映画『ノルマル17歳。ーわたしたちはADHDー』が、東京・アップリンク吉祥寺にて上映中(好評につき、上映期間延長。終映日未定)、7月大阪・全国順次公開。本作は、ADHDの女子高生2人の物語。今回、監督、脚本を務めた北宗羽介監督、脚本・神田凜さんにテキストインタビューを実施。本作制作の経緯から、劇場公開を開始してからの感想等をうかがいました。
※ADHD(注意欠如・多動症)とは、発達障害のひとつで、不注意や落ち着きのなさ、衝動的な行動などが、生活に影響をおよぼしている状態のことを指す。周りの人からは、「ちょっと変わった人」とか「空気の読めない人」と決めつけられてしまう場合があり、若者を中心に世界中でADHDである人が増えていると言われている。
■ 映画『ノルマル17歳。』北宗羽介監督、脚本・神田凜インタビュー
▼本作制作にあたってのエピソード
ー本作のテーマをADHDにしたきっかけとして、ご自身が行っていた演技指導で、企画を立ち上げる10年ほどまえから“対人関係の苦手な人や時間にルーズな人が増えてきた”という気づきを挙げていらっしゃいました。この気づき以前から、発達障害についてご存じでしたか、発達障害について興味を持ち、どのように学んでいったか、また、学びによって、発達障害の方に対してどのように対応を変化させていったのか教えてください。
北宗羽介監督
以前から行なっていた俳優への演技指導やマネジメント業務で、この子はもしかしたら障害あるいはその傾向なのかもしれないという感覚はだいぶ以前からありました。作品でも取り扱っていた関係で知識として持っていた「パーソナリティ障害」かなと感じた方が散見されていたのですが、どうもそれでは説明できない人が増えて来たなという実感も出て来ました。
「ADHD」や「自閉症」(当時はまだこの名称で認識していました)は、知識として何となく持っていましたが、「発達障害」というくくりでは、当時それほど深い知識があったわけではありません。
あるタレントのプロデュースに関わっていた時、遅刻や忘れごとがやたらと多く、何度言っても直らないといったことがありました。学生時代は不登校も多く、どうやらそうかもしれないと指摘したところ、親から電話がかかってきて「そんなことを当人に言わないでくれ」とクレームがありました。直感的に親子関係の構造的な問題が分かり、そこからいろいろと調べ始めて、これまでの言動を振り返ってみると、どうやら「発達障害」ではないかと考えました。ただその子が正式に診断されているかは分かりません。 そのあたりから「発達障害」を意識するようになってきました。
▼脚本デビュー、その経緯
-本作は神田様の“脚本デビュー”という記述と、“脚本担当にとって初めての長編”という記事がありました。まず、脚本としてのデビュー作なのか、長編映画の脚本が初めてなのかを教えてください。
次に、おそらく、北監督からの声掛けがあって、本作の脚本を書かれたと思うのですが、どのようなきっかけ、流れ・経緯で本作の脚本を書くことになったのかを教えてください。
脚本・神田凜
『ノルマル17歳。』が一番最初です。本作の執筆を終えてから、映画が公開されるまでYouTubeに上げるための短編やコンペに応募するための脚本は書いてました。 でも初めて書いて、長編で、尚且つ商業映画は本作のみです。
当時私は正社員の美容師をしていたんですが、コロナで勤めていた店が閉店し次の店で働くまでの一ヶ月間は休職期間でした。時間はあるし、久しぶりに溜め込んだドラマでも観ようと観始めたのがきっかけで映画も観に行ったんです。 その時観た映画に感銘を受け、『私はやっぱり創作したい! 映画作らなきゃ!』となりました。
小さい頃から何か創るという行為は好きでしたが当然映画脚本なんて書いたこともないし、周りに関係者もいません。 書き方を本で学びながら必死で未経験でもできる仕事を探し、行き着いたのが北監督の青春映画企画の募集でした。
その頃ちょうどLGBTQという言葉が認知され始めていたので、ジェンダーに関する題材にするか?とも考えましたが知識が足りないと思ってやめました。 恋愛映画は私自身が凄く捻くれている自負があるので、求められる青春映画にはならないだろうと思って無しにしました。
自分の青春時代、10代後半は発達障害を持つ人物に関わることが多かったな、中々つらかったけど当事者のあの人はどうだったかな、もっと私できたことあったよな、と思って『発達障害(ADHD)の女子高生二人が公園で出会う話』と監督に送りました。 そこからは私の思う感じではとんとん拍子だったと思います。『じゃあまずは書きたいように書いてみてください』と監督が言ってくださったので、本当に自由に脚本を書きましたし、ほとんど初稿と映画の内容は変わってないです。
