3月15日(金)より、映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』がテアトル新宿ほか、全国順次公開。
今回、若松監督に弟子入りを志願する若き日の井上淳一を演じる杉田雷麟さんと境遇に苦悩しつつ映画監督を目指す金本法子を演じる芋生悠さんにお時間をいただき、本作出演の経緯を振り返るとともに、雰囲気の良い中で撮影がおこなわれた撮影現場のエピソードなどをうかがいました。
■ 映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』杉田雷麟・芋生悠インタビュー
▼杉田雷麟、出演の経緯
-本作出演に至るまでの経緯というところで、昨年10月の若松孝二監督追悼イベント特別上映の舞台挨拶でも一度お話をきかせていただいていますが、出演者の多くが『福田村事件』のキャストであったり、芋生さんは、井上監督が『37セカンズ』を観てオファーしたとの話がありました。出演の経緯についてお話をきかせてください。
どのような流れで声掛けがあったのでしょうか。杉田さんの場合は現場で声がけをされるような流れだったのでしょうか?
杉田雷麟
僕に最初の声がけがあったのは、『福田村事件』のオーディションの時だったと思います。その時にはまだ具体的な話はなくて、そのあとで事務所に話がきたのですが、『福田村事件』の現場で井上監督と喋ることがすごく多くて、そこでもう次の作品への信頼関係みたいなものはできあがっていたと思います。
前の現場で一緒だった監督とすぐその後の作品でもう一度ご一緒するってなかなかないですよね。しかも後の現場というのが井上監督本人の役だなんて。
-井上監督は、杉田さんに対して、「井上を見つけた!」といったことをコメントとして残されていましたが、井上監督とその時のことを杉田さんはお話されましたか?
杉田雷麟
井上監督がそう思ってくれたのならば嬉しいですし、僕も井上監督にちょっと似ているところがあるなと思っています。井上監督は当時を振り返って、“井上を見つけた!” という言葉を繰り返してくださっていることも嬉しいですね。
-杉田さんから見て、井上監督と自分が似ていると思う部分はどこでしょうか?
杉田雷麟
毎回、これを話すと監督をちょっとディスることになるのですが、ちょっとダサいところが似ていると思います。
あるシーンの中でかなりダサいことを言ってしまったり、余計な一言を言ってしまったりするところとか、結構似ているところが多いのではないかと思います。
-個人的に似ているなと思ったのが、同じ業界で活躍する先輩と後輩の関係とそのエピソードという観点で、佐藤浩市さんと杉田雷麟さん。若松孝二監督と井上淳一監督といったように、ちょっと強面の大先輩と気に入られている後輩といった関係性も似ているなと思いました。
杉田雷麟
確かにそこもリンクするところがありますね。
▼井上監督から芋生さんへのラブコール
-芋生さんの本作出演の経緯には、芋生さんの出演作『37セカンズ』を井上監督が観たことがきっかけとなっているそうですね。
芋生悠
これは、井上監督がよくお話しされていることですね。
-そんなエピソードがあるなか、どのように声がけがあったのでしょうか?
