映画『思い立っても凶日』主演・田村魁成、野本梢監督インタビュー

映画『思い立っても凶日』主演・田村魁成、野本梢監督インタビュー

野本梢監督新作中編『思い立っても凶日』が、6月15日(土)から新宿K’s cinemaにて劇場公開される。本作は、俳優の田村魁成が主演・プロデュース、野本梢が監督を務める中編映画。Motion Galleryにてクラウドファンディングが4/30まで実施。野本作品にはめずらしく、コメディ要素がありながら、凶日の思い出を乗り越えていく“ほろ苦い”作品となっている。今回、田村さん、野本監督のおふたりにお時間をいただき、本作について語っていただきました。

■ 映画『思い立っても凶日』主演・田村魁成、野本梢監督インタビュー

▼映画製作の経緯

-「人生終わったな…」と思った具体的な出来事、もしくは、本作の“凶日”を描くにあたってきっかけとなった出来事を教えてください。

田村魁成
お恥ずかしながら、基本的に大袈裟に物事を捉える癖がありまして、部活の引退試合とか、大学受験とか、この日だけは絶対に外しちゃいけない!という時に限って電車が遅延したり、渡る信号が全部赤だったり、急ぐためにタクシーに乗ったのに渋滞していて結局走っても同じ時間だったのでは……?とか、大きな一つの出来事があったわけではなくて、細かい嫌な出来事が1日にまとまって積み重なって起きる日があるんです。まあ全部自分が悪いんですけど……笑

その日の夕方ぐらいに思うんですよ、「ああ、昨日の寝る前から1日やり直せたらな」って。

ー田村さんから野本監督へのオファー。そして、そのオファーを受けた時のことを教えてください。

田村魁成
野本監督の前作『彼女たちの話』の出演をきっかけに上映などでお話をさせていただくことが増えました。

野本梢監督
その中で、たまたま2人きりで話す機会があって、そのとき監督のオファーをいただきました。コメディとか明るい話を、ということでお話をいただいたのですが、当時私は割と観た後ずんとなるような話が多かったので、私でいいのかなと不安はありました。でも田村さんとコメディ撮るの楽しそう!と思い、お引き受けしました。

田村魁成
野本監督の第一印象は、謙虚で、人を選ばず話をしっかり聞いてくれる人でした。監督の感性と自分のやりたいことの掛け算が出来る人と映画製作がしたかったので、野本監督がピッタリだと思いオファーしました。

野本梢監督
というのを後から知ってほっとしたというか。田村さんが「野本さんが初めて僕の話を否定せずに聞いてくれた監督です」って言ってて、ツラい人生だったんだなと、ちょっと泣きました。

ー田村さんからストーリーのベースとなる脚本の持ち込みなどはあったのでしょうか?

田村魁成
まっさらな状態で。とりあえず作りたいです、みたいな。気持ちだけで野本さんに相談しました。

野本梢監督
ストーリーとか脚本は、私が書いて持って行って見てもらって、その中でディスカッションして、また持って帰って、書き直してみたいな感じだったので、ストーリーは好き放題やらせてもらった感じです。

-田村さんから脚本のベースとなるものがあっての話ではないんですね。打ち合わせを重ね、企画を立ち上げるまでの過程を教えてください。

田村魁成
まず、映画製作の理由ですが、役者として、現場経験が増え、キャリアを重ねていく中で、1日、2日、長くても2週間、現場にだけ行って自分が出演したものの、作品に対する責任があまり感じられませんでした。
人を感動させたり、自分の芝居や出演作から何かを感じてもらうことをしたくて、1から映画作ってみたい!と思ってスタートしたので、明確にこういう題材を撮りたい!というゴールはなかったです。ただ、お客さんが劇場から出た後に明るい気持ちになれる映画がいいなと思ってまして「明るい話が撮りたいです」とだけお願いしました。

野本梢監督
なかなか難しいオファーですよね(笑)。とにかく私は、田村さんとしか撮れないものを撮ろうと心に決め、いろいろお話を伺いました。

田村魁成
自分は映画のイロハをほとんど知らなかったので、とりあえず野本さんが笑えるエピソードトークを持っていったところ、そのエピソードが不幸、やらかしエピソードが多く……。

野本梢監督
それが田村さんだなって思って。本作の設定や主人公・誠の人物像が作られていきました。

▼本作のストーリーについて

-数多くの不運な出来事のなかで、本作のストーリーのベースとなるお話がありましたらお話をうかがおうと思うのですが、冒頭の引退試合の話は、田村さんが実際に経験したことなのでしょうか?