▼共同脚本と、その進め方
-本作の脚本として、お二人のお名前が書かれていますが、どのような役割分担をしたか、また、北監督は演技指導の場で、神田様は知人の方で、ADHDの方と接していたのではないかと想定しております。それぞれの書きたいこと・伝えたいことをどのようにまとめていったか(工夫・苦労したことなど)を教えてください。
脚本・神田凜
私は各キャラクターの設定や絶対に譲れない部分(異性との恋愛要素を入れない等)を監督に伝え、物語の大筋をあらかた描きました。途中、商店街の大人たちが出てくるシーンなどは監督から『なにか他の大人や二人以外の人間から影響を受けるシーンを』と言われましたので、付け加えました。 あとは脚本の書式を整えることも監督にやってもらいました。 当時スマホのメモ帳に全脚本を書いていたので、すごく読みづらかったと思います。 書きたいことはそのまま書かせてもらえたんですが、一辺倒だと映画として面白くならないので物語に波をつけるということが難しかったです。 それと、私が発達障害の方を支えようと奮闘してたのはもう八年前なんですよね。なので知識が偏っていたり、もう古い情報だったりしているのではと思い、また一から本を読み返したりしました。
北宗羽介監督
映画脚本は何よりも「実体験」が強いものが、「知識」だけで書いたものよりも、はるかに強く、人々の心に刺さる「力」があるものと思っています。それは小説でも音楽でも同じかと思います。
なので、神田さんの「実体験」を元にした物語をベースにしようという方針は初めから持っていました。
そもそも『発達障害(ADHD)の(赤の他人の)女子高生二人が公園で出会う話』だけで、直感的に映画の映像がほとんど見えたということもあり、これは大丈夫だと思い、自由に書いていただきました。
ただ長編の初執筆ということもあり、初稿はけっこう短く、エンタメ作品としてはシンプルすぎるという印象がありました。
そこで人物の背景に起伏をつけるために、サブキャラクターなどを入れてみてください、などと改訂を重ねて行きました。
神田さんの書いたものの中には、私の人生経験の中でオーバーラップするところも多く、セリフの書き直しもほとんどしていないかと思います。
逆に説明的になりすぎるところは、省いて行きました。「ADHDとは」みたいな啓蒙映画ではなく、あくまで主人公たちの人間ドラマとして見せたかったという感じです。
私が構成全体を見直し、一部セリフを書き加えたという感じですね。
▼キャスティングについて
ーオーディションを開催して、全国から主役を選んだとのことですが、自主制作映画の制約として予算等が課題になる中、全国からオーディションで選ぶ際に行ったこと(工夫:オンラインオーディションなど)を教えてください。
また、主演となる鈴木心緒さま、西川茉莉さまの選出理由、オーディションの様子、お二人の魅力などをお教えください。
北宗羽介監督
当初はゼロ予算で撮るつもりだったので、知名度のある俳優さんは使えず、ですが演技力を秘めている新人はどこかにいるだろうと全国オーディションを開催しました。
私は以前から海外の人たちとリモートでミーティングすることがあって慣れていましたが、日本ではコロナ禍でリモートミーティングのツールを使用することがようやく一般の方々にも増えてきました。
オーディションもそれまでは対面が一般的でしたが、リモートが普及することで、全国各地の方々に負担をかけることなくオーディション(面談)を行なうことが出来るようになりました。
またスマホの普及で動画も誰でも撮れるようになりました。オーディションのエントリーもだいぶ以前から紙からオンライン(メール)に変わっていました。それで全国オーディションも予算をかけずに開催することが出来ました。
自撮りで自己紹介、演技の動画を送っていただき、リモートで面談するといったことで選抜し、最終的に10数名の主演候補者に絞り込みました。
最終は東京に来ていただき、お母さん役(代役)の方などと演技していただき、最終的に神田さんとも話して決定しました。
鈴木心緒さん、西川茉莉さん、共に演技力や持っている雰囲気で決めました。
自撮りでの演技はどうしても細かいところは分かりません。そして相手役がいることで、潜在的な力を発揮することがあります。
鈴木心緒さんの強い感情表現は朱里に、西川茉莉さんの人と対した時の繊細なリアクションやアクションは絃に、それぞれぴったりだと感じました。
脚本・神田凜