芋生悠
メールでオファーが来ました。企画書と台本が一緒に送られてきて、その2稿目か1稿目を読ませていただきました。
映画愛にあふれていて、しかも、“止め俺2(止められるか、俺たちを2)”という位置づけで、「興味深いな」と思いました。また、役どころ的にもちょっと他の人とは違うポジションが面白いと思って、「ぜひお願いします」とお返事をしました。
その次の稿が上がってきたときに、また更に内容が変わっていたんです。
私の演じた金本が、より人間味が出ていました。三重苦の内容がきちんと色濃く出始めて「あ、これいいな」と思って、「この稿の方がもっと好き」と思って、ぜひとお返事しました。
-監督がラブレターを書くように書き進めたといった話があったそうですね。
芋生悠
え~、そうなんだ。
杉田雷麟
言っていましたね。
-稿を重ねるごとに大分変化があったというあたりにつながるのかなと思いました。
芋生悠
だいぶ変わりましたからね。最後の屋上のシーンは3日前に差し込まれたものでした。
杉田雷麟
最初とはかなり違いましたね。
芋生悠
あのシーン自体は元々あったけど、撮影の3日前に差し込まれて、だいぶ膨らみました。
-この映画のお話を成立させるためにも、若き井上と金本とを対比する位置づけが必要といった話がありましたが、そういった監督の思いであったり、「井上を見つけた!」という声だったり、芋生さんへのラブコールだったり、井上監督らしさが出ていますよね。
芋生悠
井上監督って、すごくピュアな人じゃないですか。どんな人に対してもリスペクトがあるような。
現場でもすごく気を遣われるんです。「そこまで気を遣う?」みたいに。
例えば、私に対して、「すごく失礼なことを言ったかもしれない…」といった気遣う声があったり。
杉田雷麟
すごく保険がいっぱいかかっているんです。
「そんなに気を遣わなくても~」って思うんですけどね。
芋生悠
でもそれが井上監督っぽいよね。「こっちが…いい?」とか。
-そういった井上監督の接し方を実際に体験されて、若き日の井上を演じるわけですが、参考になったり、役立てたことはありますか?
杉田雷麟
見たままというか、台本に書いてある若い時の井上監督と今の井上監督はあまり変わっていないんです…もちろんいい意味でですけど。
変わっていない感じですごくいい人だし、こちらを信頼してくれていることがわかる気がします。でも大事なところはきちんと言うし、そこは監督としてしっかりとした方だなと思います。
▼出演決定時の感想
-今回は主演ですし、本作の出演が決まったときの感想はいかがですか?
杉田雷麟
プレッシャーはありました。ご本人が目の前にいますし、ご本人が監督というのが一番のプレッシャーでした。「そうか…、本人、監督か…」と思いながら、監督の役を目の前でやるっていうのは、やはりプレッシャーでした。
先ほどもお話ししましたが『福田村事件』の現場を経験して信頼ができていたと思いますし、すごく任せてくれるので、僕もそんなに堅苦しくなく、気軽に演じられました。
-芋生さんの方は出演が決まった時はいかがでしたか?
芋生悠
まず、キャストのみなさんが一度は共演してみたかった人たちが集まっているというのもあって、吸収できるものはいっぱい吸収して帰ろうと思いました。また、井上監督をはじめ、スタッフさんたちみんなが“巨匠!” という現場で、照明や録音の準備がスムーズで待たされる時間もなく、チームが本当に素晴らしくて、そこに入れることにまずわくわくしていました。
-役者的な技術だけじゃなくて、映画制作者のすごさも含めて吸収できたり体験できたりする場だったのではないかと思いました。
芋生悠
本当にそうですね。
▼脚本を最初に読んだ時の感想は?(杉田雷麟)
- 脚本を最初に読んだときの感想はいかがでしたか?
杉田雷麟
まず、(映画界の)人の名前がたくさん出てくるなと最初に思いました。所々で「(こんなこと言って)大丈夫なのかな…悪口なんじゃないのかな…」思うところがありました。そこで、脚本の中に出てくる人たちの名前とどういった人たちなのかを調べました。
そこからも監督の性格というものがいろいろと読み取れたなと最初は思いました。
純粋に面白そうだなというのももちろんありました。
追々ですが一番プレッシャーだったのが後半金本さんに、「人は誰でも一度は傑作を書ける。それは自分自身を書くことだ」っていうセリフを言うんですけど、「これ、自分自身を書いてるじゃん、井上さん」と思いました。
芋生悠
傑作にできるのか…って?
杉田雷麟
「傑作じゃなかったら…これ…」と思って、プレッシャーが僕にもあったし、多分、井上監督にもあったと思います。そこを自分で言わせている点も含め、いろいろと見て、面白そうだなと思いました。
▼脚本を最初に読んだ時の感想は?(芋生悠)
-芋生さんからさきほどお話がありましたが、脚本が稿を重ねるごとによくなっていったとのこと。どのように良くなっていったのでしょうか?