田村魁成
あの話は、どちらかというと野本さんの話なんです。不運な話に関しては、僕だけというわけではなくて、脚本に関しては、二人で話し合った内容から、織り混ぜて作っていただきました。

野本梢監督
田村さんの人と成りをお伺いする中で、不幸・不運の割合が高くて、そこから人物造形に至った形です。

-田村さんの妙な特技(超高速ティッシュ抜きの技)について

田村魁成
あれはですね、全く練習とかしてなくてですね(笑)。
大学時代に僕が一人暮らしをしていて、サークルの友達がよく遊びに来ていたんですね。
当時みんなお金もないので、安い酎ハイのロング缶を買って夜な夜な騒いでたんですけど、夜も深くなってくると缶をこぼすことが多々あって。
僕の家が備え付けのカーペットなこともあり、「早く拭かなきゃシミになる!」という、その防衛本能から速くなったと思われます。

ー「運の良さ・悪さとは何なんだという疑問」と議論、得られたこたえは?

田村魁成
運がいいかどうかは外来的にやってくるものではなくて、結局運がよかったとするか、悪かったとするかは自分次第だなと思います。
ただ、この考えが正解と言いたいわけでもなくて、向き合いたくないことは向き合わなくてもいいと思うし、あくまで選択肢の一つとしてこの考え方があると思っていて。そうすると、未来の起こるであろう凶日に対しても少し防御力が上がるのではないか、と思っています。

野本梢監督
そうですね。今、田村さんがおっしゃったこともその通りですが、主人公・誠はその域まで到達できてはおらず。ただ自分の目標だとかやりたいことだけに突き進んでいた彼が、少し視野を広げることによって周囲の人や物の動きや、表情の変化などに気づくことができるようになってきて、その中で様々な違和感をキャッチして、今まで運の悪さで片付けていたことを回避できるようになります。このように、いかに情報をキャッチできるかが、運の良さ・悪さと呼ばれるものに関係してくるのではと思っています。

▼プロデューサーとして

ー今回、田村さんはプロデューサーも務められていますが、資金集めはどうされたんですか?たとえば、野本監督に相談する前から企画としてあたためていて、前準備としてコツコツとお金をためていたとか?

田村魁成
温めていたというよりかは、撮影前に貯めました。
撮影に入る3、4ヶ月前から稼いで節約して、その分を映画の方に回すということをずっと続けていた感じです。
もともとコロナの時に俳優を始めたので、俳優業での仕事とか舞台もない時期だったので、バイトしかやることなくて、その時の貯金がちょこっとあったという感じですね。

ー俳優をはじめたのがコロナの前っていうのが意外ですね。それ以前の学生時代にお芝居の経験は?

田村魁成
学生時代に演劇関係は一切やっていないんです。
学生時代は奈良の大学の教育学部に通っていまして、3回生になると教育実習に行くんです。僕はそれまで先生になりたいなってふわっと思ってて、先生か表に出る仕事、エンタメ関係の仕事か、どれかかなって考えていました。
実際に教育実習に行ってみると想像以上に大変でした。また、大学を卒業して学校での生活に進む方向ではなく、それとは別に社会に出たい・世の中に出たいなって思って、僕がやりたいことは何だろうともう一度考えたんです。
そこで、まず俳優というか、いろんな表に出ていく仕事をやってみようと思ったら、演技が一番楽しくて、それで俳優をやっている感じです。俳優は演技は楽しいし、「いけるか!?」みたいな。ワクワクする感じでいった感じですね。

▼タイトルについて

ー慣用句・ことわざを連想するこのタイトルはどう決めたか、決まったのでしょうか?

