10月4日(水)、シモキタ-エキマエーシネマ『K2』で、福嶋賢治監督作の映画『フライガール』の上映後トークイベントが開催。ゲストに足立紳監督を迎え、福嶋監督と本作に関してのトークを展開した。また、本作はリピーター続出と口コミが広がり、上映期間が、10月19日(木)まで延長されている。
■ 映画『フライガール』福嶋賢治監督 x 足立紳監督トークイベント
足立監督と福嶋監督の関係は、足立監督の作品『喜劇 愛妻物語』で、福嶋監督が助監督として参加したことだという。今回、二人はその撮影以来の再会。
▼両監督の再会と、足立監督の感想
福嶋賢治監督
(足立監督は)『喜劇 愛妻物語』のときも優しい雰囲気でした。僕が助監督として参加したときも、すごく救われた部分もあって、ぜひ登壇いただきたいと思って、登壇していただいたという流れです。コメントもありがとうございます。
足立紳監督
(僕はこの映画を)観るのは2回目です。ただ最初に観てからずいぶんと時間が空いていて、初めてスクリーンで観たので、すごく新鮮な気持ちで観ました。
いや、面白い映画だと思いますよ。
▼本トークが本作の理解・会社の後押しになれば
福嶋賢治監督
この時間・トークで、映画を観ていただいた方が、作品の理解というか、解釈といいますか、そういうものに対する後押しになればいいかなと思っています。
足立紳監督
(僕は)解釈とか、すごく苦手なタイプだから、まず単純に観て面白い映画だと思います。
ロードムービー好きっていうのもあるけど、こういうかわいいさ、ロードムービーというか…
あの面白いキャラクターの2人がテレテレと延々歩いて、いろんな人と出会っていって、次はどんな人が出てくるんだろうなとか思いました。
この2人の喋りを聞いてるだけで、まず飽きないからね。そういう単純な面白さっていうのが一番映画を観る上で大事だと思うんだけど、そこが非常に面白くて飽きないというか。
この2人…4人って言ってもいいのかもしれないけど、人間たちを見ているのがとても楽しいです。そういう言葉が適切かどうかわかんないですけど、俺は楽しかったです。
福嶋賢治監督
ありがとうございます。
足立紳監督
解釈と言うか、『フライガール』っていう(タイトルなんだけど)。「あぁ、そっかあ」と思いました。初めてタイトルを聞いたときから、「『フライガール』って、どんな映画を作ったんだろうな…」っていうふうに思っていました。
やたら飛行機推しでくるじゃないですか。それで最後に瑠⾐が「飛行機っていいよね」みたいな話をするんだけど、あれって何なんだろう…。
ある意味この映画って、このヒロインというか、主人公の女の子が、「この子は何を考えて生きてんだろうな…」っていうのを見つめているような映画でもあるんだと思うんです。
これは質問になるんだけど、飛行機との結びつきみたいなものは、どういうものなんでしょう?
▼『フライガール』と飛行機
福嶋賢治監督
今回、作品で何か捉えようと思ったことの一つに、“人と人は違う”っていうことが前提としてあるんです。それをもう少し僕なりに掘り下げてみたいという思いがあって、(主人公の)出身国は明らかにしてないんですけど、外国から日本にやってきて、日本に来た途端に、ちょっと嫌なことを言われるという、飛行機に乗ってやってきただけで、気持ちの良くないことが起きる。
(主人公が)後半で言っている、「飛行機って、いいよね、行くだけで別になにも言われないっていうか、鳥みたいに移動するだけ」というのがあります。
それってすごく、世界を股にかけるというか、「その世界って区切りなく、行き来している。そういうのっていいよね」っていう憧れみたいなものがあって、それと序盤に出てきた鳥のカットもそうだったりするんですけど、飛んでるもの、それに対する憧れ、でも、なかなか簡単にはできないっていう、ジレンマを終始、飛行機を飛ばせるとか、ショットとして入れています。
何回も出てくることで、「もしかしたらこれって、こっちが見てるだけじゃなくって、飛行機が見守ってくれている感覚にならないかな」っていうのは、期待として込めて、ずっと出している思いがありました。
足立紳監督
飛行機が見守っているというか、そういう感じにはなるかもね。
音もね、結構入ってくるからね。
福嶋賢治監督
画と音で何か表現したいなっていう思いがありました。
▼あの子は元々ああいう子?
