび上がってくるようでした。
そして、今も昔も変わらない人間の姿がそこにあるように思いました。 変わっていっているようで、 少し形を変えているだけといいますか。今回、舞台を現代に置き換えるという試みをさせていただいておりますが、また新たな角度から、永井荷風 「つゆのあとさき」 という傑作を見つめることにも繋がればうれしいです。
街の様子や、時代、職の在り方、使う言葉などが違っていても、そこに在る人間の営みには、変わらぬものがあると思います。
▼撮影にあたっての準備について
ー“パパ活”について、 調べたり、生の声を聴くような事前準備の機会はありましたか?
◆当事者の女の子と
高橋ユキノ
当事者の女の子と会える機会はありました。
だけど、その子からは特別何か聞き出すというわけではなく、ただ一緒に遊びましたね。
パパ活云々で視野を狭めるのではなく、それを生業とする彼女自身がどんな子なのかということが大切だった。
試写に招待して映画を観てもらった後に、「『キラキラパパ活映画』 みたいに描かれなくて嬉しかった」と伝えてくれて。 彼女は大切な友人です。
◆「出会い喫茶」
高橋ユキノ
この映画では「出会い喫茶」 という場所に琴音をはじめ、登場人物たちが通っています。
入店すると女の子は自分のプロフィールを記入して、男性は身分証明書を渡す。 男女で部屋は分かれていてマジックミラーで仕切られています。
女の子から見るとただの鏡だけど、 男の人の方からはじっくり女の子たちを観察できるわけですね。そこから気になる子を指名して、 別の部屋に入り 2 人でパパ活の交渉をする。
私も撮影前に、 実際に何店舗か訪れてみました。
中に入ると女の子がたくさんいて。 印象的だったのは、イメージするような「パパ活女子」の様な子はほとんどいなかった。
普通の女子大生といった感じ。 出会い喫茶は女の子同士で喋るのを禁止されているので、話はできなかったけど、風貌としてはそんな印象でした。
店員さんに聞いたのは、黒髪の女の子は人気だということ。清楚な印象を抱くんですかね。
あとはキャバクラ、ホスト、深夜の歌舞伎町を 1 人で歩いてみて、 話しかけてきたスカウトの人と話し込んだり。
◆心がけていたこと
高橋ユキノ
その間心がけていたのは、「人と話す」ということでした。〇〇の人、ではなくこの人はどんな人なんだろうと。 話していくと東京に上京してきたきっかけの話を教えてくれたりして。
そういった夜の街を歩いてみて思ったことは、まるで一つの国みたいに、世界が確立されているということですね。そしてその特色が強かったり、接する機会が少ないことから枠組みや色でアイコン化されて見られてしまうことが多い。
そして彼ら自身も、その仕事で、この街で生きるためにどこか演じている。
でも、話していると本当にみんな一生懸命な、 愛しい人たちでした。
▼「あの夏」 とは?
ーコメントされていた、“渋谷の街を歩いていて思い出す 「あの夏」” とは?
高橋ユキノ コメント
今も、渋⾕の街を歩く時にふとあの夏を思い出します
物語の主⼈公、「琴⾳」はどこにでもいる⽇本の⼥の⼦です
今⽇すれ違った⼈の中に、彼⼥たちがいたかもしれません
⽣きるということは、理不尽なことのほうが多い
だけど
どんなに存在がちっぽけだって、森を彷徨うような現状だって、
琴⾳は⽣きていきます。
これから、この映画と出会ってくれる皆さんに⼼からの感謝を込めて。
多くの⼈に「つゆのあとさき」が届きますように。
高橋ユキノ
夏の時期に、ほぼ渋谷ロケで撮った映画だったので、プライベートで街を歩いているときに「あ、ここ」ってしょっちゅうなるんです。
撮影時もそうでしたが、なんだか現実と映画が交差するような、不思議な気持ちになるんですね。
今回、 初公開の場が渋谷のユーロスペースさんなので、映画を観ていただいた方も帰り道にこんな気持ちになるのかなぁ、なんて考えています。
▼理不尽だと思うこと
ー漠然とした質問になりますが、「生きていて理不尽だと思うこと」にはどんなものがありますか?