芋生悠
井上監督の中で気持ちが変わっていくというか、感情移入するポイントがいろいろと変わっていったんだろうなと思いました。
井上監督は、「木全さんを主人公にするには葛藤がない」といったことを話されていました。
杉田雷麟
「木全さんには人とのぶつかり合いがなさすぎる。木全さんはいい人だから、人に怒られても…」と。
芋生悠
「木全さんは怒ったりもしない人だから、脚本が書けない」といったことを井上監督はおっしゃっていました。でも、私としては「そんなことないんじゃない?」と思っていました。多分、仲が良すぎてそうなっているのかもしれないけど。「木全さんにも葛藤はあるよ」と私は思っていました。
(宣伝:須藤さん)
それは東出さんも同じことを言っていました。
芋生悠
やっぱりそうですよね?
東出さんは木全さん役をやっているし、私は木全さんの近くにいる役だったからわかるんですけど。木全さんは結構葛藤しているんですよ。表面にあまり出さないだけで。
杉田雷麟
確かに全然ださないね。
芋生悠
そう、絶対に出さないから。
でも葛藤しているけどなって思っていました。二人は仲良しすぎなんですよね(笑)
-木全さんはそういった姿を隠しているのでしょうか?
芋生悠
多分そうだと思います。淡々と飄々と自由な木全さんだけど、本来は葛藤も絶対ありますよ。
杉田雷麟
木全さんは木全さんで、自分でも気づいていなさそうですけどね。
芋生悠
本当に映画館を守るということには、きっと人一倍アツいものがあると思う。
▼完成した作品を観ての感想(杉田雷麟)
-では完成した作品を観ての感想はいかがでしょうか?
杉田雷麟
ラスト近くの若松監督と木全さんのシーンで、東出さんが顔は笑っていて優しい一面を見せながらもアツい部分がある会話のシーンがすごくよくて、僕は撮影時にその現場にいなかったから知らなかったんですけど。
芋生悠
若松さんに詰め寄るところ?
杉田雷麟
そう、「ピンクじゃなくて、(他の映画も)掛けさせてくれ」っていうそこがすごく良くて、そこが一番印象に残っていて、東出さんの芝居もすごいし、ちゃんと木全さんの特徴を捉えながらもこんなに熱く行けるんだって思いました。いや、もうそこが素晴らしかったなっていう感想です。
自分のところだと、井浦さんが演じる若松監督にやられているところは、自分でも面白かったです。
-あれが観たくて何度も観てしまうんですよね。
杉田雷麟・芋生悠
ありがたいです。
▼完成した作品を観ての感想(芋生悠)
-芋生さんの感想はいかがでしたか?
芋生悠
私は試写で観た時に声を出して笑いました。「本当に面白いなこの映画」って(笑)
こんなに笑える映画というのが嬉しくて、映画を観た後に、ズーン…となって帰ることが多いので、映画を観て腹を抱えて笑うことがほぼ初めてで、「あぁ、このエネルギーってすごいな…」って思いました。
特に「オーライ、オーライ」って、車を誘導するシーンとかすごく好き(笑)
金本的な視点で見ているかもしれないですけど、「しめしめ…」なんていう感じでした。そこも好きだし、後半の木全さんがガッて詰め寄るところも好きだし、木全さんと井上と金本の屋上で喋るところと、そこから若松さんのところに、「行きまーす。今行きまーす」みたいなのも、「青春じゃん!」みたいな。
杉田雷麟
確かに。
芋生悠
「輝いてる!」って。純粋にいい映画だと思いました。本当に好きな映画です。
-昨年10月のテアトル新宿での若松孝二監督追悼イベント特別上映で観客のみなさんとこの映画を観た時に、複数のシーンでみなさんと一緒に笑うことを味わって、こういったことも含めて、映画館でしか味わえない体験で、映画館で観るべき映画。これが映画を映画館で観る醍醐味だと思いました。
芋生悠
本当にそうですね。みんなで笑って。
あと、「なんでここで笑ってんだろう?」っていう疑問とそれを帰って調べてみるのもまた映画の醍醐味ですね。
後で検索して、「あぁ、なるほどな~」とか。
杉田雷麟
確かに。
-今回の映画だと、年齢的に20代とかそれより若い人はわからないところもありますからね。
お歳を召した方々が笑っている理由がわかるし、聞いたり調べたりすることで世代間の会話も生まれますしね。
▼タイトルについて
-タイトルについて質問します。出演のお声がけをいただいたときには、映画のタイトルの“青春ジャック”という名前はすでについていたのでしょうか?