足立紳監督
あの子はきっといろいろあったんだろうなというふうに思って、それ(嫌なこと)があった上で、ああいう感じになっているのか、それとも元々ああいう子なのかっていうのはちょっと気になったけどね。
福嶋賢治監督
そうですね。元々なのか、その出来事があったからなのかみたいなことは、本編中ではあまり言及してないんですけど、そこははっきりとですね、どっちでもよくて、どっちでもいいので描かなかったっていう頃ところがありました。
出来事があろうがなかろうが、そういう人物であることには間違いないから、冒頭のシーンのように、彼女が嫌なことを言われたところだけ描いたんですけど、当然その前後の歴史もあるわけで、彼女の人格形成に影響を与えてるのは間違いないんです。
だけれど、そこはもう、想像におまかせってわけじゃないんですけど、多分、皆さん知ってることだと思うんですよね。今の自分は前後の歴史があって出来上がったもので、全部を描くことって無理だから、それはもう開き直ってワンシーンだけ、シンボリックなところだけやろうっていう、開き直りみたいなものがありました。
足立紳監督
確かに描いたところでおそらくそんなにね、想像を絶するようなことではないとは思うので。あの女の子はまたそれでラストの方に、「考えていく…」みたいなことを言うじゃない。
福嶋賢治監督
「死ぬまで考えます」みたいなことをね。
足立紳監督
それは何だろう…。
この映画を見て、少し身に染みたというか、「考えなきゃいけないよね」っていうふうに思いましたよ。だからそれはやっぱり映画が成功してるっていうことじゃないかなと思うんですよね。
▼本作制作のきっかけ
足立紳監督
何だろうね。福嶋さんが映画を撮ったって聞いてどんな映画撮ったんだろうなと思いました。こういうテーマは、あたためていたの?
福嶋賢治監督
いや、全くなくて、今回、一応きっかけがあって、撮るっていう気持ちになって動き出したんですけど、そこから書き始めたんです。
もちろん、監督を目指して助監督やっているので、以前からいろんな企画は作ってはいたんですけど、今回やるって決めたときに、何となく撮るものじゃないなっていうものがありました。ある程度覚悟を持って臨んで、それにあたって、商業(映画)ではないですけど、長編でやるっていう 1本目っていうこともあって、自分を全部、注ぎたいというか、どんな映画を撮りたいんだろうっていうことを改めて考えたんです。
僕自身、この映画を通じて、自分がどういう人物かっていうことを知りたい。完成させるまでじゃなくって完成した後、いろんな方の話聞いて、自分はどんなやつで、どんな映画が好きで、どんな映画がやりたいんだっていうことを見つめるために作ったようなとこがありました。
だからちょうど2年半か3年ぐらい前ですかね、動き出したのは。そういう、旅みたいな映画をやりたいなっていう気持ちで臨みました。
▼登場人物全員に僕の要素がある
足立紳監督
「俺ってこういうやつなんだ」みたいなものは、見えたりしたの?