高橋ユキノ
みんな、それぞれに理不尽を抱えながら生きていると思いますが・・・。
例に挙げたいですけど、重くなってしまいそうなので(笑)
琴音の抱える理不尽としては、今回彼女はコロナ禍で仕事を失ったことが「パパ活」を生業にするひとつのきっかけとなっています。
やむを得ない、どうにかしたいけど、 今はどうにもできないことってありますよね。人には、実際その人を生きてみないと理解できない事情があったりしますから。
▼ご自身が演じたキャラクターについて
ーご自身が演じたキャラクターをどのように捉え、お芝居に生かしましたか。また、取り組んだことは?
高橋ユキノ
「琴音」という人物は、他者に一線を引いて、相手によって被る仮面を変え、過ごしている女の子でした。
映画で描かれる大部分で、彼女は素顔をあらわにしない。
20 歳の今の彼女の、何層にもフィルターが重なったその核には何があるのかを考えていました。
芝居で言えば、彼女の背骨の感じはどうなのか、そのためには彼女の街の見え方をわたしも知ることが大切だと、とにかく沢山準備しました。
映画のポスタービジュアルもそうですが、この作品は「街」 と 「人」 が密接に描かれており、渋谷は、彼女にとってのジャングルのようなもので、そこで生き抜く姿を表現したかった。
▼撮影時のエピソード
高橋ユキノ
出演されている俳優さんの中でも、恐らく私が 1 番経歴が浅かったですし、キャスト・スタッフ含めてチームの皆さんをとても頼もしく感じていました。
今回、題材として「パパ活」を扱うにあたり、インティマシーシーンがありましたが、 インティマシーコーディネーターの西山ももこさんが現場に入ってくださっていて、常に現場でパワフルに、そして繊細に気遣って下さり、時にはモニターをチェックして「この体勢だとこうした方が美しい」などアドバイスをくださいました。
やはり自分では見えない部分がありますので、お陰様で芝居に集中することができたと思います。
▼作品を見る方へのメッセージ
ー作品を観に来るお客様へのメッセージをお願いします。
高橋ユキノ
映画「つゆのあとさき」 は、 昭和 6 年に発表された永井荷風の同名小説を原案に、2020 年の渋谷を舞台とした、街と、そこに生きる人々を描いた映画です。
受け取るものは人それぞれ違うと思いますが、心のどこかにある寂しさに寄り添える作品だと思います。
今回、「街」が作品の一つの要となっていて、街のその息遣いは、映画館のスクリーンで観ていただいた方が体感してもらえるかと思います。
6 月 22 日から、ロケ地である渋谷のユーロスペースさんにて公開となります。
ぜひ、映画館に足を運んでいただけたら嬉しいです。
▼初日舞台挨拶
▼予告編
映画『つゆのあとさき』
【あらすじ】
キャバクラで働いていた琴音(20)は、コロナ禍で店が休業、一緒に住んでいた男に家財を持ち逃げされ、家賃を払えなくなり、行き場を失ってしまう。そんな中、知り合った楓(21)の 紹介で出会い系喫茶に出入りするようになり、男性客とパパ活をすることで日々を切り抜ける生活をしている。
客に絡まれたりネット上で中傷をされたりしながらも、逞しく生きている琴音は、あることがきっかけで、同じ出会い系喫茶でパパ活をする大学生のさくら(20)と出会う。生まじめで何事も重く受け止めてしまうさくらと琴音は不思議とウマが合い、友情を深めていくのだった。
体目当ての矢田(42)、IT 企業の社長でパトロンでもある清岡(36)、容姿端麗なダンサーの木村(28)ら軽薄な男たちと、生活のため、ホスト通いのため、学費のため、様々な理由でパパ活をする女性達の対比で物語は進んでいく。
高橋ユキノ 西野凪沙 吉田伶香 渋江譲二 守屋文雄 松㟢翔平 / テイ龍進 前野朋哉
原案:永井荷風「つゆのあとさき」
監督:山嵜晋平
脚本:中野太 鈴木理恵 山嵜晋平
製作著作:BBB 配給:BBB 配給協力:インターフィルム
制作:コギトワークス ©2024BBB
作品公式HP:tsuyunoatosaki.com
作品公式X(旧Twitter):@ tsuyu_movie
作品公式インスタグラム:@TSUYU_MOVIE
6月22日(土)よりユーロスペースにて公開