芋生悠
最初は、『止められるか、俺たちを2』じゃなくて、“青春ジャック”だけだったと思います。
(宣伝:須藤さん)
最初の企画からの話をすると、仮に『止められるか、木全を』から始まっているんです(笑)
杉田雷麟
それって、本当の最初の話しですね。
“そこから脚本を書いてみたら意外と面白くて…”っていう話しですよね。面白いんですけどね。
芋生悠
『止められるか、木全を』って、いいんだけどなぁ(笑)
(宣伝:須藤さん)
それで、“『スコーレ誕生物語』にしよう”ってなって、
“青春ジャック”は、若松監督の作品のタイトル『性賊/セックスジャック』をもじって…というのも耳にしました。
(宣伝:細谷さん)
もともと、『止められるか、俺たちを』が、『青春ジャック』というタイトルだったらしいんですよね。
(宣伝:須藤さん)
『止められるか、俺たちを』の1作目の時が、なかなかタイトルが決まらなかったって聞いています。
芋生悠
でも、今回の映画の方が、確実に“青春ジャック”ですよね。ジャックされちゃっているから。
-今の芋生さんの言葉の部分が聞きたかったんですよね。このタイトルの特に、“ジャック”の部分をみて、どう思ったのか。
“ジャック”というと、“ハイジャック”や“バスジャック”のように、“乗っ取り”の意味として知られていると思ったんです。また、捉え方によってはいろいろな意味に捉えられるのではないかと。
芋生悠
自分がジャックする方だったり。
杉田雷麟
僕(が演じた井上)は、監督をジャックされていましたからね。“監督ジャック”でした。
-“ジャックナイフ”のように飛び出すような意味では、飛び蹴りのようなシーンもあったり。いろいろな意味にとらえられて面白いなと。
芋生悠
いいタイトルですよね。
(宣伝:須藤さん)
お互いにね。ジャックしあって。
芋生悠
井上監督曰く、この映画を観た人たちが自分の青春時代を語っているらしいんです。
みんなの心を乗っ取るような、“青春をジャックする”意味にもとれる気がします。
杉田雷麟
パンフレットを頼んだら、お願いもしていないのに、青春話が送られてきたりするんです。
芋生悠
語りたくなるんでしょうね。
杉田雷麟
映画を観て語りたくなるといったことは嬉しいですね。
-本当にいいタイトルですね。
▼若き日の井上を演じるにあたって交わした井上監督との会話
-杉田さんは『福田村事件』の撮影中に、井上監督と宿泊先のお部屋が近かったという話がありましたが、当時お二人で会話されたことなど聞かせてください。
杉田雷麟
『福田村事件』のラストシーンを撮る時に、井上さんから差込の台本をいただいたんです。「これいいな」って思ったんですけど、森監督と井上さんが話し合ったら元に戻ってしまったんです。
そのときに井上さんと喋って、「差し込みの台本部分は、ぜひやりたい」って言ったんです。「じゃあ、このセリフだけは言うか」となって、僕が森監督に、「このセリフだけは言いたい」って言ったら、「じゃぁ、それは言ってくれ」と言われたんです。
その時が井上さんと一番喋った時で、その時に信頼関係がうまれ、こういう台本を書く方なんだと思いました。
僕から聞いたことが無いのですが、井上監督が僕のことをどう思っているのかちょっと聞いてみたいです。
そこで僕は台本についてすごく話し合いをしたので、次の現場もこういう形ならすごくよくなると思いましたし、実際に素晴らしい現場でした。井上監督と話したのはその時くらいでしたね。
▼芋生さんが演じる金本法子とは
-芋生さんの役は、フィクションという形でその存在に関してはチラッと井上監督が先行上映の舞台挨拶でお話しされていましたが。
芋生悠
今回の映画のお話の10年後くらいに、モデルというわけではないのですが在日の方がスコーレにバイトに入っていたという。
-そういった話が背景にあるんですね。そういった背景をもとに演じるにあたって考えたことや、監督に聞いたことはありましたか?
