イタリア現地時間9月6日、国内外で評価の高まりを見せた杉田協士による待望の長編4作目『彼方のうた』が、第80回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門で公式上映された。上映後のQ&Aに監督の杉田協士、主演の小川あん、共演の中村優子、そして今回の映画祭出席をもって新たに出演情報を解禁する荒木知佳が出席した。
ヴェネチア国際映画祭は世界最古の映画祭として知られ、ベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭と並び、世界三大映画祭の一つとして知られています。本作が出品されるヴェニス・デイズ部門は、革新性や探究心、オリジナリティ、インディペンデント精神などにあふれた作品がセレクションされるコンペティション部門。杉田監督にとっては初のヴェネチア国際映画祭への正式出品となった。
■ 『彼方のうた』第80回ヴェネチア国際映画祭 ヴェニス・デイズ部門 公式上映レポート
▼タイトルに入れてきた歌”や“音”
上映後のQ&Aで、杉田監督はこれまでの作品のタイトルに「歌」や「音」ということばを入れていることに触れ「わたしも含めてここに来ているみんな、その人だけがこの世界に生きていて聴こえている歌や音があるん じゃないか、という思いがなぜか昔からあります」と述べ、「この世界に聴こえている歌や聴き取った音を”歌う”という行為で表現している人がいますが、わたしに関しては、その“歌う”という行為が、代わりに映画をつくること。私だけに聴こえているかもしれない歌を映画にしているという感覚があり、“歌”や“音”をタイトルに入れています」とコメントした。
▼主人公の春と知らない人との交流
そして、主人公の春が見知らない人たちと交流していくことについては「基本的に知らない人同士が出会うのは怖いこと、不思議なことでもある。なので、前半についてはどこかサスペンスのように描いた部分もあります。自分の大切な部分を、知らない人と共有し合うのはとても難しいことです」と続けた。
▼キャストたちへの質問
一方のキャストたちには、「さまざまな孤独を描いている作品だが、例えば血が繋がらない者同士の交流や家族観についてどう捉えているか」の質問が。
大学時代、イタリア語を学んでいた中村は「雪子を演じているあいだ、孤独をそばに置いているような感じでした」とイタリア語で冒頭挨拶。続けて「本作は孤独や寂しさを描いている作品だと感じていますが、何か分からないけれど助けてあげられるかもしれないと思うこと、それ自体が希望なのではないかと思っています」と答えた。
小川と荒木も「(演じた春という役は)中心が見えづらいキャラクターだったが、最後に春もわたし自身もそこが垣間見えたように感じた」(小川)、「わたしが思う家族は、そばにいなくても思い合える関係。ふとした時に何をしてるんだろう、元気かなとか、どこかいつも繋がっている感覚。離れていてもお互いを思いあっている関係は、血が繋がっていなくても大事だと思う」(荒木)とそれぞれの実感を述べました。
▼上映後の囲み取材
上映を終えた杉田監督と小川、中村、荒木は、日本のメディアの囲み取材にも出席。
杉田監督は、自身初となるヴェネチア映画祭への正式出品について「映画を始めた頃からヴェネチア国際映画祭で上映されるなんて思っていなかったので、毎日『ほんとかな。ありがたいことだな』とずっと思っています。映画祭には初日から参加していますが、お客さんがみんな熱心で。正直、自分の映画が上映されることがどうでも良くなるぐらい、毎日修行のように映画を観ています。多くて1日に長編映画6本。まだまだちゃんと勉強しようという気持ちにさせてくれる映画祭です」と答えた。
一方、キャストも「お客さんはみんな集中していた気がします。今日大きなスクリーンで観て、仕草や会話のリズムなど、人がとてもチャーミングに描かれている作品だと思いました」(小川)、「撮影当時に感じていた孤独な感覚と、観客の皆さんと観られる幸せな感覚がないまぜになった、ちょっと言葉にできない感覚。胸がいっぱいになりました。14年前の塚本晋也監督作『鉄男』以来、2度目のヴェネチア参加になりますが、私にとって、映画祭は特別な体験。また10年後20年後に、今日皆さんに拍手いただいた光景を思い出すんだろうなと思います」(中村)、「音がより鮮明に聞こえたり、細かい表情が見えたり、新たに気づくものがたくさんあったような気がします。心に突き刺さりました」(荒木)と興奮を抑えきれない様子だった。
▼観客と一緒に上映を観て