福嶋賢治監督
そうですね。何を撮りたいかってときに、自分を見つめていって、何に普段憤りを感じて、嬉しくて、心が揺れるのかみたいなものも、このシナリオと映画を通じて、見えたこともあります。
結構付き合いが長い方でも、この映画を観て、僕のことがわかったっていうか、「そういうことを考えているんだよね」みたいな、客観的な眼差しからの、僕の人間像みたいなものが浮き上がってきたっていうのもあって、やりたかったことが少しずつできてるかなっていう気はしています。
足立紳監督
俺は会うのも4年ぶりだしね。
映画を一緒に作ると、どういうやつなのかなっていうのはみえたりはするんじゃない?どういうやつなのかなって。きっと優しいやつなんだろうなというふうには思っていて、ただ、優しさみたいなものを何かで覆い隠してるような感じはあって、だから一緒に旅することになる小説家志望の男の子・浩司みたいな。彼もね、ちょっと福嶋さんの匂いを感じるんだよね。
福嶋賢治監督
きっと登場人物全員にですね。僕の要素があって、いわゆる登場人物1人1人の個性みたいなことを綿密に考えたっていうよりかは、僕の考え・頭の中にある、僕自身の分身みたいなものがいっぱいあるみたいな。
あれだけ要素があるんだなっていう。あの人たちを全部合体すると僕みたいな感覚があって、おっしゃる通りその浩司の要素だったら、たまに雑なことを言ったり、全部ひっくるめてあれは僕なのかな。この作品の登場人物は、全部僕のような気がしています。
足立紳監督
そうだよね。だから登場人物1人1人に、ちょっと変なんだけど、地に足がついてる感があってそこは素晴らしいところだと思うんだよね。
福嶋賢治監督
ありがとうございます。
足立紳監督
浩司もね言いたい放題なんだけど、あいつって思ったことを全部口に出しているからね。
福嶋賢治監督
「ちょっと我慢せい!」って話ですよね。
足立紳監督
ただ、やっぱり見ながら、「こいつみたいに生きてみたい」っていうふうにも思ったりはするんだよね。主人公のあの女の子は、浩司を受け止めてるっていう言い方がいいのかどうかはわかんないけど。浩司って、ある人によっては、「もうこいつと一緒にいたくない」ぐらいに思わせるようなキャラクターだと思うけど、あの子は大丈夫というかなんかわかんないけど、一緒に過ごせるんだろうなっていう、その感じがね。すごく心地いいしね。だからやっぱりいい映画なんだなって思います。
福嶋賢治監督
ありがとうございます。
実は今、足立さんの指摘の浩司も、僕っぽいっていうのも、 実は書いてるときはそんな自覚がなかったんです。完成して、多くの人に見ていただく中で、話を聞いて、そういうふうに見えると。
「なるほど確かにそうだな」っていう気づきがありました。
▼作品作りの裏話
足立紳監督
あの電話の声はさ、自分でしょ?あいつも相当変じゃない?
「おまえ、その喋り方!」っていうかさ。妙におかしいけどね。
福嶋賢治監督
嫌な連呼。「うん、うん、うん、うん、うん」ていう。
うなずきの「うん」っていう、受け入れるような言葉を連呼しまくると、逆の印象になるっていうおかしさに途中で気づいて、やってやろうと思ったんです。「なんか、いやなやつだな」って。浩司はそんなことを言われても、ヘコヘコしてるみたいな構図は、結構いいなっていう。
足立紳監督
だからワンシーンしか出てこないような、例えばサンドイッチ屋のお姉さんとかさ、揚げ物屋のおじさんも、みんなね。電話の声にせよ、隅々までちゃんと命が吹き込まれてるなというふうに思いましたよ。
これって何なんだろうな…。 あえてそうやってるというより、それは自然にそうなってるんだなというふうに思うんだよね。
出てくる登場人物というか、ちゃんとあの人間として出てきているっていうのは、意識せずにやってんだろうなと思って、そこもすごくいいとこだなと思ったけどね。
福嶋賢治監督
(僕は)いわゆる監督論・映画論みたいなものが全く確立されていないですし、人に脚本を書くか、そういうこともできないんですけど、やっぱ無意識の中で自分の分身なので、脚本にしても、現場でも、そんなに苦が無くやれたというか、わかってないんすよね。自分自身がそういう意識でやってるっていうのを。
だから、それが何か命があるというか、そういうふうに言われると、感無量ですね。なんか嬉しいです。
▼計算している?していない?
足立紳監督
でも監督論とかって別に俺もよくわかんないけど、でもなんか「俺はこう撮る」っていうのは見えるけど。だって、相当ね、やっぱりいろいろ計算されて撮っているじゃない、この映画って。
福嶋賢治監督
それが計算でもなくて。
計算ではないけど、正面から撮りたい、後ろから撮りたいっていう、曖昧なイメージしかなかったんですね。
足立紳監督
そうなんだ。
福嶋賢治監督
やっぱり撮影中は、もうちょっとカットを撮っていますし、編集中である程度、10回、20回と言うラッシュの中で見えてきたものもあって、そのときに撮れているものの中で、なるべく撮ろうと思った中で編集したっていうところで、現場は結構バタバタしていたので。1個1個、丁寧なカット割りというよりかは…。
もちろん必要な部分は撮って、でももうちょっと欲しいみたいな、そのエキストラカットっていうのがあって、頭の中でカット割りを組み立てているってよりかは、ワンカットだけでいく。2カットでいく、3カットだけで行く…とか、そういうある程度のバリエーションを撮ってたっていう意識はあります。
▼こういうリズムでいく!