芋生悠
台本を読んだときに、金本に自分が共感していて、質問して相談をするというよりは、「もう早く金本をやりたい」って言う気持ちで、事前に井上監督に聞くことはありませんでした。
だから、やっているうちに、「体がついてこないぞ」とかはありましたが、頭で考えるよりは、井上少年を見てイラッとするとか、感じる部分を大事にして演じていました。
-なにか心掛けたことはありましたか。
芋生悠
金本は、自分にとことん自信がないというか…。でもそれを人には悟られないように立っている感じがあるので、基本的に強くあろうとしていました。
焼肉屋のシーンで、若松さんに対しても弱さを見せないというか。「映画は人を描け・撮れ」といったことを言われたことに対して、「そっか…」って受け入れるというよりは、「いや、自分は精一杯やっているけど、人のその内面を映画化するのが難しいんだけどな」とか、人に対して突っかかる感じを大事にしていました。
▼撮影時のエピソード
-撮影時のエピソードを聞いてみたいと思います。撮影時に現場で井浦新さんが写真を撮っていたといった話がありましたが、井浦さんが撮影していることには気づいていたんですか。
芋生悠
普通に気づいていました。目が合っているし(笑)
杉田雷麟
気づいているときもあれば、スチールさんみたいに気づかないように芝居中にも撮ってくれているときもありました。
芋生悠
屋上のシーンでは、最初は気づかなかったです。
杉田雷麟
僕も屋上では全然気づいていませんでした。
-カメラはどんなもので撮っていたんですか。
杉田雷麟
スマホではない、カメラ専用機で撮っていらっしゃいました。すごくいいカメラで撮っていました。
(参考:井浦さんが現場で使用していたカメラ ライカM10-R)
芋生悠
2台のカメラを使い分けていたかもしれません。
(宣伝:須藤さん)
ポーズもとらされていましたよね。
杉田雷麟
そうですね。シネマスコーレの前で撮った写真は、“「ポーズとって」とか、「その壁に寄りかかって」”とか、何かの雑誌に多分使われていると思います。
-照明部さんの話などもパンフレットには書いてありましたが、指示がなくても、スタッフの皆さんが自発的に動くようなそんな現場だったのでしょうか。
芋生悠
最初に、川でゾンビのメイクをした先輩と話しているところでは、カメラマンの蔦井さんが自由に動いていて、私達も自由に動くし、みんなも自由に動くし、映り込んじゃうから「みんな、どいて~!」って。どこがカメラから抜かれるかわからない状況でした。
杉田雷麟
屋上のシーンもね、照明に関しては監督も驚いていました。
芋生悠
気づいたら照明が立っていてね。
-監督の想像を超えるような、自主的な動きもあったんですね。
芋生悠
自主的に井上さんに、「こんなのどうですか?」みたいにみんなで意見を出し合っていたんだと思います。
杉田雷麟
お昼の屋上のシーンで芋生さんが動くシーンがあるんですけど。
芋生悠
あのシーンでうまく体が動かなくて、東出さんにそれを相談したら、「いいことを聞いてくれたね~」みたいな反応で、「ちょっと話せば長くなるんだけど、セリフが入っているのはもう当たり前で、感情を作ってやるのもいいんだけど、1回全部忘れて、この場所でもうただ自由に動きながら喋ってみて」って言われたんです。