田村魁成
2人で一日中考えましたが、パッとしたものが浮かびませんでした。
後日、LINEで野本さんに思いついたものをどんどん送ってみた1つに、「思い立っても凶日」がありました。

野本梢監督
なかなかタイトルに「凶日」ってつけませんからね。面白い!って即決でした。

田村魁成
この映画、元気は出るけど、よく考えたら、最初から幸せそうな人物が一人もいないなと思ったことから着想を得ました。

ー「思い立っても凶日」の意味を慣用句・ことわざ「思い立ったが吉日」と同様に説明をするとしたらどう表現しますか?

「思い立ったが吉日」
事を始めようと決心したからには、すぐに実行せよ。 暦をながめて吉日を選択するようなことをしていては、機会を失ってしまうというたとえ。

「思い立っても凶日」
事を始めようと決心しても、何でもうまくいくとは限らない。時期を見失ってもまたこれから来る吉日の準備が出来るというたとえ。

※凶日=何かをするのによくないとされる日。または、よくないことが起こった不運な日。

▼野本監督が目にして、撮りなおしを考えた「村上由規乃さんのある表情」とは?

ー野本監督のコメントに、村上さんの表情に関する記述がありましたが、それがいつ?撮影中の出来事?どんな表情だったのでしょうか?

野本梢監督
村上由規乃さん演じるキャプテン未生が主人公・誠に声をかけるシーンです。そこは表情が2パターン撮れているのですが、その理由として、台本には微笑んで言うというト書きがあったのですが、1度目の撮影では村上さんはむすっとした表情を見せたんです。あれ?と思ったので、撮り直しました。
 でも、誠が秋保をフォローするために投げかけていた、ちょっと未生を非難するような言葉を聞けば、未生としては微笑んで「助かりました」だなんて言えないよね、とすぐ腑に落ちたんです。つまり、私自身も未生の気持ちを考えられていなかった。それが誠の行動と重なり、捻じ曲がってしまった記憶、そしてそれに気づき、自分の間違った記憶を訂正していく物語へと昇華できました。

ー野本監督のコメントに、「記憶を曖昧にして生き延びることも、肯定してもらえたら」とあったのですが、これはどういった意味でしょうか?

野本梢監督
ここはちょっと表現を間違えたなと思っていて。すみません。
曖昧というよりは再解釈をするといった方が適していると今では思っています。それがラストシーンなのですが、事実は多少違えど、誠は未生のために記憶に再解釈を提示してあげる。
そして二人は成長の兆しを見せ、この物語は終わります。

▼田村さん・野本監督のお互いの印象について

ー村上さんがおふたりの印象をコメントされていたのですが、野本監督からみた田村さんの印象・存在感は?また、田村さんからみた野本監督の印象・世界観についてお話をきかせてください。

野本梢監督
田村さんは、そうですね……。第一印象は優しくてなんでも受け入れる方という感じだったのですが、一緒に作品を作っていく中で、たぎるものが腹の奥にある方なんだなって思うようになりました。

田村魁成
野本さんは、人間の恥ずかしい感情や内省的な心情を取り扱っていることが多く、監督の印象としても、あまり表には出しませんが、冷静に人の無視しているところを直視出来る人ですね。優しい人でもあり、もしくは……(笑)。

野本梢監督
もしくは?