書類審査、動画審査、最終オーディションに参加させていただきました。 私は大阪にいてまだ世間のコロナ騒動も半ばだったので、Zoomでオーディションの様子を見ていました。 終わってからこの二人だといいな、という役者さんの名前を監督に伝えると、監督も同じでした。それが朱里役の鈴木心緒さんと絃役の西川茉莉さんです。 心緒さんの伝えるためのパワーと普段の可愛らしさの使い分けは画面越しに伝わりましたし、茉莉さんの繊細さや清涼感ある演技はそのまま絃だと思いました。
▼劇場公開が始まり、お客様の反応をうけての感想
-アップリンク吉祥寺で劇場公開が始まり、満席回が複数回あり、反響の大きさを感じます。劇場公開、舞台挨拶、サイン会を通じて、感じたことなどを教えてください。
脚本・神田凜
まず公開できたことに感動しています。私は言ってしまえば書いただけなので、未経験の書いた作品にここまでしてくださった監督に感謝の気持ちでいっぱいです。 そして、公開から満席の連続、いただける感想、サイン会でもたくさん直接そのお声をいただきました。
予告の時点でたくさんの反響があり、直接宣伝していない人からも『予告観たよ!』と連絡をいただくほどでした。 『映像化してくれてありがとう、書いてくれてありがとう』と言ってくださる方もいて、私の「書きたい」が皆さんに届けられたことを嬉しく思います。
今観客に観てもらって初めて映画は完成する、という言葉はまさにその通りだと実感できた、貴重な体験だと感じました。
北宗羽介監督
まずは小さな映画なので、上映していただける映画館を探すことが大変でした。
そこで最初は西川茉莉さんと眞鍋かをりさんの出身地である愛媛県の映画館・シネマサンシャイン重信さんで先行上映させていただくことになりました。
西川さん眞鍋さんお二人が愛媛出身であることを知ったのはキャスティング後のことで、これは本当に偶然でした。シネマサンシャインさんも愛媛にゆかりがある興行会社ということ、また後援の日本発達障害ネットワークさんの総会が昨年10月に愛媛県松山市で開催されたということなど、様々な偶然が重なりました。
舞台挨拶も大盛況で、地元のメディア(新聞・TV・ラジオなど)にも多く取り上げていただきました。そして、愛媛での先行公開は上映延長されるなど、大きな反響が見られました。
何よりも協力者の方がSNSに投稿してくださった予告編が(当時)220万回以上再生され、当事者の方をはじめ様々なコメントが書き込まれました。予想以上に注目されているという感覚がありました。この作品への注目というよりは、「発達障害」全体に対する興味ということですね。
東京では、撮影をした多摩地域での映画館をメイン館にしたいと思い、最終的にアップリンク吉祥寺さんでやらせていただくことになりました。
多くの映画館ではなく、あえて1館に集まっていただくことで、より親近感が出るのではないかと思いました。 舞台挨拶回では、もちろん出演者の方々や作品関係者の方々のファンや応援して下さる方々にたくさん来ていただいたのですが、予想以上に当事者の方や医療・福祉・教育関係の方々が多いことに驚きました。
当事者やその関係者の方は、予告編からもそうなのですが、リアルすぎて観るのがつらいので、来ていただけないのではと思っていましたが、そうではありませんでした。
皆さん多くの方々が涙を流して「これは自分でしかない」「でも作っていただいてありがとうございます」「こういうのを待っていました」と駆け寄って下さいます。
当事者でない方も、主人公と同じような経験を持つ方も多く、そういう感想をおっしゃっていただいたりします。子を持つ親の方々も、「自分もこういうふうに子どもに接していた」と反省される方が多く見られます。
予想よりもはるかに多く、大きく、人々の「心の奥」を抉っているのではないかと感じます。
さらにはある医学系学会の総会で本作を上映させていただけないかと問い合わせがあり、
今年秋に上映予定で進めています。
教育機関や福祉系のイベントでの上映の問い合わせも多く来ています。
制作した私たちの予想以上に反響が大きいことに驚いています。そして同時に、これは「現状を変えて行く大きな力」になるのではと感じています。
▼皆様へのメッセージ
脚本・神田凜
まずは映画として、お楽しみいただけたらと思います。
この映画は啓発や注意喚起ではありませんし、リラックスして観ていただきたいです。
そして、今日も皆さんと同じ世界のどこかで朱里と絃は生きていて、自分なりに笑いながら戦い、泣きながら前に進んでいるということ。
鑑賞後、なにか皆さんにとって初めの第一歩となる作品になっていれば幸いです。
北宗羽介監督
本作は純粋に「青春映画」としてまず観ていただけると良いかと思います。