そこで次のリハのときにガーッて、もう自由に動いてみたんです。セリフとか感情とか、一旦忘れて、自由に動いたらそこに鉄骨があって、それを握ったときに錆が手に付いてそれを払いながら喋る…というのを自然にやっていたんですけど、それが映像に映ったらすごく良かったんです。
東出さんも、「いや、こっちの方が全然いいよ!」って言ってくださって、その時も、蔦井さんが屋上のさらに高い上の方から、私達が自由に動く姿をおさめてくれているんです。
杉田雷麟
それをきちんと全部撮れているのがすごいと思いました。
照明の方もお昼にそれを見ているから、何も言われてないし誰も言っていないのに、“もしかしたらまた自由に動く可能性もあるから…”と、自主的に準備をしていて、プロだなと思いました。本当に素晴らしい方たちです。
芋生悠
「もっと決まった立ち位置に来て」って言ったとしても全然いいじゃないですか。それがそうじゃなくて、自分たちができることをやって、待ち構えてくれているっていうのがかっこよすぎて。
杉田雷麟
どこに来ても受け止めてくれるような現場でした。
-絶大な信頼感がありますね。
(宣伝:須藤さん)
特にあの2人はね、蔦井孝洋(撮影)・石田健司(照明)は。そういうタイプの撮影スタイルだから。石田さんもね。
芋生悠
いつもニコニコされていますものね。
(宣伝:須藤さん)
「この映画でこんなに自由にやれるなんて!」って思いながら。
杉田雷麟
僕らが自由だったら…
芋生悠
困らせていないかなと思っていたんですけど、すごいニコニコされていて。
(宣伝:須藤さん)
私は二人とも昔お仕事をしたことあるので、「厳しいスタッフがメインにいる!」と思って、最初、現場行ったときに、「昔、現場でぶつかり合った石田さんがいる!」って(笑)
芋生悠
そうなんだ。
(宣伝:須藤さん)
蔦井さんは、市川準組で、故・小林達比古撮影監督の下で撮影をスタートしているので、「え!?すごい人たちがいる!」と思って。
杉田雷麟
照明さんとかカメラの方は、「バミリを気にしなくていい」なんて言わないですよね。普通は言わない。だって全部ずれるし、場所もずれるから。そんなことありえないんですけど。
「え!?バミリ気にしなくていいの?」って思いました。
“いいの、いいの。ここは気にしなくていいから”って言うんです。
(宣伝:須藤さん)
でも、言うことは言うというか、監督には結構意見を言っていましたし、編集の時も言ってましたし、あらゆるところで意見して、蔦井さんはマスコミ試写にも必ず来るんです。
杉田雷麟
そうなんだ。
(宣伝:須藤さん)
だから、「はい、蔦井さんも宣伝部ね!」って。
宣伝隊長は監督。蔦井さんは「はい!非正規見習い宣伝部頑張ります」と(笑)
でもそれぐらい楽しかったんだと思う。
芋生悠
嬉しいですね。本当にみんなが楽しそうなのが伝わってきました。
-いろんな部分で心強いですね。
芋生悠
映像も全部かっこよかったですもんね。
▼お互いの印象
-共演されたお二人のお互いの印象について聞いてみたいと思います。
芋生悠
印象って言ったことないよね?今まで聞かれたことないよね。
杉田雷麟
言ったことなかったでしたっけ?そうか聞かれたことないか…確かに。
聞かれたことはないけど、僕自身はちょっと…こ…怖い…なぁ。
焼肉のシーンとかで井上役の僕が余計な一言を言うじゃないですか。「殺したい人がいっぱいいるんですか?」とか、「自主映画ってマスターベーションっていうか…」とか。そんな僕が余計なことを言っているときの芋生さん(金本)の顔が怖くて。
芋生悠
殺しそうな眼をしてたよね?