足立紳監督
こういうリズムでいくっていうのは台本書いてるときからそれはあったんですね。
福嶋賢治監督
そうですね。 ゆったりとした空気流れ、スピード感でいきたいってのは当初からあったので、ありました。
足立紳監督
いろんな監督がね、自分のリズムみたいなもの持ってるけど、こういう感じっていうのもちょっと意外だったね。なんか俺は。
福嶋賢治監督
編集していて、ちょっと速くしてみようかなみたいなこともあったんですけど、どうもしっくりこないというか、ちょっと速くするだけで、どうかな…っていうのがあって、やっぱこのリズムが好きなんだなと、そういうふうにとってたし…。っていうのはなんか再認識した上でこのリズムにしたっていうのは大きかったかなと思います。
▼食べ物と、画と音と
足立紳監督
あとさやっぱあの食いもんがね、すごく印象的な映画で、見てて腹も減るしね。そこもすごいいいなと思ったんだよね。
映画の中にいっぱい食べ物が出てくるのは俺は結構好きなので、グルメ映画の一面もあるんじゃないかと思いながら見てたけどね。
福嶋賢治監督
とはいえ、食べ物の寄りがないですよね。食べ物の寄 りよりかは、音でいこうっていうのは割と早い段階からあって、音は画を超えるんじゃないかっていう、ちょっとチャレンジしたいところもあって、あまり撮らなかったんですね。一方で、音に関しては割としつこく仕上げの段階で撮ってたんですね。
揚げるときの音は、サンプルとして温度160℃とか180度とか、パン粉の水分量とかも変えたり、いろんなバリエーションで撮りまくってそれを重ねたりして、あったんですけど、音の仕上げのときに、サウンドデザイナーの方に、「お客さんをこの「揚げ音」に、沈めたいんです。」っていうリクエストをしたんです。「はぁ?」みたいなな顔をされたんですけど、でもそういうのがあって、お腹が減ったりとか、揚げ物を食べたくなったりとか…。
足立紳監督
うん。そうなる。
福嶋賢治監督
嬉しいですね。
足立紳監督
いわゆる、しずる感はないよね。でもやっぱりそれが良かったんだなと思ったね。
コマーシャルじゃないわけだからね。ああいう、さも美味しそうでしょう!みたいなのって物語の中で出されるとちょっと冷めちゃうところがあるもんね。
そっか揚げる音にせよ、かじってる音とかさ、あれなんでだろうね・人が物をかじってる音って絶対美味しそうに聞こえるよ。
福嶋賢治監督
嬉しいですね。そうなんです。
■映画『フライガール』作品情報
▼あらすじ
中学生の時に日本にやってきた橘瑠衣(たちばな るい)。知り合いにふと言われた「瑠衣(るい)って日本人と違うの?」という言葉がずっと瑠衣の心にわだかまりを感じさせていた。大学生になり、友人のいづみに勧められ、揚げ物スタンプラリーに参加する瑠衣。いづみは瑠衣の心の引っかかりを取り除こうと、小説家志望でフードライターの広瀬浩司を帯同させる。人とのコミュニケーションをなるべく避けてきた瑠衣は戸惑いながらも食べ歩きの旅が始まるのだった。その道中で2人は様々な「違い」を抱えた人たちと出会っていくのだが…。
作品情報
『フライガール』
2023/日本/85min/カラー/ 5.1ch/ 16:9
出演
岡田苑子、小澤うい、伊達諒、森海斗 ほか
スタッフ
監督・脚本・編集:福嶋賢治 共同脚本:上田真之 撮影監督:田辺清人 録音:上條慎太郎
サウンドデザイン:阿尾茂毅 音楽:佐藤リオ VFX:トリじい スチール:Jey
メイク:渡辺里美 宣伝美術:東かほり 協力(劇中映画提供):共和教育映画社
配給・宣伝:夢何生 製作:cavasunfilm
2023年9月22日(金)より、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』にて公開