「青春」は何も10代の特権ではありません。
多くの方々が青春に悔いを残して生きているかと思います。しかし何歳になっても、自分の持っていた純粋な心を取り戻せると思います。それが「青春」です。人間は何度も生まれ変わり、成長していけるものだと信じています。
そう気づいた時、「やさしい家族関係」「やさしい友人関係」「やさしい社会」「やさしい世界」につながっていくのではないでしょうか。
何かの「普通」を変えるきっかけになれればと願っています。
▼アフタートーク情報 (アップリンク吉祥寺)
専門家を交えたアフタートークショー
●4.20(土)11:45~上映回終了後
登壇者:鈴木慶太、北宗羽介(監督)
発達障害のある人に特化した就労移行支援サービスを行なっている株式会社Kaienの鈴木慶太代表と、北監督がアフタートークを展開。
@KaienJp
@teensmn
@NDSJ_Kaien
●4.21(日)11:55~上映回終了後
登壇者:鈴木慶太、北宗羽介(監督)
4.20に引き続き、株式会社Kaienの鈴木慶太代表と北監督が対談。
●4.23(火)12:25~上映回終了後
登壇者:高山恵子、北宗羽介(監督) NPO法人えじそんくらぶ代表・臨床心理士・薬剤師で、ご自身もADHDである高山恵子氏と北監督とのアフタートークを展開。
※登壇者は予告なく変更となる場合がありますので、ご了承ください。
■ 映画『ノルマル17歳。― わたしたちはADHD ― 』
▼ストーリー
進学校に通う絃(いと/西川茉莉)はまじめな子であったが、発達障害のひとつであるADHDと診断されており、ひどい物忘れで生活や学業に支障を来していた。
重要なテストの日、絃は目覚まし時計をかけ忘れて寝坊してしまう。
ショックのあまり絃は登校せず、いつもは行かない道をさまよって見知らぬ公園にたどりつく。
そこで突然、茶髪で派手なメイクのギャル女子高生・朱里(じゅり/鈴木心緒)に声をかけられる。
朱里「何してんの?」
絃 「あ…今日は寝坊して」
朱里「あたしなんかほとんど寝坊か欠席。学校行ったけど落ち着かなくて帰ってきた。あたし発達障害あってさ。ADHDっての。知ってる?」
いきなりADHDだと言う朱里に驚く絃。
朱里は強引に絃を街へと遊びに誘う。
古い商店街や裏山が見渡せる公園、野良猫たち。 普段は家と学校の往復しかしない絃にとって、それは新鮮な世界であった。
朱里と絃は友達となり、後日も遊びに行くが、絃の母(眞鍋かをり)に見つかってしまう。
絃の母は朱里の派手な身なりに不快感を持ち、朱里との交際を禁止してしまう。
一方で朱里は、自分の物忘れで姉(花岡昊芽)との喧嘩が絶えず、父(福澤朗)や母(今西ひろこ)からも厳しく言われて家庭内で孤立していた。
やがて朱里は絃とのメッセージのやり取りもやめ、次第に部屋に引きこもっていく。
朱里と絃との距離は次第に離れ、再び元の日常に戻りつつあったが…
▼予告編
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■ 映画『ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-』作品情報
出演:鈴木心緒、西川茉莉、眞鍋かをり、福澤 朗、村野武範 、小池首領、今西ひろこ、花岡昊芽 ほか
監督:北 宗羽介 脚本:神田 凜、北 宗羽介
音楽:西田衣見 撮影:ヤギシタヨシカツ(J.S.C.)
エグゼクティブ・プロデューサー:下原寛史(トラストクリエイティブプロモーション)
プロデューサー:北 宗羽介、近貞 博、斎藤直人
製作:八艶、トラストフィールディング 配給:アルケミーブラザース、八艶
後援:日本発達障害ネットワーク(JDDnet)、NPO法人えじそんくらぶ 他
文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
©2023 八艶・トラストフィールディング /80分/カラー/5.1ch
公式サイト https://normal17.com
公式SNS(X) https://twitter.com/Normal17_movie
東京上映館・アップリンク吉祥寺
東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目5−1 吉祥寺PARCO B2F
TEL 0422-66-5042
上映スケジュール、イベント情報およびチケット情報は、アップリンク吉祥寺Webサイトまたは
映画『ノルマル17歳。― わたしたちはADHD ―』 公式サイトにてご確認ください。