一般の観客と一緒にスクリーンでの上映を見届けたことについて、杉田監督は「今日ヴェネチアのスクリーンで観たら、すごく響いたんです。というのも、わたしは脚本を書いているときも、撮影しているときも、仕上げをしているときも、『この映画はなんなんだろう?』『なんでこれを撮っているんだろう?』という気持ちでいます。『彼方のうた』のオープニングは元々脚本にはなかったんですが、それ以外の全てのシーンを撮り終えた時に、この映画のファーストシーンは別にあると気づいて、東京から5時間かけて撮影しに行きました。わたしはずっとこの映画のことを探す旅をしている感覚なんですが、今日はひとつの映画として出会えた気持ちです」と答えた。
▼主演・小川あんが映画の世界に戻ろうと思った理由
一方、小川は、俳優をやめて北海道にいた頃に、杉田監督の長編2作目『ひかりの歌』を観たといい、「映画の中の光、希望が自分の中で生まれた。映画の世界に戻ろうと思ったのは、杉田さんの映画を観たのがきっかけです」と述懐。中村は「役を見つけていく作業は、とても孤独な作業。ただ杉田さんから脚本をいただいたときに、これは絶対にひとりではできない作業だと思った。杉田さんの中には私とは違うものがあるはずだ、と。私はそれを知りたい、冒険してみたいと思いました」とそれぞれ出演を決めた経緯を振り返った。
なお、授賞式は現地時間の9月8日に行われる予定。
▼第28回釜山国際映画祭 アジアの窓部門に出品が決定
第28回釜山国際映画祭 アジアの窓部門に出品が決定。
杉田監督にとって、『ひかりの歌』『春原さんのうた』に続く出品となる。
映画祭は10月4日〜13日まで開催され、杉田監督も出席予定。
■ 映画『彼方のうた』
長編デビュー作以来12年ぶりのオリジナル作品
出演に小川あん、中村優子、眞島秀和
『彼方のうた』は、短歌を原作として製作された『ひかりの歌』『春原さんのうた』を監督してきた杉田協士にとって、デビュー作『ひとつの歌』以来の12年ぶりのオリジナル作品。
助けを必要としている見知らない人のことを思い、手を差し伸べ、丁寧に関係を築いていこうとする書店員の主人公・春を演じるのは小川あん。そして、春が自分自身と向き合うきっかけとなる雪子役に中村優子、剛役に眞島秀和。そして、飯岡幸子(撮影)、大川景子(編集)、黄永昌(音響)、スカンク/SKANK(音楽)と、これまでの杉田作品を支え続けるスタッフが集まった。製作はねこじゃらし、配給はイハフィルムズが手掛ける。
▼あらすじ
書店員の春(25)は駅前のベンチに座っていた雪子(45)に道を尋ねるふりをして声をかける。春は雪子の顔に見える悲しみを見過ごせずにいた。一方で春は剛(45)の後をつけながら、その様子を確かめる日々を過ごしていた。春にはかつてこどもだった頃、街中で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。春の行動に気づいていた剛が春の職場に現れることで、また、春自身がふたたび雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動き出していく。春は二人と過ごす日々の中で、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていく。
【監督プロフィール】
杉田協士(すぎた きょうし)
東京都出身。『ひとつの歌』(2011)、『ひかりの歌』(2017)がそれぞれ東京国際映画祭などへの出品を経て劇場公開。『春原さんのうた』(2021)が第32回マルセイユ国際映画祭にてグランプリを含む3冠を獲得、第70回マンハイム=ハイデルベルク国際映画祭ではライナー・ヴェルナー・ファスビンダー賞特別賞を受賞し、他にもサン・セバスチャン国際映画祭、ニューヨーク映画祭、釜山国際映画祭、サン・パウロ国際映画祭、ウィーン国際映画祭、FICUNAM、香港国際映画祭など世界各地の主要な映画祭を巡り、2022年に劇場公開。第36回高崎映画祭にて最優秀監督賞受賞。今作が長編4作目となる。
【スタッフ】
脚本・監督:杉田協士 プロデューサー:川村岬、槻舘南菜子、髭野純、杉田協士 アソシエイト・プロデューサー:笹木喜絵、田中佐知彦 撮影:飯岡幸子 音響:黄永昌 照明:秋山恵二郎、平谷里紗 衣裳:小里幸子、阿部勇希 ヘアメイク:齋藤恵理子 編集:大川景子 カラリスト:田巻源太 音楽:スカンク/ SKANK スチール:小財美香子 宣伝:平井万里子 国際広報:グロリア・ゼルビナーティ 製作:ねこじゃらし 制作プロダクション・配給:イハフィルムズ
2024年劇場公開予定
Web3時代の動画配信プラットフォーム「Roadstead」にて独占配信予定
『彼方のうた』公式SNS https://twitter.com/kanata_no_uta
Roadstead公式サイト https://roadstead.io