田村魁成
いや、なんでもないです。

▼撮影時のエピソード

ー撮影時のエピソードを教えてください。

◆田村さんと、村上さん(未生)の話

田村魁成
村上さんは、良い意味で掴みどころがないというか、未だに会っても不思議な人だなと思います(笑)。

バーで騒いだ後の2人の喧嘩のシーンがあるんですけど、そこはムカつきながらも初めて一瞬通じた気がして、それが誠と未生の距離感にすごく近くて、変に仲が良いよりこの距離感で良かったと撮影を終えてから安心しました。

◆田村さんと、田中さん(秋保)の話

田村魁成
田中さんも実はほとんど現場ではお話してないです。セリフを交わしていても、冷たいなあとほんとに失恋した気分になっちゃって、あんまり深く話せませんでした……。

でも作品を第三者視点で観て、秋保の気持ちを考えると、我ながら「誠……」となります。

◆田村さんと、村上さん(未生)、田中さん(秋保)の話

田村魁成
3人でいたときは、謎の緊張感がありました。(僕だけかも知れないですけど笑)

試写会のシーンも撮影中はすごい緊張感があって、どういう顔したら良いんだよ!って思いながら現場にいましたね。

野本梢監督
その様子が画面に映っていると思います。でもその定まらない誠の表情がすごく良くて。なかなかあんな揺らぎのあるお芝居ってできないと思います。ぜひスクリーンで誠の瞳の奥まで見ていただきたいです。

▼お客様へのメッセージ

野本梢監督
コメディテイストの作品なのですが、私は観終わったときにいつもグッときてしまうんです。
おそらくそれは、自分の不甲斐なかった過去に向き合わざるを得なくなる映画であり、かつそこから現在に繋げてくれる映画だからかなと思っています。

振り返りたくない、振り返らなくていい過去もあると思います。でも、ふと当事者同士で話をしてみたら、笑い合えたりとか、赦し合えたりとかってあるんじゃないかと思って。それで現在が生きやすくならそれもいいなって思うんです。そんなふと心を軽くする作品になっていたら幸いです。ぜひご覧ください。

田村魁成
改めて、本作に興味を持っていただきありがとうございます。

この作品は、ずっと長く、隣で励ましてくれる作品だと自負しております。

観た後に、「明日だけ頑張ってみるか」と思ってくれたら嬉しいですし、何をしても監視されているような社会に少しでも息を休める一つに、うやむやな過去の、視点を変えて見つめ直すきっかけにしてくれたらと思います。

自分にとってちっぽけな出来事も人にとっては大層で、またその逆も然り、みたいなこともあると思っていて、過去も未来も人からの解釈や自分の捉え方次第で変わると思います。

吉日ばかり、だと人への感謝やありがたみを忘れそうなので、凶日に向き合いながら、謙虚に真っ直ぐ生きたいです。みなさんにとってこの作品が心の支えの一つになっていたら幸いです。

▼舞台挨拶情報(K’s cinema)


▼STORY

「最悪や」が口癖の誠は高校生のとき、キャプテンの未生に頼まれ、女子フットサル部の引退試合を手伝った。そのとき、未生の采配によって試合に出られなかった秋保を励まそうとするも、未生に遮られ微妙な空気のまま別れる。卒業してからも秋保を想い続け、ある特技で惹きつけようともがく誠。しかし、不運が続き、現実を突きつけられていく中で、あの凶日の真実に気づいていく。

▼予告編

▼作品情報

映画「思い立っても凶日」


田村魁成 村上由規乃 田中なつ
吉川流光 榎本桜 藤主税 三浦健人 村松和輝 大﨑章 南久松真奈 田野真悠 三好紗椰 藤公太 蔦陽子 窪田翔 小川富行 小島彩乃 伊藤由紀 とうふ

監督・脚本 野本梢
撮影・照明 野口高遠 録音 横田彰文 撮影助手 金子愛奈 制作 小松豊生 ヘアメイク 子池絢音 スチール 中川達也 メイキング 岡野祐介 ryota hakamada 整音 久保琢也 音楽 IX 宣伝デザイン 東かほり
企画・プロデュース 田村魁成 アソシエイトプロデューサー 吉川流光

◆リンク

映画「思い立っても凶日」クラファンサイト
https://motion-gallery.net/projects/omoitattemo

シアターセブン公式サイト
https://www.theater-seven.com/index.html

6月1日よりシアターセブンにて1週間限定公開
6月15日よりK’s cinema にて公開

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