映画人による、映画人のための映画賞「第33 回日本映画批評家大賞」授賞式

映画人による、映画人のための映画賞「第33 回日本映画批評家大賞」授賞式

「第33 回日本映画批評家大賞」授賞式が、5 月22 日(水)に開催された。33年の歴史を数える今年のテーマは「進化し続ける力」。映画愛が深く、軽妙洒脱な語り口で知られる松尾貴史氏をメイン司会に、バラエティに富んだ受賞作品より、東出昌大、筒井真理子、磯村勇斗、新垣結衣ほか受賞者がステージに上がった。

新⼈男優賞(南俊⼦賞)

アフロ『さよなら ほやマン』

批評家(中村梢)コメント要約
舞台: 宮城県石巻市の離島
物語: 漁師の兄弟と東京から来た漫画家の共同生活、家族の再生
登場人物: アキラ(漁師)、シゲル(弟)、アフロ(演者・ラップグループ「MOROHA」メンバー)
特徴: 笑いと涙を誘う人間模様、斬新な表現、アフロのリリックと演技が魅力

黒崎煌代『さよなら ほやマン』(ビデオメッセージ)

批評家(安田佑子)コメント要約
舞台設定: 宮城県の小さな島が舞台で、ホヤが喋るユニークな冒頭から始まる。
主要キャラクター: 主人公の弟・シゲルは天真爛漫で島民に愛されるが、外では「障がい者」として苛められる。兄・アキラはシゲルを守るために自分の夢を諦めている。
物語の展開: 漫画家・美晴が島に来て、兄弟の日常に変化をもたらす。シゲルは美晴との関わりを通じて成長し、大きな決断を下す。
俳優の背景: 黒崎煌代は映画好きで、本作でスクリーンデビューを果たし、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で注目を集める。彼の演技力は多くの影響を受けており、映画人としての輝きを放っている。
アフロ 『さよなら ほやマン』

▼新⼈⼥優賞(⼩森和⼦賞)

花瀬琴音『遠いところ』

批評家(新谷里映)コメント要約
花瀬琴音の表現力と役づくりのための吸収力と理解力は非常に優れています。彼女が演じた17歳のアオイは、過酷な環境で生活している若い母親で、その役を演じるために花瀬は沖縄で生活し、同じような状況の人々と接触しました。彼女はそれぞれのパーツに必要な情報を探し、理解し、吸収してアオイのキャラクターに反映させました。特に印象的なのは、クライマックスの走りと泣き笑いのシーンで、その感情は視聴者に強く印象づけられました。これらは花瀬が役を演じるものではなく、生きるものとして取り組んだ結果です。
花瀬琴音『遠いところ』

新⼈監督賞

金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

批評家(伊藤さとり)コメント要約
映画は、障害やマイノリティ、貧困に苦しむ人々の生きづらさを描きながら、繊細な感情を持つ人々の心の色合いを自然光や灯を活用して表現しています。金子監督の作品は、現実と非現実の境界線の美しさを捉え、日常の些細なことにも目を向けることで特徴的な映像世界を生み出しています。また、映画の美術や音楽も、登場人物の人柄や繊細な世界を反映しています。映画は、男女の視点を取り入れて「男らしさ」や「女らしさ」の無意味さを検証し、ぬいぐるみを通じて人々が感情を吐露する様子を描いています。映画は、自分の悲しみや憎しみを他人に話すことの難しさを描きつつ、自分を守る方法を大事にする人々とのつながりを描いており、多くの若者の心に響くでしょう。

工藤将亮監督『遠いところ』

批評家(島敏光)コメント要約
沖縄の現実: 映画は、南国の楽園とは異なる、ヒリヒリする沖縄の現実を描いています。
アオイの物語: 17歳のキャバ嬢アオイは、喧騒を逃れる日々を送りながら、幼い子供を育てています。
社会問題: 沖縄が抱える若年層のシングルマザー、DV、貧困などの重い問題が描かれています。
工藤将亮監督: 工藤監督は、登場人物の感情をバランスよく描き出し、少女たちの切実な現状を表現しています。彼の評価はさらに高まるでしょう。

金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
工藤将亮監督『遠いところ』

アニメーション作品賞

映画『窓ぎわのトットちゃん』(八鍬新之介監督)

批評家(松崎健夫)コメント要約
教育方針の意義: 黒柳徹子の幼少期を通じて、子どもの個性を重視する教育方針の重要性を探求しています。
反戦メッセージ: 映画は子どもの視点から戦争の不条理を描き、反戦のメッセージを強く伝えています。
社会の変化の描写: 日常の中で徐々に進行する社会の変化を、細部にわたって描いており、観客に社会の状況を感じさせます。
歴史への省察: 映画は観客に能動的に過去の歴史を考えさせ、現代が「戦前」として記録されないようにという願いを込めています。
映画は興行的には大ヒットとはならなかったものの、その価値は再評価されるべきものです。視覚的な表現により、子どもが感じる社会の変化を観客に追体験させる効果を持っています。また、ラストには希望を描かず、観客が歴史について考えるきっかけを提供しています。
八鍬新之介監督 『窓ぎわのトットちゃん』

