3月27日(日)、シネマテークたかさき(群馬県高崎市)にて、映画『愛のくだらない』が上映された。第35回高崎映画祭の「監督たちの現在」という高崎映画祭が注目する、若手を中心とした監督たちからピックアップされた作品のひとつ。低予算ながらも知恵と工夫を凝らしながら、独自の表現を追求した作品が多い。これからの日本映画界を背負う監督たちとして期待される。
上映後舞台挨拶に、主演の藤原麻希、出演している群馬県前橋市出身の手島実優。野本梢監督が登壇。本作撮影のきっかけや、本作出演のエピソードを語った。
■ 映画『愛のくだらない』舞台挨拶 野本梢監督、藤原麻希、手島実優
-映画制作の思いは?
野本梢監督
自分自身が周りの方を大切にできなかったなっていう思いがこの数年反省として積み上がっていました。それを一度映画を数年撮ってきた節目として撮りたいなと思って撮りました。
あんまりメッセージ性とか考えてはいなくて、実際、ほとんど自分の話なんです。実際の身の周りにいた人たちの思いを描いた結果、そういう最終的なテーマというかメッセージにはなったのかと思っています。
-制作の過程は?
野本梢監督
ちょっと変な作り方をしています。
脚本が出来上がってから皆さんにオファーしたというわけではなくて、脚本を書きながら、「この方に出ていただきたいな」っていう時にもうお声がけはさせていただいていて、役を作り上げながら、その方をイメージしながらつくっていった感じです。基本的には声掛けした人と役を並行させて融合させるような感じで作っていきました。
唯一完全にできてからオファーした方が2名いて、1人が岡安さんで、もう1人が手島さんです。
私が勝手に頭の中で、紗希子っていう役は手島さんに演じてほしい思って、考えるまでもなく無意識に手島さんをイメージして書いていました。手島さんにオファーをしてOKをいただいた時はガッツポーズで、とても嬉しかったです。
-出演のお二人、藤原さんは野本監督の短編に以前から出演されていますが、どういった言葉を受けましたか?
藤原麻希
元々2012年から2人で作る活動をはじめていました。それは、2人でというか当時全く俳優の知り合いがいないという監督に、自分の知り合いの俳優を紹介したり、自分も出させていただいたりっていうので協力をしながらやってきて、お話いただいていたのは、結構前から長編を撮るなら私でやるってのは言ってくれたんですけど、正直夢の話っていう感じで自分では思っていました。
なので、現実に野本監督から長編の話が来たってなったときに、まさか、お話をいただけるとは思っていなかったので、すごい嬉しかったです。私もガッツポーズでした。プレッシャーはありましたけど、他の人にはやって欲しくないっていう思いも強くありました。
-手島さんがお話をいただいた時は?
手島実優
『透明花火』でも一度お声掛けをいただいてご一緒させていただきました。今回、台本が出来上がった時点で野本さんに「手島さんにずっとお願いしたいと思っていました。」とご連絡をいただいてすごく嬉しかったです。
脚本を見てもとても素晴らしい作品だと思いました。特に紗希子という役が好きでした。すごくしっくりきたので、自分の好きな人を語るシーンとか、その人のどこが好きか、その人のオリジナルな部分が、ちゃんと好きだっていう、そういう姿勢が素晴らしいなと思いました。これをシンプルに話せるキャラクターが作品の中に存在するって、“これは世界が明るいな”って、そういういいなと思う部分があったので、お芝居ができて嬉しかったです。
-どの役もとてもしっくりくる感じを受けました。
野本梢監督
リハーサルに挑む前にみなさんで決起会みたいなものをやったりとか、とりあえずとにかく顔を合わせて交流してもらうことをやりました。
そのおかげでみなさんの中で、私は場だけ設けて放置しただけなんですけど、みなさんでコミュニケーションをとっていただけたところもそう感じていただける一つなのかなと思います。
-題材の決定は?