杉田雷麟
そう。僕が殺されそうな。「 殺したい奴もお前だよ」みたいな。
でも現場ではお互いのそういう関係が、屋上のシーンでもぶつかり合う時にちょうどよくて。
だから相談もあまりすることなく、こうやって終わった後に取材していただくときに話すことが多くなって、「あぁ、怖い人ではないんだな。普通に話す人なんだな」って。
芋生悠
そう思われているとは知らなかった(笑)
杉田雷麟
「すごい怖~い。これ、芝居だから」と思っていました。
ことあるごとになんか睨まれていて。
芋生悠
役だからね(笑)
杉田雷麟
「あれ?なんか怖いな…」と思って。
-その感覚が現場で良い方向に作用していた訳ですよね。
芋生悠
現場でも全然喋ってなかったもんね。
杉田雷麟
そうですね。やっぱりピリついてるシーンが多いですから。
芋生悠
お互いにね、東出さんを間に入れて話していたよね。
杉田雷麟
そうそう。ふたりの間に東出さんを挟んでね。
ー話し合わないことならではの壁が、うまい具合にお二人に作用していたようですね。
芋生さんからみた杉田雷麟さんの印象はいかがですか?
芋生悠
杉田雷麟くんは… そうだなぁ。
根がまっすぐなんですよね。
まっすぐだし輝いているなって思ってたし、現場でも本当にみんなに愛されていたし、井浦さんには若松さんと井上さんの関係みたいな感じで本当にかわいがられている感じでした。
でも撮影中は「負けられないな」っていう思いがすごく強かったです。
それは、井浦さんから、「2人にかかっているからね」って言われていたのもあるし。
杉田雷麟
お互いに言われていたんですね。
芋生悠
それもあって、「負けたくない~!」という感じでした。
最近仲良くなったよね?
杉田雷麟
最近話すようになりました。
-こういうキャストインタビューって面白くて、撮影現場でお互いが喋っていない場合に、当時のことを振り返っていただけて、「実はこうでした」みたいな話が非常に盛り上がるんです。これがまた舞台挨拶の話題に繋がっていったり。
芋生悠
映画の公開までに、やっと仲良くなれそう。
▼映画のキャンペーンの遠征時の話
(宣伝:須藤さん)
仲良くなれてよかった!この前もキャンペーンに行ったんですよね。
芋生悠
そうそう、井上監督と一緒に3人で大阪に行ってきたんです。
新幹線で横並びで3人でギュウギュウになって。
他の席、たくさん空いているのに(笑)
(宣伝:須藤さん)
気が利く若松プロが3人横並びで座席を取っていて、チケットを渡された監督が、「え!?俺、真ん中か~なんでだよ~」って言うから、「監督が真ん中よりも雷麟くんが真ん中の方がしっくりくるんじゃない?」って言ったの。
芋生悠
でも井上監督、めっちゃノリノリでずっと喋ってましたよ。
(宣伝:須藤さん)
キャンペーンって取材スケジュールがずっとすごいから。私からは「とにかく寝て休んで行ってください!」って。
芋生悠
そうそう、須藤さんから連絡が来ているのをみました。
でも私は井上監督と話が盛り上がっていたんです。
杉田雷麟
僕は隣で遠慮なく寝ていたんですけど。
(宣伝:須藤さん)
井上監督って気を遣って喋っちゃうんですよね。
杉田雷麟・芋生悠
確かにそうですね。
杉田雷麟
“気を遣わないで寝てね”って、何回言われたかわかんないですもん。それをすごく言われていたと思います。
芋生悠
逆に起こされちゃっていたよね。
▼メッセージ
-では締めに、映画を観にいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。
芋生悠
映画愛に溢れた映画ですし、今、閉館するミニシアターがかなり多くなっている中で、本当にミニシアターを続けようとしている熱い人たちがいるということを知ることができます。
映画館で見てこその映画って、やっぱりいいなって思いますし、見た後にその劇場にいる自分と、その映画の中の人たちがシンクロする間隔もすごいなと思っていて、それを体感してもらえると思います。
映画っていいなって思って帰ってもらえればいいと思いますし、映画にそんなに詳しくない人でも、自分の青春時代を思い出したり、もう1回何かを頑張ってみようかなという勇気をもらえたり、単純に笑える映画だというのも、自分の中ではひとつのポイントだと思っています。