ドキュメンタリー賞

 ◆『ライフ・イズ・クライミング!』(中原想吉監督)

批評家(安田佑子)のコメント要約
ドキュメンタリーの主題: 全盲のクライマー小林幸一郎(コバ)とサイトガイド鈴木直也(ナオヤ)のパラクライミング世界選手権での活躍。
映画の成り立ち: コバの提案で中原想吉監督が長編デビュー作として映画化。
撮影技術: 地上カメラ、クライミングカメラ、ドローンカメラを使用し、緊張感と自然の壮大さを捉える。
作品の魅力: 人間関係の対等さと個性の支え合いを描き、観客に「当たり前」への立ち戻りを促す。

中原想吉監督 『ライフ・イズ・クライミング!』

助演男優賞

磯村勇斗『月』

批評家(島敏光)コメント要約
磯村勇斗は、近年、映画『月』や『渇水』などの話題作に出演し、存在感を示しています。彼のキャリアは2015年の『仮面ライダーゴースト』から始まり、『東京リベンジャーズ』シリーズや『PLAN 75』などで頭角を現しました。彼の演技力は評価され、『渇水』と『月』の2作品で日本映画批評家大賞の助演男優賞にノミネートされました。
『渇水』では、彼は水道局員を演じ、平凡な男の生活を描き出しました。一方、『月』では、彼は重度障害者施設で働く青年を演じ、その人物が殺人者に変貌する過程を描き出しました。
彼の演技は、人間の陽と陰を軽々と演じ分けることができると評価されています。今後も長い活動を続けることが期待されており、日本映画界の若手男優としての地位は確固たるものとなっています。磯村勇斗への期待は増々高まっています。
磯村勇斗 『月』

助演⼥優賞

新垣結衣『正欲』

批評家(中村梢)コメント要約
新垣結衣の演技: 映画『正欲』では、新垣結衣が複雑な感情を持つ桐生夏月を演じ、その表情と語り口で観客に深い印象を与える。
物語のテーマ: 家庭環境や性的指向など、様々な背景を持つ人々の交差するドラマであり、「普通」とは何か、またそれを誰が決めるのかという問いを投げかける。
登場人物の葛藤: 主人公夏月は広島で平凡な日々を送りながら、誰にも言えない欲望を抱え、その欲望を共有する佐々木佳道との再会を果たす。
新垣結衣の表現力: 新垣結衣は2001年のモデルデビュー以来、多方面で活躍し、その表現力は計り知れないと評されている。


編集賞(浦岡敬⼀賞)

今井大介『#マンホール』

批評家(松崎健夫)コメント要約
ジャンルと特徴: 限定された空間を舞台にした「ソリッド・シチュエーション・スリラー」というジャンル。中島裕翔が酔っ払ってマンホールに落ちるシーンが中心。
撮影技術: 月永雄太が限定空間でありながら多角的なアングルを用いた撮影を実践。
編集の工夫: 今井大介がテンポやリズムを生み出す編集を施し、音に対する敏感さを引き出す。
表現の工夫: スマホのバッテリー残量をピンチの理由にせず、緊張感を構築する編集技法を用いる。
以上の点から、『#マンホール』は限定された空間を利用して緊張感を高める工夫が凝らされた映画であることがわかります。


脚本賞

上田誠『リバー、流れないでよ』

批評家(中村梢)コメント要約
ループもの映画の新作「リバー、流れないでよ」

  • ジャンル: 物語で同じ期間を繰り返す「ループもの」の新作
  • 内容: 京都・貴船の料理旅館を舞台にした2分間のタイムループコメディー
  • 特徴: 記憶を引き継ぐ設定と藤谷理子の演技が魅力
  • 脚本: 上田誠による86分の短尺で新しいループものを展開

主演男優賞

東出昌大『Winny』

批評家(松崎健夫)コメント要約
金子勇の親族の感動: Winnyの開発者である金子勇を演じた東出昌大の演技に、金子の親族が感動したと伝えられています。
役作りの困難: 金子勇の映像や音声がほとんど残っていないため、東出昌大は彼の人物像を作り上げるのに苦労しました。
Winnyの影響: Winnyは映画業界にとって問題の技術であり、開発者を擁護する本作は忌避されがちでした。
東出昌大の個性: 東出昌大の唯一無二の個性が、彼が出演する映画を輝かせる要素となっています。
この要約は、文章の主要なポイントを抽出して簡潔にまとめたものです。さらに詳細な情報が必要な場合は、お知らせください。

主演⼥優賞

筒井真理子『波紋』

批評家(伊藤さとり)コメント要約

  • 荻上直子監督: 宗教問題に斬り込むドキュメンタリーや劇映画を手掛ける。
  • 筒井真理子の演技: 専業主婦の内面を繊細に表現し、観客を魅了。
  • 映画『波紋』: 主婦が新興宗教にハマる様子を描き、宗教活動が日常生活に溶け込む。
  • 女優の役割: 筒井真理子が社会の期待に応える女性の葛藤を力強く演じる。