野本梢監督
あまり、題材という捉え方はしてはいなくて、本当に自分の身の回りに起きて、自分が犯してしまったことを書いています。よく、いろんな要素が入っていると言われるのですが、私という一人の人間の周りにいてくださった方とか、私がしてしまったことの中。例えばSNSの炎上のことだとか、若干表現は違うんですけど、ああいったことや、LGBTQに関することで何か差別的発言をしたというわけではないんですけど、それに関することで思いもしない方向に飛び火してしまって反省するようなことから結果的にこの話を描くことになりました。
-パンフレットにも記載がありますが、FTM(Female to Male)など、まだ一般的には浸透していない言葉も作品の中に使われていますね。
野本梢監督
そのワードが映画に出てくることは珍しいっていう感想をいただくことが多いです。私は身の回り・仲の良かった子がFTMだったので、この映画を作って、いまの認識の状況を知りました。
ーさまざまな人が登場して、いろいろな人間関係を含め繰り広げられますが、脚本を読んだときの感想は?
藤原麻希
第1印象は、脚本でもほぼ全シーンに私は出ていたので、「あれっ?90分間ずっと出ているな」と、ちょっとびっくりしました。ただ玉井景という人間は女性であり、ああいう仕事をしていたりはするんですけど、結構、実体験に置き換えられやすいシチュエーションでした。恋愛のことや仕事、いろいろな差別だったり、気持ちというのが置き換えやすかったので、そんなに特別な人っていうわけではありませんでした。
割と私も自分自身に思い当たることがあったり、身近な人にいるような登場人物の方が多かったので、理解をするのに苦しむということもなかったです。特にさっき監督がおっしゃったように、あて書きのような形で、人を見た上で作られていた・書かれていたので、台詞もリアルだし、役者さんたちのそこにいる姿もすごいリアルで、“芝居をしようとして、芝居をしなくていい”という感じでした。
言葉にするのが難しいんですけど、ただそこに入れば、その方々からちゃんと与えてもらえる、それをキャッチしてただ返すっていうだけの作業をやった結果が90分になったっていう感じだったので、その脚本を読んだときには「わぁ大変!」っていうインパクトは全然撮っているときはなくて、毎シーン楽しい。いい意味で苦しく楽しいっていう作りができました。
見ていても自分もいろんなことを感じるような作品になったなと思います。
-撮影現場も和気あいあいとしていたのでしょうか?
藤原麻希
岡安さんがいらっしゃる現場は、ただでプロの方の面白いお話を聞けるので、もう我々は元々、岡安さんのファンだったので、ただただニヤニヤしていました。
私が彼に八つ当たりしたり、結構嫌なシーンが多かったんですけど、ただ、本当にオフの時間はずっと笑っていました。幸せでしたね。
野本梢監督
ファンの感じを出してしまうと、頼りないなと思われてしまうと思ったので、一言もファンとは言いませんでした。ずっと公開まで言いませんでしたが、ダダ漏れていました。
藤原麻希
ふたりでずっとニヤニヤしちゃっていましたね。
その後にミュージックビデオを撮っているんですけど、そのシーンはもうファンがダダ漏れになっている状態で、幸せでひたすら笑ってるっていう。
よかったらぜひ見てください。
-手島さんが演じる紗希子について
手島実優
紗希子が劇中で言っている、そのままなんですけど。その人のどこが好きか、どこが嫌いかって、ひとそれぞれだと思うんです。
私も脚本を読んだときに自分も多分、人のことを好きになる要素がちょっと似ていると思いました。
その人の生きてきた中での良いことや悪いことを全部含めてその人が出来上がってる状態、今の状態が私はすごく好きです。
そういう気持ちがすごくわかるよっていうのがあったので、みんながグレーゾーンだと思うんです。私もそうかもしれないし、今後私がそうなるかもしれないし、そういう可能性を考えたらなんにも無いと言ったら変ですけど、何か気に留めることが私はあまり無いなと思いました。なので、男性だとか女性だとかFTMだとか特に気にせず私はすんなりと演じることができました。
ーお客様へのメッセージ
手島実優