映画館で声を出して笑ってもらいに来てほしいです。最後に解放されて、何かちょっと頑張ってみようって何か背中を押せる映画になったらいいなと思っています。
杉田雷麟
青春時代を思い出して何かインタビューを送ってきたみたいな話がさきほどあったんですけど、でもいろいろ思い出してそれを見て思い出したりすることもあるでしょうし、年齢関係なく青春…これから青春だなって思うことっていっぱいあるでしょうし、何か頑張ってみようかなって思うこともできると思います。
「止められるか、俺たちを」“2”って書いてありますけど、“1”を観ていなくても楽しめる映画だと思うので、気にせずに観に来てほしいし、ミニシアターで観たらすごくその映画館、特にミニシアターのことを調べたくなると思います。
観終わった後に本当に元気をもらえる映画だと思うので、ぜひ多くの人に観に来てほしいです。
力田都麦(THE FACE MAKE OFFICE)=ヘアメイク
que(杉田雷麟)=衣装
青木沙織里(杉田雷麟)=スタイリスト
(取材・写真:ichigen kaneda )
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■ 映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』
▼予告編
今回解禁の予告編では、若松プロに弟子入りしながらも苦悶する若き日の井上監督自身(杉田雷麟)と、それに対峙する劇場アルバイト(芋生悠)。そんな若者たちの葛藤とともに、若松監督(井浦新)と木全支配人(東出昌大)ら、「映画をつくること」「映画を届けること」の難しさに打ちのめされながらも、映画をあきらめない大人たちの姿が映し出されている。今より人と人の距離が近かった時代。失敗が許され、何度でもやり直せた時代。この映画はそんな時代をノスタルジーに溺れることなく、現代にも通じる普遍の物語として描き出した。
音楽は「黒猫チェルシー」解散後、多岐にわたって活躍するミュージシャン宮田岳が映画音楽に本格的に挑戦。新生・中野ミホが歌う、宮田が本映画のために書き下ろした主題歌からは、時代を超えた切なさと希望が伝わってくる。
▼井上淳一監督コメント
井上淳一監督
コロナ禍で危機が叫ばれたミニシアター。どうにか入る映画を作って、ミニシアターを応援したいとずっと願ってきた。そう願って作った映画が図らずも師・若松孝二がミニシアターを作る話になろうとは。残念ながら、我々が作る規模の映画は、届く人にしか届かないのではなく、届く人にも届かない。
こういう映画があるということすら知られることなく、ひっそりと消えていく運命にある。せめて映画の顔である予告編だけでも面白いものを作りたいと四苦八苦した。出来上がったものが、果たして映画の魅力を伝えているか、確信はない。しかし、公開まで 3 ヶ月弱。これが我々の顔になる。本編を観てもらう前にまずは予告編を観てもらいたい。ミニシアターを応援するために作った映画が入らずに、ミニシアターの足を引っ張ったのではシャレにならない。ミニシアターの危機は未だに続いている。それを伝えたい。伝えて欲しい。この映画に限らず、ミニシアターに足を運んで下さい。
■ 『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』
井浦 新 東出昌大 芋生 悠 杉田雷麟
コムアイ 田中俊介 向里祐香 成田 浬 吉岡睦雄
大西信満 タモト清嵐 山崎竜太郎 田中偉登 髙橋雄祐 碧木愛莉 笹岡ひなり
有森也実 田中要次 田口トモロヲ 門脇 麦 田中麗奈 竹中直人
脚本・監督:井上淳一
企画:木全純治 尾崎宗子 井上淳一 プロデューサー:片嶋一貴 木全純治
音楽:宮田岳 撮影:蔦井孝洋 照明:石田健司 録音:臼井勝 音響効果:勝亦さくら
美術:原田恭明 装飾:寺尾淳 衣装:橋爪里佳 鈴木沙季 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 助監督:小原直樹 製作担当:伊藤成人 演出応援:村谷嘉則
公式サイト http://www.wakamatsukoji.org/seishunjack/
2024 年 3 月 15 日(金)テアトル新宿、アップリンク吉祥寺、シネマスコーレ
シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開!