撮影賞

芦澤明子『スイート・マイホーム』

批評家(新谷里映)コメント要約
撮影本数: 芦澤明子は30年のキャリアで80本以上の映画を撮影しました。
先駆者: 彼女は映画撮影部門における女性の先駆者です。
多様性: 彼女は様々な規模ジャンルの映画を手掛けており、その幅広さが強みです。
『スイート・マイホーム』: 斎藤工監督のホラー作品で撮影賞を受賞し、日常の闇を表現することに注力しました。

ゴールデン・グローリー賞(⽔野晴郎賞)

木野花『バカ塗りの娘』

批評家(安田佑子)コメント要約
ゴールデン・グローリー賞: 50年のキャリアを持つ女優・木野花が受賞。舞台俳優として「青い鳥」劇団創立後、演出も手掛ける。
多様な役柄: 近年の役は尖ったものが多く、『愛しのアイリーン』の姑役や『波紋』の同僚役など強烈な存在感を放つ。
『バカ塗りの娘』: 青森・弘前を舞台にした作品で、温かい「吉田のばっちゃ」役を演じ、観客に愛される。
役者としての願い: 木野花には、人間の機微を表現し続ける「バカ塗り」のような役者でいてほしいとの願いが込められている。
木野花の演技力と彼女の作品に対する深い理解が感じられます。彼女のキャリアは多岐にわたり、その演技は観客に強い印象を与え続けています。

松永文庫賞(特別賞)

八丁座

批評家(日本映画批評家大賞機構事務局)コメント要約
特別賞受賞: 八丁座は第33回特別賞に相応しい映画館で、広島市八丁堀の福屋デパート内にある。
進化の象徴: 自らを信じ進む意気込みとマンパワーで進化し続ける力を持つ。
映画の灯: 広島の復興と共に映画が希望の灯となり、八丁座は映画館が永久不滅であることを示す存在。
地域と共生: 八丁座は広島愛と共に街と共に進化し、多くの人の人生を豊かにする映画を提供している。

ダイヤモンド⼤賞(淀川長治賞)

小林薫『バカ塗りの娘』

批評家(島敏光)コメント要約
小林薫は、信頼される役者で、津軽塗り職人役を演じた2023年公開の映画『バカ塗りの娘』で、長いキャリアで培った役者としての本分を全うする父親像を見事に演じました。彼は1971年に唐十郎の主催する「状況劇場」に所属し、1977年に映画『はなれ瞽女おりん』で映画デビュー。その後も多くの良質な作品に出演し、堅実な演技を披露しました。彼の演技は主役でも小さな役柄でもスクリーンに自然に溶け込みます。『バカ塗りの娘』でも津軽弁を見事にあやつり、津軽塗り職人の気むずかしさ、素朴さ、不器用な優しさを身に纏い、若いヒロインを悠然と包み込みました。これからも小林薫は数々の名作やエンタメ作品を支え続けていくことでしょう。

監督賞

荻上直子監督『波紋』

批評家(新谷里映)コメント要約
荻上直子監督の作品:
荻上監督の映画は一般的に温かみのある雰囲気がありますが、『波紋』はこれまでと異なり、よりストレートに「解放」のテーマを表現しています。

テーマの表現:
『バーバー吉野』や『かもめ食堂』などの作品を通じて、自由や自立、家族の多様性などを探求してきました。

『波紋』の特徴:
伝統や夫婦関係、新興宗教問題を取り入れ、日本社会の現実に直面しながら、力強いメッセージを発しています。

ジェンダーギャップと逞しさ:
日本のジェンダーギャップ指数が低い中、荻上監督は女性としての逞しさを表現し、『波紋』はその集大成と感じられます。

*ジェンダーギャップ指数:世界経済フォーラム発表による2023年度のスコア

作品賞

『ほかげ』(塚本晋也監督)

批評家(伊藤さとり)コメント要約
監督は「撮りたいテーマ」があるから映画を作っており、そのテーマは「戦争と人間」です。映画は戦争により荒廃した世界で生き続ける女性と、飢えと性欲に駆られてその家に集まった少年と青年の歪な家族を描いています。観客は彼らの生い立ちを断片的な語りや表情、行動から理解していきます。
映画は狭い家の中で展開され、少年が外へ飛び出すと画面が広がり、視点が女性の主観から客観的な視点へと変わります。そして、戦後直後の世界を子どもの視点から観客に体験させます。
本作には感傷的なショットや演出はなく、ただ淡々と「生き抜く」ために力のあるものに搾取され続けることを描いています。これは監督の過去作『野火』と共通するテーマで、「戦争の恐ろしさ」を描いています。人は戦争が起こると野生の姿に変わり、欲望を満たそうと彷徨いますが、それが続くと感覚は麻痺します。
現実世界では、多くの人々が悲惨なニュースを目の当たりにしながらも傍観しています。本作では、そのような人間の冷酷さや無力さを「男」と「女」として描いていますが、それは戦争を起こす可能性のある「政府」と「民間人」にも当てはまります。私たちが本作の女性のようにならないためには、政治に関心を持つことが必要だと監督は伝えています。だからこそ、『ほかげ』は私たちが観るべき、伝えるべき映画なのです。

▼フォトセッション

  

授賞式カテゴリの最新記事