短い時間ですが、お付き合いいただきましてありがとうございました。私が演じた紗希子という役は、栞とのシーンが多かったので、実際に完成版を観てから私も失敗してしまったことがあるなと思いながら、反省しながら観ていたんですけど。失敗することとか、人に言ってしまって後悔することとか、一生ずっとあり続けることだと思うので、私は一観客として観た時にどんなに失敗しても絶対に自分のことを見捨てないようにしようと思って、他人のこともそうですけど、失敗しても、やっちゃったなと思っても、それから修正がきくというかそういうプラスな気持ちにすごく成れた作品だったので、みなさんも他の人も、自分のことも許せるというか、ちょっと優しく、自分がしんどいと多分、他の人にも優しくできないと思うので、自分のことを大切に考えられる映画になったらいいなって思います。
藤原麻希
今日私初めて高崎という場所に訪れまして、高崎映画祭は役者を始めたときからずっと名前を知っている有名な映画祭だったので、そこでこうして上映をしていただける作品に主演できたっていうのはもう自分の本当に役者人生の宝物のひとつになったと思っております。
今日入ってくる前に、エンドロールが終わってみなさんが拍手してくださったのを外で聞いていて、なんかすごくあったかくていいなって、ジーンとしておりました。
この作品は、本当に男女とか立ち位置とか問わず、どなたかがもしかしたら、だれかの役に感情移入できる部分があるかなと思います。もしかしたら後から見返したら、自分と何か照らし合わせたりするものや発見があったりする作品なのかなというふうに思いながら自分自身も見返すたびに身につまされる思いになっている作品でもあります。
今日は本当に見ていただけて嬉しいですし、今後また見ていただける機会があれば、より嬉しいなというふうに思います。
本日はありがとうございました。
野本梢監督
高崎映画祭で上映していただけると聴いて、飛び上がるくらい嬉しかったんですけど。
嬉しかったなということを今思い出しました。
この作品は自分自身の反省をもとに撮った作品です。この作品を撮ってここで上映していただけたのも、去年新宿で公開してから応援してくださってる方がいてくださって、それで、映画祭のプログラマーの方が観てくださったところで繋がっていけたので本当に観客の皆さんのおかげだと思っております。
何回か観ていただけている方がいらっしゃいましたら本当にありがとうございます。
自分自身の反省で作った映画なので、自分がこの映画を裏切らないように、自分が正しいと思っているときが一番危ないなと思うので、昨今いろいろ問題になっておりますけれども
常に自分を省みながら、私自身は、この映画を指標にして取り組んで行きたいと思っております。そういった宣言をさせていただきます。
■ 映画『愛のくだらない』
『愛のくだらない』(2020/日本/95分)
あらすじ
テレビ局で働く玉井景(藤原麻希)は、芸人を辞めてスーパーで働く彼氏のヨシ(岡安章介)と同棲している。体調不良で仕事をすぐ休み 、結婚に対してはっきりしない。そんな頼りないヨシを置いて景はついにある嘘を隠したまま家を出る。 ヨシからの着信が鳴り止まない中、番組制作に意気込む景だったが、出演をオファーしたトランスジェンダーの金井(村上由規乃)を取り巻くトラブル、嫉妬、意地の張り合い…。多忙を極める中で次第に周囲と歯車が狂い始めた景は、ヨシにすがろうとするも、電話に出ないヨシ。 家に押しかけると、見知らぬ女が。そしてヨシからある事実を告げられる--
出演
藤原麻希 岡安章介(ななめ45°)
村上由規乃 橋本紗也加 長尾卓磨
手島実優 根矢涼香 櫻井保幸 綱島えりか
鈴木達也 山下ケイジ 高木悠衣 蔦陽子 岡田和也
後藤龍馬 松木大輔 桑名悠 樋口大悟 笠松七海
村田啓治 永野翔
スタッフ
監督:野本梢 プロデューサー:露木栄司・田中佐知彦
撮影・照明:野口高遠 録音:横田彰文
助監督:市原博文、小川和也、田中麻子 美術:大高雛希
ヘアメイク:田部井美穂・松村南奈 制作:永野翔、小松豊生
応援:川上雄介、川崎僚 映像効果:白川祐介 整音:宋晋瑞
制作協力:ニューシネマワークショップ
ビジュアル撮影:Fujikawa hinano
ポスターデザイン:本木友梨 予告編・HP作成:知多良
主題歌「嘘でもいいから」作詞・作曲・歌:工藤ちゃん
製作:野本梢、株式会社 為一、株式会社 Ippo
©2020『愛のくだらない』製作チーム
公式サイト: https://kudaranai-movie.com/